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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第三章『情』
24/72

俺の友人と友人の姉が修羅場すぎる・後編

 ワイバーン襲撃から数年、俺は十歳になっていた。

 年齢の確認は、手首に触れて「状態」と唱える事で可能。

 これは最近ヴェラに教わった物だ。


 俺はこの数年で速さと力を身につけた。

 剣術に進展はないのだが、それは仕方がない。

 何はともあれ、俺はリラと競走をして互角という所まで来た。

 バフィトだけでなく、ティホンまでもが俺に稽古を付けてくれたのが良く効いていると思う。


 リラやニーナだが、彼女らとも良好な関係を築けていた。

 ニーナの父は最初、俺の事を警戒していたが、子供らしさをアピールし、警戒を解いた。

 ニーナは俺の借りた家に良く泊まりに来る事がある。

 匂いを良く嗅がれるのだが、理由は敢えて聞いていない。

 リラも時々泊まりに来るが、彼女が来ると右と左から「くんかくんか」をされて俺のSAN値はピンチだ。


 今日、俺はこの獣人の森を去る。

 体術のレベルが、バフィトに「一人前だ」と認められる程に成長したからだ。

 この地で得られる力を身に付けた以上、俺がここに居る理由もない。

 森を出るまではヴェラが護衛をしてくれる。

 その後の事はヴェラも適当にやると言っていた。

 それはつまり、俺に付いてくる事もあれば、何処か別の地へ行くという事もある。

 まあ、俺としては何方でもいいのだが。


「じゃあ、僕はもう行きます」

「気をつけていけよ」


 別れを告げる俺の頭をティホンが撫でる。

 ティホンとは何故だか話が合って、仲良くなったのだ。

 まあ、中は子供ではないのでそのせいだろう。


「リラ、ニーナ、元気にな」

「うん、シャルルもな」

「シャルルも……元気で」


 リラに続いてニーナが言った。

 俺は二人の頭を同時に撫でる。

 これも本格的に癖になった。

 気付いたら撫でているレベルだ。


「リアナさん、お世話になりました」


 俺はリアナに深々と頭を下げる。


「いいのよ、あなたは息子同然だから。気をつけてね」

「はい」


 俺が頷くと、リアナが俺の顔を胸に押し付けた。

 むしろ挟まれた。

 甘い匂いがして、なんだか安心する。


「シャルルー、もう行くよー」

「はーい」


 馬車の御者台からヴェラが声をかけてきた。

 俺は皆に頭をもう一度下げると、ヴェラの隣に座った。

 手綱を叩きつける音がなり、馬が歩き出した。




――――――




 四週間と数日の移動の末、俺達が辿り着いたのは『ロンズデール王国』である。

 ロンデルーズ王国は、エヴラールの行っていた国だ。

 あれから数年経ったので、エヴラールはもういないだろうとヴェラは言う。

 それはその通りだろう。

 流石に二年も掛かる仕事をエヴラールが引き受けるとは思えないし。


 さて、この王国だが、観光するにはデカすぎる。

 一日では終えられないほどだ。

 まあ、一つの国だから当たり前だが。


 国や街ってのは壁で囲まれていて、出入りには門を通る。

 王国だけあって門番の数は見た限り十人を超えている。

 門も立派だし、この国を襲うにはかなりの勢力がいるだろう。

 って、何で襲うこと考えてんだ俺は。


 馬を預け、荷物を背負って宿に入る。

 流石は王国というだけあって、大きな宿だ。

 今まで泊まった物で一番大きい。


 カウンターのおじさんから鍵を預かり、部屋に向かう。

 取った部屋は一人用なのでシングルベッドだ。

 人と寝るのは慣れているので問題はない。

 荷物をおいて休憩をした所で、ヴェラが話を切り出す。


「さて、シャルル。この後はどうするつもりだ?」

「とりあえず討伐依頼等で経験を積みます」

「あぁ、それはいいかもね。ここの組合は世界で一番充実しているから」

「へぇ~、それは楽しみです。それで、ヴェラお姉ちゃんは?」

「私はねぇ……」


 ヴェラはしばらく考えこむ。

 時々、俺の方をちらりと見てくるのが気になる。


「別に、僕は一人でも大丈夫ですよ?」

「うぅん……シャルルが大丈夫でも、私が大丈夫じゃないんだよ……。シャルルと離れるだなんて、考えただけでも吐きそうだ」


 どんだけだよ。

 そこまで執心されると流石に引くなあ。


 そして、かなり、かなり長い時間悩んだ末、ヴェラは顔を上げて真剣な表情で俺と目を合わせる。


「私はシャルルを一人にする事にしたよ……強くなりたいなら、孤独が一番だ」

「それ、子供に言うことではないと思います」

「真面目な話、私はそれが個人の力を高める為の近道だと思うんだ。私もエヴラールも、あのアメリーさえも孤独をくぐり抜けて来た」


 これを言うのは失礼かもしれないが、アメリーも孤独だった時があったとは意外だ。

 エヴラールとヴェラは何となく想像できるが。

 あのアメリーがねぇ……。


「だから、お姉ちゃんはシャルルに独り立ちをさせてみようと思う」

「はい、分かりました、分かりましたけど……何でお姉ちゃんが泣いてるんですか」

「だってシャルルゥ! シャルルと離れるなんて! 心の中に穴を開けるような物だよぉ!」

「よしよし」


 俺はヴェラの頭を撫でてやる。

 すると、ヴェラはすぐに泣き止んだ。

 俺がビャズマで身に付けたのは乱暴な事ばかりではない。

 ヴェラを落ち着かせる技も身に付けたのだ!


「今晩も一緒にご飯食べて、一緒に寝ましょうね」

「シャルルはいい子だなぁ!」


 今度は俺が抱きしめられ、頭を撫でられる。


「こんなに大きくなって……」


 まるで久しぶりに会う育った息子に語りかけるかの様な優しい声でヴェラが言った。

 その声に俺は思わずドキリとしてしまう。

 気づけば俺もヴェラを抱きしめていた。


「下の方も成長したのかな?」

「台無しですよ!」


 俺は久しぶりに怒りを表に出し、声高らかに叫んだ。




 夜、近場の飯屋でヴェラと食事をした後、飲み過ぎてベロンベロンになったヴェラに肩を貸して宿に戻った。

 ヴェラに水を飲ませてから、少し座らせる。

 俺はその間に水浴びを済ませた。

 ヴェラは座りながら頭を鹿威しの様に動かしている。

 俺はヴェラをお姫様抱っこし、ベッドに寝かせる。

 彼女は俺よりも体が大きいが、俺は女性一人持ち上げる力はあるようで。


 一分もせずに本格的な眠りへと落ちたヴェラ。

 俺はベッドの端に座り、しばらく魔術で遊ぶ。

 俺の魔力はこの数年でかなり増えた。

 とりあえず使えば増える仕組みなので、使えばいいのだ使えば。


 一通り満足した所で俺も寝転ぶ。

 特に疲れていたわけでもないが、俺はすぐに眠りについた。




 翌朝、俺は未だ寝ているヴェラを起こさないよう、なるべく静かに筋トレを始めた。

 筋トレの後は、また魔術で遊ぶ。

 最近は氷や土でフィギュアなんか作っちゃったり。

 俺の中で一番の上出来は、この氷のク◯リャフカフィギュアだ。

 数カ所が歪になっているが、80パーセントは再現出来ただろう。

 後、フィギュアでは無いのだが、某黒の死神のマスクなんかも作ってしまった。

 すごくカッコいい。

 いやぁ、ほんと、ヘ◯さんカッコいいなぁ……。


「おはよぉシャルル。ご機嫌だねぇ」


 マスクを見ながらニヤけていると、いつの間に目を覚ましたヴェラに声を掛けられた。


「おはようございます。機嫌はとても良いですよ~」

「そうかいそうかい、それは良い」


 言いながら、ヴェラは立ち上がり、俺が予め用意した水を飲み干した。


「シャルルとも、今日でお別れだね」

「今日行くんですか?」

「うん、そうだよ。行く先も見つかったからね」

「そうなんですか……」

「寂しい?」

「ええ、まあ。何だかんだで長い付き合いですから」


 俺が言うと、ヴェラは後頭を掻いて苦笑する。


「そう言われると、離れたくなくなるなぁ」

「ダメですよ、一度決めたんですから」


 俺は立ち上がって、剣を腰と背中に差す。


「エヴラールと同じとこなんだねぇ」

「はい、尊敬してますから」

「私は?」

「もちろん、してます」


 エヴラールもヴェラも俺の尊敬の対象だ。

 エヴラールの剣術と攻撃力と面倒見の良さ、ヴェラの体術と速さと面倒見の良さは俺の目を惹く。

 二人共、俺の目標だ。


「そういえば、シャルル」

「はい?

「結局、私の胸は触らなかったね。別れる前に触る?」

「......はい」


 ヴェラも胸は大きい。

 興味がある。

 女の人は皆胸の感触が違うと聞く。

 男として、試さない手はないだろう。


「さあ、どうぞ」


 ヴェラが手を後ろにまわした。

 二つの山が俺に『触って』と語りかけてきているようだ。

 というか、もうヴェラの表情が『触って』と言ってるようなもんだ。

 手を後ろに回して、笑顔で胸を突き出してくるのだから。


「では......」


 俺はヴェラの大きな胸に、慎重に触れた。

 ふわりという感触は一緒だ。

 アメリーのとは、変わらない。


 だが、次に力を入れた時、俺は気づいた。

 かたさが違う。

 アメリーのよりも、弾力がある。

 俺の手を押し返す力が、アメリーのよりも強いのだ。


 気付けば俺は、両手を二つの胸に押し当てていた。

 そして、十本の指に力を込める。

 柔らかいのに、押し返してくる。

 なんだか、気持ちが良い。


「シャルルは胸が好きなんだね......」


 ヴェラが俺の頭を撫でてきた。

 そんな彼女は恍惚としている。

 なんだかそれが艶かしく思えてしまった。

 胸の間に挟まれるのとは、違う感覚だ。


「好きなだけ、触るといい」

「......はい」


 ヴェラの言葉に、返事をしてから、また手を動かし始めた。




 結局、俺は数十分程、ヴェラの胸を揉んでいた。

 胸の弾力を楽しんでいたのだ。

 俺の理性クンが『これ以上は拙い』と語りかけてくれたおかげで、俺はヴェラの胸から手を離す事が出来た。


「それじゃあ、準備するかなぁ」


 満足した表情のヴェラが、ストレッチをしながら呟いた。

 準備とは、旅の準備だろう。

 俺は手伝いをしながら残りのヴェラとの時間を過ごした。




 準備が終わり、ヴェラを門まで見送る。

 馬屋で馬を引き取り、ヴェラが御者台に乗る。


「ふぅ……それじゃあシャルル、元気でいるんだよ」

「はい、ヴェラさんもお元気で。それと、色々とお世話になりました」


 俺は深々と頭を下げる。

 俺の頭にヴェラの手が乗った。

 優しく撫でられ、少しだけ寂しくなってしまう。

 別れには慣れたものだと思っていたが……。


「じゃあ、また会おう」

「はい、ありがとうございました!」


 ヴェラは片手をひらひらと振りながら、門を抜けて国を出て行ってしまった。

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