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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第六章『家族』
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  挿話 『自動人形』

 いつもと同じ様に、対面しながらヴィオラとジノヴィオスは話し合っていた。

 だが、形は同じでも、二人の表情は違っていた。ヴィオラの顔から挑発的な笑みは消え、ジノヴィオスには怒りすら見える。


「お前の送った魅人みじんは死んだ。どうするつもりだ?」


 ジノヴィオスが重い声でヴィオラに問う。

 ヴィオラは眉をぴくりと動かし、しばらく黙り込んだ。


「『教会』はあの魅人が監視役であると特定し、事故を装って殺しやがったんだ。これの意味が分かるか?」

「分かっておる。分かっておるさ……」


 二人は何も、焦っているわけではない。ただ、気の抜ける状態でもないというだけだ。

『魔神』を取り巻く環境は変化する。それも、じわりと、指の先から体の肉を刻んでいくように。


「それだけじゃない。奴らはシャルルの居場所さえも奪ったんだ。『教会』はそろそろ動き出す。だからよ、俺様はまたあいつと接触しようと思う」

「何か、策があるのか?」

「ああ。とうの昔に準備したモンだ」

「ほう?」

「今度は、頑丈で、ずっと側にいれる様な護衛だ。シャルルも見た目を好むだろうよ」

「つまり、胸が大きくて包容力があって上品で慈愛を持ち合わせているのだな?」

「ん? アイツが好きなのは子どもだろ?」

「何を言っておる。奴は胸が好きなんじゃ。いっつもいっつもマイヤとデレデレしておったからのう」


 二人の持つ、シャルルの守備範囲情報は異なっていた。だが、どちらも正しい。

 シャルルの守備範囲は限定的なものではない。『どれが』好きというわけなのではなく、『それも』好きという事なのだ。


「……見た目を幼女にしてしまったんだが」

「もっと情報を集めてから行動に出んかい! 何故、此方こなたに聞かなかったのじゃ!」

「いや、自分の目に自信があったもんでよ……」

「愚かじゃの……」


 二人はため息をつくと、腕を組んで考え込んだ。果たして、シャルルが幼女を好むのかどうか。

 ジノヴィオスは『勘』を頼って、シャルルの性癖を見抜いたつもりだったが、一緒に過ごした事のあるヴィオラがそうではないと言っている。

 ヴィオラが見てきたものは、マイヤに懐くシャルルだった。胸を触ったり、膝枕をしてもらったり、抱きついたり、一緒に食事をしたり。

 護衛対象であるシャルルに特別な感情を抱いたわけではないが、自分ではなくマイヤばかりを相手にしていた事に腹を立てた事は、ヴィオラの嫌な思い出だ。


「あのさ」

「なんじゃ?」

「別にアイツの好む容姿にする必要なんて、無いんじゃねえのか?」

「……たしかに、そうじゃの」

「……俺様達は何をやってたんだ……」


 元々、護衛役として送るだけなのだから、容姿をシャルルの好みにする必要性など、微塵もないのだ。

 好みであれば、シャルルの居心地も良いのだろうが、それは返って意識させてしまう。

 だから、別にこのままでもいいのでは、という結論に至った。

 ……結局、シャルルはノエルを気に入ってしまったわけなのだが。



 この一週間後、シャルルは魔王の使い魔との戦闘を終えた後、ノエルを召喚する札を貰う事になる。

 シャルルはまだ、知らない。ノエルの作られた理由も、魔王がシャルルにノエルを送った理由も。

 シャルルはまだ、知らない。アランの死んだ理由も、スラム街が焼き崩された理由も。

 ――シャルルが、この世界に降り立った理由も。

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