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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第四章『味見』
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  挿話 『吸血鬼』

ただのおまけ。読まなくても問題なし。

 時間は、シャルルがヴィオラと接触する前に遡る。

 とある一室にいるのは、ヴィオラとジノヴィオス。

 テーブルを挟むようにして、ヴィオラは挑発的な笑みを浮かべ、ジノヴィオスは面倒くさそうに顔を合わせる。


「そろそろ、此方こなたが接触しても良い頃じゃろう」

「何の目的で?」

「護衛、監視、そして見極めることじゃ。血の味も確かめておきたいしのう」

「本命は血じゃないだろ?」


 ジノヴィオスは吐くように尋ねたが、ヴィオラは答えを出さなかった。

 隠しておきたかったから、というわけではなく、どちらも本命だったというのが事実だ。

 だが、この状態で『吸血鬼』として『私情』を挟めば、ジノヴィオスは怒るに違いない。


「俺様はあいつを守る事にした。お前が何かをしようってんなら、俺様は黙ってないぞ」

「なんじゃ、情でも移ったか? らしくないの、魔王や」

「そうじゃない。『魔神』にならない限りは、って意味だ。あいつがなろうってんなら、俺はすぐに殺しにかかる」

「そうか、そうか」


 挑発的に、不敵に笑いながらも、ヴィオラは疑問に思った。

 魔王である奴が、非情である奴が、無敵である奴が、何故、敵と成り得る相手をしばらく生かそうと考えているのか。

 義務感による名目の監視、そして、吸血。そこに『興味』が加わった。

 シャルルという人間がどういった存在なのか。どういった風に言葉を発するのか。どういった表情をするのか。

 今直ぐにでも会いに行って、対話をしたい気分だった。


「疼くのう……」

「相手はガキだぞ。欲情なんかしてもなぁ」

「お主の頭は年中桃色か」

「その通り」

「清々しいのう……」


 ヴィオラは呆れたように肩をすくめる仕草をすると、ティーカップに口をつけた。

 空になっていた事に気づいていなかったらしく、言葉の通り、ティーカップに口をつけるだけとなった。


「全くもって、不愉快じゃの」

「何がだ」

「用心すべきは『教会』だけではない、という事じゃ」

「……『執行者』か」


 ここに来て、別の組織の名前が出された。

 これが意味するのは、『執行者』という組織が動きを見せたという事。

 のんびりと過ごすシャルルは未だに自分が複数の組織から狙われている事を知らない。

 むしろ、『教会』という言葉を覚えているかどうかも怪しい。


「『執行者』は『教会』とは違う。奴らは殺しにかかるじゃろうの」

「確かにな。あいつらの目的は『教会』とは真逆だ。だが、幸いな事に、『魔神』の特定が出来ているのは俺様達と『教会』だけだ」

「何故そう言えるのじゃ?」

「俺様は魔王だぞ。それぐらいはな」


 得意気に言うジノヴィオス。しかし、ヴィオラの反応は薄い。

 興味がないわけではなく、当たり前だから、といった感じだ。

 二人の付き合いは百年なんてものではないのだから、それぐらいは分かって当然なのかもしれない。


「にしても、心配だ。お前の吸血が何か悪影響を与えるかもしれない」

「心配しすぎじゃ。『魔神』を愛しすぎじゃろ、お主や」

「そんな事はない」

「顔に書いてあるぞ。『愛しすぎて心配だ』と」

「そんな事はない」

「何故隠す必要があるのじゃ」

「――ああ、そうだよ!」


 たしかにその時、プツンと何かが切れる音がした。

 ジノヴィオスはタガが外れた様に立ち上がって、まくし立てる。


「俺は愛している! そりゃあ守るべき対象だ、愛さなくてどうするよ! 大体な、俺様はあいつの事を一目みた時から『コイツだ!』って思ったんだよ! クソ、あの真っ白な奴を見たら、お前だって愛しちまうんだからな!」


 ジノヴィオスの目は、真剣そのもの。自分は無実だと主張する犯罪者よりも、その瞳は真面目だった。

 もちろん、そんなジノヴィオスの姿を見たヴィオラは、ドン引きである。

 顔をひきつらせ、金色の糸を出した巨大化したダンゴムシみたいな物を見るかの様な目だ。


「……そ、そうか。此方がお主のように思うかは置いておいて、人の好みにとやかく言う趣味はないからの。好きにすると良い」

「オイ、誘導しといてそりゃねえだろ」

「乗ったのはお主じゃろ」


 ジノヴィオスは咳払いをしてから、浮いた腰を下ろした。

 恥をかいた、というよりも、魔王として、吸血鬼の挑発に乗ってしまった事が屈辱である様子だ。


「もうお主の愛は聞いた。それだけ興味深い男なら、会わなければならないのう。此方も興味が湧いた」

「そうか。精々惚れないように頑張るこった」

「余計なお世話じゃ」


 ヴィオラはそう告げると、席を立って魔王の元を去った。


 自分の城に戻ったヴィオラは、太陽光にあてられたせいか、気だるさに襲われ寝台に体を倒した。

 見た目年齢十代後半の細い体からは、彼女が人一人を簡単に殺せる力を持つことなど想像も出来ない。

 長枕を両足と両腕で包み、寝台の上を転がる。


「どんな奴じゃろうの……」


 そう呟いたヴィオラの表情は、遠足を楽しみにする小学生のようだった。

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