悪魔が導く神殿
スライムを撃退した炎人は一躍、英雄となった。
炎人の周りに人だかりができる。青の魔導師の情報を得るべくこれはチャンスと捉えた炎人は、大勢の街の人に大きな声で問いかけた。
「魔導師知りませんか? あの“青き山”に居るはずです!」
街の人たちは首を傾げると、互いに隣に立つ人と話し始めた。そのとき6歳くらいの少女が歩み出た。
「蒼お兄ちゃんのこと?」
「あおい兄ちゃん?」
「うん。蒼お兄ちゃんなら、“青き山”の上の方にある神殿に居るよ。神殿を護るとか何とか言ってたよ」
「ありがとっ! あと君の名は?」
「山跳 美月だよ」
「美月ちゃん! 行ってくるから!」
先を急ぐことにした。
しばらく走っていると洞窟が見えた。中へ入ると光が全く見えず暗い道が延々と続いていた。炎人は炎を手に宿しその明かりを頼りにして前へと進んだ。
進んでいる途中奇妙な声が聞こえた。
「オラがこの先案内しようかデビ」
「デビ」という語尾にまず驚いたが、声のする方へ火を照らすともっと驚く出来事が起きた。煙とともに、コウモリの翼と、ヤギの角を生やした小人が現れたのだ。
「妖精!?」
「妖精じゃないあ・く・ま! オラの名前はクロだデビ」
「で、お前が案内してくれるの?」
「そうだデビ」
悪魔が羽ばたき、闇の中に消えていく。炎人は慌てて後を追った。
クロの背中について行くと光が閉ざされていた洞窟に、少し光明が差し込んだ気がした。
「あっ、名前言ってなかったけ。俺の名前は炎人。よろしくな!」
「炎人かデビ。炎人はここに何しに来た?」
視線を洞窟奥へと向けたまま、クロが訪ねる。炎人も小さな背とコウモリ羽を見ながら「青の魔導師を探していて、青き山の頂上を目指している」と返した。
炎人が言い終わると、洞窟は再び炎人の足音だけが響く空間となった。
そして、数十分が経った。
洞窟を抜けると、辺り一面積雪に覆われた世界が広がった。ダイヤモンドダストがそこら中で舞っている。
その先には、大きな神殿だった。隣には、墓らしきものも建っているのが見える。
「青の魔導師は、神殿に居るデビ。でも、これからは静かにしろデビ。ここは聖なる場所。強い覚悟を持っていないと入れないデビ!」
「あぁ、分かってる!そんな気がした……」
神殿に近付くと、炎人はまず大きな墓に歩み寄った。墓石には「山跳 月雄 美玲」と彫られている。そのとき声が神殿の内側から聞こえた。
「その墓に近付くなっ!」
「誰だ?」
炎人は直ぐにその声に対応する。
「あそこに誰か居るデビ!」
指差した方向は、神殿の階段だった。いつの間にか神殿の扉は開いており、青い髪の少年がこちらにガンを飛ばしていた。
「まさか、青の魔導師!?」
「うるさい。さっさと神殿から去れ!」
炎人たちに冷たい視線が投げられ続ける。
「蒼。話を聞いてくれ!」
初対面の相手に名前呼びした炎人。それに対して怒る蒼。
「誰からその名を聞いたかは知らないが、ここから消えろ。僕が本気になったら、君は一瞬にして消えるぞ」
「話をだから聞いてく……。」
「Ice make “Long sword” ハァッ!」
スバッ!
その太刀から繰り出された斬撃は、炎人の髪を掠めた。
「危ねぇじゃねぇか!」
「問答無用!」
ズバババババッ!
次の斬撃は炎人の頬を襲った。
「危ねぇって言ってんのが、分かんねぇのか!」
「これで止めを刺す。“氷の斬撃”っ!」
「そっちがその気なら、仕方ない。“火炎斬”っ!」
ドォォォオオオン!
「ぐっ……」
「ぐはっ……!」
炎人も蒼もお互いの全力を出した技がぶつかり合っただけあって、傷ついている。
そのとき「グオオオオオォ!」という神殿を壊す勢いの叫びが聞こえた。
「なんだ、なんだデビ!?」
「……あっ、アイツは」
蒼が言葉を発したとき、神殿の地が割れ何か出てきた。
『アイツは我が魔王と共に封印したはずの魔龍レイジではないか』
突然、ブレイズの焦っている声が聞こえた。
「取り合えずアイツ倒せば良いんだろっ!」
「美月の両親の墓のあるこの神殿で暴れさせはしない!」
「俺が相手だっ!」
「僕が相手だっ!」
『力を合わせてくれ。二人の魔導師……』