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通報者  作者: 末広新通
20/25

聴かされた者

 「いったい何を聞かせたんですか?何故、彼等は引き下がったんですか?」

松上が豹変した理由が解らない僕は、勲さんに尋ねた。

「まぁ、なんて言うか‥‥奴らの本音だよ。」

「あの‥言ってる意味が解らないんですが‥。」

「ん~、‥‥そうだな。なんて言ったらいいかな‥‥」

回答を求める僕への対応に、勲さんは苦慮していた。

僕には隠して置きたい何かがあるのだろうか?

だが、やがて勲さんは言った。

「まあ、いいか。」

そして、直後、手にしていたレコーダーを僕に向け差し出した。

「分かったよ。ほら、お前も聞いてみればいい。」

僕は両手でそのレコーダーを受け取った。

果たして、その中に入っているのは、いかなる音声なのか?

大いなる興味と若干の不安感を持って、僕はレコーダーのイヤホンを装着した。





 松上は、署に向かう車中でハンドルを握っていた。

時折、助手席の柏木が話し掛けてくるのだが、その言葉は彼の耳には届いていなかった。

運転をしながら、松上はつい今しがた聴いたレコーダーの再生音声の事を思い出していた。


 『成る程、物欲がないか‥その可能性もあるな。』

 『でしょー。』

 『ただ、物欲がないのではなく、間違った金の使い方をしてる可能性もあるんじゃないのか?そして、今回の害者はどうやらそっちのようだな。』

 そこから聞こえてきたのは、通報があったあの日の、害者の自宅での松上と柏木の会話だった。

 『うわっ、随分たくさんの宝くじ券ですね。あと、一緒に入っているのは競馬の馬券購入用マークシート用紙ですね。』

 『ああ、それにしても、派手な浪費癖だな‥。』

 『同感ですね。彼等の薄給じゃあ、こんな事してたら給料なんてすぐ無くなっちゃうんじゃないですか。』

 『いやっ、ちょっと待て。こいつの預金通帳を見てみると、週に1万円ずつ出金しているな。それも毎週だ。恐らくは、その範囲で週の生活費のやりくりをしているって事なんだろう。』

 『えっ、‥だってこの宝くじ券だけでも、1万円分以上はあるんじゃないですか。』

 『‥‥ああ。』

 『それって、臨時収入があってそれを使ったって事じゃ‥。』

 『‥‥。』

 『もしかして、拾得金の届出は本当にあって、それを害者が使い込んだって事じゃ‥。』

 『やがましっ!』

 『‥‥?』

 『あっ、‥すまんな。つい田舎の言葉が出てしまったな。』

 『そう言えば、松上さんは東北の出身でしたね。』

 『まあな、それより、こんな薄い壁の部屋で滅多な事を軽々しく口走るな。外に筒抜けだぞ。』

 『‥‥すいません。』

 『幸い、今は、周囲には誰もいないようだがな。』

 『でも、困りましたね。これは警察の威信にも関わりかねない。ただでさえ‥‥』

 『ただでさえ?おい、「ただでさえ」って何なんだ?』

 『えっ。』

 『おい、お前、何か俺に隠してるんじゃないのか?』

 『いやっ‥‥』

 『おい、こら!』

 『分かりました、言いますから。内緒にしといて下さいよ。』

 『ああ。』

 『実は今回の犯人は警察関係者で、既に判っているらしいんですよ。』

 『何だって‥。』

 『その上で、例の通報者を犯人に仕立てあげようとする力が働いているみたいなんです。』

 『誰に聞いた?』

 『松本参事官です。父の学生時代からの友人なんですよ。』

 『‥‥ふん。』

 『でも、正直聞いた時は驚きました。警察がそんなことするなんて‥。』

 『やるさ。警察が信用と力を失ったら、この国の治安維持は出来ない。これを守る為なら、大抵の事は許されると奴らは考えている。』

 『奴らって?』

 『お前が目指している‥奴らだよ‥。』 

 『‥そう‥ですか。』

 『ただ、だったらこれは都合がいいかもしれないな。害者に拾得金を獲られた男と、警察が犯人に仕立てあげようとしている人間が同一人物なんだ。つまり、この男が犯人という事になれば、拾得金横領の事は隠蔽出来る。‥一石二鳥という訳だ。』

 『成る程~。』

 『‥‥ふん、これを上手く遂行したら、上の奴らに対する株も上がるって訳だ。』

 『そうですね。』

 『とりあえず、あの男が持っていると言っていた預かり証を何とかしないとな‥‥』

 『そうですね。‥あと、どうやってあの渡辺って男を犯人にするかですね。』

 『まあ、取り調べに持ち込んで自供させるのがベストだが‥‥それが駄目なら証拠品を作るとかな‥‥』

 『でも、証拠品なんて何処に‥‥?』

 『そうだな、‥例えばそこに緑色のリュックサックがあるだろう。』

 『ええ。』

 『この部屋にある物、害者の私物に対して明らかにあれだけが違和感があるだろう。』

 『そう言えば‥。』

 『‥恐らく、あれに拾得金が入っていたんだろう。』

 『ええっ。』

 『つまり、あのリュックサックには拾得者の指紋が付いている可能性が高い訳だ‥。』

 『成る程~!』



「松上さん、これからどうするんですか?」

ようやく、松上の耳に柏木の言葉が届いた。

「渡辺は犯人じゃないって上に伝えるんだよ。」

「ええっ。そんな事言ったら‥‥」

「ほでなすっ、無理なもんは、無理なんだ‥。」

 それっきり、車中で松上は柏木が声を掛けても、返事をしなかった‥。



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