表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第六章『家族』
46/72

少年と魔人が戯れるとき・前編

 数週間もすると、カレンは落ち着きを取り戻した。

 子連れの親を見ては眉を顰めるリアクションはあるものの、泣くことはない。

 前世のカレンが何歳だったのかは知らないが、それなりに歳はあるようだ。


 そして、俺達が今しているのは、拠点探し。

 その内大きくなるであろう俺の組織の拠点の設置だ。

 家としても機能させてしまおう。

『シャルル荘』みたいに、アパートっぽい感じで。


 俺が真っ先に頼るのは、ウルスラだ。

 不動産屋なんかもあるが、騎士団のコネを使ったほうが何かと便利だと思うし。

 ズルいから止めるなんて選択肢、俺には無い。

 こういう時は、使えるモノは全て使ったほうが良い。

 安上がり程いいモノはない。


「こんにちは、ウルスラさん」

「ん? シャルル殿ですか。……そちらのお方は?」

「義妹です。しばらく僕が面倒を見ることになりまして」

「そうですか。それで、本日は何用でしょう?」

「組織を立ち上げたんですよ。その報告と、相談ですね」

「シャルル殿が組織を立ち上げたのは、組合員から聞きました。どれほどの成長を遂げるのか、楽しみです」


 ウルスラが少しだけ口元を緩ませて、期待の眼差しを向けてきた。

 ビッグになるつもりはあるが、あまり期待されると失敗した時に申し訳なくなるな。


「して、相談とは?」

「本拠の設置をしたいんです。出来れば、自分の家としても機能できるように」

「なるほど。でしたら、良いツテがございます。少々お待ちください」


 そう言ってウルスラは机の引き出しから紙とペンを取り出して、何かを書き始めた。

 ウルスラはサインの様な物を入れた後、紙を丸めて紐でとめた。


「どうぞ」


 ウルスラは丸めた紙を、俺に手渡した。


「これは?」

「紹介状です。私からと分かれば、安くもしていただけるでしょう。場所は……案内人を付けましょう」

「ありがとうございます」


 頼れるお姉さん、ウルスラ。

 実際は俺より年下だが。


「では、先に外でお待ちください」

「分かりました」


 ということなので、俺は騎士団本部の外で待つことにした。

 カレンに目をやると、緊張した様子だ。

 緊張していても可愛いな、カレンは。


 服装はいつものだが、やはり黒髪は目立つな。

 俺と同じ様にコートを着せたほうがいいだろうか。


「カレン、コート着たい?」

「……シャルと、一緒、ですか?」

「そうだな」

「欲しい、です……」

「分かった」


 不動産に行った後にでも買ってやるとしよう。


「シャルル殿」


 ふと、名前を呼ばれて後ろを振り返る。

 ウルスラの隣には、男性が立っていた。

 二十代前半の若い男だ。

 顔は……イケメンだ。

 王子系の顔をもう少しモブに近づけた感じの顔をしている。


「案内人を務めさせて頂きます、アントンです」

「シャルルです。よろしくお願いします」


 頭を下げ合って、挨拶を済ませる。


「では、案内お願いします」

「畏まりました」


 俺達はアントンの後ろに続いて、不動産屋へと向かった。




 数十分後、俺達は一つの石造の建物の前で止まった。

 アントンが扉を開けて、中に入れてくれた。

 建物の中は……受付にしか人がいない。

 そこまで広いわけでもないし。


 アントンは受付のお兄さんの所まで行くと、何かを伝えた。

 俺も受付まで行き、会釈をする。


「こんにちは」

「どうも、こんにちは。ウルスラ様の紹介でお尋ねになられたとお聞き致しましたが、紹介状はお持ちでしょうか?」

「こちらです」


 俺はウルスラに貰った紹介状を受付の兄ちゃんに手渡した。

 兄ちゃんは紹介状に目を通すと、こくりと頷いて、俺に座るよう促した。


「初めまして、自分、ホラーツと申します」

「初めまして。僕はシャルルです」


 軽く握手をかわしてから、本題に入る。


「お探しの物件は、組織の本拠地に使用でき、且つ、寝食が出来る家としても機能させる事が可能な家とありますが、間違いないでしょうか?」

「間違いないです」

「そうですね……」


 ホラーツは引き出しから書類の束を取り出すと、ペラペラとめくり始めた。


「あっ、ありました」


 すごいな。今ので読めたのか。

 一枚一枚を見るのに、一秒も掛からなかったぞ。


「築五年で、部屋数は二十の、四階建て。応接室や休憩室が一階に御座います。居間、食堂、調理場が二階、三階と四階には十部屋ずつの個室があります。建物、土地代含め、金貨五千枚になります」


 四階建てで五千万円。

 日本に比べればかなり安いと思う。

 今の俺の貯金額は四千万円。

 二年の間、アラン達と依頼をこなし、金貨千枚ほど稼いだ。

 そして、フェンリルの一件で金貨百枚の報酬を貰い、フェンリルの死体を売ったことによって、金貨四千枚に達した。

 金貨があと千枚足りない。一級依頼をこなすしか無いか。


「今はまだ足りないんですが、すぐに用意できると思います。とりあえず、家を見てみてもいいですか?」

「はい、もちろんです」


 ホラーツはそう答え、アントンに視線を移す。


「アントン、ここだ。案内してあげてくれ」

「分かった」


 アントンはホラーツの差し出した紙切れを受け取り、頷いた。

 二人は知り合いだったようだ。


「では、こちらへ」

「カレン、行くよ」


 俺はカレンの手を引いて、アントンの案内の元、これから買うことになろうであろう家を見に行くことになった。


 建物に着くまでには、徒歩で数十分ほどかかった。

 騎士団本部とギルドの間に位置しているから、丁度いいな。

 とりあえず、三人で中に入った。


 まず、俺達の目に映るのは、広いロビーだ。天井も高い。

 五十人は収容できるであろう広いロビーの両側の壁には、扉がついている。

 右側の扉は休憩室、左側の扉は応接室だった。


 ロビーの一番奥には階段があり、三人でゆっくりと上っていく。

 階段は螺旋でもなんでもなく、普通の階段だった。

 二階に上がってすぐに、食堂がある。

 食堂の隣に調理場があり、さらに奥に、居間があった。

 食堂は二十人ぐらいは余裕で入れるスペースがある。

 調理場もファミレスのキッチンと同じぐらいの大きさで、楽しく料理ができそうだ。

 居間の部分だけは違う木で出来ており、周りの色よりも明るくなっている。


 三階へと続く階段は居間にあり、そこから三階へと向かう。

 三階にあるのは、広い廊下とドアだけだった。

 一定の間隔をあけてドアが並んでいて、ドアは合計十個。

 四階も同じ作りになっていた。

 屋根裏部屋まであったのは、驚きだ。


 じっくり見て回った後は、不動産屋へと戻った。

 ホラーツがアントンに礼を言い、銀貨を数枚手渡した。

 俺はその間に先ほど座った椅子に座る。


「如何でしたか?」

「条件通りですね。今直ぐ購入したいところですが……あと千枚、足りなくて」

「そうですか。では、半年間、保持していましょう」

「いいんですか?」

「はい。ウルスラ様からの紹介とあらば、一年の保持でも可能になります」

「いえいえ、そんな、半年で充分ですよ」

「そうですか。気が変わったらいつでもお越しください」

「ありがとうございます」


 俺は頭を下げてから握手を交わし、不動産屋を出る。

 アントンの後に続いて騎士団本部へと戻り、ウルスラに経緯を話した。


「なるほど。では、シャルル殿は金貨千枚が必要なのですね?」

「まあ、はい。これから稼ぎに行くつもりです」

「そうですか……。そうですね……いい仕事があれば、紹介致します」

「それはありがたいです。本当、何から何まで世話になってすみません」

「いえ、シャルル殿には、こちらもお世話になったので」


 俺はウルスラに何もしてあげれていないと思うが、そう言うのであれば、それでいい。

 どっちみち、こちらには得しか無いからな。


「それじゃあ、僕は冒険者組合で受けれる依頼があるか見てきますよ」

「分かりました。お気をつけて」

「ありがとうございました」


 一礼してから、騎士団本部を去る。

 ……しかし、どうしたものか。

 依頼を受けるのは、問題ない。だが、それは俺一人であればの話だ。

 俺にはカレンがいる。彼女を守らなくてはいけない。

 俺にできるか? カレンを守りながら依頼をこなすなんて……。

 正直言って、自信はない。俺にそこまでの力があるとは思えない。

 俺はいわば、青二才なのだ。


「カレン、俺は金稼ぎに行かなきゃいけないんだけど、どうしようか」

「私も、一緒に、行きます……」

「でも、危ないぞ?」

「……約束」

「ああ、そうだったな、ごめん」


 俺はカレンの側にいる、そう約束したっけな。


「じゃあ、とりあえずギルド行こう」

「はい……」


 俺はカレンと手を繋ぎながら、ギルドへと向かう。

 帰りに服屋に寄って、フード付きの外套を買ってやった。

 これで視線対策もバッチリ。


 ギルドに着いた俺達は、まず、依頼掲示板へと向かった。

 一級依頼の欄から報酬の良さそうのを絞りだす。

 といっても、一級依頼はそこまで多くない。

 残ったのは二つだ。


 一つ目は、『竜狩りの党員になって欲しい』という物。

 もう一つは、『ワイバーンを無傷で捕獲して欲しい』という物だ。


 最初の奴と二つ目の奴の難易度に差がありすぎる。

 とにかく、竜狩りはダメだ。カレンがいる状態でのパーティへの参加は論外。

 ワイバーンの無傷で捕獲も、今の俺には出来ない。


 さて、どうするか……。

 と、二つの紙と睨めっこをして悩んでいる時だ。

 俺の視界が一瞬ブラックアウトし、再度、光を取り戻す。


「な、何が起きてるとですか……って、此処かよ!」


 此処は、エヴラールとヴェゼヴォルを旅した時に訪れた場所、魔王の間だ。

 同じ方法で同じやつに転移させられたらしい。デジャヴュ。

 その肝心の俺を転移させた奴は、魔王の間の奥の王座に、頬杖をついて足を組んでいる。

 自信にあふれたその表情と瞳は俺を捉え、紫色の髪をなびかせている。

 室内なのに何故なびいているのかと聞かれれば、アイツが団扇で扇がれているからだ。

 アイツの隣にいる、背中に黒い羽の生えた女性に。


「また会ったな」

「そうですね……」

「なんだ、その不機嫌そうな顔。魔王に会えるなど、早々ないことなのだぞ」

「そうですね……で、何のようですか。ていうかどうやって転移させたんですか。僕、魔王様の国にいませんでしたよ」

「その石があるだろう。それは俺とお前を繋ぐ物でもある」

「気持ち悪い」


 ポロリと、本音がでる。


「貴様、魔王との繋がりを罵るか」

「すみません、噛みました」

「わざとだ」

「すみません、かみまみた」

「わざとだ」


 ごまかせませんでした。

 まあ、それは置いといて。


「何の用ですか?」

「贈り物だ」

「贈り物?」

「ああ。シャルル、お前、女は好きか?」

「好きですよ」

「なら、丁度いい贈り物がある。可愛らしくて、従順な女だ」

「え? 女の子をくれるんですか?」

「そうだ」


 どういうことだ。

 いきなり呼び出して、女の子をくれるって……何を企んでいる。

 俺に何を求める気だ。


「欲しいか?」

「そりゃ、欲しいですよ……」

「なら、こいつらを倒してみろ。しばらくすれば生き返るから、遠慮無く殺れ」


 そう言って、魔王は指をならす。

 すると、五つの黒い炎が空中に浮かび上がり、人へと変わっていった。


「戦えと?」

「うむ」

「……いいですが、この娘を安全な場所にお願いします」

「良かろう」


 魔王は、普通に返事をした。

 何故だろう。カレンが転生者である事には触れていない。

 興味が無いのか、わざと放置しているのか、分からない。


「結界を張った。ここなら安全だろう」

「ありがとうございます」


 俺は魔王に礼を言って、肩を回す。

 戦わされる相手である、五人――いや、団扇で仰いでいた奴も参戦するようだから、空中にぷかぷか浮かぶ六人を見てみる。


 一番左の女は、紫色の髪に茶色のメッシュが入っている。

 口を固く閉じて、眠そうな眼で俺の事を凝視している。

 その隣の女は、紫色の髪に水色のメッシュが入っていて、目を閉じて腕を組んでいる。

 その隣は、紫色の髪に真っ赤なメッシュが入っていて、活発そうな雰囲気を醸し出し、シャドーファイティングをしている。

 更にその隣は、紫色の髪に緑色のメッシュが入っていて、空中で寝転がっている。

 そしてその隣は、紫の髪に金色のメッシュが入った、おっとりとした雰囲気の女だ。慈悲の眼を向けられている気がする。この人がさっき魔王を団扇で扇いでいた女だ。

 そして一番右の女が、紫色の髪に、黒いメッシュが入った女。色気のある笑みを浮かべ、唇に指を乗せて、俺にウィンクをしてきた。

 ちなみに、全員に羽が生えている。


「可愛い子ね、ここで殺すのはとても勿体無いわ」

「まだ子どもじゃ~ん。良いの~? 魔王様~」


 黒いメッシュの女に続いて、緑のメッシュの女が言葉を発した。


「構わない。それよりも、挨拶をしろ」


 魔王が言うと、六人の女は左から順に挨拶を始める。


「……土の、魔人……アルスグラ」

「水の魔人、リータエル」

「火の魔人! フラーメズ!」

「風の魔人~、ガレリーゼ~」

「癒の魔人、エリエフです」

「闇の魔人、アルクラドよ。私達は魔王様の使い魔」


 長い! 多い! 覚えられない!

 アルスグラ、リータエル、フラーメズ、ガレリーゼ、エリエフ、アルクラドなんて覚えられるわけ無いだろ! まったく!


「どうも。僕はシャルルです」


 俺は頭を軽く下げて、全身に魔力を行き渡らせる。

 アルスグラが先に動き、戦闘は開始した。

御意見、御感想、駄目出し、評価、何でも何時でも歓迎しております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ