第五話 涙
「だから…」
弥生は言葉を続ける。
「あたしの『新しい恋』も、応援してね?」
と。
―――え?
「…弥生? …真治は?
ケンカでも、した?」
弥生と真治は同じ小学校で、同じく陸上部員。中学校で同じクラスになったことをきっかけに仲良くなり、付き合い始めたのだった。
中学一年、入学してすぐの席替えで、あたしは真治の隣、後ろが弥生という位置になり、二人と仲良くなった。
夫婦漫才のような二人のやり取りが面白くて、いつも笑っていた気がする。
あれから三年。
ケンカというケンカもしないまま、二人は別々の高校に進学して離れたけれど、
『メールや電話して、ずっとラブラブでいようね!!――って、約束したから、離れても大丈夫!!』
と、自信満々に話していたのは、つい最近のことだよ?
「…別れちゃった…」
夕日を見つめる弥生の横顔からは、その気持ちを読み取ることができない。
二人なら大丈夫。
そう思えるくらい、本当に仲の良かった二人だったから、あたしには信じられなくて、言葉に詰まった。
ただ、夕日に照らされた弥生の横顔だけを見つめていた。
ふっと、あたしに視線を向けた弥生が今にも泣き出しそうな眼で、あたしを見つめる。
「やだなあ…。そんな顔、しないでよ…。
あたしまで、泣きたくなるじゃない…」
声を震わせた弥生の言葉で、あたし自身も泣きそうな表情をしていることに気付く。
「…ごめん…」
思わず出た謝罪の言葉。
「すみれは悪くないよ。
あたしが…。…ずっと黙ってて、……ごめんね?」
涙で潤んだ瞳。
あたしも涙を滲ませて、首を横に振りながら、あたしは答える。『辛かったね』――と。
いつも明るく振る舞っていた弥生からは、その悲しみを想像することも出来なかった。
二人は相変わらずラブラブなんだと思い込んでいた。
あたしの言葉に、堪えていた想いが溢れた弥生はその場にしゃがみ込んで、声を上げて泣き出してしまった。
あたしは慌てて席を立ち、弥生の隣にひざまずくと、いつも弥生がそうしてくれるように、そっと頭を撫でた。
真治が好きだから、ずっと伸ばしていた長い髪。ある日突然、バッサリ切ってショートカットにしてきた弥生。
『長い髪に飽きた』
そう言っていたけれど、もしかしたらあの時に、恋は終わっていたのかも知れない。
全然気付いてあげられなくて、ごめんね。
あたしはもう一度、心の中で呟いた。