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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第六章『家族』
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自分の身を守るのは他か自か・後編

 俺とカレンとノエルが転移した先は、魔法陣の上。

 魔法陣を取り囲むのは、無地の壁だった。

 扉の近くには、誰かが立っている。数は二、遠目からでは性別を判断できない。

 俺達はゆっくりと、壁に背を預けてこちらを見ている人物に近づく。


 刹那、二人の内の一人が、俺に向かって跳躍した。

 バネの様に柔らかい跳躍ではなく、鋭さを帯びている。これは、攻撃の意だ。

 何となくそうだろうと思っていた俺は、すぐに身構える。跳躍してきた奴の顔が見えた。性別は男。

 相手の武器はレイピアだ。俺に向かって、綺麗に、真っ直ぐ伸びてくる。


 俺はすれすれで躱し、手首を蹴り上げる。

 レイピアは宙を舞い、寝技をかけようと腕を捉えようとするが、俺はすぐにバックステップをする。

 もう一人の方が、魔術を使ってきた。氷の槍が飛んできたのだ。

 二対一、俺一人でやるか、ノエルに指示を出すか。いや、ノエルにはカレンを守ってもらわなくてはならない。後者は無しだ。


 レイピアを拾い上げた男は、また、俺に攻撃をしかける。

 横に躱し、顎に裏拳をあてた後、腹に膝をいれる。


「ッ――ッ――!」


 呻き声をアッパーカットで遮った。

 次に、飛んできた氷の槍を土壁で防ぎ、すぐに崩して、空いている左手からハイドロポンプを魔術師に向かって放つ。

 立ち上がろうとしたレイピア男を胸に足を置いて静止し、魔術師を『水槽』に閉じ込めた。

 だが、魔術師は水に溶け、レイピア男は砂となって消えた。


「ノエル! カレンと自分の身を絶対に守れ! 最重要命令だ!」

「――了解致しました」


 ノエルに指示を出し、すぐに部屋全体に魔力を張る。姿は見えないが、反応があった。

 一人は俺と数歩近い場所に、一人は俺よりも10メートルは離れた位置にいる。

 おそらく、近くにいるのがレイピア男だ。透明になれるとか、反則だろ。


 俺は、腿のナイフを魔術師だと思われる方に投げ、剣を一本抜いてレイピア男のいるであろう位置に横薙ぎを繰り出す。

 もちろん、どちらも当たらなかった。ギリギリで避けられるようにしたからな。


 俺は二人を水槽に閉じ込め、二人の体内に俺の魔力を送る。

 また、二人共水になって消えた。変わり身の術か何かだろうか。

 消えた二人の反応を示した場所は、部屋の隅だった。

 突然の移動……転移か。部屋のどこかに転移魔法陣が刻んであり、何らかの方法で二人は転移を使っているのか。

 だが、不可視化は何が原因だ? ただの魔術か?

 アルフはそんな魔術は教えてはくれなかったが、魅人の秘伝魔術とかならありえるかもしれない。

 アランも秘伝魔術があるなどと教えてはくれなかったが。


 不可視化はひとまず放っておこう。魔力の網に引っかかるから、何処に居るかは反応できる。

 だが、転移は厄介だ。魔法陣を潰しておくか。

 考えをまとめた俺は、すぐに床に注意を注ぎながら走り、それっぽい物がないかを探す。

 途中、飛んでくる攻撃を躱し、防いで、見つけた魔法陣の数は八つだ。

 部屋の四隅と、四つの壁際に一つずつだ。


「ノエル、部屋の隅と壁際の中心を足で潰してくれ。少し手加減をしろよ?」

「――了解致しました」


 俺が命令すると、ノエルはすぐに動いた。ノエルは俺の言った場所に凹みを作り、カレンの側へと戻った。

 これで転移は無い。閉じ込めることは可能になるだろう。

 俺は水槽に魔術師とレイピア男を閉じ込める。思った通り、二人が消える事はなくなった。


 俺はアルフに教わった魔力を吸収する技を使い、二人から魔力を奪っていく。

 一定値奪ったところで、二人の姿が見えるようになった。

 やはり、不可視化は魔術だったらしい。俺も透明人間になれたら、あんな事やこんな事がたくさん……。

 っと、そろそろ二人が死んでしまう。事情聴取もしなくてはいけないので、俺はすぐに水槽から二人を解放してやった。


「ゲホッ、ゲホッ!」

「ハァッ、ハァッ、ハァッ!」


 苦しそうだが、手首と足首に土の手錠をはめ、拘束する。

 しばらくして、二人の息が整う。


「いきなり攻撃してすまない。我々は依頼をした者だ」


 レイピア男が謝罪を口にした。


「何故、依頼者が俺達を攻撃したんですか?」

「それは――」

「次にお前はこう言う! 『力を試させてもらった』と!」

「――力を試させてもらった」


 先に言われても自分の言葉を最後まで言う辺り、レイピアっぽい。今のは……全然上手くないな。恥ずかしい。

 とりあえず、依頼主であるというのであれば、拘束しているわけにもいかない。

 俺はすぐに手錠を外してあげた。


「いきなりの無礼、すまなかった」

「いえ、良いんですよ」

「では、案内しよう」


 魔術師の顔は、未だローブで見えないが、口元が少し綻んでいる。

 謝罪も無しな上に、ニヤけるとは、なんたる無礼者か!

 まぁ、俺は気にしないから良いのだが。


 ともかく、俺達三人は、レイピア男と魔術師の後に続き、無地の壁の部屋を出た。

 俺達が出た先は、神殿の様な場所だった。老廃した神殿ではなく、真新しく、白い神殿の様な場所だ。


「こ、ここは?」

「ただの廊下だ」

「廊下!? ここが!?」

「ああ。俺も最初は神殿か何かだと思った」


 いや、だって、廊下だとは思わないぞ、普通。

 白い柱がずらりと並んでいて、床はピカピカの大理石。

 広さは、数百人が前ならえをしても入るくらいだ。


「王宮ですか? ここ」

「そうだ。中に入ればもっと驚くぞ」


 レイピア男が歩き出し、俺達もすぐに後を追う。長い廊下の先には、大きな扉がある。

 それを魔術師とレイピア男が二人がかりで開け、俺達を中へと招いた。


「ようこそ、魅人の王宮へ」


 レイピア男が両手を広げながら言った。


「……」

「……」


 俺も、カレンも、言葉を失った。

 カレンが王宮に来て、言葉を失うのは分かる。

 だが、俺はアルフの城に行ったことがある。国王の城にだ。

 そんな俺でも言葉を失うほどに、広く、高い場所だった。


 光る床、赤いカーペットの道、魅人の像に、横幅のありすぎる階段、そして多くの大きな扉。

 アルフの城なんかとは比べ物にならない位、大きかった。

 ここだけで暮らせそうな気もするのに、更に上階が存在するのだから、たまげたものだ。


「カ、カレン、これは、驚いたね」

「……はい。童話の、城みたい、です……」


 ああ、そうだ、某ガラスの靴の童話の城もこんな雰囲気だったろうか。

 だが、あれよりも品性がある気がする。実際に目にしているからそう感じているだけかもしれないが。


「レイピアさん、すごいですね、ここ」

「レイピアさんじゃねえ、ティズだ」

「ティズさんですか。そういえば、挨拶がまだでした。僕はシャルルです。よろしくお願いします」

「また失礼な事をしたな。改めて、俺はティズ。よろしく」


 俺の差し出した手を、ティズが握る。

 ティズには失礼だが、未だにエヴラールに勝る握手の心地よさを持つ男を知らない。


「好きなだけ見ていけ……と、言いたい所だが、時間が無いんだ。構わないか?」

「はい、大丈夫ですよ。さっさと話を済ませましょう」

「助かる」


 俺達三人は、階段を登り、二階、三階、四階、五階、六階とを過ぎ、七階で足を止めた。

 俺とノエルは平気だが、カレンの息はきれている。

 だが、急いでいるらしいからな。ここで一休みというわけにはいかんだろう。

 ということで、俺はカレンを背負うことにした。

 ちっとも成長していない胸が背中に当たり、心地が良い。


「シャル……今、失礼な事、思った……?」

「えぇ? いいえ。失礼なことだなんてそんな」

「……あやし」


 すると、俺の首に巻かれたカレンの腕に、少しだけ力が入る。


「……白状」

「う……すみません、胸が小さいなって思いましたごめんなさい」

「……成長は、これから…………多分」

「大丈夫だよ。俺は小さいのも大きいのも普通のも大好きだから」

「ほんと……?」

「ああ、本当だ」

「なら、いい……」


 何がいいのかは知りませんが、許してくれたようです。

 そんなこんなで、俺達は王の間へと辿り着く。

 他のよりも大きい扉が開かれ、カーペットの先にある王座についた人物と、俺の目があう。

 俺達はティズに促され、王に近づいてゆく。

 不可解な事に、兵士やら護衛やらが数人程度しかいない。

 警戒が薄すぎるのではなかろうか。それとも、自分たちの戦力にそれだけの自信を持っているという事か。

 まあ、どっちでも良い。俺には関係のないことだ。


 王の前まで来たティズと魔術師は、片膝をついた。

 真似しようと思ったが、立場を考える。相手はたしかに王だが、その前に依頼主だ。

 立場的には俺のほうが上。客が神様だなんて考えは俺には無い。

 こちらが断ろうと思えばいつだって仕事を放棄できるのだから。


「僕はエルネスト。魅人の国、エスキューデの王だ。君は?」


 俺が片膝をつかなかった事を指摘することもなく、王座に座る人物が名乗った。

 エルネストは、サラサラとしてそうな金髪の、爽やか過ぎる、見ているだけで涼しくなる感じのイケメンだ。

 敗北感を胸に、俺も名乗る。


「一級冒険者のシャルルです」

「ここにいるという事は、二人を倒したという事なんだね?」

「はい、そうなりますかね」

「そうか……なら、任せられそうだ」


 そう言って、エルネストは王座からおりはじめた。

 ティズに耳打ちをして、ティズが短く頷く。


「付いて来てくれ」


 エルネストが俺達に手招きをした。

 言われた通り王についていき、俺達が通された場所は、王の間の右側にあった廊下を抜けた先にある部屋だ。

 ソファに座らされ、メイドの一人がお茶の入ったティーカップを三人分、ガラスのテーブルの上に置いた。

 ノエルが先に口をつける。


「――危険物は混入されていません」


 ノエルが俺に耳打ちをしてくれた。

『出された物をホイホイ飲むな、食べるな』とはエヴラールの台詞だ。

 エヴラールも冒険者になりたての頃、拉致されそうになったらしい。

 全員ポキリと殺して解決したそうだが。


「では、仕事の話をしよう」


 早速、エルネストが切り出す。


「僕からの依頼は、誘拐された娘の奪還だよ。そして、誘拐した奴等の首を飛ばして欲しい」

「娘?」

「ああ、僕、若く見えるだろう? これでも七十歳なんだよ。魅人は年をとっても老けないからね」


 ああ、そういえば、百二十年とか百三十年とか生きるんだったか。


「なるほど。それで、誘拐というのは? 王の娘を誘拐なんて、普通では出来ませんよ」

「確かに、王女が誘拐されるなんてバカバカしい話だ。だから、この依頼は秘密裏にしている。国の者達は一切知らない。国の混乱を招く。だから、護衛部隊も動かせない」


 まあ、王女が誘拐されたなんて話が公に出れば、国民が混乱するだろう。

 だが、国の混乱は建前で、実際は、王女が誘拐された事を知って、誘拐された王女を奪取しようとする輩が現れるのを阻止するためだろうな。


「それを僕達に依頼するという事は、誘拐犯も特定できていない、という事ですね?」

「恥ずかしながら……」

「誘拐犯の特定、奪取を二日以内にやれと?」

「そうなるね。出来れば、今日中に」

「そもそも、王女には護衛すらいなかったのですか?」

「いたさ。一日中見張られていたんだ。陰からね。朝と昼は十数人の男が、夜から朝にかけては十数人の女が見張る」

「そんな中でどうやって攫われたんですか?」

「分からない。見張りは全員が口を揃えて『突然消えた』としか言わなかったんだ」

「見張りも共犯だという事は?」

「ありえない。全員の動きが僕に分かるようになっている」


 うぅん、不可能じゃあないだろうか。突然消えた娘。手がかりは無いに等しい。

 それなのに、誘拐犯を特定だって? ムリだろう。


「無茶な依頼だというのは分かっている。だが、必ず見つけて欲しい。僕の大事な娘なんだ……」

「国よりも大事な娘ですか?」

「……」

「答えは」

「……ああ、そうだよ……国よりも大事だ」

「分かりました、引き受けましょう。ただし、この事態ですから、報酬は増やしてもらいますよ?」

「ああ、構わない。何だって払う。娘さえ帰ってくれば、なんだって……!」


 よし、決定だな。仕事は引き受けた。完遂しないわけにはいかないな。


「とりあえず、城内と王女の部屋の調査が自由にできる許可が欲しいです」

「分かった。国にいる間の食料も、寝床も提供する」


 え、そこまでしてくれるのか。

 提供された物は好都合でしかないから、ありがたいのだが。


「ありがとうございます。必ず、王女をお見つけ致しましょう」

「感謝致します」


 俺達は立ち上がり、退室しようとするが、エルネストに呼び止められ、足を止める。


「これを」


 手渡されたのは、複雑な紋章の入ったメダルだ。


「これは?」

「これを見せれば、何処にでも通してもらえる」

「なるほど」


 こうして、俺達は誘拐された王女を探す事になった。

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