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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第四章『味見』
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シャルルとヴァンパイア・中編

「小僧……此方に首輪を付けおったな」

「俺の血液をくれてるんだから、それぐらいはいいだろ?」


 俺は後頭を掻きながら言う。

 ワイングラスはたしかに割ることが出来た。

 そして、ヴィオラの体を爆発させることだって出来る。

 だが、俺に彼女を爆発させる気は微塵もない。


「……気に入った」


 俺が席に戻ると、ヴィオラが小さく言う。


「気に入ったぞ、小僧」

「そりゃどうも」


 俺はグラスの水を飲み干し、乾いた口の中を潤す。

 余裕を見せて、大口を叩いてみたのはいいが、内心では正直ビビっていた。

 悟られることが無かったのは、俺のポーカーフェイススキルが上がっていたからだろうか。

 うん、普段から練習しておいて良かった。

 しかし、もっと磨かなくてはな、このスキル。


「シャルル様、どうぞ」

「ありがとうございます」


 マイヤがワイングラスを俺の前に置いた。

 普通のワイングラスの半分ぐらいのサイズだ。

 まぁ、俺はまだ子供だから仕方ないだろう。


 俺は早速、赤ワインを口に含む。

 喉に通すと、久しぶりの感触に涙が出そうになる。


「どうした小僧、そんなに辛かったか?」

「いや、感動してるんだ」

「ハッハッハッハッ! 小僧、お主、一体何者じゃ?」


 ヴィオラが笑いながら尋ねてきた。


「どういう事だ?」

「『子供に憑依する大人なのか?』ということじゃ」

「面白い冗談だな」


 俺は尤もであるヴィオラの質問に、思わず笑ってしまう。

 嘲笑やごまかしではなく、中身が大人だという事に対して笑っているのだ。

 理由はもちろん、名探偵さんを思い出すからだ。

 たくさん作られたコラ画像やMADがフラッシュバックする。


「冗談ではないぞ、真面目に聞いておる」

「バーロー、そんな訳ないだろ」

「そうか、そんな訳はないか……まぁ良い。何であろうと、お主はお主じゃ」


 ヴィオラはそう言って、また楽しげに笑った。

 本当によく笑う女だ。

 可愛らしい笑顔は、嫌いじゃない。


 その後、適当な世間話をした後、部屋に戻って眠った。




 翌日、目を覚ますと、俺は温もりのある何かを抱きしめていた。

 言わなくても分かるだろうが、ヴィオラだ。

 何故かは知らないが裸である。

 男たるもの、見るものは見なくてはならない。

 ヴィオラの体は……成人している割には小柄で、細身。

 華奢な体躯と表現するのが一番だろう。

 胸も大きすぎず、小さすぎずと言ったところか。

 無防備な寝顔も可愛い。

 寝ていれば普通の女の子だ。

 思わず、頬を撫でてしまったが、起きる気配はない。


 起きる気配がないなら、男は何をする。

 答えは一つ。揉む。

 何処を? 胸をだ。


 俺は寝ているヴィオラの胸に手を伸ばす。

 ヴィオラの胸は少しだけ俺の手からはみ出るが、大人の体であったならば、丁度いい大きさと言えるだろう。

 そして、全裸である為、俺は生でヴィオラの胸に触れている。

 衣服の上から揉んでいる場合には無かった新たな感触、それは――指に吸い付くのだ。

 弾力は……そうだな、ヴェラのよりも硬い気がする。

 だが、柔らかい事に変わりはない。

 揉んでいて気持ちがいい。


 ここまでしても、ヴィオラは目を覚まさない。

 吸血鬼は朝に弱い。

 これは、弱すぎるだろう……。

 ん? でも、起きられたら困るか。


「お前には眠り姫がお似合いだな」


 眠っていれば可愛いのに、という意味を込めて呟いた。

 俺はヴィオラの胸から手を離して、体を起こし、部屋を後にする。

 向かう先は庭だ。

 トレーニングをしなくてはならない。

 結構な間サボっていたからな。


 ヴィオラの家の庭には、野生動物がいる。

 樹林に囲まれた、広い草原を俺は走れるだけ走る。

 腕立て伏せ、腹筋運動はもちろんの事、反復横跳びなんかもやっている。


「シャルル様」


 休憩中、マイヤに後ろから声を掛けられた。


「おはようございます、マイヤさん。今日はいい天気ですね」


 今日の空は快晴。

 仰向けに寝ると、真っ青な空が視界いっぱいに広がる。


「朝食をお持ちしました」

「えっ、そんなに気を使わなくても……」

「友人からの差し入れ、という事で受け取ってもらえないでしょうか?」

「……そう言うなら」


 そういう言い方はずるいと、俺は思う。

 俺はマイヤに籠を手渡された。

 開くと、中にはサンドイッチ。


「おお、美味そうです」


 俺は一つ手に取り、口に運ぶ。

 味からして、トマト、レタス、ハム、胡椒が入っているのは分かるが、他に何か、隠し味がある気がする。

 なんだろうか……甘いような、塩っぱいような、クリーム状のソースだ。


「これ、何が入ってるんですか? 蕃茄、球萵苣、薫製は分かったんですけど……」

「秘密です」


 マイヤが口に指を当てて、笑顔で言った。

 胸がきゅんとなるってこういう事だろうな。

 きっと、漫画だったら俺の顔の横らへんに『きゅん…』とかって書かれるに違いない。

 いや、というか『どきっ…』かもしれん。


「どうしました?」

「いえ、すごく美味しいです、これ」

「ありがとうございます」


 マイヤさんの可愛さに見とれてただなんて言えないので、ごまかしておく。

 俺はサンドイッチを全部食べ終えると、マイヤと一緒に食堂へ向かう。

 珈琲を飲むためだ。

 俺の一日は珈琲を飲んでから始まると言っても過言ではない。

 珈琲はブラックでも美味しければ、ミルクだけを入れても美味しい、なんならミルクと砂糖を入れても美味い。

 ココアも確かに美味しいのだが、やはり珈琲の香りと独特の苦味が癖になる。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 マイヤが厨房で入れてくれた珈琲を受け取る。

 今日の気分はブラックコーヒーなので、ブラックで飲む。

 立ち上る湯気が、俺の心を落ち着かせる。

 一度香りを楽しんで、口に含む。

 ……美味い。


「シャルル様は本当に珈琲がお好きなのですね」

「はい、昔から飲んでいましたので」


 マイヤの言葉に頷くと、俺は一度カップを置いた。


「そういえば、ヴィオラが僕の部屋で寝ていたんですが、あれは何故でしょう」

「予想ですが、ヴィオラ様も人肌が恋しいのだと思います」

「マイヤさんは寝てあげないんですか?」

「主従関係にありますので」


 そこらへんは『主従関係』ってのが働いて、規制がかかるのか。

 しかしまぁ、どこからどこまでがアリでナシなのか、俺にはまだ線引きが分からない。


「そうですね……そのような事は性奴隷の役目だと思われます」

「性奴隷?」

「はい、私もあまり詳しくはないのですが」


 なるほど、性奴隷が存在するのか。

 いや、まぁ、奴隷がいるという話は聞いたし、性奴隷がいるのは普通だろうか。


「ふわぁぁ」


 欠伸をしながら食堂に入って来たのは、ヴィオラさんである。

 眠そうに目をこすって、寝癖のついた金色の髪に手櫛をかけている。


「おはようございます、ヴィオラ様」


 マイヤはヴィオラの何時も座る椅子を引く。

 ヴィオラは引かれた椅子に座り、髪を背もたれの外側にやる。

 マイヤは常備している櫛でヴィオラのグルーミングを開始した。


「朝は本当に弱いんだな」


 俺がカップを持ち上げて言った。


「此方は、吸血鬼じゃからの」


 眠そうにヴィオラが答えた。

 こちらの世界でも、吸血鬼ってのは夜行性なんだと。


「小僧、今日も瞳は紅じゃの」

「ああ、かっこ良くて気に入ってる」

「そうか、なら良い」


 まあ、人間離れは御免だが。

 しかし、この赤目はカッコいい。

 俺の中二心を擽るのだ。

 昔、写輪眼のカラコンを何度も買おうとした事があった。

 金の節約のために、結局は一度も買わなかったのだが。


「そうだ、ヴィオラ。奴隷について聞きたい」

「奴隷? なんじゃ、お主奴隷が欲しいのか」

「いいや、奴隷制度は好きじゃない」

「革命でも起こすか?」

「いいや、俺にそんな勇気はない。世間について学ぶだけだ」

「なんじゃ、面白くないの」


 奴隷制度が嫌いなのは、奴隷が扱き使われるってイメージが強いからだ。

 この世界でそんな事がないってんなら、俺はそれでいい。

 もしも酷いようであるなら、俺も動くかもな。

 ……世界に影響を与えるってのは、色々と危ないかもしれないが。


「まぁ良いわ、聞かせてやる」

「ありがとう」


 髪を整え終わったヴィオラは、マイヤに食事を頼んでから話し出す。


「奴隷には色んな奴がおる。家計に苦しくなり自分から落ちる者、家族に売られる者、騙されて売られる者、そこは個々事情がある。奴隷となった者は、商品として扱われる。つまりは、丁寧に扱われるという事じゃ。だが、それは奴隷商の下での話、売られた後は所有者によって扱いが変わるのじゃ。高値の奴隷を見せる付ける貴族、物運びを手伝わせる商人、冒険者に戦闘役として買われるなど、そこも様々」


 長い言葉を連々と並べた後、運ばれた水を飲み、また話を続けた。


「奴隷の中には、性奴隷も存在する。性欲を満たすために買われる奴隷じゃ。性奴隷は奴隷になる前の人物を売った側が決める。自分から落ちた場合は本人が性奴隷になるか否かを、家族に売られた場合は家族が決めるのじゃ」

「性奴隷も命令されれば戦うのか?」

「当たり前じゃ。奴隷とはヤれない、性奴隷とはヤれる、ぐらいの違いじゃよ」


 子供に向かってヤれるとか言って、通じると思っているのだろうか。

 いや、俺には通じるのだが。

 まあいい、奴隷の話はこれで終わりだ。

 俺に奴隷を買う気なんてないのだが、この世界の情報は一つでも多く欲しい。


「奴隷のことは分かった。でも、本日一番の疑問がある」

「なんじゃ?」

「何でヴィオラは俺の隣で寝ていたんだ?」

「そんなの、人肌が恋しいからに決まっておる」


 何言ってんだこいつ、みたいな顔で言われた。

 お前こそ何言ってんだ……。


「なんじゃ? 嫌じゃったか?」

「いや、別に。ヴィオラみたいな美人ならむしろ大歓迎だよ」

「ハッハッ! 褒めても何もでんぞ?」


 そうして、ヴィオラは楽しそうに笑った。

「マイヤさん」

「はい」

「歳をお聞きしてもよろしいですか?」

「繊細さに欠ける質問だと思われます」

「ごめんなさい」

「いえ。それに、質問された所で、答える訳でも御座いませんので」

「秘密主義ですか?」

「はい、女中ですので」

「なら、ヴィオラも知らないんですか?」

「ええ」

「主なのに?」

「はい」

「秘密主義なんですね」

「はい、女中ですので」

「マイヤさん」

「はい」

「胸を触っても良いですか?」

「どうぞ」

「即答ですね」

「触られるだけであれば、問題はありません。ヴィオラ様には何度も触られております」

「そうですか、では……」

「……」

「……柔らかいですね」

「はい、女性の胸ですから」

「素晴らしい」

「お褒めにあずかり光栄です。…………ですが、いつまで揉んでいる御つもりで?」

「あと少しだけ」

「仕方がないですね……」

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