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童話シリーズ

植物の魔女

昔々、あるところに小さな村がありました。

その村では、小さな怪我を治せたり、動物の声が聞こえると言った少し不思議な力を持った人間が時折、生まれました。そこの領主さまの家系には特にそれが色濃く表れました。


このお話は、領主さまの血筋でもとりわけ力が強かった女の子のお話です。


彼女は、見た目はごく普通の子供でした。

平凡な容姿に、この地方ではありふれた黒い髪に同色の瞳をもっていました。


女の子は、いつも無表情で人に余り関心を示しませんでした。

その代わりに植物の世話には情熱を注ぎました。


限られた人たちとだけ、ささやかに触れ合う女の子を村の人々は変わり者として扱いました。


そんな女の子には、ある力がありました。

彼女が世話をするとどんな植物でも綺麗な白い花を咲かせるというものでした。

村の人々にはあまり実用性のない力だと嗤われました。


ところがある日、領主さまの館に来ていた学者がこの白い花に興味を持ちました。

そこで研究所に花を持って帰り、調べてみたのです。

研究に研究を重ねた結果、その花はとてもいいお薬になることが分かりました。


それを知った、女の子の両親は大喜びをしました。

そして彼女が世話をした植物から咲く花たちを売り払うことに決めました。

領主の家は女の子のおかげでたっぷりと潤うことになりました。

彼女は、ただひたすら植物の世話を続けました。


女の子は、何故か年をとりませんでした。

やがて、女の子の両親が亡くなっても、彼女の見た目が何一つ変わりませんでした。

これは前例が無かったことで、永遠の若さを得るために悪魔に魂を売ったんだろうと村の人々は口々に言いました。


それでも領主の家の人々は金の卵を産む雌鶏として女の子を大事にしました。

やがて、村が廃村になり女の子が1人きりになっても彼女は植物の世話をし続けました。


何百年たったでしょう。

女の子にとって、時間とはどうでもいいものだったので正確には分かりません。

ただとても長い時間がたったのは確かです。


ある日、旅の青年がふらりと廃村に立ち寄りました。

彼は、誰もいない村で植物の世話をする女の子のことを興味を持ちました。

青年はやがて女の子の植物への深い愛情に敬意を払うようになりました。

その気持ちは彼女にも伝わり、彼と少しづつ話をするようになったのです。

女の子は長く生きてるだけあって、とても物知りだったので、彼は彼女と時間を過ごすことを楽しむようになりました。


そして女の子は青年の飾らない優しさに、

青年は女の子の綺麗な心に、

お互い惹かれ合い、恋に落ちました。


それからというもの女の子は白だけではなく、色とりどりの花を咲かせました。

紫に黄色、ピンクにオレンジ等の花々は目に鮮やかでした。


青年はやがて女の子が年を取らないこと、花を咲かせる才能が異質であることを知りました。


それでも彼は、黙って彼女の側にいる選択をしました。

けれども、変わらない女の子とは反対に青年はどんどん年老いていきます。

2人で過ごした穏やかな時間は、瞬く間に過ぎて行きました。

そうして、冬の寒い日に彼は老衰で逝きました。


女の子は青年がいなくなった後、長い眠りにつきました。

月日が経ち、彼女は眼を覚ますと、彼がいなかった頃と同じように植物の世話をし始めたのです。

けれども、もう花は色とりどりには咲きませんでした。


女の子は今日も、血のように赤い花を1人で咲かせ続けています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悲しいお話ですね。 せっかく一緒にいてくれる相手が見つかったのに。 その彼と一緒に添い遂げられないなんて、一人で生きていかないといけないなんて、可哀想すぎます。 この女性の幸せは、また来るん…
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