表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
通報者  作者: 末広新通
17/25

推測する者

 「立て続けに、聴取をして疲れてるだろうが、事は急いだ方がいいからな。」

「いえ、大丈夫ですよ。それより、勲さんに頼ってばかりで、すいません。」

「気にすんなって。なんたって直樹は俺の息子になるんだから。」

「そこですか?」

一瞬だけ、空気が緩んだ。

 今日のうちに此処で相談の場を持つ事を提案してきたのは、勲さんだった。

「さて、‥じゃあ早速だが、今日の成果を教えてくれ。」

「はい。‥‥あっ、これ刑事とのやり取りを録音したSDカードです。」

「おうっ、預からせて貰うぞ。確認したい事もあるし‥な。」

「確認ですか?大した内容はなかったですよ。」

「いいんだよ。」

勲さんは、そう言ってそれをポケットにしまった。

「‥‥っで。」

「あっ、すいません。じゃあ報告に移りますね。」

「ああ、頼む。」

僕は手許の手帳を開いた。

「まず人事課長の遠藤の話によると、うちの会社に警察関係からの天下り入社をしているのは7名いるらしいです。

具体的な名前を挙げると、宣伝部の小川、それから経理部の鈴木、それから‥‥‥‥‥‥役員運転手の笹下、以上の7名です。」

「なる程、意外な人物の名前も出てきたな‥‥。」

「そうなんですよ。」

「でっ、福本の方はどうだった?」

「それなんですが、指示をしたのは厚生課長の松田らしいんですよ。意外ではあったんですが、松田は福本の大学の先輩という繋がりがあったんですよ。」

「なる程、‥‥そういう事か。」

「ええ。」

「それで、直樹はどう考えた?」

「はい、証拠はありませんが‥‥」

僕は自らが疑いを持った、一人の人物の名前を挙げた。

「同感だ。‥但し、直樹が言うとおり、証拠がない。」

「どうしたら、いいですかね。」

「そうだな‥‥、まあ、なんとかなるさ‥多分。」

「多分ですか‥、証拠もない。動機も解らない。殺害現場だって不明だけど、勲さんが『なんとかなる』って言うと、不思議となんとかなる気がしてくるんですよね。」

「なんだそりゃあ?‥まあ、今晩はここまでにしよう。正直、思った以上に核心に近づけた気はするしな。」

「はい。また後で落ち着いて考えてみる事で、新たな発見もあるかもしれません。いったん仕切り直すのもいいかもしれないですね。」

「そうだな。じゃあ、いったんお互いに考えを整理して‥。」

「はい。日を改めてって事で。」

僕達は店を出て、それぞれの家路に着いた。




 就寝に向けて布団に収まった僕は、考えていた。

一人になると、やはり二人で話していた時とは違う視点で色々と考えが巡る。

但し、それは決してポジティブな方向に向かっての考えとは限らない。

仮に僕らが考えた人物が犯人あるいは犯人に繋がる重要人物だとしても、証拠はないのだ。いや、あったとしても、そんなものはとっくに警察によって隠蔽されているだろう。

寧ろ、ここまで周到に準備して僕を犯人に仕立て上げようとした奴らが、このまま引き下がるとは思えない。

僕からの自供が取れないと分かった奴らは、どうするだろうか?

もしかしたら、虚偽の物証や証人すら創り出すかもしれない。

果たして、そうなっても、僕は自らの潔白を証明する事が出来るのだろうか?

『なんとかなるさ。』と勲さんは言っていた‥。

それが僕のメンタルの拠り所だった。

だが、本当になんとかなるのだろうか?

こんな状態がいつまで続くのだろうか?

この事件が終息を迎えるまで、僕のメンタルは保つのだろうか?

不安感に覆われた僕ではあったが、やはり疲れていたのだろう。やがて訪れた睡魔に抗うこともなく、眠りに落ちた。




そして3日後、勲さんからメールが入った。

『今日の18時半に、例の談話喫茶で。』

最低限の内容を伝える文面だった。決してそこに、期待を抱かせる何かのフレーズがあった訳ではなかった。

それでも、僕は少し期待していた。

会おうと言うからには、何か進展があるのかもしれない。

まさに希望的観測というやつなのだが‥‥。



 今日も平穏な一日だった。

まあ、そもそもやっつけの事務作業に何かが起こる筈もなく、僕に話しかけてくる奴もいなくなった今の状況では、仕事というより、時間つぶしというのが正しいとさえ思えてしまう。

 18時の少し前に、僕は退社した。

だが、今日という日が平穏なままでは終わらないであろうという事を、僕はすぐに覚悟する事となった。

 正面玄関を出た僕を、松上と柏木が待っていたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ