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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第四章『味見』
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海老で鯛を釣る・後編

「お目覚めか?」


 意識を取り戻した俺の聞いた最初の声。

 艶かしさと幼さを掛け合わす不思議な声。

 声の主は、金髪、白肌、紅瞳、ゴスロリ服の吸血鬼。


「すまないの、美味すぎて吸いすぎてしまったわ」

「いえいえ、お気になさらず」


 俺はいつも通り、笑顔を浮かべて返事をした。


「……小僧、それをやめぬか」

「それ?」

「その仮面の様な笑みと言葉遣いじゃ。普段はそうではないのじゃろう?」

「普段からこうですよ」

「と言う事は、普段から仮面を付けているのか。難儀な奴じゃ」


 吸血鬼は挑発的な笑みをまた浮かべる。


「お主はもう少し砕けて話しても良い。建前ばかりの言葉等、話していて詰まらぬわ」


 いきなり拉致されて警戒しないほうがどうかしているだろ。

 砕けて話してもいいと言うなら、そうさせてもらうが。


「吸血鬼様のお望みとあらば」

「うむ、素直でよろしい。素直な奴は好きじゃ」

「それで、いつになったら俺を解放してくれる?」

「早速その質問か、正直な奴じゃ。まぁ、しばらくは家に帰れないと思え」

「家なんて無いからそこら辺は問題ない。けど、長年ともなると俺も困る。ていうか、運動ぐらいはさせてくれよ、体が鈍る」


 俺には目的と目標がある。

 それに、トレーニングをサボるといけない。

 このままお天道様の光を浴びずに座っているだけなんて、考えただけでも吐きそうだ。


「注文の多い奴じゃ。手錠と足枷は外してやるが、しかし、抵抗なんてしよう物ならまた付けるぞ。ああ、それと、庭にも出て良い、走り回っても良い。飯も寝床もちゃんとやろう」

「それはありがたい」

「此方の主食はお主じゃ、そこは忘れるでない」


 うぅむ、折角食べてくれるなら性的な意味で食べて欲しいものだ。

 血を吸われて気絶は目覚めが悪いのだ、意外にも。


「忘れないよ、約束しよう」


 俺が言うと、吸血鬼は俺の手錠と足枷を外してくれた。

 宣言通り、首輪は外してくれなかった。

 未だ魔術は使えないので、この首輪に特殊な能力でも付いているのだろう。


「そういえば、名前を聞いてなかったな、吸血鬼」

「おっと、これは飛んだ失礼じゃった。此方はヴィオラじゃ、宜しく頼むぞ、シャルル」

「ヴィオラか、年齢聞いてもいいか?」

「分からぬ、覚えておらぬ、少なくとも千年以上生きた魔王よりは年上じゃろうの」


 千年以上だと。

 おば様だったのか、コイツ。

 まあ、不死身の怪物と言われる奴らだしな。

 他の妖怪もいるのだろうか。

 そいつらも探してみたいものだな。


「此方はもう寝る。お主は好きにして良いぞ。食事なら食堂に行けば幾らでもあるからの」

「分かった、お休み」


 ヴィオラは俺を一瞥すると、欠伸をしながら部屋を出た。

 俺は座り込み、深呼吸をする。

 首輪の効果をどうにかして外したい。

 だが、無理やり外せば爆破するとかありそうなので、今は放置。

 俺が今することは、腹ごしらえだ。


 早速、部屋を出るが……道がわからない。

 右も左も長い廊下で、扉が並んでいるだけ。


「手当たり次第やってみるか」


 俺はまず、右に進むことにした。

 一つ目の部屋は物置。

 二つ目の部屋も物置。

 三つ目の部屋は、俺が目覚めた部屋と同じような窓もない石造りの部屋。

 だが、鉄の臭いはしない。

 四つ、五つと片っ端から扉を開けたが、食堂なんて何処にもなかった。


 廊下の突き当り、また分かれ道。

 右の方から誰かが来る気配があった。

 俺は警戒しながらゆっくりと歩を進める。


「……お見つけ致しました、シャルル様」


 俺と顔を合わせた女性が言った。

 その女性はじとりとした眼に、薄い茶色のショートヘアの美人さんだ。

 頭には犬耳の様な物がある。

 服装がメイド服なので、尻尾は隠れて見えない。

 ヴィオラは地位の高い人間らしいし、メイドぐらい居ても普通だろうな。

 しかし、獣人のメイドとは珍しい。


「あ、どうも、食堂を探しているのですが……」

「案内致します」


 そう言って、歩を進めるメイドさん。

 俺は揺れるスカートを凝視しながらその後に続く。


 既にメイドにも話を通しているとはな。

 感心感心。


「此方です」


 しばらく歩いて、俺が連れて来られたのは、大きな洋風の扉の前だ。

 メイドは扉を開けると、ドアの側に立って、俺が入るのを待っている。

 俺は居心地の悪さを感じながら、食堂へ足を踏み入れた。

 目の前に映るのは、テーブルクロスの掛けられた長いテーブル、そして並べられた椅子だ。

 テーブルの上にはキャンドルがあり、天井にはシャンデリアなんかがある。

 壁には絵画などが掛けられていて、高そうなツボなんかも飾ってある。


「うへぇ……」

「何か食べたい物があれば、お申し付けください。直ちに料理人に作らせますので」


 まあ、メイドが居れば料理人も居るよな。

 しかしまぁ、食べたい物ねぇ。

 お腹は空いているのだが、いざ何が食べたいかと聞かれると、答えに困る。


「な、なんか、適当な物で」

「畏まりました、少々お待ちください」


 そう言い残し、メイドは厨房の方へと消えていった。

 俺は椅子に座り、だだっ広い空間で一人、食事を待つ。


「酒、飲みてぇな」


 一人呟く。

 煙草は吸わない方だったので、特に気にすることでもない。

 酒にハマっている訳でもないのだが、理由もなく飲みたくなる時があるのだ。

 この世界に来る前日は、たしか、同僚と飲み会に行っていたからな。


 何気なく、首輪に手を触れてみる。

 見た目はただの金属製の首輪。

 だが、魔力か何かを抑えつける効果がある。

 不思議だ、魔術というのは本当に不思議だ。


「思えばこの家、窓がねえな」


 先ほど通った廊下を思い出す。

 壁には窓が一つも無かったのだ。

 日光は避けるべき物なんだろうな。

 日浴びの刑を嫌がるくらいだし。

 

 そういえば、日光、銀の他に弱点があったはずだ。

 十字架、炎、ニンニク、あとはなんだったか......。


「お待たせいたしました」


 吸血鬼の弱点を思い出していると、先程のメイドが厨房から姿を表した。

 食事をお盆の上に乗せてきている。

 流石に俺一人にカートは使わないか。


「厚めに切った牛肉を焼いた物と、馬鈴薯を潰し牛酪と故障で味付けした物です」


 牛酪とは、バターの事。

 馬鈴薯とは、ジャガイモのことである。

 まあ、ステーキとマッシュポテトだな。


「それから此方が生の球萵苣と蕃茄になります」


 球萵苣はレタス、蕃茄はトマトだ。

 ステーキ、マッシュポテト、そしてサラダか。

 悪くないが、米がないな。


「白米ってありますか?」

「御座います。ご所望ですか?」

「はい、お願いします」


 俺が言うと、メイドはまた厨房へと戻っていく。

 その間に俺はマッシュポテトをスプーンで掬い上げ、口に運んだ。

 馬鈴薯自身の甘さと、牛酪の甘さが掛け合わさって美味しい。

 これは絶品だ、うむ、旨い。

 さて、次はステーキだ。

 俺はナイフを肉に通す。

 肉は抵抗すること無く、ナイフの進行を肉底まで許した。

 口の中に運び、噛む。

 じゅわり、と肉汁が広がり、口の中を肉の味で満たす。


「んまぁ~!」


 いやぁ、美味い、美味いよ、コレ。

 この世界に来てこんなものを食べたのは初めてだが、最高だな。


「白米になります」


 いつの間にか戻ってきていたメイドがステーキの隣に置いた。


「ありがとうございます。いやぁ、美味いです、美味いですよ、この肉!」

「後ほど料理人にお伝え致します」


 メイドが笑顔で答える。

 今まで無表情だったから、これは不意打ち。

 不覚にもどきりとしてしまった。


 俺はメイドから顔を逸らし、ステーキと白米に集中する。

 まずは、白米だけを食べてみよう。

 スプーンで掬い、口に運んだ。


 ……うぅむ、白米の得点は低いだろう。

 ぱさりとしている。

 見た目も、日本でいつも食べていた丸く太った米ではなく、細長い痩せた米だ。

 カリフォルニア米がこんな感じだと聞いたことがある。

 だが、不味くはないから良し。


 俺はステーキと一緒に白米を口に入れる。

 うむ、やはり米と肉は良い。

 米と肉は確かにいいが、野菜もちゃんと食べる。

 レタスは日本で何時も食べていた物と一緒、シャキシャキした食感がたまらない。

 トマトは酸味が少し強いが、肉との相性は抜群。

 ドレッシングなんて無くてもいけるな。


「くすっ」


 微かに笑う声が聞こえた。

 声の方を見ると、メイドさんが笑顔だった。


「どうかしましたか?」

「いえ、失礼致しました。あまりにも美味しそうに食べるもので……なんだか、微笑ましくて」


 そう言って、また笑顔を浮かべる。

 母性溢れる女性を前にすると、何時も以上に緊張する。


「こちらこそ、がっついてすみません。こういう食事は普段しないので」


 俺は苦笑いを浮かべながら言った。

 まぁ、今は子供の姿だから、微笑ましく映る姿は仕方がないだろう。


「そういえば、メイドさん、お名前は何ですか?」

「失礼ながら名乗らせていただきます、マイヤです。主であるヴィオラ様の女中をしております」

「改めまして、自己紹介。冒険者シャルルです、よろしくお願いします、マイヤさん。僕は何でもない人間なので、あまり謙らないで欲しいです。大人にそういう事されると、何だかむず痒くて」


 俺は苦笑しながら自己紹介を終えた。

 マイヤは笑顔のまま答える。


「畏まりました」


 俺はマイヤと少しばかり世間話をしながら、食事を終えた。

現在、サブタイトルの一新を考えておりますが、どうでしょうか。



御意見、御感想、駄目出し、何でも何時でも歓迎しております。



ああ、それと、エイプリルフールは午前までですよ。

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