たった数か月期限の正常な歯車
「平凡な生活。」
俺の人生はそんな言葉がぴったりと当てはまる。
極々普通な男子中学生の俺に
普通な友達、普通な学校、普通な親。
そして、普通な恋人。
全てが普通で、変わったところもない。
まさしく「平凡な生活。」
それは平和で、心地よくて
いつまでも続くであろうと「信じ」ていた。
…いや、「願って」いた。
そんな馬鹿だった俺の、夕暮里玖《ユウグレリク》の…
ある日始まった、突飛な物語を話そう。
……
〜三年前〜…季節は夏。
俺は、どう見ても田舎の学校といえる、旭日野《アサヒノ》中学校に通う中学二年生だった。
「千沙!悪い…ちょっと寝坊して…待ったか?」
息を切らせてはしてきた俺に、にっこりと微笑んでくれた、一人佇む小さな少女。
彼女は古塔千沙《コトウチサ》。
つい最近から俺の彼女で、こうして毎日一緒に学校へ通っている。
田舎暮らしの俺たちに、が衝撃を与えてくれたのはつい半年前。
家の事情とやらでこのド田舎に千沙が引っ越してきた時は、そりゃあもう…大騒ぎだった。
都会から引っ越してきただけあってか、その容姿はだれもが見とれるほどだった。
低身長に、幼く整った顔立ち。
癖っ毛でこげ茶色の腰まで伸びた、長い髪。
くりっとした大きくキラキラな目。
そんな千沙が当たり前のようにいつも浮かべる優しい微笑みから、たちまち誰もが彼女を『天使』と呼んだ。
もちろん、旭日野中の中では、学年性別関係なく、絶大な人気を誇ることとなったのだった。
「大丈夫。私もさっき来たところ…だよっ」
俺の声にいち早く振り向き、そう言って千沙はにっこりとほほ笑んだ。
また千沙の話になるが、実は千沙は一度も怒ったことがない。
それだけでなく、人に文句を言うこともない。
本人曰く、人に迷惑をかけたくないから…らしいんだが。
最初はだれもがその話を疑ったが、転校してきてから半年間…本当に一度も起こったり文句を言ったりしなかった。
そんな、控え目で心やさしい性格もみんなのいう『天使』の一部なのかもしれない。
今回のように、俺が待ち合わせに遅れても『大丈夫』『気にしないで』などと言っては、にっこりと微笑む。
そんな千沙が、俺の彼女であるなんて…いまだに信じられないけどな…。
「…く…。りく…里玖…?おーい、里玖ってばーっ」
「…ん?あ、あぁごめん。ボーっとしてた」
「もう…あんまりボーっとしてると、転んじゃうよー?」
「千沙みたいにドジじゃないから平気」
「な、なにそれっ。ひどいなぁ…」
他愛もない話をしながら、こうやってゆっくり過ごす日々…。
それは俺にとっての最大の幸せだった。
学校へついても、なにも変わったこともない。
…今日も平穏な俺の人生の一日だ。
いつもの教室。
いつもの友達。
いつもの雰囲気。
いつもの風景。
幸せがあふれかえるこの日常が、俺はたまらなく好きだった。
大した問題も、不満も悩みも…一つとしてなかった。
ただ…一つを除いては…。
「りぃーーくぅーーっ!!おっはよーん!!」
「げ…来た…」
俺の唯一かつ最大の悩み…それが、こいつだ。
教室に入るなり、いきなり俺に抱きついてきた、一人の少女。
彼女は松木実沙《マツキミサ》。
ある日から俺に付きまとうようになった、めんどくさい奴だ。
その、ある日と言うのも突然の事だった…。
何の前触れもなく、松木に告白されてしまった俺はすでに千沙という素晴らしい彼女がいた。
そんなことも知らない松木は、人生で初めて振られたとショックを受けたらしい。
それもこれも千沙のせいだと自分勝手に決め付け、ついには千沙の存在を無視して俺に付きまとうようになったというわけだ。
まぁ、千沙と付き合っていようといなかろうと、俺はもとからこいつが苦手だったから…
どちらにしろ断っていたと思うけどな…。
モデルと言うだけあり、一部の男子からの人気はあるんだが…
性格の悪さから「性悪女」とまで言われている。
告白されたことくらいしか、松木との関わりもないから俺は松木がどんな奴なのかは知らないけど…。
「お、おい…人前じゃぁ出そういうのやめてくれって言ってるだろ…」
「えー?じゃあ、人前じゃなければいいんだ?♪」
「あのなぁ…俺は…」
何度言っても、離れようとしない。それどころか、夏だというのに無理やり俺の腕にしがみついてくる。
こんなところ、しょっちゅう千沙に見られてたら…。
「み、実沙ちゃんっ。おはようっ!」
さすがによくは思わなかった千沙が、高身長の俺達の間に入るようにぴょんぴょん跳ねている。
「あー…千沙。あんたいたの。見えなかったわぁ。」
俺の時とは打って変わって態度を変え、じろりと舐めまわすように千沙を睨む。
そしてやっと俺から手をするりと離し、自分の教室へと走って戻っていった。
「千沙…ごめんな?俺もやめろって言ってるんだけど…。それと、千沙のおかげで松木から解放されたよ。ありがとな」
「ううん。私は何も…。分かってるから、気にしないで…ね?」
そう言っていつもの天使のような杏の微笑みを見ると、やっと心が落ち着いた。
ポンポンと頭をなでると、懐いた子犬のようににこにこと微笑んで、軽い足取りで自分の席へと戻っていった。
その姿を安心して見送ると、俺も自分の席へと向かい、荷物を下ろした。
「朝から大変だなぁ…お前も。やっぱモテる男はつらいな。」
「冗談はよしてくれよ…。こっちだって、これが唯一の悩みなんだからさ」
俺の斜め前の席に座る、一人の少年。
こいつは俺の一番の親友で生まれた時からの幼なじみ。
相楽将大だ。
俺の事をモテる男なんて言ってる割には、こいつだって同じ。
整った容姿と、高身長。勉強は話にならないが、運動神経抜群のこいつに、人気がないはずがない。
こんなことを男の俺が言うのもどうかと思うかもしれないが、学年中から人気のある奴だ。
「第一、将大だって、人の事言えないだろ?」
「そんな訳ねーよ。お前には適わねーっての。
男の俺が言うのも変だけどよ、お前のその容姿にはみんな驚くと思うぜ?
何にしろ、このド田舎だしな。」
「やめろよ、気持ち悪い」
…長い付き合いのせいか、どうやら考えることまで似てきたようだ。
…寒気がする。
「はーい静かに。朝のホームルームを始めるぞー」
いつの間にか時間は過ぎ、気づけば朝のチャイムも鳴っていた。
ふと目線を窓の向こうへと向けると、変わらない景色が広がっていた。
背の高くなった向日葵と真っ青な空にぽつんと浮かぶ飛行機雲。
その向こうへと延々に広がる、田んぼや山たち。
嗅ぎ慣れた草や花、土のにおい。
そのにおいを大きく吸うことで生まれる、不思議な安心感。
程よく流れてくる、緩やかで涼しげな風。
悪感を抱かないほどの、クラスメイトの話声。
…旭日野中は、今日も平和だ。
「じゃあこれで、学活を終わる。
…あ、夕暮と古塔はこの後職員室の私のところに来るように。以上」
そう言って担任で生徒から絶大な人気を誇る、みのりんこと保坂稔先生はニッと笑った。そして教室からスキップしながら出て行った。
…はい?
なんで俺と千沙が呼び出されたんだ?
それになんだ、あの軽い足取りは。
こっち見て笑ったよな??
なんなんだまったく…なんかしたってのかよ…。
「おいおい…里玖。お前らなにしたんだよ」
「いや、こっちが聞きてぇよ。
俺らが何したってんだ?」
そうしている間に、千沙が俺のところへやってきた。
様子をうかがうと、かなり千沙も驚いているようだ。
そりゃそうだろうな、俺たちは何にもしてないんだから。
「り、里玖…?私たちなんで呼び出されたんだろう?」
「悪い千沙…。まったく予想がつかん」
成績優秀で1度も先生に呼び出されたことなどない千沙は、驚いてふるふると震えている。
そんな千沙の頭を軽くポンっと撫でると目をつむって子犬のような表情を浮かべた。
「まぁ、そんな怖がんなって。
どうせたいしたこともないさ…多分」
恐る恐るコクリと頷いた千沙を連れ、俺は職員室のみのりんの元へと向かった。
結局、何が何だか分からないまま俺と千沙は職員室へと向かった。
「し、失礼します…みのりん…ゔんっ。
保坂先生、いますか?」
「おー来たか。まぁ、とりあえず入れ入れ。」
様子を伺いながら、恐る恐るみのりんの机のところへ向かう。
なんだかニヤニヤ笑ってるけど…本当になんなんだ??
「いやー、よく来てくれたな。
まぁ、呼び出したのもいろいろわけがあってな。
単刀直入に言うとだな、お前ら2人に、『文化祭実行委員』を任せたい。
よろしくな。」
『文化祭実行委員』…?
なーんだそんなことか。
ほー、『文化祭実行委員』ね……。
「って、なんで俺たちが?!」
「お、今日は調子がいいな夕暮。
いやー、大した意味はない。
お前らがいいと思った。それだけだ。」
随分なドヤ顔で胸を張って言う、みのりんの姿を見ると……
あぁ、こんな大人にだけはなりたくないなと染み染み実感する。
「なんだよー、その反応は。
恋人同士でこんなことできるなんて滅多にないぞ?そのチャンスを、このみのりん先生はお前らに与えてるんだぞ?」
まったくこの人は…。
いや確かに、千沙となら楽しいかもしれないけど…って、なんでおれと千沙の関係を知ってるんだ!!
「今、なんでこの人そんなこと知ってるんだ?って思ったな?夕暮。
そんなこと、私にはお見通しさ。
なんせ耳がいいからな♪」
いや、耳がいいとかそういう問題じゃないだろ……。
「じゃあそういうことだ。よろしくな、2人とも☆」
ニヤニヤと笑いながら、みのりんは俺たちを職員室からグイグイと押し出した。
「あー…千沙、ごめんな?
てか、本当にやるか…?」
「いいんじゃない…?
先生に直接頼まれるなんてなかなかないよ…」
うわぁーー…千沙本当に真面目だなぁ…。
真面目すぎて泣けてくる……。
「まぁ…千沙がそう言うならいいか…。
じゃあ、頑張ろうな」
ポンポンッと頭を撫でると千沙はまた子犬のようにニコッと微笑んだ。
「よーぉ、おかえり里玖。
みのりん、なんだってー?」
机にだらーんとだらけながら、大して興味もなさそうに将大が声をかけてくる。
「文化祭実行委員を千沙と2人でやれとよ。
どーやら俺らのことを知ってたらしくてな」
「そりゃぁ、いくら先生っていう立場にあっても、お前らわかりやすすぎるしな。
なんせみのりんだし?俺らの担任なわけだしよ」
わかりやすすぎる…か。
俺たちそんなに彼氏彼女っぽいことしてるか?
いや…逆にしなさすぎてる気がするんだが…。
手も繋いだことないし、デートだっていったことない…。
…デート……デート……!!
そういやデートしたことねぇ!!!!
「お、なんだなんだぁ?その顔。
なんか思い出したか?」
「俺たち、デートしたことねぇよ!」
「へー…ってえぇ?!
本当にしたことねぇのか?!1度も?!」
「ない…真面目にない…!」
俺の顔をジロジロと見てから、将大は再び机に突っ伏した。
そして、はぁー…と深いため息をこぼした。
それからまた俺の方を見上げ、ギロリと睨んだ。
「おいおい…さすがにお前、それは千沙が可哀想だろ…。
いくらいつもニコニコしてるからって、きっと密かに待ってるはずだぜ?
まぁ…仲良い俺でもそういう話は聞かないけどよ…。
そーゆーの、我慢しちゃうタイプだろ?千沙は。」
転校してきて、たまたま俺と仲良くなった千沙は同時に俺の幼なじみで大親友の将大とも仲良くなっていた。
学校が終わり、夜になると他愛もない話を毎日メールで会話していると聞いた。
俺もそうだから、別になんとも思わないけど、それくらい千沙と将大は仲がいい。
「そうだなぁ…誘った方が、いいのかなぁ…」
そんなことを、ぼんやりとつぶやいてみる。
将大は呆れてはぁーとまた深くため息をついた。
俺だって、男子としてリードしなきゃいけないのくらいわかってるさ。
だけど
男子にも、いろいろあるんだ。
この学年は噂が回るのが早いし、すぐにからかわれてしまう。
そうするも、俺だって誘う気も失せる。
そんな屁理屈はよくないってわかってる。
でも、ただただ勇気が出せないんだ。
なんとか、なればいいんだけどな……。
強く、なれれば…。
ぐるぐると渦を巻く思考の海に、俺の勇気はどんどんと溺れて行く。
結果、いつも誘うことができない。
考えても考えても、行動に起こせない。
将大に協力してもらって、大人数で出かけることばかりだ…
「…情けねぇ……。」
どっかの恋愛小説みたいに、上手くいけばなぁ……。
千沙side**
あ、えっと…初めまして。
古塔千沙です。
今、いろいろと悩みを抱える中学二年生です。
…一応、これでも。
みんなは私を天使って言ってくれます。
そんなことないんですよ??
そう言ってくれるみんなが天使なだけです。
まぁ、私はそんな人間です。
説明下手でごめんなさい…とても緊張してます。
…えっと、ここからどうしたらいいのかな…??
自己紹介も終わったし…。
「千沙ー?いくぞー」
あ、この声はお友達の将大くんと…か、彼氏の里玖くん。
里玖とは、付き合ってもうすぐ2ヶ月になります。
将大とは、転入初日から仲良くしてもらっています。
…ところでみなさん。
恋人同士でする、特別なことって…経験ありますか??
私は、それがよくわからないんです。
女の子のお友達に聞いてみても、答えはいつも同じ。
『人それぞれ』
それでも、いいのでしょうか…?
里玖は、私に不満を持っていないでしょうか…??
で、デートなんかも、1度もしたことなくて…里玖は、消極的すぎる私に嫌悪感を抱いていないでしょうか…。
人それぞれって、簡単に見えて難しいですね…。
「ちーさーーっ!!!
早くしろよっ」
「あ、ごめんなさいっ!!
今行きます!!」
私は、急いで里玖たちの元へと走って行きました。
将大side**
どーも。
ご存知の相楽将大だ。
現在、2人のお悩み相談の相手をしてる。
わかると思うが、問題のカップル、千沙と里玖だ。
お互い消極的すぎるせいか、実はデートすら行ったことがないらしい。
この事実は、俺も今日初めて聞いた。
どうやら2人とも余計な思考と、野次が邪魔をして踏み出せないらしい。
千沙は、転校してきた日から俺たち田舎男子のアイドルだ。
そのせいか、里玖は男子の恨みをかってるようで。
…そんなこと言ったって、里玖が千沙に選ばれるのも当然だと思うくらい、あいつはいいやつだから。
…モテるやつの彼氏は辛いな。
また、里玖も同じなんだ。
男の俺が言うのも気持ち悪いが、あいつは容姿も整ってるし運動もできる。(勉強についてはあえて触れないであげてくれ)
その里玖をバリバリ狙っている例として、有名なのが隣のクラスの松木実沙だ。
モデルとだけあって、容姿には自分自身自信があったらしく、里玖にくっついてはアピールをし続けていた。
里玖が千沙と付き合うまでは、まだそれくらいだったんだ。
松木が里玖にふられ、千沙と付き合い出してからアピールはもっとひどくなった。
諦めるどころか、別れさせようとしている。
そのことも、千沙としては心配のようでその話も千沙からよく聞く。
というか、あいつはネガティブすぎていろいろ勘違いしちゃってるな。
千沙はなにも悪くねーのに、自分のせいだと勘違いしてる…。
里玖自身も、千沙に誤解されないためになんとかしたいとは思ってるみたいだが…。
困ったもんだ。
それに協力してやりたくても、どうも俺の感情が邪魔するな…。
別れさせたいとは思わねーけど、やっぱちょっと抵抗あるっつーか。
大好きなら、なんでもできると思ったんだけどな…。
…っと。この話はここまでにしとくか。
ちょっと大変なことになりそうな文化祭も、俺がなんとかしてやろーかな。
里玖side*
さて…と。
問題はどうやって千沙を誘うかだよな…
でも、ここはひとつ男として勇気を出さなきゃいけない・・・よな。
よし。決めた。
「将大!!
ちょっと…いーか?」
「お、やっと誘う気になったか…?」
「あ、ぁぁ…まーな。
それで、折り入ってお前に頼みがあるんだ
実は…」
「…え?まじかよ。いいのか?それで」
「まずはこんくらいからじゃないと…ダメかなって…」
「仕方ねぇ、今回だけだからな?」
~その日の夜~
「えーと、了解…と。
ふう、なんとか約束できた…」
「なーにやってんの?にーに。」
「あぁ、千沙とメールでデートの約束を…ってうわぁッ!!」
将大に頼んで、考えてもらった文章をそのままメールに打って千沙を誘う。
それが俺の作戦だった。
もともと文章考えるのも苦手で、直接だと、どうもうまく話せなくなりそうな気がしてならない。
それで将大に考えてもらったってわけなんだが…
「妃和!!いきなり入ってくんなっていつも言ってるだろ!」
「へぇ…なになに?”来週の土曜って空いてるか?近くの神社でやる夏祭り、一緒に行かないか?
たまには、2人で行きたいなって思ってるんだがどうかな?
返信待ってるから。”?
よくにーにがこんなメール考えついたもんだね…」
「悪かったな文章力なくてよ。
そんな俺だからこの文章は将大に考えてもらったんだよ。」
「し、将大さん…にっ?!///」
妃和は俺の5歳下の妹で、幼馴染の将大に憧れているらしい。
なんでも、『にーにを見てると将大さんがより一層神々しく輝いて見える』らしいのだ。
『にーに』だなんてまぁかわいらしい呼び方をするこいつのことを
…これでも小さいころから可愛がってやったつもりの俺だが…。
最近、口が達者になったものだ。うん。
「いっちょ前に赤くなってんじゃねーよ、チビ助のくせに」
「っな!!!///赤くなんかなってないわよバカにーに!!
一つ忠告してあげようと思ったけど…もう、知らないから!!」
…忠告!?
妹が兄貴の俺に向かって…忠告…だと?!
…む、でもそれが千沙のことだとしたら…気にならないことが…ある・・・はずもない…わけで…その…んー………。
「申し訳ありませんでした妃和さま。忠告をお聞かせ願います」
「うん。素直なのはいいことだぞにーによ。それでは聞かせてやろう」
う…調子乗ったなこいつ。
まぁこれも、全部千沙のためさ。仕方ない。許してやろうじゃないか。
「…忠告って言うか…にーにの考えの間違いを指摘するってとこかな。
いい?千沙さんは、にーにの誘いを楽しみにしてる。
それなのににーにはそれをメールで済ましたんだよ?
しかも将大さんの言葉でだなんて…論外!!!
いくら言葉にするのが苦手でも、一生懸命伝えた方が千沙さんは喜んだと思うなぁ、レディーの私の意見ではね。」
…痛いところついてきたなこいつ…。
なにが『レディー』だって言いたいところだが…
なにせそのまえの意見が正しすぎて胸が痛い…。
「聞いてほしいのはここから。
ようは、誘いの段階でにーにはハンデをもらったと考えろって事よ。
この続きは、いくら鈍感なにーにでもわかるわよね?」
「…な、ぁ、当たり前だ…!!
…って言いたいところだが全くわからん」
「…だと思った。」
「じゃあもったいぶらずにさっさと言えよ!!!!!」
「はぁ…これだからに―には…。
いい?ハンデをもらったって事はそれをどこかで挽回しなきゃならないって事!
それを挽回できる機会は?」
腕を組み、足でトントンと音を立てながらこっちを睨みつける妃和。
我ながら大した妹を持ったと…常々感じさせられるな。
それで…挽回…挽回…
と言ったらやっぱり…!!!
「…この後のメールの続き…?」
「バカ!!正真正銘の大バカー!!!
挽回できるのは、当日のにーにのリードに決まってるでしょーが!!」
「俺の…リード?」
「そう!どれだけ千沙さんのことをリードできるか…それ一択しかないでしょ!」
「リードか…」
デート経験が全くない俺にどうしろと…。
リードって言ったって、付き合うのすら千沙が初めてだしなぁ…。
「本の受け売りでよければ、この妃和様がレクチャーしてあげないこともないけど。」
「おねがいします。」
というわけで…やっと決まったデートの行き先は、近くにある飛野潟神社で毎年行われる夏祭り。
そのデートに関しての指導役(?)が、妹の妃和と決まったのだった。