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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第七章『始まり』
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物語は始まりを告げる

 異世界に来て、十年の時が流れた。

 異世界に来た当初、俺の体は既に五歳になっていたので、身体年齢は十五歳である。

 いやはや、時が過ぎるのは早いものだ。


 振り返ってみれば、たくさんの出来事があった。

 エヴラールという剣士に出会い、弟子入りをした。

 俺はエヴラールに剣術を習い、独自に魔術を勉強した。


 勉強をしながら村と村とを旅し、レイノルズという中立国に入国。

 そこでカイという少年に出会い、異世界にて初めての同い年の友人をつくったわけだ。

 レイノルズにあった冒険者協同組合――いわば冒険者ギルドで、俺は冒険者登録をし、今もその冒険者を続けている。


 レイノルズを抜けた先にある大陸、ヴェゼヴォル大陸へと上陸した俺とエヴラール、そして愛馬のフーガは、荒野で魔物と遭遇しながらも、氷王統括国アルフに到着した。

 その国王アルフは、魔術の天才で、エヴラールの友人だ。

 エヴラールが仕事の為に俺をアルフの元へ預け、俺はその間アルフから魔術を教わった。

 エヴラールが仕事から帰った後、俺達はアルフを出て旅を続けた。


 そうして辿り着いたのが、魔王統括国ジノヴィオス。

 禍々しい雰囲気などは全然なく、魔王城はただの黒い城に見えた。

 そこで俺は、魔王と接触したわけだ。

 俺は魔王に黒く透ける不思議な石を貰い、宿へ戻った。その石を今でも大事に持っている。首飾りにして。

 魔王から石を貰った夜、俺は自分の中に眠るもう一つの魂、シャルルと出会った。

 シャルルの話によれば、今俺が使用している体はシャルルという少年のものだったが、俺がこの世界に降り立った時から体の支配権を俺に奪われたという。

 まあ、つまり、俺は新しい体を神から授かったのではなく、人の体を乗っ取って新しい人生を歩んでいるわけだ。

 だが、シャルルにも色々事情があるらしく、『それでも構わない』と彼は言っていた。

 シャルルとの接触により、俺は改めて『生きよう』と決意したのだ。


 俺達の計画はヴェゼヴォル大陸の一周だったのだが、エヴラールがルーノンス大陸――俺が最初にいた北に位置する大陸の王国からの呼び出しで、一周を諦め、半周でヴェゼヴォルを去る事になった。

 この目的はいつか遂げるとしよう。

 さて、急ぎの移動で俺達はルーノンスへと戻ったのだが、危険だからと言って、俺はまたエヴラールの友人に預けられる事となった。

 そこで、エヴラールと別れてから、長い間会っていない。

 我が師匠は今も元気でやっているだろうか。


 ……まあ、とにかく、俺が預けられたのは孤児院だった。

 エヴラールの友人、女神アメリーと出会い、竜人の活発少女クロエと出会った。

 アメリーにはたくさん世話になり、クロエとは夢の話までする仲になった。

 クロエは剣士を目指すと言っていたので、今頃どこかで剣でも振っているのだろう。

 アメリーは孤児院を経営している事もあり、遊びに行く暇などないのかもしれないな。

 だから今度、俺から赴いてみようと思う。


 孤児院のある街キュリスの路地裏にて、見知らぬ青年から襲撃を受けた俺は、戦闘に負けるも生きる事を許され、『次会う時までには強くなってくれよ』という約束と『獣人の森へ行くといい』という助言により、俺は孤児院を去ることになった。

 俺はアメリーの友達――エヴラールやアルフの友達でもある獣人のヴェラと共に、獣人の森へと向かった。


 獣人の村ビャズマは、俺の事を快く迎えてくれた。

 少々の拒絶反応を見せられたが、それもあっさりと解決した。なんというか、成り行きで。

 獣人は、最も体術に長ける種族だ。早い動き、重い攻撃、そして鋭い眼。

 そんな能力を持つ獣人の一人、バフィトから、俺は体術の訓練を受けた。

 というか、バフィトに鍛えてくれるようお願いしたのだ。

 俺は体術と剣術の鍛錬を続けながら、ヴェラの妹であるリラ、そしてリラの友人ニーナとも仲良くなり、平穏な毎日を送った。

 ワイバーンに襲われるなんて事件もあったが、特に被害が出ることもなく、俺が一人で倒してしまった。

 とにかく、バフィトに『一人前だ』と認められた時を持ってして、俺は獣人の森を出る事にした。


 次に俺が向かったのは、エヴラールが仕事で向かっていた王国、『ロンデルーズ王国』だ。

 ルーノンス大陸の中央にあり、大陸で最も大きい国。

 俺が行った時は、もちろんの事エヴラールはいなかった。

 獣人の森では数年間過ごしたのだから。


 ロンデルーズ王国にある冒険者協同組合で、『昇級試験』と呼ばれる冒険者が昇級する為の試験を受けた俺は、あっさりと一級昇級試験を合格してしまい、一級冒険者となった。

 十歳という年齢で一級冒険者となった俺は、とある人物に目をつけられてしまう。

 そもそも、人というか、鬼だ。

 冒険者協同組合で仕事を探していた俺は、その鬼に拉致される事になる。

 可愛らしい少年である俺を拉致したのは、吸血鬼ヴィオラだ。

 それから俺は、ヴィオラの食事にされてしまう。

 皆さん知っている通り、吸血鬼の食事は血液だ。

 ヴィオラに半年間もの間、血を吸われ続けた俺は、吸血された時の副作用によって、腕をもがれてもすぐに再生する体になってしまった。

 今では副作用の効果が切れてしまったわけだが。


 ヴィオラから解放されて、王国へと戻った俺は、スラム街を見つけることになった。

 俺の想像していたどんよりとした雰囲気は感じ取れたが、それでも、スラムの人たちは自由に生きていて、幸せそうに思えた。

 俺はそんなスラム街で、マリアという女性とその娘、カレンに出会った。

 マリアは傷だらけの俺の心を包んで、癒してくれた優しい人だ。

 それから俺は、マリアとカレンと暮らすことになった。

 しばらくして、偶然にも俺はカレンが同じ転生者である事を知ってしまった。

 だがしかし、カレンには前世の記憶を無くしてしまっていたのだ。

 仕方なく、カレンへの追求を止める事にした。


 冒険者協同組合へ赴いた俺は、パーティに誘われることになった。

 駆人のケイ、魅人のアラン、空人のダモン、そして竜人のルーカス。

 その四人のパーティに俺が加わることになり、皆で仲良く依頼を熟していたのだが、ある事件により、俺にとって兄弟の様な特別な存在であったアランが死亡した。

 リーダーを失ったパーティは解散する事になり、俺はまたソロプレイヤーに戻ってしまった。


 アランとパーティを失ったばかりの俺に降りかかった、災厄。

 いや、俺にではなく、スラム街の人たちに起こった災難だ。

 スラム街は壊滅していた。焼滅したのだ。事故ではなく、誰かの手によって、スラムの皆は殺された。

 もちろん、そこにはマリアも含まれている。

 マリアの死体を発見した時、俺はマリアが何かを抱きしめている事に気づいた。

 そこにいたのは、カレンだった。

 親も居場所もなくしたカレンを、俺は保護する事に決めた。


 しばらくして、カレンも落ち着きを取り戻した頃、俺は家を探すことにした。

 騎士団の副団長であるウルスラという女性を頼り、不動産屋を紹介してもらった。

 そこにお目当ての物件があったので、買おうとしたのだが金が足りず、仕事を受けることにした。


 冒険者協同組合で、俺は魔王に呼び出される事となる。

 経緯は良く覚えていないが、魔王の使い魔と戦うことになり、俺は勝ったのだ。

 そこで、魔王から一枚の札を貰う事になった。

 家に帰り札の裏に書いてある呪文を唱えると、一人の少女が現れた。

 少女はいわゆる、自動人形というもので、俺に仕えてくれている。

 名前が無かったので、俺が勝手にノエルと名づけた。


 気を取り直して、ウルスラに仕事を紹介してもらったわけだ。

 依頼内容は、魅人の王国の拉致された王女アリアの救出。

 アリアの拉致られ方は異常で、寝ている間に突然消えたというものだ。

 まあ、俺は僅かな手がかりと、勘と予想で犯人を割り出し、何だかんだで救出に成功した。

 魅人の国王エルネストから報酬金をガッポガッポと貰い、サラという少女を報酬として引き取った。

 サラは魅人王国の監獄にいた少女で、事故によって殺戮の罪を犯したサラは死刑囚として収容されていた。

 サラとはちょっとした問題があったが、何とか解決し、平穏な生活を手に入れた。




「――と、今までの経緯がこれだ。平穏な生活を送りながら、依頼を熟して地盤を固め続けて来た。んで、俺は十五歳になったわけだが」

「シャル、誰と話してるの……? ぼーっとしてたし……」


 心配そうに俺の顔を覗き込む、こちらの少女がカレン。

 腰まで伸びた黒い髪は手触りが良く、白い肌は触っているこちらが気持ちよくなる程に滑らかだ。

 黒い瞳は何もかもを見透かしているのではないかと思わさられる程に澄んでいて、長い睫毛が可愛さを引き立て、小さな口が子供らしさを強調する。

『可愛いのに綺麗な娘だな』……それが初めてカレンを見た時の印象だった。


「思い出を振り返っていただけ」

「ん……」


 一年ぐらい前からカレンの言葉遣いが堅苦しさを無くした。

 最初の頃は敬語が入り混じっていたのだが、今ではこうして普通に話しかけてくれる。

 嬉しいような、寂しいような、年上としては複雑な気分だったが、俺も慣れてしまったようで、特に気にかけることも無くなった。

 胸は昔に比べて多少なりとも成長したが、大きいとは言えない。

 まだ十三歳だし、これからだろう。

 そもそも、俺は小さいのも大きいのも大好きだ!


「――ご主人様、依頼が来ております」


 感情の薄い声でそう言うと、いつもの無表情で俺に依頼状を手渡してくれたのが、ノエルだ。

 肩の下まで伸びたプラチナブロンドの透き通る様な髪は、見ただけで繊細だというのが分かる。

 実際に触ってみても、細くて指通りが良い。

 顔も整っていて、丸くて可愛らしい眼を持っているが、いつも無表情で笑顔を見せない。

 ロリ顔、ロリ体型、そこに魅力があるのは確かだが、もう一つの特徴はやはり『羽』だ。

 ノエルの背中には、肩甲骨と同等の大きさをした小さな羽が生えている。

 翼をもがれた天使の様で、痛々しくも感じるが、それが逆に美しいとも感じられる。

 ノエルは自動人形なので、成長はしない。飽く迄、身体的な意味では。


「塗装の依頼か……報酬は少ないけど、やってみるか」

「――私も、塗装作業には興味があります」


 まあ、こう言う様に、ノエルは無表情だが、無関心ではない。

 料理に興味を持つし、食事に興味を持つ。服に興味を持つこともあれば、魔物の血液に興味を持つことさえあった。


「じゃあ、明日にでもやってみるか」

「――はい」


 ノエル、そしてカレン、二人は特に問題はないのだ。

 それはサラにも言えた事……だった。

 不思議な事に、サラは成長をしなかった。

 中身ではなく、外見がだ。

 当時会った時は十歳ぐらい。

『ぐらい』というのは、俺にもサラにも知るすべが無いからだ。

 とにかく、サラはその十歳の見た目から、変化しないのだ。

 考えられる原因はただ一つ、『魔力暴走』だろう。


『魔力暴走』は体内から勝手に魔力が流れ出る。それも、すごい勢いで。

 流れでた魔力は周りに被害を与える。頭を吹き飛ばしたり、腕を引きちぎったり。

 魔力が空になるまで放出すると、魔力を失った者は外傷も内傷もなく、死ぬ。

 アランも魔力暴走を引き起こしたせいで、俺の手で殺めなくてはならなくなったのだが、サラの場合は、止めるすべを知っていた者がいて、そいつがサラの魔力暴走を止めた。

 その時の影響なのか、魔力暴走を起こした事自体が問題なのかは分からないが、もしかしたらサラは一生、幼女体型で過ごさなくてはならないのかもしれない。


「お姉ちゃん、お腹空いた……」


 お腹を擦りながら空腹を告げるこちらの少女がサラ。

 肩まで伸びた色の抜けた髪はおそらく魔力暴走の影響か。

 褐色の肌には艶があり、彼女の全身に頬ずりしたい気分になる。

 体のパーツはまだ幼く、小さくて、少し叩いただけでも壊れてしまうのではないかと思うほど華奢に見える。

 大人しそうな碧い瞳は、彼女の雰囲気を和らげている。


「サラ、お手伝いする……?」

「うん」


 サラは頷くと、カレンと一緒に調理場へと向かっていった。

 サラも俺が引き取ったばかりの時は敬語で話していたな。

 遠慮しがちな所もあったし。

 だが、そこはやはり慣れ。長い間一緒に暮らしていれば、自然と遠慮等薄れてしまう。

 特に俺らは歳が近かった事もある。


 当初は『シャルルさん』と呼ばれていて、慣れていく内に『パパ』と呼ばれないか心配に思ったが、見事に『お兄ちゃん』と呼ばれるようになったので安心だ。

 いや、しかし、サラは成長しないから、もしかしたら俺がパパになれる年齢になったその時にはパパと呼ばれてしまうのでは……?

 そ、そんな事があったらお兄ちゃんは、お兄ちゃんは……! それでも嬉しいよ……!

 そうすると、『お姉ちゃん』と呼ばれているカレンは『ママ』と呼ばれ、俺とカレンが夫婦に。

 なんということでしょう。


「――ご主人様」


 ノエルが唐突に口を開く。


「ん、ん?」

「――膝の上に座るというのは、どういった物なのでしょうか?」

「……さぁ? 座ってみればいい」


 いきなりなんでそんな事を聞くのかは分からないが、ノエルは疑問に思ったことはすぐに声に出すタイプだ。

 ノエルが興味を示した物は与えていきたい。

 甘やかさない程度にだが。

 俺はノエルに視線をやりながら、膝の上をぽんぽんと叩く。


「――失礼します」

「おう」


 ノエルは律儀に語を掛けながら、俺の膝の上に座った。

 一番最初に浮かんだのは『軽いな』という事。

 二番目が、『オー、ベリーソフト、アメイジング』だ。

 軽いのに、柔らかさが伝わる。

 自動人形であるノエルだが、肉付きがあるのだ。

 もちろん、血液も出す。唾液もあれば、涙もあるだろう。


「――よく分かりません」


 座った側であるノエルの感想はこれだ。


「まぁ、だろうな」

「――ご主人様の方を向くと、どうなるんでしょう?」

「へ? いや、それは、拙いかなぁと」

「――何故ですか?」


 そう尋ねたくせに、ノエルは体を俺の方に向け、座るというか、俺の膝の上に跨っている感じになってしまった。

 いや、これは色々と拙い。


 俺は紳士だ! 俺は紳士だ! 俺は紳士だ!

 イェスロリ! ノータッチ!

 ふぅ……。


「ノエル、おりてくれるか?」

「――何故ですか?」

「何故抱きつくんですか?」

「――あ……」

「あ?」

「――暖かいです」


 やめてぇ、これ以上俺を苦しめないでぇ……。

 小さなお胸が俺のお胸に触れてるよぉ……。

 吐息が耳にかかるよぉ、声がすぐ近くで聞こえるよぉ……。

 俺の息子が暴走してしまう……落ち着いてくれ、マイサン。


 ノエルを抱きしめながら寝たことはある。

 そりゃああるさ。寝るだろ、普通?

 でも、この体勢には耐性がない。なんつって。


 ……ノエルも息をしているんだよな。

 鼓動もしっかりと伝わって来る。

 ここまで意識しながら密着したことがなかった。

 でも、なんというか、心地いいな。

 誰かに抱きしめられるのは、誰かとくっついてるのは、やっぱり心地が良い。


「――ご主人様」

「ん……?」

「――暖かいです」

「それ聞いたよ」

「――お腹すきました」

「お前もか。ほれ、台所行くぞ」


 ノエルは俺の膝から退くと、何事も無かったかのように台所の方へ歩いて行った。

 俺は深呼吸をしてから、ノエルの後を追った。

 何故って? ハハッ、これで息子も落ち着けばいいなと思っただけさ。




 ――――――




 夕方を過ぎた頃だ。俺の家の扉が叩かれる。

 俺は剣を片手に持ち、扉を開けた。

 扉の前に立っていたのは、登山用のサックを背負った一人の女性だった。


「名無しさんのお宅はここでしょうか?」

「はい。依頼ですか?」

「そうです」

「どうぞ、中へ」


 依頼状を届けられる事が多々あるが、こうして直接依頼に来る人も居る。

 顔を見て話せるので、こちらの方がありがたいと言えば、ありがたい。

 ちなみに、俺が『名無し』と呼ばれる理由は、名前を名乗らない事から来ている。

 失礼な奴だと思われるかもしれないが、ちょっとした事情があるのだ。


 依頼人を客間へと通し、ソファに座るよう推め、ノエルが茶を出す。

 これが依頼人へのもてなしだ。名前も名乗らない無礼者なものでね。


「何でもやってくれると聞いていたので、厳つい大人の方かと思っていました」


 依頼人の女性が微笑みながらそう言った。

『何でもやってくれる』……たしかに、俺は人殺しも、盗みもやってきた。

 殺してきた人間は犯罪者ばかりだし、俺は別にどうとも思っていない。

 盗みというのも、正確には『奪還』だったから、罪悪感なんて感じていない。

 言い訳くさいが、俺はそういう人間になってしまったのだから、仕方がないのだ。


「期待はずれでしたか? こんな若造で」

「いいえ。依頼さえ完遂してくれれば、誰でもいいんです」


 依頼を完遂出来るほどの実力さえあれば、という意味だろう。

 つまり、俺はそれだけの実力があると聞かされているのか。

 自分で言うのもなんだが、俺は巷で良い評判を貰っているらしいからな。


「私、アデーレと申します」

「どうも」


 俺は名前を告げずに差し出された手を握る。


「して、依頼とは」

「聞くからには、必ず完遂してくれると約束してくれますか?」

「報酬によります。依頼内容と報酬さえ釣り合っていれば、それでいいです」

「迷宮探索で金貨五百枚。どうですか?」


 金貨五百枚。日本円に換算して五百万円。

 ただの迷宮でそこまで金を積むとは思えない。

 それだけリスクを伴うという事か。

 こうなると、遠征って事になるのかね。


「まあ、それが最低額として、内容によっては追加してもらいます。それで受けましょう」

「分かりました」


 アデーレは頷くと、カップに口をつけた。

 一息置いてから、アデーレは依頼内容を話しだす。


 彼女の話によれば、タートという迷宮の最深部に特別な魔石があるらしい。

 魔力が篭った石、というのは当たり前だが、付与効果がある。

 その効果が、『無限燃焼』だ。

 何故それを必要としているのか、目的などは話さなかった。

 かと言って、こちらから聞く事でもない。


「タートはどこに位置するんですか?」


 依頼内容を聞き終えた俺は、迷宮の位置を尋ねた。


「この王国から北へ行けば、望まずとも分かるでしょう」

「……分かりました。その依頼、引き受けましょう」

「ありがとうございます」

「前金は金貨五十枚でいいですよ」

「分かりました」


 アデーレはその金貨五十枚を所持していたらしく、サックから金貨を取り出すと、テーブルの上に積み上げた。

 俺は一枚一枚数えていき、枚数を五十枚確認した。


「確かに。依頼は必ず完遂致しましょう」

「お願いします」


 アデーレは深々と頭を下げ、俺の家を出て行った。

 俺は金貨の袋に詰め込み、倉庫に入れた。

 外は既に街灯が光を灯していた。

 俺は背伸びをしてから二階へ上がり、夕飯を作るカレン達に混ざっていった。

まあ、なんていうか、ここからが本編です。

今までは『地盤』というか、『プロローグ』というか、『説明』というか、『伏線』というか……



それと、現時点でシャルルに好意を抱いているヒロインは二人です。

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