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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第八章『恐怖』
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運動会の応援は耳に残る

今回も日常パート。

 ポトフ三人衆を引き連れ、俺達は移動を始める。俺の隣にはカレンではなく、クロエが座っていた。

 サラが『お姉ちゃんと一緒にいたい』と控えめにお願いしていたので、カレンお姉ちゃんはクロエと交代してサラと一緒にいる。


「シャルル、私って、すごく薄いと思う」


 クロエが何の前置きもなくそう告げた。唐突に話題を振られる事には慣れている為、問題はない。


「髪が?」

「髪はサラサラだよ! そうじゃなくて、影が!」

「いやいや、そんな事ないだろ。ほら、クロエは竜人族だし」

「それだけ?」

「他にもあるよ」

「例えば?」

「え~っと……」


 クロエの個性は、その、なんだ。赤毛なところ、も竜人族である事だし、変体できるのも竜人族って事だし……。


「げ、元気なところ?」

「どうして疑問形なの。それに、それはリラで足りてると思う」

「あっ! スパッツ履いてるのは、シャルル的にポイント高いかも!」


 クロエはスパッツを何着も持っていて、寝る時以外は常にスパッツを着用しているのだが、これも個性の一つだろう。

 スパッツ――別名をレギンス。伸縮性があり、脚にフィットする長いパンツの事だ。スパッツは肌着なので、もちろん上からはスカートを履いているわけだが、俺的には生足よりもポイントが高い。

 黒い生地で強調される太もも。見ているだけで撫で回したくなる。それはもう、手綱を放り投げて今すぐにでも。


「服装が個性だとか言われても、私ぜんぜん嬉しくないよ!」

「いいか、よく聞け。服装というのは人の性格を表していると言っても過言ではない。だらしない奴はだらしないし、小奇麗な奴は小奇麗な格好をする。髪型も然りだ。そしてクロエ、君は後ろで髪を結んでいるのに合わせてスパッツを履いている。あとはわかるな?」

「ちっとも分からない」


 なん……だと……!?

 女子にはポニーテールに合わせたスパッツの素晴らしさが伝わらないというのか……!?


「世界の終わりみたいな顔やめてよ! 私が悪いことしたみたいだよ!」

「……あっ! もう一つあった。クロエは素直だ!」

「それ、カレンちゃんにも、ニーナにも当てはまる事だと思うけど……」

「いーや、カレンはお姉ちゃん素直、ニーナは妹素直だ。クロエは幼馴染素直な」

「意味が分からないよ!?」

「言葉のままだろ。何がわからない」

「素直の前にくる幼馴染とか妹とか……」

「カレンは面倒見の良い系の素直、ニーナは甘えてくる系の素直、クロエは幼馴染系の素直だ」

「どうして幼馴染だけ幼馴染って単語が説明みたいになってるの……」


 全く、クロエめ、質問ばかりだな。カレン、ニーナ、クロエ。左から順にクール、スイート、ポップの簡単な話だろう。

 しかし、これ以上細かく言うと、クロエにドン引きされる事間違いなしだ。俺は紳士シャルル、下品な話はしないのさ。


「ま、とにかく、クロエにも個性はあるんだよ。やったねクロエちゃん!」

「むぅ……なんか、無理やり本を閉じられた気分……」

「その本は十八禁だから、もう読んじゃだめだよ」

「え、うん……」


 不毛なやり取りをしている間に、村が視界に入る。先にポトフ三人衆に馬をあずけさせ、俺達はその間に荷物の確認と整理を済ませる。異常はないので、二台の馬車を馬屋にあずけた。

 早速宿を取り、荷物を置いて落ち着いたところで全員に休むように伝え、俺は服を整えてから、宿を出て村を散策する事にした。

 次の村へ、次の村へと行く度に、村の温度が下がっていっている気がする。この世界に四季はなく、季節感を味わいたいならどこかの土地へ行かなくてはならない。

 冬は北、夏は南、春は東、秋は西。今俺達が向かっているのは北なので、進行するに連れて寒さが増していくのだ。


「シャルル」


 しばらく歩いて小腹がすいたなと感じた頃、後ろから名前を呼ばれる。

 振り返ると、そこには神父がふわふわと浮いていた。俺は前に向き直り、歩きながら問い返す。


「なんだよ」

「いや、わたくし、道中暇してたもんで。シャルルさんに話しかけても無視するし……」

「仕方ないだろ。お前に話しかけたら俺が変人扱いされる」

「もう既にされているではないですか?」

「ぐぬぬ……」


 そう言われると、返す言葉もござらん。正直、カレンに好かれている事は俺でも分かる。しかしながら、他の娘たちの心情は良く分からない。

 おそらく、『変人』だとは思われているだろう。それがマイナスに繋がっているのか、プラスに繋がっているのかは分からないが。


「あ、ていうか神父さんよ」

「はい?」

「『教会』とかって組織、聞いたことある? もしくは『魔神』とか」

「……」


 軽い気持ちでぶつけた質問だったのだが、神父の顔が険しくなるのを見て、思わず歩く足を止めてしまった。


「何か、知ってるんだな?」

「……シャルルさんこそ、よく知っていますね」

「お前どうせ死んでるし、影響ないと踏んで言っておくが……俺、教会に狙われてるらしいんだ」

「あなたが、ですか……」

「ああ。だから、情報が欲しい。出来るだけ多くの情報が」


 神父はしばらく考え込んだ後、意を決したように頷き、口を開く。


「教会は、魔神を産み出そうと(・・・・・・)している組織です。魔神の器を探し、育成する。それが、彼らの目的。組織員のほとんどが魔術師で構成されていると聞いています。それも、無詠唱を使える魔術師が二桁もいるのだとか」

「話し方から察するに、人伝に聞いた話なんだな?」

「はい」


 なるほど。神父でも詳細な情報を持っていなかったようだ。やはり、裏でこそこそ動いている組織なのか。

 しかし、ほとんどが魔術師で構成されているとは初耳だ。しかも無詠唱ときた。厄介だな。


「それと、魔神関連ならば……『処刑者』という組織も聞いたことがあります」

「処刑者……?」


 ここに来て新しい組織の情報。今までに一度も聞いたことがない、ヴィオラも教えてはくれなかった事だ。


「魔神の誕生を防ぐ組織です。平和的解決ではありません。器を、殺す事が、彼らの目的です」

「殺す……。教会は傍観し、捕獲、利用するのが目的。処刑者は魔神が誕生する前に殺すのが目的……か」

「そうなります」


 これもまた初耳だ。俺を狙っているのは教会だけじゃなかったという事。そうなると、処刑者と教会に限らないかもしれない。

 これからは堂堂として向こうからの襲撃を受けるのか、隠れてこちらから先手を取れるタイミングを見つけるか。

 早期決戦を望むなら、前者だろう。向こうは俺が名乗れば必ず探しだして殺りに来るはずだ。そうなると、向こうのタイミングが分からないから、後手に回る事になってしまう。


 ヴィオラの力を過信しすぎるのも問題だ。ヴィオラは一人しかいないわけだし、向こうは遠距離型、それでいておそらく大規模。

 俺なら全方位防御も可能だが、そうすると攻撃に転じれない。失礼だが、リラやニーナでは力不足だろう。


「……わたくしは、喧嘩を売るのはやめた方がいいと思います」

「同感だ。これじゃあ影と戦うようなものだからな」

「あ、見てくださいシャルルさん。あそこの女の人、おっぱいデカイですね」

「おぉ……」


 たしかに、デカイ。俺の目なら分かる。ノーブラだ。歩く度に揺れているだけでなく、おそらく布と擦れているのがいけないのか、突起物が若干浮き出ている。


「――って、今はシリアスな時なんですよ神父さん。止めてくださいそういうの」

「きゃっ、ケダモノッ」

「うぜぇ……」




 ――――――




「お、お兄ちゃん」

「はいはい、何ですかサラさん」


 一度宿に戻った俺に、サラが駆け寄ってくる。指をお腹の前で絡ませ、もじもじし始める事数十秒、サラが裏返った声でこう告げる。


「一緒に、お散歩しようっ」

「イーヨー」


 どこかのフランケン風に言ってみたが、ネタが通じない。サラが苦笑して首を傾げてしまっている。しかし、いきなり一緒にお散歩とはどうしたんだ。

 カレンの方を一瞥するも、何食わぬ顔をしている。シャルルさんは分かっているんですよ。あなたが何か吹き込んだんでしょう?

 とは言わずに、サラの手を引いて宿を出る。サラの頭を軽く撫でてから、俺はサラの前に屈みこんだ。


「肩のるか?」

「え、う、うん……!」


 サラの股の間に頭をつっこみ、しっかり捕まった事を確認して持ち上げた。サラは何の影響か、背丈が伸びない。精神的には成長するが、肉体的な成長をしないのだ。

 つまり、彼女はもう少し経てば合法ロリに……。


「お兄ちゃん」

「はいはい」

「最近疲れてるね」

「んぁ? そう?」

「うん……無理してる気がする……。お兄ちゃんは一人じゃないよ。お姉ちゃんもいるし……その、わ、わ、私も、いるから……」

「……ああ、そうだな」


 自分で疲れているだとか、無理をしているだとか、そういう事は意識にない。まず、自然治癒のせいでほとんど疲れないし、吸血の副作用もある。

 問題を一人で背負っているわけではない。ヴィオラにもちゃんと相談はした。情報収集だって人に頼っているつもりだ。

 だが、ずっと起きている事が、悩んでいる事が、無理をしている様に見えていたなら、カレンを含めた仲間たちには悪いことをしたな……。


「それで、サラさん。一体お姉ちゃんに何を吹きこまれたのかな~?」

「う……お兄ちゃん、いじわるだ……」

「フハッ! どうとでも言え! さあ、言わないと太ももスリスリしちゃうぞ!」

「へ、変態、お兄ちゃん変態っ!」

「は、反対! 暴力反対!」


 頭頂部をぽこぽこ殴られるのではなく、鋭いチョップを受けている。どこでこんなチョップの仕方を覚えたのかは知らないが、かなり痛い。


「……お兄ちゃんがいけないと思う」

「俺もそう思う。すまんかった」

「反省してね」

「うん。する。それで、一体お姉ちゃんには何を……?」

「え……うぅ……お兄ちゃんとの距離がある気がするって言われて……一緒に話でもしてきたらって……」

「なるほどね」


 たしかに、言われてみればサラは俺から距離を取っている気がする。まあ、俺がサクサク人を殺すのをほぼ初対面の時に見せたわけだから、警戒されているのだろうか。

 流石に数年一緒に過ごしてずっと警戒していたって事は……ないだろう。あったとしたら、それはサラにとって大きなストレスだ。ここは聞いてみるしかないな。


「ちなみに、どうして俺に距離を置いていたんだ?」

「……わからない。でも、なんか、一緒にいると、胸の辺りがきゅぅってするの。それが変な感じで……。今も、きゅぅってしてる……」

「……ふぅん。カレンには言ったの?」

「うん。もう少しすれば勝手に分かるって言ってた。だから、それまではこのままで居ようかなって思ったんだけど、もっと近くにいればすぐに気付けるよってお姉ちゃんが」

「それで、今日思い切って誘ってみたわけだ」

「迷惑、だったかな……?」

「いや、全然。嬉しいよ、俺は」


 ……困ったなぁ。きゅぅって、それ、心臓病かな。どうしよう、治癒魔術で治るといいんだけど。

 それとも、成長しないのと何か関係があるのか。過去に起こした魔力暴走が関係しているのかもしれない。

 ポジティブ思考をするなら――少女漫画的表現をしているのか、だ。俺は恋をした事がないから、『きゅぅ』とか『きゅん』とかがどういった物なのかが分からない。

 どこかの団長は、『恋愛感情はただのバグ』だとも言っているからな。俺はバグだとしても素晴らしいものだと思うけれど。


「あ、サラ、何か食ってくか?」

「ううん、大丈夫。お腹いっぱいになると、お姉ちゃんに怒られちゃうから」

「そうだな、うん、そうだ」


 意識すると、唐突に舌が回らなくなる。どうしてラノベ主人公はあそこまで鈍感になれるのだろうか。羨ましい限りだ。


「ねぇ、お兄ちゃんはさ……お姉ちゃんの事、好き?」

「それはどういう意味で?」

「異性として」

「はあ……まぁ、そりゃあ……うーん……ヒミツ」

「どうして?」

「……自分でも、分からない。俺には、分からないんだ。俺は案外、冷淡なのかもしれない」


 正直言って、俺がカレンの事をどう思っているのかなんて、良く分からない。好きではあるが、異性としてなのか、家族としてなのか、両方なのか。

 自分の事ではっきりしている事なんて、『教会を潰したい』、その願望だけだ。異世界でやりたい事なんてのも、『世界一周』というありきたりな物だ。


「お兄ちゃん」

「ん?」

「私は、お兄ちゃんが貰ってくれて、とっても嬉しいよ? お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、ノエルさんも、暖かかった。一緒にいると、ふわふわして、気持よかった。お兄ちゃんは、優しい人だよ……暖かくて、優しい人……誰がなんと言おうと、お兄ちゃんは、優しいよ」


 子どものくせに、色々と励まそうとしやがる。本当に、困った奴だな。


「サラは本当にいい娘だなぁ。もう……お兄ちゃんは、お困りだよ……」


 サラの小さく、柔らかな手が、俺の頭を優しく撫でた。俺はサラが成長していた事を実感し、今にも涙腺ダムが崩壊しそうだが、堪える事によって黙りこんでしまう。

 サラも、何も言わずに、ただただ俺の頭を撫でてくれた。成長した娘を見て感動する親の気持ちが、少しだけ、分かった気がする。


更新遅くなってすみません。

私がどれだけ日常・ラブコメを描くのが苦手なのか、お分かりいただけただろうか……?(心霊写真並感)


エタる事はないです。

多分、おそらく、Maybe、Probably。

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