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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第三章『情』
23/72

俺の友人と友人の姉が修羅場すぎる・前編

 ワイバーンの襲撃から半年ほどが経過した。


「ニーナ、そろそろ良いか?」

「だめ……」


 俺はベッドの上で、ニーナと言葉を交わした。

 何故『そろそろ良いか』と尋ねたのか。

 それは、俺の腹の上で、ニーナが丸まって寝ているからである。

 それに、匂いを嗅がれている。

 別に重くないから、そこは問題ない。

 だが、そろそろ朝食に行かなければ……。


「ニーナ、夜にまたやらせてあげるから、な?」

「……しかたない」


 ニーナは残念そうに、俺の腹から退く。

 俺の腹はベッドじゃないんだから、毎朝これは少しキツイな。

 俺も、男だし。

 いやいや、別に? 別に幼い女の子が俺の上で丸まって寝ているのに興奮しているとかそういうんじゃないよ? 俺は紳士だからそんな端ないことは考えないよ? なんていうの? ニーナの将来を思っての事だからね?


「シャルル……どうしたの?」

「ハッ! なんでもない!」


 ニーナが俺の顔を覗きこんできた。

 俺は咳払いをし、ベッドからおりて、着替えを始める。


「……ニーナ、頼むから、今は部屋から出てくれ」

「どうして……?」

「俺がニーナの着替え中に、そんな風に見ていたら嫌だろ?」

「……なるほど」


 ニーナは納得した様子で、部屋から出た。

 俺はすぐに着替えを済ませて、洗面所へと向かう。

 顔を洗ったら、ティホン宅へ行く。

 最近では、ニーナも朝飯をティホン宅で取るようになった。

 リアナは『多いほうが賑やかでいいじゃない』と言っていた。

 リアナがそう言うのなら、異議はない。


「おはようございます、ヴェラおね――むぐっ」

「はぁぁぁんシャルルぅ、今日も良い匂いだねぇ! ニーナの匂いが混ざっているけど、それでもシャルルの匂いは私の鼻を満たしてる! ありがとうシャルル!」

「ぷはぁ……どういたしまして……」


 言わずとも分かるように、これを毎朝されている。

 最近では苦しくなる前に解放してくれるので、ありがたい。

 おっぱいの感触を味わう余裕が出来たので、ありがたい。


「おはようございます、リアナさん」

「おはよう」


 俺はリアナに挨拶をして、朝食の準備を少しだけ手伝う。

 本当は一から手伝いたいのだが、朝はニーナのせいでいつも遅れてしまう。

 飯を食うだけなんて、なんだか申し訳ない。


 俺は食べ物の乗せられた皿をテーブルまで運んだ。

 この世界では、パンの皿、野菜の皿等に分かれて、好きな分だけ取る洋風システムなのだが、この家庭では、リアナが『誰が、どれを、どのくらい食べるのか』を決める。

 俺とニーナのは、バランスが取れているが、ヴェラやリラの皿は、野菜が多めに乗せてある。

 ヴェラにはいつも『あーん』をしてあげないと食べてくれない。

 リラはヴェラ程野菜嫌いではないのか、眉を寄せて黙々と食べる。


「お姉ちゃん、あーん」

「あーん」


 ヴェラは幸せそうな顔で、俺の差し出した野菜を口に入れた。

 もう野菜だという事すら忘れているのではなかろうか?

 まぁ、栄養を取ってくれるのであれば、それでいい。


「ご馳走様でした」

「えぇ、もう終わり? もっとシャルルに『あーん』ってしてほしかったよ……!」

「夕食まで待たないと駄目ですよ」


 俺は全員分の皿をシンクへと運んで、リアナの代わりに洗ってあげた。

 料理は手伝えないから、皿洗いは俺がやると、半ば強引に頼んだ。

 皿洗いは得意なんだ、意外と。

 俺は皿洗いを終えた後、バフィトと訓練をした。




――――――




 訓練後、リラに頼み事をされた。

 修行に付き合って欲しいというものだ。

 まぁ、やることもないので、了承した。


 場所はバフィトと訓練をする場所。

 バフィトが俺とリラの様子を眺めていながらの修行。

 なんだろう、あの人暇なのかな。


「よし、シャルル、行くぞ」

「はい、いつでも」


 最初はリラが攻め、俺が受けだ。

 カップリングではないぞ。


 俺が構えると、リラも右脚を後ろに下げて構えた。

 俺も魔力を全身に張り巡らせる。


 そして、音を発する事もなく、リラは俺の正面に突っ込んできた。

 しかも、正拳突きだ。

 正面から突っ込んで正拳突きって、それはないだろ。

 俺はエヴラールから教わったカウンター技で、リラを地面に叩きつける――事はせず、地面に直撃する寸前に片手で支えた。


「む……」


 リラは不満気に、俺を睨み付けてくる。


「正面から来るからですよ」

「かなり速い接近だから、当たると思った」

「過信は駄目ですよ」


 言いながら、リラを立ち上がらせる。

 すると、突然俺の体が地面に倒れた。

 リラは俺を見下ろしながら言う。


「油断もいけないぞ」

「気をつけます」


 苦笑気味で答えてしまったが、リラは俺に手を差し伸べた。

 立ち上がって、土埃を払う。


「さて、両者一本。続けましょう」

「ああ」


 結局、俺達は日が沈むまで組手をしていた。




 夜になり、何時も通り夕飯を食べて、何時も通り帰宅し、何時も通りニーナが家に来る。

 追い返そうとすると、泣きそうな顔になるので、入れてあげた。

 ニーナが俺の使っているベッドの匂いを嗅いでいる間、俺は風呂にはいる。

 何故、ベッドの匂いを嗅ぐのかについては、追求していないので分からない。

 別に、ニーナは俺に好意を持っているわけでもないようだし。

 おっと、別に鈍感系主人公を狙っているわけではない。

 これはちゃんと聞いたことだ。

 あれは数週間前の事……


『ニーナ、俺の事好きだろ』

『うん……』

『……うん、そう答えると思ってた。まぁ、なんだ、それは友達としてだよな?』

『うん……シャルルは……私の友達……。初めての……男友達……。だから……少し……特別』


 ……という会話があった。

 べ、別に悔しくなんかないんだからねっ!

 特別だって言われただけでも、最高に良い気分なんだからっ!


 と、色々な事を考えながら、俺のバスタイムは終わる。

 着替えてベッドに直行すると、ニーナがベッドの端にちょこんと座っていた。

 足をぶらぶらさせて、にこにこしている。


「どうした、ニーナ。上機嫌だな」

「うん……いっぱい……嗅いだ……。ご馳走……さま?」

「……お粗末さまでした」


 幼女にベッドの匂いを嗅がれ『ご馳走様』と言われるせいで、俺は何か新しい物に目覚めそうな気がする。

 ロリコンなのは、昔からだ。

 だが、これはまた、別のものだな。

 娘をもった気分だ……等と考えていると、誰かがドアをノックした。

 俺は剣を一本持ちだして、誰かを確認する。


「誰ですか」

「リラだ」


 リラがこんな時間に何のようだ。


「今開けます」


 俺は扉を開け、リラを入れる。

 リラは特に挨拶をする事もなく、奥へと入っていく。

 ベッドに座るニーナの前に立ち、何かを耳打ちした。

 ニーナが頷くと、リラは俺のベッドにダイブをする。


「……何やってんすか?」

「すぅぅぅぅ」

「……あの」

「すぅぅぅぅぅ」

「……エクスキューズミー?」

「すぅぅぅぅぅぅ……っはぁぁ」


 何してんだこの娘は。

 何をしているんだ……。


「本当だな、ニーナ」

「……でしょ」


 驚いた顔をするリラに、ニーナは得意気に返事をした。

 何が『本当』で何が『でしょ』なんだ。

 俺は今、引き攣った笑いをしている事だろう。


「シャルル、お前、良い匂いだな」

「お褒めにあずかり光栄です、リラ様」

「うん、シャルルには、『リラ』と呼ぶことを許可する。あと、堅苦しい敬語もいらないぞ」


 いきなり何でしょうか。

 彼女らには、匂いで何かを判断する能力でもあるのですかね?

 獣人族、恐るべし。


「まぁ、そう言うなら、リラと呼ぶけど、他の人達は怒らないかな?」

「大丈夫だ。文句を言う奴は私が黙らせるぞ。それに、言う奴もいないと思う。お前は村を救ったのだからな」

「そっか」


 年の割に、物分かりの良い娘だな。

 しっかりしている。

 正直、ヴェラよりも族長の素質があるんじゃなかろうか。

 等という失礼な考えは、今はしまっておこう。


「よし、今晩は三人で寝るぞ」

「……うん」

「じゃあ、二人で寝台を使ってくれ」

「何を言ってるんだ? シャルルもこっちだ」


 そう言って、何時の間にかポジショニングをしたニーナとリラが、二人の間をぽんぽんと叩いている。

 二人の間で寝ろという事だろうか。

 俺の体はまだ小さいから、可能だ。

 だけど、体は子供、頭脳は大人! なのだから、流石に幼女二人に挟まれて寝るというのは――


「分かった、寝るよ」


 俺のお口はとても正直。

 てへぺろ。




 翌朝、俺は締めあげられる感覚で目を覚ます。

 首に何かが巻き付いていて、力がこもっている。


「お、おい! し、しぬ、死ぬっ!」

「はむっ」

「ひゃいっ!?」


 途端、俺の耳が甘噛された。

 男らしくもない変な声をあげてしまったではないか。

 背中がぞくりとして、ピンク色の感情が込み上げてくる。

 耳を甘噛されて、首を絞められている。

 なにこれ、マニアック。


「に、ニーナ! 起きて、た、助けて!」


 俺は目の前で安らかな寝息を立てて眠る少女を起こそうと、出来るだけ大声で叫んだ。

 だが、「シャルルは……食べられにゃい」と意味不明な寝言を言うだけで、起きる気配がない。

 あ、死ぬかも。

 と、そう思った時、家のドアをぶち破って、何かが勢い良く飛んできた。

 そして、俺はリラの腕から解放される。


「大丈夫!? シャルル!!」


 ドアをぶち破ったのは、ヴェラだったようだ。

 俺の肩を掴んで、心配そうに問いかけてくる。


「だ、大丈夫です……死ぬかと思いましたが、お姉ちゃんのおかげで、なんとか」

「良かったよぉ、シャルルが死んだら私も死んじゃうからね」


 ヴェラは可笑しな発言の後、リラを叩き起こして、説教を始めた。

 長すぎてほとんど覚えていないが、説教のシメは、「次は私も一緒に寝るから!」だった。

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