100話
「平行世界についての研究は元々、行われていたしその存在も確認されていた。滞りなく進むかと思われたけど、この計画を進めていくうちに¨座標¨と¨エネルギー¨の二つが重大な欠点だと判明したんだ。」
ゲンジは乾いてきた口を水で潤すと続きを話すため再度、口を開いた。
「この二つの問題が重石となり計画は難航していたんだが……」
「ちょっと待ってくださいっ!!」
ゲンジが続きを話すと直ぐ様タクトが割って入ってきた。なんだか出鼻を挫かれた感じで面白くない………。少しだけ仏頂面にゲンジがなったが構わずタクトはゲンジに問いかけた。
「¨座標¨と¨エネルギー¨が問題になったのはどうして?」
「どう説明したもんか……」
ゲンジはボサボサの頭をボリボリ掻いた。
「そうだな…簡潔に説明すると平行世界にも時間は流れているから座標を決めずに移動するとどの時間に出るか分からないんだ。人間が住める環境が整った時間に出ればいいがそうじゃない時間に出たのでは意味がない。だから座標を決める必要があったんだ。エネルギーは察しがついてるかと思うが移動するために必要なものなんだ。ドームから産出できるエネルギーでは精々数百名が限界。全員を移住させるのは不可能と結論づけられた。これが¨座標¨と¨エネルギー¨が問題となった理由だ、分かったか?」
説明を聞きなんとなくだが理解できた。要は別世界に移動するには途方もないエネルギーが必要な上にどこに繋がるかも分からないハイリスクな旅だということ。タクト達の星は約四十億年前に誕生して人間が生きていたのはたった一万年ほど。運頼みで移住するのは限りなく不可能だ………。
「ゴホンッ!!えーと、そんな理由で難航していた計画だがある時、奇蹟が起こった。………届いたんだ。平行世界からの連絡が。」
受け取ったファイルに目を落とすとそこにも記されていた。『魔法』という手法を持ち要り別の世界について研究していた人間からの連絡があったことが……。
その人物曰く、
「あなた方の世界からのアクセスしてきた痕跡が見つかった。その痕跡を分析し辿り座標を特定した」
のだと………。ゲンジの話によれば座標を特定するため何度も平行世界へアクセスしていたらしい。そしてそれが結果として相手に座標を特定させるに至った。
「けど、それだけでこの奇蹟は終わらなかった。その人物から問題を解決する方法を提示されたんだ。偽りの奇蹟を………。」
ゲンジの怒りがどれ程のものなのかは震える拳を見れば伝わってきた。でも、その怒りの矛先は不思議とゲンジ自身に向けられている気がした……。
「その人物って………」
「ああ、『忌み子』の君なら名前くらいは聞いたことがあるかもな。彼女はドロテア、薔薇の魔女ドロテアと呼ばれている人間だ。」
その名前を聞いて背筋に冷たいものが流れた。ここでもドロテアが関係している。彼女の思惑通りに世界が動いている………そんな気がしてならなかった。




