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通報者  作者: 末広新通
11/25

身代わりになった者

 僕が再び勲さんの家を訪れたのは、その日の午後6時半過ぎだった。

途中の廻る寿司屋で買った握りの詰め合わせ2人前と、別注文したかんぴょう巻きと稲荷を僕は手土産として持参していた。

「こんばんは。」

入り口の扉を開けると、すぐに奥から勲さんが顔を出した。

「来たか。‥おっ、気が利くじゃないか。」

「意外と早かったわね。」

敦子も顔を覗かせた。

勲さんには言ってなかったが、敦子には僕が手土産を持って行く事は当然メールしておいた。

彼女に無用な食事の準備をさせないようにという配慮である事は、言うまでもない。

 前日同様の、炬燵を囲んだそれぞれの位置に収まると、僕らは早速テーブルの上に寿司と敦子が用意してくれたつまみ類を並べだ。健康への配慮からも、体重管理上からも、遅い時間の食事を嫌がる敦子に合わせてのことだった。要は2人とも敦子には頭が上がらないのだ。


「やっぱり、かんぴょう巻きと稲荷のコラボは最高だな~。」

勲さんは御満悦な表情で言った。

「そこにガリが加わる事で更に2つが引き立つんだよな~。

俺らが子供の頃はよく子供会や学校のイベントで、このトリオが入った弁当が配られてな~。当時からの俺の好物なんだよ。」

この話を聞くのは5回目位だと思う。僕もかんぴょう巻きや稲荷は嫌いではないが、いくらや中トロを差し置いてまで‥というものではない。要は人の好み、考え方はそれぞれだという事だ。

「そう言えば‥、どうだった。」

空いたグラスに僕がビール注いでいる最中に、勲さんは思い出したように訊いてきた。

「はい、天野から聞いていくつか分かった事があります。」

「ほう。」

「まず、昨日刑事達が会社に来る事を会社の上層部は予め知っていたという事です。その上で課長以下に対して、対応手法についての指示を出していたようなのです。

その指示というのは、

①死体が見つかった日の事については、基本的に『見ていない。』『知らない。』と答えるように。

②自分が知っている限り、社内で多少なりともギャンブルをやっている人物は渡辺だけとするように。

③死体の見つかった日の2日前の夜の明確なアリバイを用意しておく事。その上で、渡辺のアリバイの証人にはならないように。

まあ、③については寮で僕の隣に住んでいる天野に対して指示したという事でしょうけとね‥。

 ただ、課長以下には僕が死体を発見して通報したという事以外の情報は与えられていなかったようです。ただ、指示されただけのようなんです。」

「まあ、トップシークレットって事だろう。余分な情報を与えるとかえって混乱するし、対応が演技っぽくなられちゃ困るって事もあるだろうがな‥。」

「あと、刑事からの質問内容なんですが‥訊かれたのは、死体が見つかった日とその前日に不審な人物や物を見なかったか?会社内でギャンブルをやっている人物を知らないか?死体発見日の2日前の夜10時頃、どこで何をしていたか?基本的にこの3つだけだったようです。‥想定していた通りという事ですね。」

「なる程な‥。」

そう言って勲さんは、持っていた箸を置いた。‥もっとも、かんぴょう巻きと稲荷は、もう一つも残ってはいなかったのだが‥。

「やはり会社の上層部には、警察から事前にある程度の情報提供が行われていたんだろう。その上で、刑事達が直樹を容疑者として取り調べを進め易いように、道筋づくりに協力しているという感じだな。」

「何で、会社がそんな事を?」

「会社の他の者を巻き込まないようにする為さ。対象者を一人にする事で、会社の受けるダメージを減らそうとしてるんじゃないか?」

「それは可笑しいでしょ。だって、殺人犯が社内にいないのが一番いいに決まってるじゃないですか。」

「だから、いるんだよ、犯人が。‥社内に。」

「えっ‥」

「そして、会社の上層部と警察内部に犯人を知っている人物がいるという事だろう。」

「僕は、その犯人の身代わりという事ですか?」

「そうだ。そして、真犯人は会社或いは警察にとって非常に望ましくない人物という事だろう。」

僕にとってはショックな‥しかし、つじつまは合う仮説だった。

「お父さん、勝手な推測で直君を脅さないでよ!」

それまでは聞き役に徹していた敦子が、話に割って入って来た。

「いや、直樹には申し訳ないが、俺は結構この仮説に自信を持っているんだ。」

勲さんの言う通りだった。この仮説には説得力があった。

「直樹、ショックかもしれんが、まず事実を受け入れろ。

その上で、対抗策を考えて講じるんだ。」

事実を受け入れて対抗策を講じる‥‥以前にも、勲さんから同様のアドバイスを受けた事があるような気がした。


「あっ、そうだ。お借りしたこれ、お返しします。」

僕は例の写真をポケットから取り出し、裏側を上にして勲さんに差し出した。

「何、何の写真?」

敦子がそう言って写真を手に取ろうとした。

「ばっ、馬鹿、こんな所で返すんじゃない!何でもない。敦子は見なくていい!」

慌てて、勲さんがそれを奪い取って懐にしまい込んだ。

「何、感じ悪い!‥もしかして、Hな写真なの?」

「まあ、似たようなもんだ。」

はははっ‥

つい笑ってしまった僕は、勲さんに横目で睨まれた。

「この野郎‥。」

「いやっ、本当すいません。」

「まあ、いい。それよりも、天野のこと、追い込み過ぎちゃいないだろうな。」

「ええ、その辺のさじ加減はしてますから、大丈夫ですよ。かなり効いただろうとは思いますけどね‥。」

「だったら、いいが‥。」

「でも、勲さんは何でそんな写真を持ってたんですか?」

昨夜から抱いていた疑問だった。

僕からの問いかけに、勲さんは答えた。

「それは‥‥『備え』だよ。」



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