少年と魔人が戯れるとき・後編
六人の魔人との戦闘が開始し、俺はすぐに後退する。
アルスグラは土の砲弾を数十個作り出し、俺に飛ばしてきた。
俺は最小限の動きで避け、相手の次の動きに集中する。
アルスグラはまた、砲弾を飛ばしてきた。
そして、砲弾に続いて、フラーメズの火の矢が飛んでくる。
全ての攻撃を避けて、相手の出方を伺う。
次は、リータエルの、水の槍での攻撃だ。
水の槍に続いて、砲弾、矢、氷の槍と、次々に飛んでくる。
エリエフとアルクラドは俺達の動きを目で追っているだけだ。
うぅむ、どうしよう。剣を使って戦うか、最初は魔術で様子を見るか。
魔王の使い魔ってことだから、それなりには強いんだろう。
なら、安全性の高い魔術で戦うべきか。
俺は、『氷槍』『炎矢』『弾丸』を同時に使用した。
使い魔達はそれぞれ独自の防御を作り、俺の攻撃を防いだ。
音速で飛んだ鉄を防ぐとはな。防御は硬いようだ。
仕方がない。突っ込むか。
「ちょっ、シャルル君!? 素手で良いの!?」
アルクラドが敵である俺に心配したような表情を向けてきた。
まあ、そんなのどうでもいい。
素手の方が動きやすいのだ。
避けれる、殺せる。一石二鳥。
そんな突っ込む俺の右斜前方から火矢、左斜から氷槍、正面からは土の砲弾が飛んできた。
ガレリーゼは何時の間にか俺の後ろに回りこんでいて、飛行した状態で両手を俺に伸ばしている。
俺は前方に『土壁』を展開し、それを使って後転して、ガレリーゼの背中に乗る。
「え~?」
腑抜けた声を抜かすガレリーゼの頭を掴み、『刈り取り』を使う。
『刈り取り』は盗賊を殺す時に閃いて使用した『針山地獄』の縮小版を頭に使うものだ。
脳をめった刺しにされたガレリーゼは、黒い炎となって消えた。
俺は地面に落ちるが、勢いを落とすこと無く、前に進む。
土壁を崩し、フラーメズとアルスグラに水を浴びせた。
フラーメズは水をすぐに蒸発させたが、アルスグラは怯んでいる。
だが、アルスグラは怯みながらも、攻撃を回避しようと上昇した。
俺はリータエルに土の弾丸を飛ばすが、水の壁に防御される。
俺は踏み台を作り、アルスグラの足首をつかむ。
そして、『氷結』を使用し、アルスグラを氷らせ、分解する。
残りは水のリータエルと、火のフラーメズ、それと癒と闇の魔人だけだ。
フラーメズは空中から火炎放射機のように、俺に火を浴びせてくるが、土の壁でガードする。
止む気配がないので、地面に魔力を巡らせ、長く太い土の針を生やした。
針の一本がフラーメズの左腕を捉えたが、リータエルは無傷だ。
フラーメズが左腕を押さえている今がチャンスだと、そう思ってフラーメズに向かって飛ぼうとした時、フラーメズの左腕が生えてきた。
まさかと思い、エリエフの方を見ると、エリエフはフラーメズに向かって手を伸ばしていた。
即死させないと、エリエフが回復させてしまうのか。
そんな俺の一瞬のよそ見を突いて、リータエルが氷槍を俺に向かって飛ばしてきた。
俺は胸に飛んできた氷槍を避けるように体をそらすが、右肩に刺さってしまった。
「ぐッ……!」
未だに痛みには慣れない。
俺は肩に刺さった氷槍を溶かし、『治癒』を使う。
傷口はふさがり、痛みが引いたが、次に俺を襲うのは、数多くの炎矢だ。
俺はすぐに土壁を展開し、自分を守る。
炎矢の雨が止むと、俺は二百発の弾丸を形成し、それぞれのタイミングを少しずつずらして発射した。
だが、どれも防御されてしまった。
しかし、これで良い。
俺は石をリータエルに向かって、投げた。
勢いのないそれは、リータエルの水の壁の中に留まった。
次の瞬間、石が爆発し、水の壁は飛沫をあげる。
リータエルは思わず顔を隠したが、それが命取りになった。
俺は獣人族の種族固有魔術『瞬速』の劣化コピーを使用し、一瞬でリータエルの元に移動する。
そして、リータエルの肩に触れ、『氷結』を使って、リータエルを撃破。
残りは三人。
未だにアルクラドは参加していない。
舐めプなのか、何なのか。
まあ良い、あと一人に的を絞れるなら、好都合だ。
俺はフラーメズを左右から水で攻撃し、左右を防いでいるところで、上下にも水の攻撃をする。
フラーメズは水に飲み込まれ、俺は『水槽』を使った。
『水槽』は水の中に閉じ込めるだけのシンプルな技だが、氷らせて保存もできる。
まあ、フラーメズならすぐに溶かしてしまうだろうが。
蒸発させられる前に、俺はフラーメズの頭上に巨大な岩を形成した。
フラーメズは頭上にあるそれを見て、苦笑する。
俺はそんな苦笑にお構いなく、岩を落とした。
よし、あとは……
「お二人だけですね」
エリエフもアルクラドも、冷や汗を垂らして、顔をひきつらせている。
「すごいわね、シャルル君……」
言いながら、アルクラドがゆっくりと俺に近づいてくる。
俺は身構えて、腰の剣を握る。
俺の数歩前でアルクラドは止まり、俺の目を真っ直ぐと見てくる。
そのまま動かず、ただ俺の目をみているだけだ。
行かないならこっちから――
「へっ?」
俺が剣を抜こうとした時、突然、全身から力が抜け、俺は地面に倒れた。
何だ? 何が起こった?
力が徐々に抜けていく。これは……眠気だ。
尋常じゃないほどの眠気に襲われている。
そうか、闇魔術。たしか、人を眠らせたりするんだったか。
目と目があっただけで効果があったとは。
「目と……目が……あう……瞬間……」
「シャルル君、残念ね。私に勝ったらなんでも言う事聞いちゃおうと思ってたのに」
「なん……だと……!?」
なんでも言う事を聞く? 俺が勝てば?
なんでも。なんでも。なんでも言う事を、聞いてくれる。
俺の原動力は安かった。その一言で、俺の目は冴え、立ち上がる力をくれた。
今の台詞は墓穴を掘るに等しい言動だったぞ、アルクラド。
「あら、よく立ち上がれるわね」
「なんでも、言う事聞くって、言いましたよね?」
「ええ、言ったわ」
「俺の、使い魔に、なるって命令も、聞いてくれるんですよね?」
そう言うとアルクラドが魔王に振り向き、どうするか尋ねた。
魔王は「それ以外なら何でも聞いてやれ」と言って、ケラケラと笑う。
何が面白かったんだよ。
「そういう事らしいから、使い魔になる以外の言うことなら聞いてあげる。性的なのも聞いてあげちゃうわ」
子どもに言う言葉ではないな。
って、ああ、そうか、アルクラド達は俺の中身が大人だって知ってるのか。
しかし、性的なものも聞いてくれるのか。
どうしようかな~。
「……随分嬉しそうね……?」
「男ですから」
「ふふっ、なら、早く倒してみなさい」
そう言って、アルクラドが挑発するように、唇に指を乗せた。
ううん、倒したい気持ちは山々だが、目を合わせないで倒す方法を見つけなくてはいけない。
目をつむって戦うのは、不可能だ。俺に第三の目なんてない。
面倒だし、左右上下から潰してしまおうか。
ズルいと思ってあえて使わなかったが、こうなってしまっては、仕方がない。
考えをまとめた俺は、床に手を付け、魔力を部屋中に行き渡らせる。
反応されて逃げられないように、壁からアルクラドへ到達するまでのスピードは音速。
強度は念の為、鉄レベルに調整。
後は目を合わせないようにアルクラドの位置を特定するだけだ。
「ふふっ、シャルル君」
ふと、俺の耳元で囁く女の声が聞こえる。
背中には柔らかい感触、首には柔い腕が絡みついている。
「うッ……!?」
今の『うッ』は『ふぅ』に繋がるものではなく、異常なまでに押し寄せる睡魔によるものだ。
冗談じゃない。触れただけでも眠気を誘うっていうのか。
落ちそうになる意識を、『なんでもしてあげる』の為に繋ぎ止め、自分の太ももにナイフを刺した。
痛みのおかげで、意識がはっきりとしてくる。
「うそ!? 今ので落ちなかったの!?」
驚きの声をあげるアルクラド。
そんな彼女の腕を掴み、魔力を送った。
逃げようとするので、力を込めて引っ張り寄せ、肩を抱き寄せる。
ついでに足も絡ませて、完全密着状態。
俺の意識は朦朧とし始め、まるで三日間睡眠なしで働いた後の様だ。
「ちょっ、嘘でしょっ!?」
「嘘じゃないよ」
「んあぁっ! 耳元で喋らないで!」
……よし、魔力を全身に送り込んだ。
「氷結」
俺が唱えると、アルクラドの体は一瞬で氷り、粉々になった。
俺の完全勝利。特に流れが変わることもなかった。
俺はすぐに治癒魔術で太ももを治し、立ち上がる。
「あとはエリエフさんだけですね」
「いえ、私は戦闘のために存在しているわけでは御座いません」
「じゃあ、僕の勝ちですか?」
「そうなりますね」
「魔王様は?」
俺がそう言うと、魔王が俺に向かって指を向けた。
次の瞬間、俺の腹を何かが通る。
自分の腹を見ると、穴がぽかりと開いていた。デジャヴュ。
すぐさま『治癒』で治し、穴をふさぐ。
今ので分かった事は、『今の俺では魔王には勝てない』という事だ。
何をされたのかすら分からなかった。
さすがと言うべきか。
「くぅ~疲れました! それで、女の子は?」
「これだ」
魔王がエリエフに何かを手渡し、エリエフがそれを持ってくる。
俺が渡されたのは、一枚の札だ。
俺の知っている言語では書かれていないが、文字がズラリと並んでいる。
札の中央には魔法陣が描いてある。
「何ですか、これ」
「家に帰ったら、裏に書いてあるのを詠唱しろ」
「裏?」
札の裏を確認すると、イルマ語で呪文が書かれてあった。
俺が貰うはずは女の子であって、札ではなかったはず。
何かは分からないが、宿に戻ったら使ってみよう。
「もう女の子はいいです。アルクラドさんの復活はまだですか」
「焦るなガキ。お前、どうせ前世では童貞だったんだろう」
「お察しの通りでございます……」
女の子と会話する暇すらなかったよ、俺には。
だから童貞だったのだ。仕方がないことなのだ。
「もうアルクラドさんも今度でいいんで帰ってもいいですか? もう夕方ですし」
「ああ、良いぞ」
カレンの姿を探して、辺りを見回すが、どこにもいない。
おかしいな。
後ろを向こうとした時、背中から何かに抱きつかれる。
「おお、カレンか。まったく、お茶目なやつだな」
振り向いて、頭を撫でてやる。
しかし、表情はどこかしら寂しそうだ。
「どうした?」
「怪我……、だいじょぶ、ですか?」
「怪我? ああ、肩の……。大丈夫だよ、魔術で治したから」
「ん……」
カレンは短く返事をして、俺の胸に顔をうずめた。
そうか、そうだよな。
家族を失ったばかりだっていうのに、同じ家族である俺が怪我したら、心配もするよな。
「ごめんな」
「ん……へいき、です」
カレンはそんな事を言いつつも、体を少し震わせている。
引き続き頭を撫でて、しばらくすると、俺達二人は元いたギルドの依頼掲示板前に転移していた。
「疲れたか?」
「はい……」
「じゃあ、今日はもう飯食って帰ろう」
「……シャル……おんぶ」
「仰せのままに」
俺は体勢を低くし、カレンを背中におぶる。
宿に着いた頃にはカレンは既に眠っていたので、ベッドにカレンを寝かせた。
俺はベッドの端に腰をおろし、ため息を一つ。
「札の奴はカレンが起きてからでいいか……」
俺は机にあるコップに魔術で水を注ぎ、口に含んだ。
魔力総量もかなり増えた。体力も、技術も身についてきた。
あとは経験が必要だ。もっと多くの経験が。
今後の予定としては、組織の地盤を固め、依頼をこなす。
メンバー集めにはあまり力を入れたくない。
入りたいと思ったやつをいれればいい。
とりあえず、俺は剣の手入れをする事にした。
夜になり、カレンが目を覚ます。時刻は八時。
遅めだが、これから飯を食べに行こう。
「カレン、顔を洗っておいで」
「ん……」
カレンは目を擦りながら、洗面所へと向かった。
とてとてと歩く姿は、見ていて危なっかしい。
「シャル……タオル……」
洗面所から声が聞こえた。
洗面所に置いていたタオルは干していたんだった。
ちなみに、『タオル』の様に、二人でいる時は英単語も使ってくる。
俺としては、長い間聞けなかった言葉を聞けて嬉しく思う。
そんな事を考えつつ、洗面所にいるカレンにタオルを手渡す。
「ありがと、ございます……」
「いやいや、こちらこそ悪かったね、忘れてた」
カレンは顔を拭い終わると、洗面所にタオルを畳んで置いた。
「じゃあ、行こうか」
「はい……」
「何食べたい?」
「……らーめん」
「……それは、ちょっと難しいかなぁ」
晩飯に何を食べるかを話しながら、二人で飯屋へと向かった。
御意見、御感想、駄目出し、評価、何でも何時でも歓迎しております。




