第九話 決意
前に進みたい。
だけど何も前進できないまま過ごす、放課後の教室。
再び読み始めた愛読書も、エンディングに向かって最高潮に盛り上がってるところ。
結末は知っているとはいえ、やっぱりドキドキする告白シーン。
何度も当たって砕けているのに、決して諦めない強い心。
あたしも見習いたいな、…などと本の世界に没頭していた、あたしの元へ。
――ガラガラッ。
勢いよく教室の扉を開けて、駆け込んで来る人影。
夢中になって読んでいたあたしは、びっくりして思わず肩をすくめてしまう。
そして、怖ず怖ずと顔を上げると、よほど急いで来たであろう肩で息をしている弥生の姿があった。
「…なぁんだ。
びっくりさせないでよ…」
安心して、ホッとするあたしに向かって弥生は興奮気味に話し出した。
「それどころじゃないよ!」
「さっき部活の先輩から聞いたんだけどね…」
「先輩、別れたらしいよ!!」
「え?」
あんなに、仲良さそうだったのに?
弥生の言葉が信じられない。
「ほんとに?」
問い返したあたしに、弥生は頷きながら、
「理由はわからないけど、二、三日前に別れたらしい、って」
「先輩と同じクラスだし、間違いないよ」
と言う。
偶然あたしが目撃した、あの日の二人からは想像もつかない。
「どうする?
すみれ?」
瞳をキラキラと輝かせて、弥生は問う。
「告白したい!!」
思うより先に、言葉が出ていた。
『告白』
言葉にして初めて、妙な緊張感を覚える。
胸がドキドキして、全身が一気に熱くなる。
これは、あたしが前に進むために与えられたチャンス。
これを逃したら、もう二度ときっかけを掴むことができないかもしれない。
そう思うと、告白するなら今しかない。
自然と、そう思えた。
あたしの返事に満足気な表情を浮かべて、
「あたしに任せて!」
そう言った弥生と、告白大作戦計画を練り上げる。
決行は明日。
放課後の屋上で。
計画は完璧。
後は、あたしの頑張り次第。
先輩に、中学時代から抱いてきたこの想いを、なんとかして伝えたい。
だけど、なんと言って伝えればいいだろう…??
頭を悩ませ、眠れない夜を過ごす。
たくさんの文字が宙を舞い。
頭の中も駆け巡る。
気持ちがもう、明日に向かってソワソワしてしまう。
高校生活、初めての。
人生、初めての。
『愛の告白』
ついに、胸のモヤモヤを晴らす時が来た。