第四話 理由
恋は、切ない。
両想いでも、片想いでも。
自分の発言や行動が、相手に嫌われるんじゃないか?…という不安。
自分以外のコと仲良くしているのを目撃するだけで、そのコのことを好きなのかな?…と思ったり。
好きだと意識しない時にはなんでもないようなことが、好きだと自覚した途端に切なくなるんだ。
ゆっくり、そして静かに日が暮れてゆくのに合わせて、教室にも、静寂と薄闇が広がってゆく。
それはまるで…。
太陽という名の先輩を見失った、あたしの『心』…そのものに思えて、
「新しい恋でも捜すかなあ?」
ぽつり、呟いた。
絶望という名の暗闇に落ちたあたしを、光の世界へと導いてくれるものがあるのなら。
それが、新しい恋だというのなら、あたしは差し延べられた腕を掴むべきなのだろう。
今は素直に、そう思える。
新しい恋のチャンスなら、今まで一度もなかったわけではない。
あたしが『はい』と返事をすれば、彼と呼べる人もできていたはず。
けれども、『好き』と言えないまま卒業してしまった先輩のことを忘れることができなくて、差し延べられた腕を払ってきたのは、あたし自身。
それはすべて、先輩にこの想いを告げることができたなら、先輩の隣にいられるのではないか?…という淡い期待があったから。
告白出来ずにいたことを一年間後悔しながら、先輩への想いを断ち切れずにいたから。
けれども、淡い期待は『彼女』の存在によって絶望的になった。
これ以上想い続けても、苦しいだけ。
…そう、心が訴えている。
今なら、新しい恋へと導いてくれる人がいるのなら、その手を握り返すことが出来そうな気がする。
人はそれを、『逃げる』というかもしれない。
実際、逃げているんだと思う。
想い続けても、決して報われることがない。
想いを伝えても、決して受け止めてもらえない。
『愛するよりも』
『愛されたい』
――その方が、『楽』だから。
辛いだけの恋なら、しない方がいい。
彼女の存在を知った、あの日から、先輩のことを想う度に胸が苦しくなる。
それは、恋の切なさとは違う痛み。
――こんな想いをするくらいなら…。
そう、心が叫んでいる。
――先輩のことを、忘れてしまいたい。
――思い出にしてしまいたい。
と。
あたしの呟きで、余計に静まり返った教室の静寂を破る、弥生の声。
「いいねぇ。新しい恋。あたしも応援する!」