こんな初夢をみた2015
どこか廃墟のような学校だった。
ほこりだらけの教室の一つで独裁者はシートに入った錠剤を私の目の前に差し出した。
独裁者は女で、完全にどこかがくるったような目をしていた。終始楽しげに高い声でしゃべっていた。だが、黙った時にはしゃべっている時より数倍も恐ろしいことは、周りの誰もがすでに身をもって経験していた。
その独裁者が、沈黙の後にようやく言ったのが、このひとこと。
「この場で死ね」と。
逆らえず、私はその小さなシートを手にとった。中には、どこかずんぐりとした爆弾みたいなカプセルが一錠おさまっている。赤と白とのツートンカラー、近ごろ流行っているらしい即行性の毒薬だった。
カプセルを押しだし、水なしで呑みこむ。毒を飲んでいるという気持ちからか、ずっと睨まれているせいかなかなか飲み下せない。ようやく喉を下った薬はすぐに効いたらしい、しかし痛みも苦しさも感じることはない。
私は床に倒れた。自分でも演技なのか何なのか分からない。身体が動かないのは確かだった。
独裁者はずっと笑っている。本当に死んだのか、横倒しになった私の背中を何度も蹴りつけているのが分かった。勢いで左腕を敷いたままうつぶせに近い格好になる、それでも私は動けない。されるがままだ。
痛みは全くないが、やはり死んでいるのには違いない。身体は相手の動きのままに揺れる。
そのうちに、独裁者は従者に命じ、巨大なキャンバスと大量の油絵具、筆やパレットの用具を一式を持ってこさせる。
身体が持ち上げられ、私はキャンバスの上に横倒しのまま据え付けられた。
彼らはペンキにも似た缶入りの絵の具を、大きな筆を使って私の身体の上からダイナミックに絵を描き始める。黄色系が多い、しかも鮮やかな色彩。私を中心に据え、周りに真っ黄色の花弁を放射状に描いている。絵具の厚さはかなりのもので、私は描かれていく絵の中に半ばうずもれるように塗りこめられていく。
屍のまま絵画と変じてゆく私の目の前には小さなテレビが置かれていて、絵画制作が始まってからずっと、小熊の人形劇が流れていた。陽気なセリフと陽気な音楽、その中で私は着々とひまわりの画に取り込まれていった。
死んでからこのように巨大な画に塗りこめられるのは、この国で最も恐れられる刑罰らしい。
絵が完成したら、下の広場に飾られるのだそうだ。
速乾性の絵の具ですっかり画面に貼り付けられた後、キャンパスは数人の従者の手で立てられる。独裁者はそのままその連中に、絵を外の広場に運ぶよう命じた。
死んでいるのに、頭が下にならなくてよかった、と私は思っている。絵はちゃんと人間の頭が上になるように配置されて描かれたらしい、そんな妙に常識的な絵を描く独裁者はつまらないちっぽけなヤツだと感じる。その思いが頭から零れ落ち、絵の後ろを支えていた従者の一人に取りついたようだ。彼は気づかずにそのことばを口に出してしまい、独裁者から「お前残れ」と告げられ、また教室の中へと引っ立てられていった。きっと毒薬を呑めと命じられるのだろう。
そしてまた一枚の絵になるのだ。
今度は何の構図か、別に興味はないが自分の『ひまわり』とあまり大した違いはないのだろうと漠然と感じながら、私は階段を斜めになりながら担ぎ降ろされていった。
「前の角、当てないように気をつけろよ」とどこかで声がした。
おわり