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通報者  作者: 末広新通
18/25

連れて来た者

 「いや~、お早い退社ですねぇ。」

柏木が軽口を叩いて、僕を迎えた。

「ええ、おかげさまで。何か御用ですか?」

半ば意図的に、僕は不愉快だという物言いをした。

「まあまあ、そう露骨に嫌悪感を見せないで下さいな。柏木、お前も失礼な事を言うんじゃない。そんな言い方をして、渡辺さんに録音されたら、どうするんだ。」

「あっ、そうでした。録音されちゃうんでしたね。」

「‥ったく。」

相変わらず、松上の奴は、物腰は低いが嫌な所をついて話してくる。

「いえね、ちょっとお聞きしたい事が出てきましてね‥。」

「それって任意のやつですか?」

「まあ、そうですね。」

「だったら別の機会にして貰えませんか?これから人と会う約束があるんで‥。」

「これから?お仕事の関係ですか?」

「いえ。」

つい、正直に答えてしまった‥。

松上の肩口がピクリと僅かに反応した気がした。

「だったら、その方との用が済むのを待ってますよ。」

「どの位かかるか判りませんよ。」

「構いません。正直、どなたにお会いになるのかも少々興味ありますしね‥。」

僕にはなんとなく直感していた。今日のこの男に引き下がる気など毛頭ない事を。恐らくは、何らかの切り札も用意されているであろうという事も‥。

「わかりました。だったら好きにして下さい。」

「御協力感謝します。」



 例の談話喫茶があるのは、電車で2駅の駅前商店街だった。

地下にある店舗入口へ向かう階段の手前で、松上達とは別れた。

「では、我々は向いのファーストフード店にいますので、用が済んだら声を掛けて下さいな。ああ、急がなくていいですからね。いつまででも待ってますから。」

「わかりました。では、あとで。」

店内に入店し、僕はいったん奴らから解放された。

約束の18時半には、まだ10分程早かった。

予約してあった個室の席に収まると、僕はすぐに勲さんにメールを打った。

『例の刑事2人が、店の向かいのファーストフード店に待機しています。お気をつけ下さい。』


個室に一人‥‥、防音が行き届いている室内の静寂とは裏腹に、僕の頭の中では、騒々しく自問自答が繰り返し行われていた。

勿論、テーマは招かれざる客への対処法だ。


どうする?

勲さんとの話が済んだら、裏口から店外に出てばっくれるか?

いや、後ろめたい事がないのにそんな事するのおかしいだろう。

じゃあ、どうする?

相手の質問に真っ向から対応してやりゃあいい。

大丈夫か?

相手がどんな武器を仕込んでるか分からないんだぞ。

お前にそんな緊急時対応力なんてあるのか?

じゃあ、どうする?

勲さんに相談してみたら?

勿論するさ。

それでも結局対応するのは、自分だろ。大丈夫か?

そんな事、分かってるっての!



コンッコンッ

いつの間にか18時半を過ぎていた。

どうやら勲さんが到着したようだ。

「お連れ様がお越しになりました。」

「失礼します。」

案内係の声に続いて、扉が開けられた。

「待ってましたよ。勲さ‥‥!?」

僕は、かけた言葉の行き場を途中で失ってしまった。

そこには、確かに勲さんがいた。

しかし、その後ろに連れ立つように2人の人物が立っていたのだ。

あろう事か、その2人とはファーストフード店にいるはずの松上と柏木だったのだ。

「勲さんっ、その2人は‥。」

「ああ、直樹もとっくに知った顔だろ。刑事の松上さんと柏木さんだ。」

「勿論知ってますよ。でも、何で‥‥」

(話が違うじゃないか。ファーストフード店で待っているって言ったくせに‥。騙しやがったな。)

当然にして、そう考えた僕に、思いがけない言葉が勲さんから掛けられた。

「いや~、直樹から2人の特徴は聞いていただろ。

店の前まで来たら、そのイメージの通りの2人が、向かいのファーストフードの窓際にいるじゃないか。

だから、せっかくだから俺が一緒に話しましょうって誘ったんだよ。」

予想外の事だった。

声を掛けて2人を店内に連れてきたのは、勲さんの方だったのだ。

「なんか、すいませんねえ。待っているって言ったのに。これじゃ、まるで僕等が渡辺さんを騙したみたいですよね。」

詫びる松上に、僕は苦笑いをするのが精一杯だった。


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