表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第六章『家族』
56/72

幼女だけど愛さえあれば関係ないよねっ

 俺はその後、泣き疲れて眠ってしまったサラを背負いながら、家へと戻った。

 サラをベッドに寝かせ、ノエルに側にいてあげるよう頼み、俺は帰りに買っておいた、近所にお近づきのしるしとして配る物を両手に抱え、カレンと一緒に家を出た。


 左隣の家に住むのは、息子さんのいるご家族だ。

 互いに自己紹介を済ませた所で、干しイカと干しイカのタレ三種類、それと酒を贈呈した。

「どうやって手に入れたの?」と聞かれた時は「父からです」と言ってごまかした。


 左隣は……家というか、店だ。

 看板には『鍛冶屋』と書いてある。

 ノックをしてしばらく、一人の少女が顔を出す。


「はいよー、どちらさーん?」


 顔を出した少女は、健康的に焼けた肌をした、幼い女の子だ。

 若干眠そうな目をしていて、瞳は透き通る様な茶色。

 髪色も薄い茶色で、肩の下までしか伸びてないであろう髪の毛は頭の両側でまとめられている。

 お隣さんには茶髪のツインテール幼女、なるほど、なるほど。


「えと、隣に引っ越してきたシャルルと申します」

「カレン、です……」

「私はエリカ。よろしくー」

「よろしくお願いします、エリカさん。……えと、親御さんは?」

「いや、うちだけ」

「お出かけ中ですか?」

「いや、一人暮らしだよ……」

「……ああ、えっと、鍛人の方でしたか。すみません」

「うん……ま、まあ、慣れてるからいいよー」

「えっと、これ、お近づきのしるしに」


 どうやら成人しているようなので、干しイカとタレ三種と酒のセットを贈呈した。


「おぉ、お酒ー! ありがとう!」

「いえいえ」

「ところで、シャルルは剣士だよねー。うちの店、見ていかない?」


 カレンの方に目をやると、『見たい』という顔をしていたので、お願いする事にした。

 エリカは快く俺達を招き入れた。

 鍛冶屋の壁には、たくさんの武器が掛けられていた。

 大剣から槍まで、様々な武器が揃えられている。

 でもたしか、鍛冶屋の仕事は金属を鍛え加工するとこまでで、売るのは別じゃなかったっけ。

 そんな疑問をぶつけてみると、エリカは「お隣さんだから特別ー」と答えた。

 お隣さんの特権ってやつだ。


「特注って受け付けてますか?」

「んー、受け付けてるよー。普通より高くなるけど」

「金なら問題無いです。一つ作って欲しい剣があります。紙と筆ありますか?」

「ちょっと待っててー」


 エリカは作業場の奥にある扉へと入っていき、数分して戻ってくる。


「どうぞー」


 差し出された紙と羽ペンを受け取り、紙に図案を描く。

 長大な刀身、片刃、柄、鍔、全てをイメージ通りに描いた。

 俺が作って欲しいのは太刀である。


「んー、特徴的だねー」

「どうでしょう? 作れそうですか?」

「まぁ、他にも注文があるから、一ヶ月くらいはかかるかなー」

「それでいいです。注文します」

「わかった。お代は後払いでいいよー」

「分かりました。では、僕はもう行きますね」

「はいはーい。また来てねー」


 よし、挨拶はこれぐらいでいいだろう。

 俺は家へ帰り、サラの様子を見る。

 最近、あんまり睡眠が取れていなかったのだろう。

『眠ろうとしないんだ』とエルネストが言っていたし。

 久しぶりに安眠が出来ているのなら、邪魔はしちゃいけない。


「ノエル、お疲れ様。はい、差し入れ」


 俺はキッチンから持ってきた林檎をノエルに投げ渡す。


「――ありがとうございます」


 ノエルは律儀にお辞儀をして、林檎にかじりついた。


「カレンも、サラとは普通に接してやってくれ」

「しゃる……何か、したんですか……?」

「まあ、少しだけ」

「……」


 カレンは返事をしなかったが、優しく微笑み、眠るサラの頬を撫でた。

 ああ……今の雰囲気はマリアっぽくて、いけないな。

 俺は何処からかこみ上げてきた気持ちを紛らわすために、部屋を出た。

 胸の辺りが締め付けられる様な錯覚に襲われ、思わず壁にもたれてしまう。

 ……痛いなぁ。




 ――――――




 家具を揃えたり、日用品を確保したりと忙しなく過ごし、やっと落ち着いた一週間が過ぎた頃の昼過ぎ、我が家に来訪者が訪れる。

 扉の前に立っていたのは、ウルスラだった。


「どうも、シャルル殿」

「こんにちは。初来訪ですね、どうしたんですか?」

「用事ついでに遊びに来ました」

「どうぞ上がって下さい」


 ウルスラを招き入れ、ロビーにつくった客間に通した。


「家の中を見て回りますか?」

「はい、是非お願いしたいです」


 との事で、俺は家の中を案内した。

 途中ぼそりと「住もうかな……」という独り言が聞こえたが、聞かなかった事にした。

 何故だかは分からないが、ウルスラと暮らしたら危ない気がする。

 ウルスラがではなく、俺が危険な目にあう気がするのだ。


 ウルスラに隅々まで見せたので、客間へと戻り、俺とウルスラがガラステーブルを挟むようにしてソファに腰を下ろす。

 カレンがお茶を用意し、ウルスラの前に置いた。


「そういえば、用事があるとかなんとか」

「ああ、それですが……実は、シャルル殿に依頼したいと申される方がおられまして」

「僕にですか? 僕、宣伝も何もしてないんですけど」

「いや、あの……実は、その、私が勝手に、シャルル殿の素晴らしさを語っていたというか、自慢していたというか……すみません」

「いえいえ、責めるつもりはありません。宣伝になったのなら、それでいいですよ、僕は」


 ていうか、俺の素晴らしさを語るって、どんな事を話したのだろうか。

『副団長が自慢するやつなら相当すごいんだろうな』という過度な期待を散りばめられてしまった気がする。


「それで、依頼内容は?」

「直接話したいとの事でした。ですが『どこへ行けば話せるのか分からない』と。シャルル殿は顔すら割れていませんから」

「そういえばそうでした。その依頼主にこの家に来るよう伝えてもらえませんか?」

「この家、ですか? ここは生活するための家なのでは?」

「いえ、窓口兼用として働かせます」

「危険です。組織間抗争が勃発した場合、この家が襲われるかもしれませんよ?」

「大丈夫ですよ」

「根拠は……?」

「ありませんが、襲われたら殺す。それだけです」

「……そうですね、それだけです。では、そういう事で」

「お願いします」


 依頼の話の後はしばらく談笑していたが、ウルスラの仕事が残っているとの事で本部に帰ってしまった。

 俺はティーカップを片付け、サラのいる部屋へ行く。

 サラは既に目覚めていて、俺の姿を見つけると肩をびくりと震わせた。

 そんなに恐がらせてしまっただろうか。脅しが効きすぎたか……?


「えっと、あの……」


 反省していたところに、サラが声をかけてくる。


「……すみませんでした」

「ん? 何が?」

「失礼なことばかりして……」

「あー、いいよ、気にすんな。今日からサラも家族の一員だ。遠慮はしないでいい。失礼とかそんなの気にしないでいいよ」

「で、でも――」

「シャルが、良いって、言った……。なら、それで良い……。『でも』は……なし……」


 そう言いながら、カレンがサラの頭を撫でる。

 サラは震える声で「はい」とだけ言って、気持ちよさそうに目を細めた。

 俺は二人を部屋において、一階へと下りる。

 ノックの音はしなかったが、来客だ。

 俺は扉を開け、訪問者を確認する。


「扉の前で突っ立ってどうしましたか?」

「えぇと、ここがシャルル様のお宅でよろしいのでしょうか?」

「そうですが」

「えぇと、依頼に来ました、タイラーです」

「どうぞ、中へ」


 俺は依頼人タイラーを招き入れ、客間へと通す。

 今度は俺が茶を用意し、タイラーの前に置いた。


「して、依頼とは?」


 タイラーが茶を一口飲んだところで、早速切り出した。


「実は……自分の経営する料理店を繁盛させたくて……」

「売れてないんですか……店は王都にあるんですよね?」

「はい……」

「では、早速見に行きましょう」

「えっ、引き受けてくださるんですか?」

「引き受けて欲しいから依頼しに来たんですよね?」

「そ、そうですが、まだ詳細も話していないので……」

「まずは店を見てから聞きます。百聞は一見にしかず、です」

「分かりました。案内します」


 俺はタイラーに続いて、タイラーの経営するレストランへと向かった。

 向かったのだが……


「地味ですね」

「す、すみません」


 ものすごく地味だ。

 建物は石製で、石の灰色のまま。

 看板は目立つわけでもなく、チョコンと置かれているだけだ。

 インパクトに欠けていては意味が無い。


「こりゃあ、客も来ないわけですよ……」

「す、すみません、本当に」

「料理の方はどうなんですか? 従業員の数は?」

「料理には自信があります! ですが、従業員は僕ともう一人しかいなくて……」

「二人だけで経営してたんですか?」

「はい……客が来なかったので、二人で足りていたというか……」

「少し、時間をください」

「はい……」


 どうしようか。店の位置は道路脇だから、人が通らないわけではない。

 必要なのは、注目だけだ。

 しかし、例え人を集める事が出来たとしても、サービスがままならないようであれば、すぐに客足も減るだろう。

 先にすべきは……従業員の確保か。


「まずは、従業員の確保から始めます。募集の紙を掲示板にでも貼っておけば、その内来るでしょう。給料の方は、そうですね……時給は最低でも大銅貨九枚でどうでしょう」

「うぅ、ぎりぎりです……」

「なら、大丈夫です。周りの店の従業員募集の年齢基準が分かりますか?」

「十六より上がほとんどです」

「なら、年齢制限を十四歳より上にします」

「十四? 十六ではなく……?」

「そのぐらいが仕事をしたいと思っている時期だと思います。『親へのお知らせは任意』とでも書いておけば、こっそり仕事をする人も入ってくるでしょうし」


 成人していなければ仕事をできないという国法はない。

 にも関わらず、周りの店は従業員を十六歳以上にしている。

 なら、それ以下の年齢、特に十四、十五歳の子は『あと数年で仕事が出来る』と楽しみに思っている事だろう。

 そこへ現在の年齢でも出来る仕事が見つかれば、飛び込んでくるはずだ。


「募集の紙は見やすく作って下さい。そして、高くも無く、低くも無い位置に貼って来て下さい。今日の助言はここまでです。数日後にまた来ます」

「えっ? そ、それだけですか?」

「あー……入りたいと言ってきた人たちは、自分の目で見定めて雇用するか決めて下さいね」

「は、はい……」

「それでは、また」


 俺は軽く会釈をしてから家へと戻った。

 気付けば既に夕方で、キッチンからは野菜を切る音が聞こえてくる。

 ノエルだろうかと思いキッチンを覗いてみたのだが、手際よく料理をしていたのはカレンだった。


「カレン、ただいま」

「ん……おかえり、なさい……」


 カレンは包丁を動かしながら挨拶を返した。


「料理できたんだな」

「……何故か、できます……習った事は、ないのに……」


 前世では料理の出来る娘だったのか。もしかしてカレン、意外と女子力高いんじゃ……?

 クッ、いい加減な男に嫁に出すわけにはいかんな……。


「カレンはきっといいお嫁さんになる」

「……」

「カレン? 手が止まってるぞ、どうした?」

「……」

「カレンさん? おーい」

「シャルも……きっと、いい旦那さんに……なれます……」

「お、おう、そうか?」

「ん……」

「あ、ありがとうございます」


 照れ隠しの礼を言うと、カレンは料理を再開した。

 カレンが動きを止めた時は驚いた。俺が突然スタンド使いになったのかと思ってしまったぞ。


「……手伝おうか?」

「いい。シャルは、サラを……」


 俺は「分かった」と短く返して、サラのいる部屋へと向かった。

 ノックをするとノエルが扉を開けて、俺を中へと入れる。


「――お帰りなさいませ、ご主人様」

「ただいま、ノエル。サラはどうだ? 具合は良くなったか?」

「だ、大丈夫です」

「そうか、なら良かった」


 いつもの癖で、サラの頭を撫でようと手を伸ばすが、サラが肩を震わせて目を閉じた。

 このまま手を引き戻すのも気恥ずかしいので、隣にいたノエルの頭に乗せ、軽く撫でる。

 ノエルの髪にはあまり触れたことがないのだが、触れる度に驚かされる。

 本当に人形なのかと疑う程に綺麗で、滑らかだ。


「――ご主人様。如何なさいましたか?」

「いや、何でもない」

「――食べ物の匂いがします」

「カレンが料理をしてる。手伝ってやってくれ」

「――邪魔にならないでしょうか?」

「その時は黙って見てればいい。見てるだけでも勉強になるから」

「――分かりました」


 ノエルは無表情で返事をし、階下へと下りていった。

 部屋に残ったのは、俺とサラだけ。


「サラは俺のことが恐いか?」

「こ、こわくないです……よ?」

「嘘つけ。俺が触れようとしたら凄く恐がってたじゃないか」

「う……ごめんなさい……」

「俺はとても傷ついた。心がとても痛いよ」

「ほ、本当にごめんなさい……!」

「ではお仕置きとして、サラは今晩俺と寝なさい」

「えっ?」

「サラと、俺と、カレンと三人でだ」

「わ、わかりました……」

「うむ。では、晩飯へ参るぞ」


 俺はサラを連れ、キッチンへと向かう。

 料理は既に出来上がっていて、ノエルが食堂へ鍋を運んでいるところだった。

 この匂いには覚えがある……かなり昔に、前世で食べた事がある物だ。

 一向に思い出せないので、鍋を覗いてみる。

 そこにあったのは――肉じゃがだった。

 肉じゃがを最後に食べたのはいつだっただろうか。

 母さんがまだ生きている時だったか。

 ご飯との相性が抜群だったんだよなぁ。


「シャル……泣いてる……?」

「ん? 泣いてないぞ?」

「泣きそう……」

「いや、ちょっと、懐かしくてな」

「……ん」


 会話を交わしながら全員が席へとつき、『いただきます』の後に食事を始めた。

 肉じゃがの味は、最高だった。

 久しぶりに食べたからというのもあるのかもしれないが、そうでなくてもかなり美味いだろう。

 野菜の甘味はよく出ているが、甘すぎず、辛すぎずといった、丁度いい味だ。

 昔食べたものには春雨があった気がするが、無くても美味いものだな。


「美味い。美味いよ、カレン……!」

「ん……」

「――確かに、これは絶品です。私の情報には入っていない料理ですが、素晴らしいです。この口に広がる甘さと程よい辛さの対比がまるで手を取り合って踊る……」


 ノエルは喋り続けた。何を言っているのかも分からなくなるほどに喋りに喋った。

 料理評論家にでもなればいいのではと思うぐらいの語彙を使いカレンの肉じゃがを褒め称えるノエルを止めたのは俺だったが、止めていなければ、後数時間は喋り続けていたのではないだろうか。

 時折息切れを起こしていたのが人間らしくて興味を惹かれた。

 今度、ノエルを色々と調べてみるか。


 そんなこんなで夜になり、サラとカレンとノエルが水浴びをしている間、俺は剣の手入れを済ませる。

 俺も含めた全員が水浴びをした後は、魔術を使って髪を乾かして就寝する。

 俺とカレンの間にサラが入るはずだったのだが、ノエルが一人だけというのも可哀想なので、俺、サラ、ノエル、カレンの順番でベッドに横になった。

 俺はサラに抱きつくでもなく、普通に、本当に普通に眠りについた。


 ――のだが、朝目覚めると、サラを抱きしめていたわけである。

 寝ていたんだから仕方ないよねっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ