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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第七章『始まり』
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吸血鬼は笑う・中編

 意外な登場に、思わず腰が上がってしまう。

 マイヤはヴィオラのメイドさん。茶髪の髪に、犬耳と尻尾が特徴の優しい雰囲気を帯びている人だ。

 マイヤはてっきり留守番をしているのかと思ったが、ヴィオラについてきたのか。


「マ、マイヤさんも来てたんですか」

「いけませんでしたか?」

「いえ、そんな事は……」


 マイヤは食卓の方を一瞥すると、くすりと笑ってみせた。


「随分男前になられたようで、安心しました」

「まぁ、大人の階段はまだ上ってませんけれども」

「そうなのですか? てっきり私は……」

「勘弁してください」

「ふふ、すみません。それでは、私は下でお待ちしております」

「分かりました」


 マイヤは律儀に一礼してから、階段を下っていった。

 俺は息を一つ吐き、椅子にかけ直す。

 皆の視線が俺に注がれているわけではないが、雰囲気は『あの人は誰』といった感じだ。


「……見ての通り、あの人はヴィオラの女中。昔世話になったんだよ」

「そもそも、どうして吸血鬼様とシャルルに接点が生まれたの?」


 黙々と食事をしていたクロエが疑問の声を上げた。


「俺にもよく分からない。向こうから接触してきたんだが、何故なのか、明確な理由を説明されてないんだ」

「シャルルは怪しい人とも仲良くするんだね」

「邪険に扱って怒らせたら、俺の首が飛ぶかもしれないだろ。相手はあの吸血鬼様なんだから」


 そう答えると、クロエは納得したのか「へぇ」と短く相槌を打って、パンを齧った。

 リラの方に目を向けると、サラと話をしているようで、何だか楽しそうだ。

 サラも慣れてきたのか、笑顔を見せるようになってきた。

 ニーナはノエルと会話をしていて、ゆったりとした口調と淡々とした喋り方が交差しているのは、中々にシュールだ。

 クロエとカレンも、ぎこちなくはあるが、それなりにコミュニケーションは取れている……と思う。

 女子同士がどんな会話をするのかなんて、未だに俺はよく分かっていないから、判断しづらいな。


 と、そんなこんなで、俺は会話を見守るだけのまま、朝食を終えるのだった。




 朝食の後は、朝だというのに既に起きていたヴィオラに驚かされる。

 眠そうに髪をほぐし、リンゴをかじっていた。


「早起きだな」

「話があるんじゃよ」

「わざわざ起きてする事か?」

「お主の血のせいで目覚めたとも言えるの」

「俺の血?」

「質問の前に座れ」


 ヴィオラ様の仰せの通りに、ソファに腰を下ろした。

 偉そうな話し方は昔から変わらないらしい。

 まあ、事実として偉いから、仕方が無い事ではあるが。


「んで、俺の血で目覚めたってどういう事だ?」

「その前に質問しても良いかの?」

「はい、どうぞ」

「何故お主は主である此方こなたには普通の口調なのに、女中であるマイヤには敬語なんじゃ?」


 まあ、そりゃあ普通そう言うだろう。ヴィオラの方が地位が高いのにタメ口で話して、それよりも下の地位の人に敬語で話す。

 おかしい事ではある。失礼な事であり、悪いことであるのかもしれない。

 でも、ヴィオラの見た目は女子高生ぐらい。対してマイヤの見た目は成人女性だ。年齢もそうだと思うが。


「見た目のせいかな。ヴィオラの方が若く見えるし。気分を害したなら、マイヤさんとは普通に接するけど」

「うむ、気分を害した。普通に接しろ」

「分かったけど、何でマイヤさ……マイヤは今まで指摘して来なかったんだろうか」

「敬ってくれる人が少なかったからじゃろうの。これ以上はマイヤの過去話になるから言えないが」

「ふぅん……」


 マイヤの立場上、そりゃあこき使われる立ち位置にいるわけだが、他の女中もいるわけだし、敬ってくれる人がいないというのは無いんじゃないかと思う。

 ああ、でも、それは現在の話で、過去はそうではなかったのか。もっと、下の地位にいたのかもしれない。

 獣人族が女中になるというのも、珍しい話なんだがな……。


「話が逸れたな。俺の血がどうのこうのって、何なんだ」

「……お主、自分がどれ程の力を持っていると思う?」

「何だ、突然」

「正直に答えろ。自分の破壊能力は、どこまであると思う」

「うーん……」


 俺の能力か。実際のところ、結構あると思うな。

 今までは自分に制御をかけて、剣術やら体術やらで倒してきたが、魔術を使えば色々出来るし。

 魔力総量もアダムに貰った分と、小さい頃から育ててきた分があるから、普通の人よりも多い。


「そうだなぁ……大きく見積もっても、国一つは十秒ぐらいで落とせるんじゃないかな」

「自分に力がある事は自覚しておったんじゃな」

「そりゃぁ、自分の能力ぐらい把握してないと」

「……じゃが、不正解じゃ」

「え? あ、うん……流石に調子乗りすぎたか……」

「そうじゃない。お主は自分が大陸一つを破壊できる事を自覚しろ」

「ふぅん、そっか……えっ? 今何て?」

「お主には大陸一つを破壊できる力があると言っておるのじゃ」


 そんな馬鹿な話があるわけない。俺の魔力だけで大陸全体に魔力を流し込めるとは思えない。

 そりゃあ頑張れば、移動して、流して、壊してを繰り返してれば出来ない事もないかもしれないが、必ず妨害が入る。

 俺より強い奴は必ず現れて、俺を殺しに来る。大陸の破壊なんて不可能だ。


「ヴィオラさんや、それは流石にありえないと思うぜよ?」

「ありえるんじゃよ、お主の場合はな」

「な、何でっ! それじゃあ俺はバケモンじゃないか……」

「ふむ……」


 ヴィオラは一度頷くと、俺の腕を引きちぎった。だがしかし、一瞬にして、俺の腕は再生する。


「これを見ても、お主がまだ人間の域にいると?」

「それは吸血の副作用が――」

「違うの。ここまで早く再生はせん。お主が無意識の内に『治癒魔術』を発動させたんじゃ。お主は既に、半不死身といえる。怪我をしたら治す、というのがお主の体では当たり前になっておるのじゃ」

「違う……俺は意識的に、ちゃんと、自分の意思で治してる……」

「お主は既にこちらの域なのじゃよ、シャルルや」

「そんなの、違うだろ……」


 体から力が抜け、持ち上がった腰が再度落ちる。頭が痛くなってきた。頭の中から、頭蓋を割って何かが出てくるような、そんな感覚が襲う。


「自覚しろ。お主が何なのかを。いいや、『何に成り得る』のかを」

「……何に、なるんだ。俺は」

「教会は『魔神』と呼んでいたかの」

「……そうか、そうか」


 段々分かってきた。魔神、そうか。教会……ああ、そうか。

 教会は俺を殺そうとしていたわけではないんだな。

 いいや、違う。当初は殺すつもりだったのか。だけど、路線を変えたんだ。

 少しずつだが、つながってきた。だけど、まだ足りない。


「なあ、ヴィオラ」

「なんじゃ」

「魔神の復活には、何がいる」

「お主、勘がいいの」

「違う。ありきたりなんだよ」

「ありきたり?」

「そんな事はいいから、答えてくれ」

「……黒い感情をいい具合に積んでいく事じゃ」

「いい具合……」


 俺は結局、踊らされていたのか。ずっと、計画の上にいたってのか。

 なら、スラムの人は俺のせいで死んだも同然じゃないか。


「……まさか、アランも、犠牲の一人だったんじゃねぇだろうなぁ?」

「お主、少し落ち着け。言っている事が飛んでおる。順番に――」

「いいから、答えてくれよ……」

「だから、落ち着けと言っておるじゃろ」

「俺は落ち着いてる。だから、教えてくれ」

「……はぁ、そうじゃ」

「……少し、外の空気吸ってくる」


 異様なまでの痛みが充満する頭を押さえながら、縁側に腰を下ろす。

 話をまとめると、俺の今までの異世界での『自由』はあって無かったような物という事だ。


 おそらく、全ては孤児院にいた頃出会った青年から、始まったのかもしれない。

 いいや、もっと前か。あの時の奴の言葉はあまり覚えていないが、初対面の喋り方では無かった様に思える。


 最悪の場合、俺はこの世界に降り立った時から、ずっと『教会』のおもちゃだった事になる。

 全ての出会いが仕組まれたもので、その中に偶然なんてものは無かったのか?

 だとすると、滑稽だな。別れを惜しんだ事自体、今じゃ無駄だった様に思える。


 全てが俺ではなく、『魔神』の為だったのか。魔神を目覚めさせる為に、俺はずっと何かを奪われてきた。

 ……魔神? いや、待て。俺の中に魔神がいるとするなら、それは一体どうやって知れ渡ったんだ?

 何故、見えないはずの魔神が眠っているなんて言える。

 魂を可視化する魔眼なんて存在しないはずだ。……なら、魔神ってなんだ?

 ……もしかして、魔神ってのは、あるのではなく、なる物なのか?

 疑問は出たなら、知っている人に聞けばいい。俺はすぐにヴィオラの元に戻った。


「なあ、魔神ってのは、俺の事だよな?」

「そうじゃな」

「俺は既に魔神になっているのか? それとも、これからなるのか? あるいは俺の中に眠っているのか?」

「……そうじゃの、『成り得る』という話であって、なっている訳でも、なる訳でも、眠っている訳でもない」

「そうか、なら、俺になる意思さえ無ければならないんだな」

「それが難しいところじゃ。お主、出身は違う世界じゃろ」

「えっ、なっ、お前知ってたのか!?」

「そうなんじゃな。なら、そういう事じゃ。魔神を『作る』のに与えられた条件が、異世界からの魂……つまり、この世界には、お主以外にも魔神に成り得る人間がいるという事じゃ。しかし、最初に目を付けられたのはお主じゃ。計画はお主を中心に組み立てられる。変更はありえない」

「でも、俺か、俺以外の異世界からの魂を持つ人間を殺して、新しく訪れる魂を狙うという可能性もあるんだろ?」

「あるの。じゃから、お主には常に護衛がついておった」


 そうか、そうか。俺の周りに常に強い人間がいたのは、そういう事だったのか。

 そして、エヴラールがいない時を狙って、あの青年は俺に接触してきた。

 俺は誰かに守られて生きてきたのか。この十五年もの間。

 まだ不透明な点はあるが、『教会』が俺と俺の家族に害があるという事だけは分かった。


「お主、金はあるんじゃろ?」

「ある」

「なら、今すぐ家を出ろ。お主はずっと放置されていたが、そろそろ教会も狙いに来る頃じゃ」

「成人するから、か」

「そうじゃな」

「……荷物をまとめる事にする。それと、ヴィオラ、頼みがある」


 俺が振り返りざまに言うと、ヴィオラはこの先俺が何を言うのかが分かっているかのように、挑発的に笑った。


「何じゃ?」

「俺と一緒に旅をしないか?」




 ――――――




 俺はすぐに全員を居間に集め、まず第一に、リラに謝った。

 クズらしい行為だった。謝って済むなら警察はいらねぇと言われても仕方が無いぐらいの。


「別に良い。外道ではあるが、あれも一つの勝ち方だ」

「リラ様……!」

「様付はやめろ、気色悪い」

「ありがとうございます!」

「お礼をいうところか!?」

「我々の業界ではご褒美です」


 お許しをもらえたところで、本題に入る。

 まず、魔神の話は伏せ、旅に出る事を伝えた。リラ、ニーナ、クロエの三人が俺に同行するかは自由。

 そして、サラも残りたければ残っていいと。ノエルは命令遵守だから、サラと残る様に言えば残るかもしれない。

 カレンは、『残れ』と言って残るような娘じゃないから、あれこれ言うのは止めた。

 それぞれにそれぞれの選択があったというのに、全員が同行するという。


「何で? 危ないぞ?」

「元々、私達は旅をしていたんだ。シャルルと一緒に行こうが、何も変わらない」


 というのがリラ達三人組の答え。


「私はお兄ちゃんと一緒じゃないと、何にも出来ないから」

「――同じく。私の存在意義はご主人様にあります」


 というのが、サラとノエルの答え。


「やくそく……」


 というのが、カレンの答えだ。

 正直な所、リラ達には残っていてほしかった。

 俺と一緒に来るという事は、それだけ危ない目に付き合わされるという事だ。

 まあ、その辺を伝えていないから、俺が悪いのだが……。


「吸血鬼様も行くんですか?」


 自然にその場にいるヴィオラに、クロエが尋ねた。


「シャルルに頼まれたからのう」

「心強いですっ!」

「……素直な娘じゃな」


 素直なのは全員に言えたことだが、この中で最も活発なのは、クロエだろうな。

 何だかんだでいつも笑顔を振りまいているし。


「それで、出発はいつなんだ?」

「早くて二日後、遅くて四日後だな」

「そんなに急ぎの用があるのか」

「無い。でも、早いほうがいいかなぁと」

「適当だな」

「大丈夫、計画はちゃんと立てておくから」

「そうか、分かった」

「他に質問のある人」

「――はい」


 俺の隣にいたノエルが手を上げる。


「何だ?」

「――仕事の方はどうなされるのですか?」

「……出張中とでも書いておけばいいんじゃないかな。はい、他」


 見回してみるが、誰も質問はないらしい。


「んじゃ、解散。各自持ち物を整理しておくように」


 俺が言うと、全員がそれぞれの部屋へと戻っていった。

 早くて二日後、遅くて四日。その間に済ませなければならない事がたくさんある。

 この王国では、色んな人に出会った。

 別れの挨拶も最低限しなくてはならないだろうし、その他色々と調達しなくてはならない。


 そんなこんなで、俺達は旅に出る事になったのである。

 内心不安はいっぱいだが、あまり表に出さないようにして行こう。

こんな話書いて欲しいってのあったら、頑張らせていただきます。



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