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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第六章『家族』
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囚われの姫・後編

「お前、面倒くせえ」


 そう言って、俺は石造りの冷たい地面に座り込む。


「面倒?」

「そう。面倒なんだよ、そういうの」

「はぁ?」

「お前の転移の仕組み、分かったよ」

「へぇ、それは面白い。言ってみぃ」


 コイツの転移の仕組みは簡単だ。

 最初に部屋に入った時に見た点々、アレはただの穴ではなく、一つ一つが魔法陣になっている。

 気付いたのは、俺が地面に四つん這いになった時だ。

 穴の一つ一つに魔法陣が刻まれているのなら、コイツの転移できる範囲は、この部屋全体になる。

 別段遠くまで移動するわけではないから、直径数ミリ程度の魔法陣でも効果が現れたし、魔力の消費も抑えられたのだろう。


「普通、戦いに夢中になってそういうのには気付かないんだけどなぁ」


 ネタ明かしを聞き終えた魔術師が納得のいかない声色で言った。


「俺の師匠の教えだ」

「流石はエヴラールだなぁ」

「なっ!?」

「あっはっはっはっ! 何今の顔! 最高!」

「何で俺の師匠がエヴラールだと知っている!?」

「ん~、秘密ぅ」

「おい――!」


 俺の言葉を聞き終えずに、魔術師はケタケタと笑いながら、どこかへ消えていった。

 仕組みがバレたから逃げたのか、それとも、俺が生かされたのかは分からないが、これで戦闘が終了したと見て間違いないだろう。

 しかし、何だったんだ。何故、俺がエヴラールの弟子だと知っていた。

 その事を知っているのはアメリーぐらいだ。

 なのに、アイツはそれを知っていた。

 アイツとアメリーに接点があるとも思えないし、何処から仕入れた情報なのだろうか。


「はぁ、まぁいいや」


 俺はため息をつきながら、アリアを閉じ込める檻に近付く。

 このアリアという娘からはエルネストの面影を感じる。

 アリアのは腰まで伸びているが、髪の毛は同じ金色。

 透き通るような碧色の瞳と白い肌も一緒だ。

 二人共、大人っぽい目つきをしている。


 親がイケメンであれば、娘も美人か。

 魅人はイケメンばかりだな。

 アランもティズも顔立ちが整っていた。


「えーっと、大丈夫ですか?」


 檻の中で丸くなるアリアに声をかけた。


「は、はい……」

「乱暴とかはされていませんか?」

「いいえ、大丈夫です」

「そうですか。今、出しますから」


 俺はそう言って、檻の入り口と鍵を探すが、どこにも見当たらない。

 仕方がないので、鉄柵に触れて火魔術を使用する。

 だが、鉄柵は溶けるどころか、熱くもならない。


「ま、魔術を無効化するようです。私の風魔術も使えませんでした」


 アリアが鉄柵に近寄って、風魔術を使ってみせた。


「なるほど。分かりました」


 鉄柵が魔術を無効化しているのか、それとも、魔力を吸収しているのか、鉄柵の効果によって対処法が変わる。

 一応、どちらも試してみよう。

 俺は魔力を一気に流し込み、オーバーロードを図るが、こちらは無意味。

 俺の残った魔力の半分以上が持って行かれた。

 続けて剣術を使うが、鉄に弾かれるだけで終わった。


「ふむ……」

「あの……檻を破壊する必要があるのでしょうか?」

「へ?」

「床に穴を空ければ、それで良いのでは……?」

「そこに気づくとは……天才ですか……」


 という事で、床に穴を空けて王女様を救い出すことに成功しました。


「参りましょう、アリア王女」

「……こ、腰が抜けて、歩けません」


 アリアはそう言って、俺から目を逸らす。

 腰が抜けたというか、座りっぱなしで力が入らないだけだと思うが。


「分かりました」


 俺は頷き、アリアの膝裏と背中を支えて抱き上げた。

 良い匂いが鼻を突く。素晴らしい。


「僕の首に捕まって下さい。落ちますよ」

「わ、わ、分かりました……」


 アリアは赤面しながら、俺の首に腕を回す。

 手で支えればいいのに。

 俺みたいな庶民に抱きつくのは、嫌じゃないんだろうか。

 いや、きっと大らかなお嬢さんなのだろう。


 俺は一人納得しながら、地下室を上がった。

 そのまま建物を出ると、外で暗殺部隊が待機していた。


「全員殺したんですか?」

「いや、拘禁施設に持っていく。聞くこともあるしな」


 俺の質問に、パートナーだった奴が答えた。


「そうですか。それでは、帰りましょう」


 俺がそう言うと、隊員が俺の前と後ろと左右につき、それ以外が夜の森へと消えた。

 王女の近くで護衛する者と、周りを警戒する者で別れたのだ。

 陣形を組んだ俺達は城へと向かって歩を進めた。

 しばらく歩いて、俺があくびをした時、アリアが口を開いた。


「あの……」

「はい」

「名前をお聞かせ下さい」

「そういえば名乗っていませんでした、申し訳ない。自分はシャルルです」

「シャルル様……ありがとうございました」

「……どういたしまして」


 報酬が目的だったとはいえ、良いことをしたのに変わりはない……よな?

 うん、大丈夫。俺は良いことをした。罪悪感はないぞ。


「顔をお見せ下さい」

「両手が塞がっているものでして」

「……では、私がお取りになられても?」

「どうぞ」


 アリアは迷いなく、俺のフードに右手を伸ばす。


「黒い髪、珍しいですね……」

「よく言われます」


 アリアは次に、俺の首巻きに手を伸ばす。

 首巻きが顎の下まで下ろされた。


「……」

「……」


 ノーコメントと来たか。

 どうやら顔は、お気に召さなかったようだ。

 おっと、勘違いしないで欲しい。

 シャルルは決して見た目が悪いわけではない。

 俺がどうかについては今は忘れるとして、シャルルは違うのだ。

 シャルルは格好いいぞ。これは本当だ。

 と、自慢げに話しても俺の顔ではないので、どうしようもない。


 お気に召さなかった様だが、アリアは気を使ってか、俺の首に両腕を回し直した。

 すみません、気を使わせてしまって。

 かたじけない。




 城へと戻った俺は、アリアをエルネストの元に届けた。

 二人の感動の再開を邪魔しないためにも、近くに居たメイドさんに、カレン達のいるゲストルームまで案内してもらった。

 カレンは既にベッドで眠っていて、ノエルが椅子に座ってカレンを見守っている。


「――お帰りなさいませ、ご主人様」


 部屋に入った俺に、ノエルがすぐに反応した。

 ああ、なんていい響きなんだろうか。


「ノエルもお疲れ様。カレンはどうだった?」


 ベッド兼用ソファに座りながら尋ねた。


「――私と、会話をしていました」

「ノエルと?」

「――はい」

「どんな?」

「――秘密にするようにと、カレン様に申し付けられました。シャルル様が命じるのであれば、記憶した通りの会話をお話いたしますが」

「いや、いいよ。秘密だってんなら、それでいい」

「――そうですか」

「俺はもう寝る。その間、もう少し頑張ってくれるか?」

「――ご主人様に与えられた魔力はまだ尽きておりませんので、問題はないです」

「そうか。なら、頼む。おやすみ」

「――お休みなさいませ」


 身体をソファに倒した俺は、すぐに眠りについた。



 ――――――



 翌朝、目を覚ました俺は、思わず苦笑する。

 ベッドで寝ていたはずのカレンが、俺の隣で寝ていた。

 二人用には作られていない、ただのベッド兼用ソファの端っこで、落ちないように俺に抱きつきながら静かに寝息を立てている。

 ノエルの方は、模範的な姿勢で椅子に座っている。

 目を閉じているから、魔力切れか。


「全く……」


 呟いて、カレンの頬を指の裏で撫でる。

 柔らかくて、滑らかで、ここちの良い肌だ。

 こんな娘が俺みたいな奴と一緒にいてもいいのかと思うが、俺はマリアと約束している。


「おかあ、さん……」


 寝言を言うカレンを、ベッドまで運んだ。

 その時、扉がノックされる。


「シャルル様、お目覚めでおられますか?」


 昨晩、部屋まで案内してくれたメイドの声だ。

 俺は剣を腰に下げてから、扉を開ける。


「お早う御座います、シャルル様。朝食の用意が出来ておりますので、食堂までお越しください」

「はい。すぐに向かいます」


 俺は一応客だから、部屋まで運んでくれるという事はない。

 まあ、食事は食堂でするものだよな。

 とりあえず、カレンを起こさなくてはいけない。


「カレン、朝だよ」

「んぅ……」


 カレンは声をかけながら軽くゆすれば、すぐに目覚めるから、起こすのに苦労しない。

 カレンが目をこすって体を伸ばす間、俺はノエルに魔力を送る。


「――おはようございます、ご主人様」

「おはよう、ノエル」


 俺は挨拶をして、洗面所へと向かった。すぐにカレンが俺の後を追う。

 桶に水魔術で水を入れ、顔を荒い、うがいをする。

 顔を拭った後は、ブラシでカレンの黒い髪を整えた。

 よし、これで準備万端だ。


「さあ、朝飯だ朝飯」

「ん……」

「――朝飯です、朝飯」

「何だ、ノエルは食べ物が気に入ったのか?」

「――はい。歯に伝わる抵抗感と、舌を刺激する感覚が素晴らしいです」

「そうかそうか。食べ物を愛するのは良い事だ」


 と、そんな雑談をしながら食堂へと向かった。




 食事を済ませた後は、ティズに案内されて、王の間に通された。

 エルネストが王座の前の階段の下に立っており、その隣にはアリアもいた。


「おはようございます」

「おはよう」

「お早う御座います」


 俺の挨拶に、エルネストとアリアが同時に返してくれた。


「シャルル君、早速だけれど、お礼を言いたい。本当にありがとう」

「有難うございました」


 礼を言ったエルネストとアリアが頭を下げた。


「頭を上げて下さい。自分は依頼を受ける、そして報酬を受け取る。それだけの事です」

「いいや、感謝してもしきれない……本当にありがとう」

「……どういたしまして」

「それで、報酬だったね。あの部屋へ行こう」


 切り替えの早い王様に続いて、俺達も部屋へと向かう。

 エルネストと俺が対面するようにソファに座ると、メイドがお茶を出した。

 俺は一口含んでから、話を切り出す。


「確か、報酬は金貨一万枚でしたよね?」

「うん、そうだったね。もっと払っても良いと思っているけれど」

「いえ、確かにお金は欲しいですが……最初の報酬と合わせて、付け足して欲しい報酬があります」

「何だい?」

「死刑囚がいましたよね。魔力暴走を引き起こした」

「ああ、うん……死刑囚サラの事だね? 白髪の小さい娘」

「はい。彼女を引き取りたいのですが、駄目でしょうか?」

「……」


 俺の持ちかけに、エルネストが黙りこむ。

 顎に手を当て、何かを考えだした。

 死刑囚を外部に渡らせるのは、確かに、王としてはマズい行為かもしれない。

 そりゃあ、考えもするはずだ。


「まあ、構わないよ。僕は」

「えっ」

「僕はね、元々彼女を囚えるつもりなんて無かったんだ。けれども、民衆はそうはいかない。彼女に被害にあった人もいるし、家族を殺された人もいる。表面上、彼女を囚えておかなければならなかったんだ。居場所を無くしてしまったし、街にいても彼女が辛かっただろう。それで、彼女の処遇を考えていたんだけれど……君がそう言ってくれるのなら、此方としては好都合だよ」


 まあ、たしかに、魔力暴走だから仕方ないでは済まされない問題だ。

 死人も怪我人も出ている中、彼女に非はないからといって何もしない事に不満を覚える輩も大勢出るだろう。

 再発したらどうすんだとか、人殺し呼ばわりされてハブられていただろう。

 だから、王の選択は間違ってはいなかった。

 他のやり方があったとは思うが……。


「心配しなくても、彼女にはちゃんと食事を与えていたよ。彼女が望むなら拘束だって解くつもりだった。けれども、彼女は一言も言葉を発さなかった。眠ろうともしなかったから、目隠しで無理矢理眠らせようと思ったんだけど、それでも眠らなかったらしい」

「そうですか……」

「君は、彼女も助けるつもりなのかい?」

「まあ、はい。生きたいと思うなら、僕が生かします。死にたいと願うなら――まあ、とにかく、ありがとうございます」

「いや、此方こそ有難う」


 俺とエルネストは立ち上がって、握手を交わす。

 カレンの方に目をやると、アリアと会話をしていた。

 アリアから話しかけてくれている様だが、カレンも悪い気はしていなさそうだ。

 二人が会話中なので、俺達もしばらく雑談を交わす事にした。


「報酬を受け取ったらすぐに帰るのかい?」

「はい。観光はまた別の機会に」

「なら、騎士団副団長に転移出来るように話を通さないとね」

「はい、お願いします」


 転移は便利だ。普通の移動には一ヶ月ぐらいかける。

 世界を旅するのは、俺達の地盤を固めてからでも問題はないだろう。

 カレンも、もう少し成長が必要だし。身体的に。


「それで、質問があるのですが良いですか?」

「どうぞ」

「魔力暴走をどうやって止めたかについて、お聞きしたい」

「うーん、残念だけど、力になれそうにない」

「な、何故ですか」

「魔力暴走を止めたのは、あの裏切り者なんだ」


 あの魔術師、魔力暴走を止める方法も知っているのか。

 転移魔術を使える事もそうだが、あいつはかなりレベルの高い魔術師らしい。


「そうですか……」

「ごめんよ」

「いえ、お気になさらず」

「……ところで、彼女は妹かい?」


 エルネストが、カレンを指さして尋ねた。


「義妹です」

「……燃えるね?」

「……はい」


 こうして、俺の魅人王女救出依頼は完遂とされる。

気付いた方も居られるかと思いますが、この囚われの姫は二人の事を表してます。


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