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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第七章『始まり』
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エキサイトメント・前編

「やぁ!」


 意識を失ったはずの俺は、白い空間にいた。

 漫画などでいう『精神世界』のようなものだ。

 俺の目の前に立つのは、金色の髪に、向日葵色の瞳をした、好青年。

 こいつが、『シャルル』だ。


「牛人間との戦いは面白かったねッ!」


 シャルルは目を輝かせながら、俺に詰め寄った。

 たしかに、楽しかったのは事実だ。

 見ているだけのこいつからしたら、余計に楽しいだろう。

 いや、自分で動くから楽しいのか。


「まあ、気絶してるけどね、今」

「それは仕方が無いよ、お兄さん。あれだけ体に負荷を与えたんだから」


 身体に魔力を巡らせ、全力で動かすというのは、かなりの負担になる。

 集中している間は何も感じないが、気を抜いた後に一斉に襲いかかる痛みが尋常ではない。

 ほんの少し力を引き出す程度であれば、身体への負担は少ないし、痛みを感じないが。


「特にあの六本の腕! まさか素手の方が強かったなんてね!? いやぁ、本当に凄かった。お兄さんが素手で戦うと決めた時も、僕は嬉しく思ったよ! こう、久しぶりの緊張感がたまらなかった……!」

「そ、そうだな」

「次は話に聞いたユニコーンやフェニックスも相手にしたいね!」

「戦うのは俺だけどな」

「僕とお兄さんは一心同体! 同じ話だよ!」

「まあ、何であれ、お前が満足してくれて良かったよ」


 俺がそう言うと、シャルルは笑顔で「うん!」と答えた。

 無邪気な笑みをするシャルルさんですが、考える事は意外にエグい。

 ドラゴンはこういう倒し方もなんたら、サキュバスを拷問だのなんだの。

 俺はサドではないのだ。完全なノーマル、ニュートラルなのだ。


「それで、お兄さん」


 突然話題が変わり、シャルルは嫌らしい笑みを浮かべてこう言った。


「いつ、女の子に手を出すのかな? 本命は誰なのかな?」

「マセガキが。俺は紳士ですよ? 手を出すだなんてそんな」

「あれだけ密着されて、あれだけ可愛い娘がたくさんいて、毎晩一緒に寝て、それでいて何も出来ないって……もしかして、勃起不全?」

「お前どこでそんな言葉覚えたの? 俺この世界に来てそんなの習ってないよね?」

「お兄さんの知識が少しだけ流れ込んでくるんだよっ!」

「え!? そんなの初耳なんだけど!?」

「だって、初めて言ったし」


 このマセガキ。何を考えてやがる。手を出すだの何だの。

 俺は紳士ですぞ。性的な接触はしないのです。


「お兄さんには呆れるよ。口づけすらしてないんだもん。もしかして、男に興味があったり?」

「ねぇよ。いや、可愛ければ無いこともないんだが……」

「うわぁ……」


 聞いておいてドン引きとは、失礼な奴だな。

 いや、事実として、男の娘ならいけない事もないんだ。

『それってホモじゃん?』と、そう思う人もいるが、それは断じて違う。

 男の娘とは男の娘という性別であり、男ではないのだ。

 だから、男と男の娘をカップリングさせても、それはボーイズラブにはならない。

 秀吉用の更衣室があったりするだろう? つまりそういう事だ。


「クロエさん達がお呼びのようだから、また今度話そうね」

「おう」


 俺が短く答えると、視界が真っ暗になった。

 意識は現実へと戻されたようだ。

 何か、温かくて、柔らかいものを後頭に感じる。

 それに、頭を撫でられているらしい。

 俺は瞼を開け、自分の置かれている状況を確認する。


「おはよう、シャルル」


 俺を見下ろしながらそう言ったのは、クロエだ。

 胸が見えるという事は、俺はクロエの膝の上に寝ているのか。

 何気なく、クロエの胸に手を伸ばした。

 着痩せするタイプなのだろうか。触ってみると、大きいことが分かる。


「成長したな」

「えへへ、そうかな?」

「うん。もう少しすれば、大人の女性に仲間入りだ」

「シャルルは大人の女性が好き?」

「特に好みはないよ」


 そう言いながら、体を起こす。

 ふと視線を感じ、気配のする方に目を向けると、リラが呆れきった目で俺を見ていた。


「リラ様のお胸もご立派になられています」

「そんな事は聞いてないっ!」

「すみません。……それで、魔石はどうしたんだ?」


 俺達はまだ、ミノタウロスを倒した場所にいた。

 ミノタウロスの死体はまだ始末されていない。


「ニーナが持ってるぞ」

「これ……」


 ニーナが俺に見せたのは、手に収まるくらいの大きさをした赤い球体だ。

 七つ集めても神龍は呼び出せそうにないな。星がないし。


「無限燃焼だっけ? 燃えるのか?」

「発動させるのは……依頼人……」

「あー……」


 たしか、魔石の付与効果は初回発動時に送った魔力の主にしか反応しないんだったっけ。

 付けるのも消すのも、最初に魔力を送った人にした操作できないって事だ。

 それにしてもこの魔石、綺麗だな。真っ赤なのに、透き通っている。


「んじゃ、俺はちょっと片付けて来ます」


 そう言って、俺はミノタウロスの死体へ歩み寄った。

 死体に触れ、俺の魔力を流していく。

『氷結』と念じ、ミノタウロスの体は砂と化した。

 他に、切り落とした腕も氷結で片付け、俺は三人の元へと戻る。


「戻る時はどうすればいいんだろ。このまま戻るの?」

「多分。この場所にそれらしき魔法陣が見当たらなかったからな」

「そっか。とりあえず皆、俺に寄ってくれ」


 俺が手招きをすると、三人は素直に俺に近寄ってきた。

 まず、リラとニーナの頭に手を乗せ、『治癒』と念じる。

 傷が治ったのを確認したら、次はクロエだ。


「よし、行こうか」


 俺の掛け声により、全回復した俺達は、迷宮ボスの間を後にした。




 ――――――




 俺はその後、宿屋へと戻った。

 クロエ達は別の宿を借りているらしく、宿の前で別れ、後で集まる事にしている。

 外は既にオレンジ色。この時間帯になると、眠くなってくる。


「ふぁ~。あぁ……報酬はどうしようか」


 アデーレに何かの意図があったのかは知らないが、俺とリラ達に依頼をした。

 もしかしたら、もっといたのかもしれない。

 となると、報酬はどうなる。俺とリラは協力したわけだから、報酬は半分に分けるのだろうか。

 金がたくさん必要、というわけでもないのだが、仕事上受け取らないと様にならない。

 まあでも、今月の収入はそれなりにあったし、金貨五百枚ぐらい別に譲っても問題ないか。

 俺の家族は金を浪費するわけではないし、預金だってたくさんあるからな。


「暇だ……」


 やる事もないので、剣の手入れをする事にした。

 手入れはこまめにやっている。いざという時に剣が折れても困るからだ。

 実は、家には日本刀も置いているのだ。この世界にそんな物はないので、オーダーメイド。

 まだ使ったことはないが、今度試してみようと思う。


 コンコン。


 丁度手入れを終え、剣を鞘に収めた時、ドアがノックされた。

 俺は剣を壁に立てかけ、扉を開けた。

 予想通り、リラ達だ。三人共バッグを背負っている。


「どうしたんだ、その荷物」

「今日からこの宿に泊まる事にした」

「部屋は? 俺の部屋で最後だったはずなんだが」

「心配するな。隣の部屋を譲ってもらった」


 流石は族長の娘。無理矢理というか、横暴というか。

 まあでも、仲間は近くにいた方がいいから、これでいいのだ。


「荷物置いたら勝手に入ってきてくれ」

「分かった」


 リラは返事をし、隣の部屋に入っていった。

 呆れながらも、俺はベッドに腰掛ける。

 十秒もしない内に俺の部屋の扉は開けられ、リラ達が入ってきた。

 荷物を置くだけだから、そうだよな。


「この後、どうする?」


 色々な意味を込めて、リラに尋ねた。

 リラは腕を組み、椅子に腰を下ろす。


「そうだな。まず、今晩は三人で飯を食う。王国に帰ったらアデーレに報告をして、報酬を受け取り、シャルルと私達で分ける。その後はその時決めればいい」

「報酬はやっぱり、分けたほうがいいのか? そっちには三人もいるんだろ?」

「シャルルは……もっといる……」

「えっ?」

「女の子が……三人も……シャルルを合わせて……四人……」


 獣人族の嗅覚、恐るべし。そこまで嗅ぎ取られるとはな。

 だが、それで気を使われても困る。

 だからといって、『いやいやあなたが』みたいなやり取りをするのは好ましくない。

 それなら素直に山分けって事で修めればいいか。


「ニーナさんには敵いませんね」

「えっへん……」

「じゃあ、そういう事で。飯食いに行こうか」


 話を終えた俺達は、飲食店へ向かった。

 途中、異様にクロエに視線が集まるなと思ったら、クロエの服に二つの穴が空いている事に気づいた。

 竜化した時に翼が貫通したせいだろう。


「クロエ、背中」

「あっ、本当だ……」


 俺の指摘に気づいたクロエは、ポーチから何かを取り出した。

 クロエはそれを広げて見せる。どうやら、代えの服らしい。

 竜化する事は珍しくないのかもしれないわけだし、持ってくるのは当たり前か。


 クロエは代えの服を重ねて着たらしい。

 まあ、こんなところで着替えるわけにはいかないからな。

 さて、これで気になる視線もなくなった。


 その後は昔話に花を咲かせながら夕食を取り、宿へ戻ってそれぞれの部屋で寝た。

 朝起きたら隣にニーナがいた事に関しては、あまり追求しないでいただきたい。




 ――――――




 俺達は数週間かけて、王国へと戻った。

 とりあえず三人は宿を取ると言っていたが、引き止める事にした。

 俺の家には使っていない部屋がたくさんある。

 客用として寝台も購入しているし、リラ達が宿を取る必要はないと考えた。

 それに、カレン達にも紹介してやった方がいいかもしれないし。


「いや、しかし――」

「そういう事なら、お願いします」


 リラの声を笑顔で遮ったクロエ。

 凄い威圧感だ。これが、竜人の威圧か……。

 リラも反論出来ずに、口を閉じてしまった。


「よし、じゃあ行こうか」


 客馬車に乗って、四人で俺の家へ向かう。

 何故かは分からないが、俺まで緊張してきた。

 クロエとリラの緊張がこちらにも移ってしまった。

 ニーナはいつもの様に、ぼーっとしているのだが。


 客馬車を乗り継ぎ、俺の家に到着する。

 近所の鍛冶屋からは鉄を打つ音が聞こえる。

 どうやって三人を紹介しよう。

 いや、別に悪いことをしているわけではないから、普通に紹介すればいいんだよな。

 だが、何だ。この罪悪感。何かを裏切ってしまった感じだ。

 ……こんな所で止まっているわけにもいかない。

 俺はノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開けた。


「――お帰りなさいませ、ご主人様」


 俺が扉を開けてから、ノエルが挨拶をするまでの間は僅か五秒。ノエルさんは相変わらず足がお早い。


「――そちらの方々は?」

「友達」

「――お茶を用意致しましょうか?」

「頼んだ」


 ノエルは一礼して、客間へ歩いて行った。

 俺は三人を中に入れ、客間で待つように伝えた。

 現時刻は三時。カレンはおそらく、二階でおやつでも作っているのだろう。


 俺は二階へ上がり、調理場を覗く。

 やはり、カレンとサラが仲良く料理をしていた。

 カレンもサラもエプロンを着けている。

 後ろから抱きしめてモフモフしてクンカクンカしてスーハースーハーしたい……。


「ただいま」


 そう言った俺の声に、カレンはすぐに反応した。

 俺の体に飛びつき、無邪気な笑顔を向けてくる。


「おかえり、なさい……」

「元気にしてたか?」

「ん……」

「そうかそうか」


 カレンの頭を撫でながら、サラの方に目をやると、視線が重なった。


「おかえり、お兄ちゃん」

「ただいま。何作ってるんだ?」

「ちーずけーき、ってお姉ちゃんは言ってた」

「それは楽しみだ」


 チーズケーキの作り方まで知っているとは。

 恐るべきカレンの女子力の高さ。

 あ、そういえば、客を待たせているんだった。


「えっと、それで、実は、俺の友達が遊びに来てて」

「ん……何人……?」

「三人」

「わかった……全員分、用意する、から……シャルは……下で、待ってて……」

「ありがとう」


 俺が礼を言うと、カレンはこくりと頷いて、俺の体から離れていった。

 二人が天火を確認しているのを尻目に、俺は階段を下る。

 客間では、リラ達がノエルと会話をしていた。


「お前は一体、シャルルの何だ? 奴隷か?」

「――ご主人様が望むのであれば、私は奴隷にもなりましょう。ですが、今はただの使用人です」

「シャルルは……偉い人……?」

「――ご主人様は立派な方です。私が奉仕するのはあの御方だけだと決めています」

「シャルルの事は大好きなの? 世界で一番?」

「――はい」


 お、おい、止めろよ恥ずかしい。

 なんて思いながらも、聞き耳をたてる俺。

 なんて気持ち悪いんだろう。

 どうせリラ達には気付かれているので、すぐに顔を出すことにした。


「変なこととか聞くなよな」

「言われちゃいけない疚しい事でもあるのか?」

「いや、全然」


 首巻きを取り、外套を脱ぎながら答える。

 実際、隠さなくてはならない事なんてない。

 俺は紳士的に過ごしてきたし。

 胸を揉んでいる時点でそう疑われるのも仕方が無いわけだが、カレン達には悪い事なんてしていない。

 一緒に寝たり、お風呂に入ったりはしたが、それだけだ。


「ノエル、カレン達の手伝い、お願いできるか?」

「――かしこまりました」


 本当は俺も手伝ったほうがいいのだが、リラ達を放置するわけにもいかないし。

 ノエルに任せれば、安心安全だ。


「えーっと、まぁ、さっきのが、ノエルだ。ちょっとした事情で使用人になった」

「ちょっとした事情……?」


 三人が同時に声を上げた。正直、突っ込まないでほしいのだが。

 魔王と接触した事はあまり言いたくはない。


「まあ、ちょっとした事情」

「それで、後の二人は?」

「リラは慌てんぼさんだな……っと、噂をすれば」


 カレン達三人が、階段を下りる音を耳にした。

 すぐにカレン達は顔を出し、ケーキの乗った皿を差し出してくれる。

 カレンはお盆をノエルに手渡すと、俺の膝の上に座った。


「あの、カレンさん?」

「なに……?」

「いえ、何でもないです」


 身長差はあるから前が見えないという事はないが、膝の上に人を乗せるのは本当に慣れない。

 下りてくださいと言える雰囲気でもないし。

 本当は立って紹介したかったんだが、このままでする事にしよう。


「俺の膝の上に乗っているのがカレンだ。魅人(みじん)の方がサラ」

「はじめ、まして……シャルの……お嫁さん、です……」


 その時、場の空気が凍りついたのは、言うまでもない。

三、四日ほど更新が止まるかもしれません。

こういう話を書いて欲しい、なんて意見がありましたらお気軽にどうぞ。



それよりも、カレンの話し方、どうしようかなぁ……。

このままでいいよね!!!

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