表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第六章『家族』
47/72

少年と魔人が戯れるとき・後編

 六人の魔人との戦闘が開始し、俺はすぐに後退する。

 アルスグラは土の砲弾を数十個作り出し、俺に飛ばしてきた。

 俺は最小限の動きで避け、相手の次の動きに集中する。


 アルスグラはまた、砲弾を飛ばしてきた。

 そして、砲弾に続いて、フラーメズの火の矢が飛んでくる。

 全ての攻撃を避けて、相手の出方を伺う。


 次は、リータエルの、水の槍での攻撃だ。

 水の槍に続いて、砲弾、矢、氷の槍と、次々に飛んでくる。

 エリエフとアルクラドは俺達の動きを目で追っているだけだ。


 うぅむ、どうしよう。剣を使って戦うか、最初は魔術で様子を見るか。

 魔王の使い魔ってことだから、それなりには強いんだろう。

 なら、安全性の高い魔術で戦うべきか。

 俺は、『氷槍』『炎矢』『弾丸』を同時に使用した。


 使い魔達はそれぞれ独自の防御を作り、俺の攻撃を防いだ。

 音速で飛んだ鉄を防ぐとはな。防御は硬いようだ。

 仕方がない。突っ込むか。


「ちょっ、シャルル君!? 素手で良いの!?」


 アルクラドが敵である俺に心配したような表情を向けてきた。

 まあ、そんなのどうでもいい。

 素手の方が動きやすいのだ。

 避けれる、殺せる。一石二鳥。


 そんな突っ込む俺の右斜前方から火矢、左斜から氷槍、正面からは土の砲弾が飛んできた。

 ガレリーゼは何時の間にか俺の後ろに回りこんでいて、飛行した状態で両手を俺に伸ばしている。

 俺は前方に『土壁』を展開し、それを使って後転して、ガレリーゼの背中に乗る。


「え~?」


 腑抜けた声を抜かすガレリーゼの頭を掴み、『刈り取り』を使う。

『刈り取り』は盗賊を殺す時に閃いて使用した『針山地獄』の縮小版を頭に使うものだ。

 脳をめった刺しにされたガレリーゼは、黒い炎となって消えた。


 俺は地面に落ちるが、勢いを落とすこと無く、前に進む。

 土壁を崩し、フラーメズとアルスグラに水を浴びせた。

 フラーメズは水をすぐに蒸発させたが、アルスグラは怯んでいる。

 だが、アルスグラは怯みながらも、攻撃を回避しようと上昇した。

 俺はリータエルに土の弾丸を飛ばすが、水の壁に防御される。


 俺は踏み台を作り、アルスグラの足首をつかむ。

 そして、『氷結』を使用し、アルスグラを氷らせ、分解する。

 残りは水のリータエルと、火のフラーメズ、それと癒と闇の魔人だけだ。


 フラーメズは空中から火炎放射機のように、俺に火を浴びせてくるが、土の壁でガードする。

 止む気配がないので、地面に魔力を巡らせ、長く太い土の針を生やした。

 針の一本がフラーメズの左腕を捉えたが、リータエルは無傷だ。


 フラーメズが左腕を押さえている今がチャンスだと、そう思ってフラーメズに向かって飛ぼうとした時、フラーメズの左腕が生えてきた。

 まさかと思い、エリエフの方を見ると、エリエフはフラーメズに向かって手を伸ばしていた。

 即死させないと、エリエフが回復させてしまうのか。


 そんな俺の一瞬のよそ見を突いて、リータエルが氷槍を俺に向かって飛ばしてきた。

 俺は胸に飛んできた氷槍を避けるように体をそらすが、右肩に刺さってしまった。


「ぐッ……!」


 未だに痛みには慣れない。

 俺は肩に刺さった氷槍を溶かし、『治癒』を使う。

 傷口はふさがり、痛みが引いたが、次に俺を襲うのは、数多くの炎矢だ。

 俺はすぐに土壁を展開し、自分を守る。


 炎矢の雨が止むと、俺は二百発の弾丸を形成し、それぞれのタイミングを少しずつずらして発射した。

 だが、どれも防御されてしまった。

 しかし、これで良い。


 俺は石をリータエルに向かって、投げた。

 勢いのないそれは、リータエルの水の壁の中に留まった。

 次の瞬間、石が爆発し、水の壁は飛沫をあげる。

 リータエルは思わず顔を隠したが、それが命取りになった。

 俺は獣人族の種族固有魔術『瞬速』の劣化コピーを使用し、一瞬でリータエルの元に移動する。

 そして、リータエルの肩に触れ、『氷結』を使って、リータエルを撃破。


 残りは三人。

 未だにアルクラドは参加していない。

 舐めプなのか、何なのか。

 まあ良い、あと一人に的を絞れるなら、好都合だ。


 俺はフラーメズを左右から水で攻撃し、左右を防いでいるところで、上下にも水の攻撃をする。

 フラーメズは水に飲み込まれ、俺は『水槽』を使った。

『水槽』は水の中に閉じ込めるだけのシンプルな技だが、氷らせて保存もできる。

 まあ、フラーメズならすぐに溶かしてしまうだろうが。

 蒸発させられる前に、俺はフラーメズの頭上に巨大な岩を形成した。

 フラーメズは頭上にあるそれを見て、苦笑する。

 俺はそんな苦笑にお構いなく、岩を落とした。


 よし、あとは……


「お二人だけですね」


 エリエフもアルクラドも、冷や汗を垂らして、顔をひきつらせている。


「すごいわね、シャルル君……」


 言いながら、アルクラドがゆっくりと俺に近づいてくる。

 俺は身構えて、腰の剣を握る。

 俺の数歩前でアルクラドは止まり、俺の目を真っ直ぐと見てくる。

 そのまま動かず、ただ俺の目をみているだけだ。

 行かないならこっちから――


「へっ?」


 俺が剣を抜こうとした時、突然、全身から力が抜け、俺は地面に倒れた。

 何だ? 何が起こった?

 力が徐々に抜けていく。これは……眠気だ。

 尋常じゃないほどの眠気に襲われている。

 そうか、闇魔術。たしか、人を眠らせたりするんだったか。

 目と目があっただけで効果があったとは。


「目と……目が……あう……瞬間……」

「シャルル君、残念ね。私に勝ったらなんでも言う事聞いちゃおうと思ってたのに」

「なん……だと……!?」


 なんでも言う事を聞く? 俺が勝てば?

 なんでも。なんでも。なんでも言う事を、聞いてくれる。

 俺の原動力は安かった。その一言で、俺の目は冴え、立ち上がる力をくれた。

 今の台詞は墓穴を掘るに等しい言動だったぞ、アルクラド。


「あら、よく立ち上がれるわね」

「なんでも、言う事聞くって、言いましたよね?」

「ええ、言ったわ」

「俺の、使い魔に、なるって命令も、聞いてくれるんですよね?」


 そう言うとアルクラドが魔王に振り向き、どうするか尋ねた。

 魔王は「それ以外なら何でも聞いてやれ」と言って、ケラケラと笑う。

 何が面白かったんだよ。


「そういう事らしいから、使い魔になる以外の言うことなら聞いてあげる。性的なのも聞いてあげちゃうわ」


 子どもに言う言葉ではないな。

 って、ああ、そうか、アルクラド達は俺の中身が大人だって知ってるのか。

 しかし、性的なものも聞いてくれるのか。

 どうしようかな~。


「……随分嬉しそうね……?」

「男ですから」

「ふふっ、なら、早く倒してみなさい」


 そう言って、アルクラドが挑発するように、唇に指を乗せた。

 ううん、倒したい気持ちは山々だが、目を合わせないで倒す方法を見つけなくてはいけない。

 目をつむって戦うのは、不可能だ。俺に第三の目なんてない。

 面倒だし、左右上下から潰してしまおうか。

 ズルいと思ってあえて使わなかったが、こうなってしまっては、仕方がない。


 考えをまとめた俺は、床に手を付け、魔力を部屋中に行き渡らせる。

 反応されて逃げられないように、壁からアルクラドへ到達するまでのスピードは音速。

 強度は念の為、鉄レベルに調整。

 後は目を合わせないようにアルクラドの位置を特定するだけだ。


「ふふっ、シャルル君」


 ふと、俺の耳元で囁く女の声が聞こえる。

 背中には柔らかい感触、首には柔い腕が絡みついている。


「うッ……!?」


 今の『うッ』は『ふぅ』に繋がるものではなく、異常なまでに押し寄せる睡魔によるものだ。

 冗談じゃない。触れただけでも眠気を誘うっていうのか。

 落ちそうになる意識を、『なんでもしてあげる』の為に繋ぎ止め、自分の太ももにナイフを刺した。

 痛みのおかげで、意識がはっきりとしてくる。


「うそ!? 今ので落ちなかったの!?」


 驚きの声をあげるアルクラド。

 そんな彼女の腕を掴み、魔力を送った。

 逃げようとするので、力を込めて引っ張り寄せ、肩を抱き寄せる。

 ついでに足も絡ませて、完全密着状態。

 俺の意識は朦朧とし始め、まるで三日間睡眠なしで働いた後の様だ。


「ちょっ、嘘でしょっ!?」

「嘘じゃないよ」

「んあぁっ! 耳元で喋らないで!」


 ……よし、魔力を全身に送り込んだ。


「氷結」


 俺が唱えると、アルクラドの体は一瞬で氷り、粉々になった。

 俺の完全勝利。特に流れが変わることもなかった。

 俺はすぐに治癒魔術で太ももを治し、立ち上がる。


「あとはエリエフさんだけですね」

「いえ、私は戦闘のために存在しているわけでは御座いません」

「じゃあ、僕の勝ちですか?」

「そうなりますね」

「魔王様は?」


 俺がそう言うと、魔王が俺に向かって指を向けた。

 次の瞬間、俺の腹を何かが通る。

 自分の腹を見ると、穴がぽかりと開いていた。デジャヴュ。

 すぐさま『治癒』で治し、穴をふさぐ。

 今ので分かった事は、『今の俺では魔王には勝てない』という事だ。

 何をされたのかすら分からなかった。

 さすがと言うべきか。


「くぅ~疲れました! それで、女の子は?」

「これだ」


 魔王がエリエフに何かを手渡し、エリエフがそれを持ってくる。

 俺が渡されたのは、一枚の札だ。

 俺の知っている言語では書かれていないが、文字がズラリと並んでいる。

 札の中央には魔法陣が描いてある。


「何ですか、これ」

「家に帰ったら、裏に書いてあるのを詠唱しろ」

「裏?」


 札の裏を確認すると、イルマ語で呪文が書かれてあった。

 俺が貰うはずは女の子であって、札ではなかったはず。

 何かは分からないが、宿に戻ったら使ってみよう。


「もう女の子はいいです。アルクラドさんの復活はまだですか」

「焦るなガキ。お前、どうせ前世では童貞だったんだろう」

「お察しの通りでございます……」


 女の子と会話する暇すらなかったよ、俺には。

 だから童貞だったのだ。仕方がないことなのだ。


「もうアルクラドさんも今度でいいんで帰ってもいいですか? もう夕方ですし」

「ああ、良いぞ」


 カレンの姿を探して、辺りを見回すが、どこにもいない。

 おかしいな。

 後ろを向こうとした時、背中から何かに抱きつかれる。


「おお、カレンか。まったく、お茶目なやつだな」


 振り向いて、頭を撫でてやる。

 しかし、表情はどこかしら寂しそうだ。


「どうした?」

「怪我……、だいじょぶ、ですか?」

「怪我? ああ、肩の……。大丈夫だよ、魔術で治したから」

「ん……」


 カレンは短く返事をして、俺の胸に顔をうずめた。

 そうか、そうだよな。

 家族を失ったばかりだっていうのに、同じ家族である俺が怪我したら、心配もするよな。


「ごめんな」

「ん……へいき、です」


 カレンはそんな事を言いつつも、体を少し震わせている。

 引き続き頭を撫でて、しばらくすると、俺達二人は元いたギルドの依頼掲示板前に転移していた。


「疲れたか?」

「はい……」

「じゃあ、今日はもう飯食って帰ろう」

「……シャル……おんぶ」

「仰せのままに」


 俺は体勢を低くし、カレンを背中におぶる。

 宿に着いた頃にはカレンは既に眠っていたので、ベッドにカレンを寝かせた。

 俺はベッドの端に腰をおろし、ため息を一つ。


「札の奴はカレンが起きてからでいいか……」


 俺は机にあるコップに魔術で水を注ぎ、口に含んだ。

 魔力総量もかなり増えた。体力も、技術も身についてきた。

 あとは経験が必要だ。もっと多くの経験が。


 今後の予定としては、組織の地盤を固め、依頼をこなす。

 メンバー集めにはあまり力を入れたくない。

 入りたいと思ったやつをいれればいい。

 とりあえず、俺は剣の手入れをする事にした。




 夜になり、カレンが目を覚ます。時刻は八時。

 遅めだが、これから飯を食べに行こう。


「カレン、顔を洗っておいで」

「ん……」


 カレンは目を擦りながら、洗面所へと向かった。

 とてとてと歩く姿は、見ていて危なっかしい。


「シャル……タオル……」


 洗面所から声が聞こえた。

 洗面所に置いていたタオルは干していたんだった。

 ちなみに、『タオル』の様に、二人でいる時は英単語も使ってくる。

 俺としては、長い間聞けなかった言葉を聞けて嬉しく思う。

 そんな事を考えつつ、洗面所にいるカレンにタオルを手渡す。


「ありがと、ございます……」

「いやいや、こちらこそ悪かったね、忘れてた」


 カレンは顔を拭い終わると、洗面所にタオルを畳んで置いた。


「じゃあ、行こうか」

「はい……」

「何食べたい?」

「……らーめん」

「……それは、ちょっと難しいかなぁ」


 晩飯に何を食べるかを話しながら、二人で飯屋へと向かった。

御意見、御感想、駄目出し、評価、何でも何時でも歓迎しております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ