第七話 勇気
『告白』
弥生に言われたあの日から、あたしの両肩には、その二文字が重くのしかかっていた。
先輩に気持ちを伝えること。
そこには、前のような夢や希望は何もなくて。
=『失恋』しかない今なら、それがどれだけ自分自身を傷つける行為か…。
とてもじゃないけど、気持ちを伝えるなんてムリ。できるわけがない。
けれど。
あの日からあたしは、一緒に下校する二人を教室から確認することをやめた。
代わりに、書籍化された携帯小説の単行本を読みふけっていたのだった。
携帯でも小説を読んでいた。
けれど単行本も購入してしまうくらい、大好きな小説。
あたしたちと同じ高校生の女の子が主人公で、彼氏とすれ違いや別れを経験しながらも一途な愛を貫く――といったストーリーで、自分と先輩の姿を重ねて読んだ一冊。
想っても想っても、決して振り向いてくれることのなかった彼氏を、それでも想い続け、気持ちを伝え続けた彼女から、もう一度勇気をもらいたい。
そんな気持ちで、改めて読み返していたのだった。
想いを伝え続け、その度に傷つき涙した彼女だったけれど、結局最後には恋の女神が微笑んだ。
中学時代読んだ時には、想い続けていれば、諦めなければ、恋の女神はあたしにも微笑んでくれるはず、そう思っていた。
先輩に彼女ができているなんて思いもしないで、先輩との恋を夢見ることができた。
本の中の彼女は、彼氏が自分以外の人と付き合っても、諦めることなく想い続けていた。
それは、今のあたしや、弥生の姿と重なる。
彼女はどんな気持ちで、その二人を見ていたのだろう?
彼女はなぜ、それでも彼氏に気持ちを伝えることが出来たのだろう?
決して報われることのない気持ちを抱いて、一途に彼氏だけを思い、彼氏に傷つけられ、涙を流し、それでも『好き』と言える彼女の勇気。
あたしに欠けている、強さ。
その強さが欲しい。
正直、そう思う。
先輩に気持ちを伝えることができたなら、この胸のモヤモヤも晴れる気がするのに、勇気が持てなくて出来ないあたし。
フラれるのが怖くて、傷つきたくなくて、何も言えない弱虫のあたし。
一歩前に踏み出す勇気さえ持てれば、あたしも強くなれるはず。
そう思いたい。
本の中の彼女に、『頑張って』と応援され、背中を押されている気がする。
読み進めていた文字から目を反らし、夕日を見つめた。
重圧をはねのけるように、背伸びをして深呼吸。
パタン。と本を閉じて、あたしはもう一度、自分の気持ちと向かい合った。