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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第一章『師弟』
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『成功』は『努力』で・後編

未成年飲酒は法律で禁止されている。真似してはいけない。

 ヴェエヴォル大陸からは、地形がいきなり変わる。

 ルーノンスは草木の生い茂る大陸、ヴェゼヴォルは荒地の広がる大陸だ。


 ここからはフーガは走らせない。

 ゆっくりと、焦らずに行かなければならない。

 地形が荒いということもあるが、魔物の出現数がかなり増える。


 魔物に関しては、エヴラールからすれば余裕で、倒すのは容易だ。

 だが、俺とフーガがいる。

 俺は実戦経験も何もない青臭いガキで、フーガは馬だ。

 危険な状況に陥る前に、ハプニングを避けなければならないのだ。


 俺達は今、南東に向かっている。

 目的地は『氷王』と呼ばれる者が統一する国だ。

 もちろんの事、魔王の傘下である。




――――――




 途中の村や街で宿を取りながら約一ヶ月の移動で、『氷王』が統括する国アルフに到着した。

 途中、魔物に遭遇したりもしたが、エヴラールが難なく撃退していった。

 時折、実戦経験を積ませるために、雑魚は俺が片付けたりもした。

 魔物が巨大なサソリや蛇だったために、殺すのに躊躇はなかった......多分。


 ちなみに、この国の名前は『氷王アルフ』が自分の名前をつけただけだ。

 この世界には国の名前を人の名でつける事が多い。

 たまに言いにくい国名があったりするのだ。


 ヴェゼヴォルは基本的に気温が高い。

 だが、ここアルフの気温は門をくぐった瞬間から急激に下がる。

 沖縄から北海道に瞬間移動した気分を味わうことができるわけだ。


 俺もエヴラールも外套を着ている為にあんまり寒くはなかったが、フーガは少しだけ震えている。

 すぐに馬屋に連れて行ってやろうという決断が下るのには数秒もなかった。

 旅の途中、野営した事もあったが、その時はフーガと一緒に寝た事もある。

 俺達二人と一匹は仲良しなのだ。




 フーガを馬屋に預けた後、宿を探す。

 色々と見て回って気づいた事があった。

 通貨についてだ。


 レイノルズにいた頃は貨幣しか見なかった。

 おそらく、ルーノンス全体では貨幣を使っているだろう。

 だが、ここでは貨幣ではなくなっている。


 この国に来るまで幾つもの街と村を通ったが、全然気付かなかった。

『宿の宿泊料、一晩十枚』と表示されているのだ。


「エヴラールさん、十枚ってどういう事でしょう?」


 俺は気になることがあると眠れない質だから、すぐに質問をしてしまう。

 些細な質問でも、エヴラールはいつも答えを出してくれる。


「ヴェゼヴォルでは使うお金が変わるんだ」

「枚、というと、紙幣とかですか?」

「紙幣を知っているのか。その通りだ」


 なるほど、つまりヴェゼヴォル大陸では貨幣ではなく紙幣を使うと。

 なんでこう、ややこしいんだろうか。

 普通のRPGみたいに『ゴールド』でいいだろうに。


 まあ、いい。

 とにかく、俺達はアルフに着いた。

 だが、目的がない。

 旅なのだからそれでもいいのかもしれないが、やることがないと暇だろうに。


 ――という心配も杞憂に終わった。

 翌日、俺はエヴラールと国王のいる城を尋ねる事となった。

 理由はわからない。

 ただ、エヴラールは付いて来いとだけ言った。




 アルフ城は氷で出来た城だった。

 某ネズミさんの遊園地の……いや、それよりも大きい城だ。

 なんとなく魔力を感じるから、氷王様が造ったものなのだろうか。


 城の門前まで行くと、門番が警戒の視線を送ってきたが、エヴラールの顔と右手の甲を確認するとすぐに引っ込んでいった。

 一体、エヴラールの手の甲には何があるというのだ……。

 言うことを聞かせる魔法陣とかだったらやばい。


「はぁ……。白いな」


 城内だというのに、吐く息は白かった。

 それだけ寒いということなのだろう。


 ……にしても、この城は広い。広すぎる。

 これだけ広ければ舞踏会なんか普通にできてしまう。

 それで上の階もあるのだから、五十人で鬼ごっこはできる。


 ていうか、俺は今国王の城にいるんだよな。

 なんで、どうやってだ。

 今更ながら混乱してきた。


「エヴラールさん、ここって国王の城ですよね?」

「ああ、アルフの城だ」

「……なんで入れたんですか? 僕達」

「アルフは俺の友人だ」

「ああ、なる――ん? 国王と知り合い?」

「昔一緒にパーティを組んでいたんだ」

「ほぇぇ……すごいですね」


 知らなかった。

 まさかエヴラールが国王とパーティを組んでいたとは。

 実はエヴラールって俺が思う以上にすごい人なんじゃないのだろうか?

 今思えば、彼は特級冒険者だし、二つ名が付くぐらいに有名だし。

 お、俺はこんな人の弟子なのか……。


「どうも、お久しぶりです、エヴラール様」


 俺が怖気づいていると、騎士の一人がやってきた。

 ヘルメットで顔が見えないが、声からして男だろう。


「久しぶりだな。アルフの所まで案内してくれるか?」

「はい、もちろんです。では、こちらへ」


 騎士の案内の元、俺達が辿り着いたのは一つの大きな扉の前だ。


「アルフ様、エヴラール様を連れて参りました」

「むむっ!? エヴラール!? 入ってくれ!」

「どうぞ」


 騎士が扉を開け、中が少しずつ見えるようになる。

 途端、俺は騎士に引かれ、エヴラールから遠ざけられた。

 エヴラールが剣を抜くと、水が瞬時に氷る様な音と共に、氷の龍がエヴラールを襲った。

 エヴラールはそれを碧水流の防御技で弾いた。

 流石の反応速度と対応だ。

 俺だったら一瞬で氷の龍にやられていただろう。


「全く、相変わらずだな」

「弾いてしまう君も、相変わらずだね」


 扉の奥から聞こえてくる男の声はどこか爽やかだ。

 珍しい事に、エヴラールも頬を緩ませている。

 エヴラールに腕を取られ中に入ると、広々とした空間で腕を広げた男が立っていた。


「やあ、久し振りだね!」

「ああ、久しぶりだな」

「……ん? そこの子は?」

「こいつはシャルル……俺の弟子だ。実はこいつの事で訪問したんだ」


 ……え? 俺のことだったの?

 なんでもっと早く言ってくれないんですかね、エヴラールさんは。

 実はサプライズ好きのお茶目さんだったり?


「どうも、シャルルです」

「いらっしゃい。僕はアルフ。それでエヴラール、この子がどうしたんだい?」


 アルフを一言で説明するなら、『爽やか』だ。

 水色の髪に、頬にある鱗、そしてこの寒さの中でラフな格好をしている。


「ああ、実はシャルルには剣術を教えている。だが、魔術も教えてやりたい」

「ほう?」

「初めて魔術を五回も使用したのに、平気だった。持っている才能は伸ばしてやりたい」

「本当かい? それは面白いね」

「ああ、だからお前にしばらく預ける。こいつの先生をやってくれ」


 ふぇ? エヴラールさん、俺今すごく寂しい事を言われた気がするんですが。

 初めてで魔術五回ってそこまで凄い事なのだろうか?

 いや、多分、普通では無いのだろう。

 俺はアダムに高い初期ステータスを貰っているからな。

 でも、預けるというのはどういうことだろうか。


「もしかして仕事かい?」

「ああ」

「なるほど、そういう事ならいいだろう。僕も暇していたしね」

「頼む」


 勝手に話が進んでいく中、俺は頷くしかない。

 俺に拒否権はないし、仕事があるなら仕方がないだろう。

 とにかく、俺はアルフに預けられる事となった。




――――――




「それじゃあ、まずは戦闘だね」


 エヴラールが城を去った翌日、アルフが言った。


「せ、戦闘?」

「そうだよ。君を教えるんだから、君の力を知らないと意味が無いじゃないか」

「ああ、なるほど、そうですね」


 俺が納得すると、笑顔を浮かべながらアルフが俺に近づいてきた。

 さて、どうしたものか。

 今まで実戦も剣術でやってきたから、魔術での戦闘なんて初めてだ。

 正直、うまく出来る自信がない。

 まあ、でも力量を計るだけだからうまく出来なくてもいいんだろうけど。


「それじゃ、よろしくね」


 そう言ってアルフは手を差し出してきた。

 俺はそれを握る。


 握手を交わすと、アルフは俺から十メートル程離れた位置まで歩いて行った。

 魔術だから遠距離でやりあうのだろう。

 俺は二本の剣を離れた位置に置いた。

 実は握手した時に襲ってくるのではないかと疑ったが、そこまでの無礼はないらしい。


「うん、行くよ? 準備はいい?」

「はい、何時でもどうぞ」


 俺が返事をすると、アルフは頷き、右腕を上げた。

 出来上がったのは氷の刃。

 刃は形を変え、三股槍となる。

 魔術の本で見た、『氷槍』だ。


 氷槍は俺に向かって飛んでくる。

 俺は『土壁』を展開し、防御。

 その時、アルフが少し驚きの表情を浮かべた。


 俺はその隙を突こうと、掌に『炎矢』を出現させ、アルフに向かって発射。

 だが、あっさりと『水壁』によって防がれてしまう。


 俺は怯むこと無く炎矢を三発同時に放つ。

 アルフは飛んできた方向に水壁を再度展開させた。

 これでアルフの九時から十二時の方向の視界が閉ざされた。

 俺は未だ水壁が広がっている所まで走り、魔術が解けたところを狙おうとした。


 だが、水壁は突如、氷槍へと変化する。

 真正面から氷槍に突っ込む形になった俺は、自分の足場に高さ数十センチの土壁を造った。

 丁度、氷槍が飛んできた頃に俺は土壁に躓き、地面に回転した。

 すぐに体勢を立て直し、反撃しようとした――が、目の前には波。

 俺の身長の二倍以上ある高さの水の波が、俺を飲み込んだ。


「ごおっ」


 口の中に水が入り、すぐに吐き出す。

 それと同時に空気も吐き出し、すぐに息苦しくなってしまう。


 俺は水の波を全て凍らせ、分解。

 俺が氷の塊から抜け出せた頃に、俺の足は停止する。

 ――氷に足を固められていた。


「チッ!」


 抜けだそうと、足に魔力を流し氷を溶かすが、また固まり、溶けて、固まる。

 俺は蟻地獄にはまった気分を味わった。


 気づけばアルフが俺の目の前にいた。

 その手に持った氷の三股槍を俺の胸に向ける。


「残念」

「はい、負けました」


 罠が二重三重と重なっていた。

 きっとあのまま氷を溶かせていても、次の手で終わっていただろう。

 俺は潔く負けを認める。


「でも、すごいよ。うん、素晴らしいね。流石、エヴラールに鍛えられただけはあるよ」

「エヴラールさんには頭が上がりません」


 エヴラールが鍛えてくれなければ、俺は瞬殺だったと言ってもいい。

 最初の氷槍に反応もできずに終わっていたかもしれなかった。

 いい師匠を持った俺はなんて幸せ者なんだ。

 そして、新しい先生のできた俺はなんて幸せ者なんだ。


 だが、俺の幸せを満たすことは出来てはいない。

 何故かって、そりゃあ……エロゲがやりたいからさ。

 積まれたエロゲやギャルゲがまだ残っているというのに……。


 いや、そのことは忘れよう。

 うん、忘れよう。


「それで、シャルル君。詠唱はしてなかったよね?」

「はい、そうですけど」

「素晴らしい、素晴らしいよ! 無詠唱魔術師というのは数少ない人材だ。僕は無詠唱を使うのに十数年はかけたというのに、君はその若さで……いやぁ、将来が楽しみだね!」

「は、はあ……」


 褒められた俺よりも、何故だかアルフの方が嬉しそうにしていた。

 教えるのが好きな人なのだろう。

 それに、『僕も暇していたしね』なんて言っていたから、暇つぶしでもあるんだろうし。

 王の暇つぶしに付き合えるなら、それだけで光栄だ。


「それじゃあ、今から修行開始だ!」

「えっ、今からですか!? 戦ったばかりじゃないですか!」

「でも君、魔力は有り余っていそうじゃないか」

「そうなんですけど――」

「なら決定だ! さあ、付いてきたまえ!」


 そうして、俺はアルフに腕を引っ張られ、無理矢理に修行をさせられた。




――――――




 一ヶ月が経過した。

 俺はアルフの元で修業を重ね、魔術の腕を上げた。

 アルフにもらった評価は一級。

 無詠唱を使えるだけで高得点だが、戦闘のセンスもあると言われた。


 ちなみに、アルフは特級の魔術師だ。

 特級までたどり着くには知識、魔力、戦闘経験、実績、戦闘能力が必要となる。

 俺には知識も、戦闘経験も、実績もない。

 戦闘能力も特級の方々からすれば、ムシケラだろう。


 俺の得た力については追々。

 とにかく、エヴラールが帰ってきた事により、旅を再開できるわけだ。


 出発は翌日。

 出発前夜に、エヴラール、アルフ、そして俺の三人は宴会で開くことになった。

 途中、ちょっとしたノリで酒を飲んでみたら止まらなくなり、途中からの記憶がなくなっている。




 翌日、城門でアルフに挨拶をする。

 アルフにはお世話になった。

 魔術だけでなく、うまい飯も食わせてくれたし、久しぶりに風呂に入った。

 水浴びばかりじゃ、どうにも満足できなかったからな。


「それじゃ、アルフさん、またいつか」

「うん、いつでも遊びに来てね。シャルルもエヴラールも」

「はい」

「ああ」


 俺とエヴラールが重ねて返事をし、アルフは満足そうな笑顔を浮かべる。

 俺はアルフの姿が見えなくなるまで手を振り続け、城を離れた。


 城を去り、俺達は馬屋まで向かった。

 馬屋では元気なフーガが待っていた。

 出発前にしっかりと愛でてやり、満足させる。

 俺達に会えなくて寂しかっただろうからな。


 俺とエヴラールはフーガを引き取ると、ヴェゼヴォル大陸の旅を続けた。

御意見、御感想、駄目出し、何でも何時でも歓迎しております。


では、ショートストーリーをどうぞ。



「もぉ、きいてくらはいよ、えゔらーるさぁん、あるふさぁん」

「何だ」

「なんだい?」


「ぼくぅ、ふーがとちゅーしちゃったんですよぉ! はじめてが、うまって、ひどいじゃないですかぁ!」

「気にするな。馬は数に入れなければいい」

「そうそう、僕の初めてなんか、ケルベロスとだったんだから」


「あっはっはっは! けるべろす! それは、けっさくじゃないれすか!」

「どうだ、アルフに比べたら馬なんてマシな方だろ?」

「ああ、拙い……自分で自分の傷を抉った……エヴラール、助けて……」

「シャルルの為だと思え」


「それで、ぼくぅ、けんしとまじゅつし、りょうほうになって、さいきょーになるんれす」

「ああ、お前ならなれる」

「そうだね、才はある」


「かっこいいふたつなとか、つけられちゃってぇ……へっへっ」

「エヴラールのは黒豹だね」

「ああ、お前が付けたんだろう。シャルルが褒めていたぞ」

「ほら、言った通り、格好いい二つ名だっただろう?」


「あぁ、めろん、ぱん……」

「ふふっ、シャルル、寝ちゃったね」

「ああ。もう二度と飲ませないようにしよう」

「若い頃のエヴラールを思い出すよ」

「あの頃は、自由に騒いでいたな……」

「ったく、エヴラール、何だい、その遠い目は。僕たちは過去を語り合う歳でも無いと思うけど?」

「……付き合え」

「仕方がない。乾杯」

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