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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第七章『始まり』
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引き寄せられた糸・中編

 どうも、シャルルです。目覚めたリラによる顔面への正拳突きを喰らい、鼻血を出したまま正座をさせられているとです。


「リラ様、本当にすみませんでした」

「こちらこそ、悪かった。見慣れていないから敵だと勘違いした」

「次からは気をつけます」


 リラに殴られたのは、仕方が無い事ではある。

 目覚めたら目の前にいる半覆面フード男がいて、自分の頬を触っていたとあっては、怒るのも無理ない。

 俺だったら『キャアアアァァァア』と叫びながら殺してしまうかもしれない。


「その鼻血を止めたらどうなんだ?」

「はい」


 俺は正座したまま鼻に手を当て『治癒』と念じた。

 獣人族の族長の娘、つまりは最強の獣人のその娘のパンチを正面から喰らったわけだから、俺の鼻は折れていて当然。

 だが、治癒さえ使えば、骨折しても腕がもげても治せるのだ。


「にしても……」


 リラもニーナもクロエも雰囲気が変わった気がする。いいや、確実に変わっている。

 皆、昔会った時は小さくて、ロリロリしていたというのに、今のリラの胸を見てみろ。

 流石はヴェラの妹だ。これはまだまだ成長が期待できそうですね。


 さて、リラというのは、俺を見下ろす少女のことである。

 肩までしかない長さの銀色の髪。親譲りの白い肌に、銀色の円な瞳。

 可愛らしくはあるのだが、族長の娘としての威厳を保とうとしているのか何なのか、眉根を寄せる事が多い。

 そもそも、威厳も何も、その犬耳と柔らかそうなしっぽで全て和らいでしまっているのだが……これはリラには黙っておこう。


「シャルル……跡が付いてる……」


 こちらのゆったりした少女がニーナ。

 眠そうな眼をしているが、眼光は中々に鋭い。

 体術使いにとって髪の毛は邪魔でしかないのか、ニーナもショートカットだ。

 リラとニーナは昔から仲が良かったし、双子に見えなくもない。

 だが、決定的な違いは、茶色の髪の毛だという事だけではなく、ニーナには猫耳と猫の尻尾が生えているところだ。

 ニーナは猫耳をピクピクとさせながら、手ぬぐいで俺の鼻の下を拭ってくれた。


「ありがとう、ニーナ」


 いつもの癖で、ニーナの頭に手を置いてしまう。

 だが、ニーナは抵抗を見せることもなく、気持ちよさそうに目を細めた。


「クロエ姫も、お目覚めですか?」

「うぅ……」


 膝を抱えて涙目になっているのが、クロエだ。

 竜人族の特徴である、真っ赤な髪。その前髪にはライラックのピン留めが目に見える。

 今は俯いているが、普段は元気に溢れた顔をしている。

 クロエと一緒にいるだけで、こちらまで元気になってくるのだ。

 ライラックのピン留めは、俺が昔、孤児院に世話になっていた頃、クロエの誕生日にあげた物だ。

 長年大事に扱ってくれているらしい。『いや、新しく買ったんだよ』とか言われてもショックなので、聞くのはやめておこう。


「まあ、そう落ち込むことじゃないよ、クロエ」


 俺はクロエの頭に手を乗せ、なるべく優しい声で話しかけた。

 どうやら、一人だけへたり込んでしまった事を気恥ずかしく思っているらしい。


「でも、でもぉ……」

「あの状況なら仕方が無い。リラとニーナは匂っていたから余裕があっただけで、そうでなければ同じ様になっていたと思うぞ」

「ほんと……?」

「シャルルさんが言うんだから間違いないです」


 俺が言うと、クロエは涙目ながらも笑ってみせてくれた。

 やっぱり、元気少女クロエには、笑顔が一番似合う。


「もう夕飯時だし、飯を買いに行ってくる。ここで待っててくれるか?」

「一緒に……行く……」


 そう言い出したのはニーナだ。

 別に、ニーナが来たところで問題があるわけでもない。

 連れて行かない理由はないだろう。


「分かった。二人はどうする?」

「私はここで待っている」

「私も」


 リラに続いて、クロエも待機する事にしたそうだ。


「じゃあ、行こうか」

「うん……」


 俺はニーナを引き連れ街へと繰り出した。

 夕時の迷宮周辺は、冒険者区域の様になっているにも関わらず、人は多くない。

 おかげで、窮屈な思いをする事はないのだが。


「シャルル……」

「ん?」

「背負って……」

「その心は?」

「匂い……」


 まあ、だろうとは思っていました。

 うむ、ニーナの頼みなので、聞く他ないだろう。


 俺は片膝をつき、ニーナが乗りやすいように姿勢を低くした。

 ニーナの体は俺の背中に押し付けられ、柔い腕は首の周りに巻きつけられる。

 俺が立ち上がると、落ちないようにと力を強めてきた。

 Oh……この背中に触れる柔らかい感触は……。

 何というか……成長したなぁ。


「シャルル……」

「ひゃいっ?」


 耳元で囁かれたせいで、変な返事をしてしまった。


「……いい匂い」

「うん、ありがとう」


 ニーナもリラも俺の匂いが好きだというが、正直言って意味がわからない。

 俺はまだ水浴びをしていないというのに。魔術で体を冷やしてはいたから、汗臭いという事はないと思うが。

 そんな心配をしていると、ニーナの腕に僅かな力が加わった。

 押し付けられていた物が、もっと押し付けられて、何というか、もう……ごっつぁんです。


「シャルルは……親友……。会えて……良かった……」

「俺も会えて嬉しいですよー」


 昔の友人に会えるというのは、俺にとっても良いことだろう。

 この数年間で俺が落とした物が何なのか、見つけられるかもしれない。

 それは落とした物なのか、作られた物なのか、それは分からないが……。

 兎にも角にも、俺とニーナは肉の甘ダレ串焼きを購入して、宿屋へと戻った。




 宿に戻った俺が目にしたのは……俺のベッドの上でバタバタしていたクロエとリラだ。

 リラは『匂いだぁ』と、クロエは『シャルルだぁ』と言いながら。

 うん、意味がわからないよ!

 リラならまだしも、どうしてクロエまで!


「あの、お二人さん?」

「匂いだぁ」

「シャルルだぁ」

「エクスキューズミー?」

「はっ!」

「えっ!?」


 リラとクロエが同時にこちらに振り向く。

『いつからそこにいたの』と言いたげな顔だ。

 では、答えてしんぜよう。


「『匂いだぁ』『シャルルだぁ』辺りからですね」

「勝手に人の心を読むな!」

「勝手に人の心を読まないでよ!」


 リラとクロエの声が重なる。息ぴったり。素晴らしいじゃない。


「心を読むも何も、顔にそう書いてあったよ」

「む……」

「うぅ……」


 二人が狼狽える間も、ほんわかニーナさんは俺の背中に張り付いたまま離れてくれない。

 別に重いわけでも疲れたわけでもないが、いつまでも『くんかくんか』されるのはむず痒い。

 俺はルイズではないのだ。


「さて、飯でも食いながら、皆の話でも聞かせてよ」


 そういう事で、俺は三人から旅の話を聞きながら、甘ダレのかかった串焼き肉をいただく事にした。




 ――――――




 三人の話を聞くには、行動を共にしていたリラとニーナがクロエに出会ったのは、一年前だそうだ。

 偶然にも、ロンデルーズ王国の冒険者協同組合で出会った三人は、パーティを組み、色々な依頼を熟してきたらしい。

 三人の冒険者階級は三級。普通に考えれば、この歳で三級はかなりのレベルだ。

 確か、三級への昇級試験では、ウルクの討伐が必要だったな。

 俺の剣術の師匠エヴラールがオーガと戦った時は、片耳から出血するだけの軽傷で済んだが、オーガよりも強いウルクだ。

 それなりにリスクもあっただろう。


 オーガ? スライム? そんなのレベル十で楽勝だろ!

 そう思う人も多々いるだろうが、それは違う。この世界において、スライムは剣を弾き、オーガは雄叫びを上げただけで鼓膜を破く事が出来る。

 適当にやっていれば、死ぬ可能性だって出てくる。


 まあ、それは良い。三人が強いのは分かりきったことだ。

 一年間同じパーティで過ごしてきた三人は、美少女三人組のパーティという事もあり、有名になったそうだ。

 そして今回は、パーティに迷宮探索を依頼されたらしい。

 この迷宮に眠る魔石を取ってきてほしい、との事だった。

 パーティに依頼するというのは珍しい事ではないのだが、何か引っかかる。


「依頼人の名前ってなんだった?」

「それは秘密だ」

「リラ、そこを何とか」

「ダメだ」


 ククク……断るというのか……。

 いいだろう、ならば俺は、この手を使おう!


「……もっと感謝されてるかと思ってたよ。皆を助けた事」

「アデーレって人だよ、シャルル!」


 リラよりも先に答えたのは、クロエだった。

 クロエは軽くリラを睨みつけると、俺に笑顔を向けた。


「依頼人がどうかしたの?」

「実は、俺の依頼人もアデーレって人なんだよ」

「へぇ! すごい偶然!」


 偶然……か。本当にそうだろうか。

 一つの依頼を二つのグループにさせる事は少ない。

 依頼掲示板に貼られているならまだしも、アデーレは直々に依頼をしに来ていたのだ。

 ダブルブッキング? ……いや、あのアデーレという人物の雰囲気からしてそれはない。断定していい。


「どうしたの……?」


 ニーナが俺の顔を覗きこんできた

 俺は笑顔をつくって、ごまかす。


「いや、何でもない。んー、そうだなぁ、依頼人が一緒なら、俺達四人で協力していくか?」

「それは良い案だな」


 賛同の声を上げたのは、リラだ。


「シャルルがいれば心強い。正直、私達だけではあの迷宮の攻略は難しいと思っていたんだ」

「なら、決定だな」

「よろしく頼むぞ、シャルル」


 俺は差し出された手を握り、四人で協力する事に決めた。


「……いつまで手を握っているつもりだ?」

「ごめん」

「揉むなっ」

「柔い」

「お、おい……」

「気持ちいい」

「い、いい加減にしろっ」


 手を引かれ、直立していた俺は前のめりに倒れてしまった。

 まずい、このままでは……ラノベ主人公のラッキースケベが!?

 だが、ああいうのは大体、殴られ、蔑まれた目で見られる事が多い。

 シャルルさんはドMではないですのことよ!


 俺はすぐに右足を前に突き出し、体を支えた。

 だが、目の前にはリラの胸。このままでは接触すると思い、体を捻らせなんとかリラを躱す。

 ――が、俺の視界は真っ暗になった。一体、何が起きている。


「シャルル……大胆……」


「……ごめんなさい」


 殴られる事はありませんでしたが、一晩中『くんかくんか』の刑を受けました。

 シャルルさんは紳士ですから手を出していませんよ。

 ……本当に、出していませんからね!

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