はじめての一級依頼・後編
部屋に十人ほど集まった頃、俺達は庭に案内された。
庭でしばらく待たされる間、茶菓子を用意されたので、俺は戴くだけ戴いた。
マカロンやマフィンをメイドさんが運んで来てくれる。
そして、正午になった頃に、グスタフと一人の女性が壇上に立つ。
グスタフは一度、咳払いをしてから、庭に集まる冒険者達を見渡した。
俺の場所から数は把握出来ない。
「ロンデルーズ騎士団長のグスタフだ! 集まりに感謝する!」
「ロンデルーズ騎士副団長のウルスラです」
グスタフの隣に立つ女性、ウルスラと言うらしい。
胸の大きさは鎧で隠れていて分からないが、多分、大きい。
顎の下ぐらいまでしか無い金色の髪の毛。
鋭い眼は厳しい女性という印象を付ける。
男勝りで真面目そうな見た目だ。
それでも、美人に部類される方だろう。
「では、概要を説明する!」
グスタフの声で、集まった冒険者の話し声が止む。
彼の話しによれば、ある伝で、盗賊が連合を組んで王国を落とそうと言う計画がある、という話があった。
諜報員を散らばらせた結果、北から盗賊の軍が、騎乗して迫ってきている様だ。
敵の数は、諜報員の情報を元に推定して二万から三万。
列になっている訳ではないが、塊になって進んでいるそうだ。
うーん、二万から三万、か。
一万って結構な差になると思うんだけど。
「では、作戦の計画に協力する者は、私に付いて来て下さい」
ウルスラがそう告げると、数人の冒険者がウルスラの元へと寄る。
俺もウルスラの元へと駆け寄った。
え? 作戦? 知ったことじゃないね!
目的はウルスラのおっぱいだ……!
ウルスラの後に続き、俺達が入れられたのは、先ほどの待合室の様な場所だ。
グスタフが地図をテーブルに広げて、何かを書き始めた。
ロンデルーズ王制国の位置を囲ったのだ。
地図は初めて見る。
何だかんだで、今まで見る機会が無かった。
ロンデルーズが、ルーノンス大陸の真中に位置しているのは知っていたが、東の方に川が通っているのは初めて知った。
ロンデルーズから東北に行くと、国があり、東南にも国がある。
そして、西北と南にも国が存在している。
南の方は、商業国ザロモンだ。
他の三つは、まだ行ったことがない。
ロンデルーズから真っ直ぐ東に進めば、獣人の森とは別の森がある様だ。
「これが、敵軍の位置です」
そう言って、ウルスラが、北の方に逆三角形を書き、ロンデルーズに向かって矢印を引いた。
これは、盗賊軍が北から此方に向かって進軍しているという事を表しているのか。
なら、陣形を組むのは簡単じゃなかろうか。
「まずは、どう対抗すべきか、意見を求めます」
司会進行、ウルスラ。
この場に集まった冒険者は十人だ。
俺も入れて十一人だが。
意見云々の前に、質問がある。
俺は挙手をして、発言の許可を得ようとした。
視線は俺に集まり、皆が怪訝な顔をする。
ウルスラは無表情だったが、眉がつり上がっている。
だが、すぐに表情を戻し、俺を指した。
「相手の到着はどれくらいになりますか?」
「……早くて七日だと予測されます」
ふむ、一週間。
準備の時間はそれなりにある。
今日、ここで作戦を決めてしまえば、俺達の準備は万全になるかもしれない。
「七日か。ならば、もう少し数を増やす事が可能ではないだろうか?」
「いいえ、今から準備出来る方々のみを集めたいので」
一人の冒険者に、ウルスラが答えた。
確かに、今からならまだ数が増えるだろう。
多いに越したことはない。
多い、で思い出したが、こちらの数を把握していない。
俺はまた挙手をし、ウルスラが指す。
「こちらの数はどうなんでしょうか?」
「騎士団は総勢一万。集められた冒険者は現在集計中ですが、百を超えると思われます」
数字的には、こちらの負けか。
約一万と百が味方、敵は二万から三万。
なるほど、勝算はそこから来ているわけだ。
勝算の無い戦いなんて挑まないからな、普通。
「これでは、正面からの応戦は無理になるな」
「元々、正面から突っ込むという意見は無いだろう」
二人の冒険者が言葉を交わした。
まぁ、そこまで自信家でも馬鹿でもない集まりなら、大丈夫だろう。
会議は多分、スムーズに行く。
「待ちぶせが確定されたなら、どう待ち伏せるかだ」
「うむ、確実性のある陣形では無ければならない……」
「正面を囮にし、迂回して後ろから精鋭で攻めるのはどうだろうか」
「いいや、それでは横から漏れるだろうに」
うーん……何故この人達はすぐに攻めの話へ持って行くんだろうか。
相手の部隊への対策とか、罠とか色々あるだろうに。
という事で、俺は再度挙手をする。
「敵は皆、騎兵部隊なのでしょうか?」
「はい、情報によれば」
なら、対処法は色々ある。
馬の足を防ぐ罠なんて、たくさんあるのだから。
「馬なら、魔術師が有利か」
「騎士団で魔法が使える者はどれくらいだ?」
「二千人程度です」
冒険者の質問に、ウルスラが答えた。
「ふむ、剣士で前を固め、後方から魔術で攻撃する手が有効だろう」
一人の冒険者が地図に指を当てながら言った。
攻撃云々の前に、やることがだな。
「……何か言いたげですね」
俺の視線を察知したのか、ウルスラが俺に声を掛けた。
視線が俺に集まる。
だが、会議で視線を集める等、慣れているさ。
これでも会社員なのだからな。
「攻撃をどうする、という話も良いと思いますが、罠や足止めの設置も視野に入っているのか、疑問に思いました。それだけです」
「……罠、ですか?」
ウルスラが眉根を寄せ、問い返してきた。
「はい、罠です。別に、直接相手に害を加える罠でなくても、足を止める程度の罠だけで効果はあると思います」
「それはそうですが……罠の買い取りには、それなりの費用を使います。魔術罠となると、余計に」
魔術罠なんて物があるのか。
初耳だ、今度見てみよう。
まぁ、それは置いておいて、騎士団なのだから、金ならいくらでもあるはずだ。
なんなら、国のピンチとか言って国王に請求すればいいし。
ていうか、この場合、国王自ら資金を援助するべきなんじゃないか?
ケチな王様なのか、騎士団が少ない費用で戦いを終わらせたいのか。
理由は分からないが、予算は少なめだという事か。
「確かに、費用は使うでしょう。でも、そこまでの値段にはならないと思いますが?」
「馬の足を止める罠となると、爆破罠になります。針や撒菱では、効果は得られません」
なるほど、魔術の罠しか使えないという前提の元で、『それなりの費用』と言ったわけか。
だが、馬の足止めに魔術罠は無駄遣いってやつだ。
「落とし穴ではダメなのですか?」
「一週間という時間で、二万の軍勢を抑えるだけの落とし穴を作るのは、難しいかと」
まぁ、確かに、それなりの深さが必要になるからな。
一日に、一つの穴を三人で掘るとするなら、三千人の騎士を落とし穴の作成に回せば、三百の落とし穴が出来る。
だが、三百だけじゃあ、二万の軍勢は抑えられない。
結局、一万人を導入したとしても、千の落とし穴じゃ足りないしな。
「まぁ、分かってました。落とし穴ではなく、地面に杭を打つのはどうでしょう」
「杭ですか?」
「はい、馬の足止めにもなりますし、一週間もあれば充分な数の杭を打てると思います」
「ですが、それだけの量の木材、何処から買い取るのですか」
「別に、木材にする必要性なんてありません。石材を使います」
「石材ですか……なるほど」
石材であれば、魔術でいくらでも作れるから、お金で買う必要はない。
騎士団の二千人の魔術使用者だけでなく、冒険者の中にも魔術を使える者はいるはずだ。
俺も魔力はあり過ぎているぐらいなので、幾らでも作れそうだ。
「馬の足止めは分かりました。ですが、馬の足止めをどう利用するのですか。と言うより、どう奇襲するのですか?」
ウルスラは副団長というだけあって、進行が早いし、聞くべき質問はちゃんと聞いている。
理解できない事があるのであれば、ちゃんと聞く。
これは大事な事だろう。
「奇襲は遠距離攻撃で行います。弓や魔術で、軍の進みが止まっている所に撃ちこめば、かなりの数をそこで減らせます」
「数を減らしたところを正面から叩くんだな?」
一人の冒険者が俺に尋ねた。
正面から、というのは間違っていない。
だが、それでは確実ではない。
「正面と、側面です」
「側面?」
「はい。兵の配置はこの様にします」
俺は地図の上に乗っていたペンで、盗賊軍の進行先に『U』の字を書いた。
そして、Uの少し上に、ぎざぎざの線を書く。
「この陣形の前線、つまりは北部に弓兵と魔術師を配置して、奇襲をかけます。そして、罠を突破した軍は曲線の内側に進み、僕達の前方と側方からの攻撃を受けます。どうでしょうか?」
俺が言葉を終えてから、しばらくしたが、部屋は静かなまま。
誰も口を開かない。
作戦のシミュレーションでもしているのだろうか。
「……賛成です」
「ああ、これで良いだろう」
「うむ。念には念を入れ、壁上にも百人程待機させるべきだろう」
「門の外と内にも守りを入れるべきだ」
「北だけではなく、東西南の門も、念の為、警戒した方が良い」
皆、俺の作戦に賛成したのか、念入れの話をし始めた。
まぁ、反対が無いのなら、それはそれでいいんだが。
その後、会議は落ち着いた雰囲気のまま終わった。
結果として、東西南北、全ての門に兵を配置する事になり、それ以外の兵は、陣形に加わるという事になった。
国内からの攻撃も考慮し、国内の警備は冒険者に依頼するとも話していた。
念には念を入れるべきだから、正しい選択だろう。
会議の後は、団長と副団長が、冒険者と騎士団員に作戦の内容を説明し、解散という形になった。
集合は明日で、冒険者の半数が集まり次第、罠の設置を開始するのだそうだ。
俺は宿へ戻り、水浴びをしてからフィギュアを作成し、眠りについた。
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