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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第三章『情』
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唐突な訪れで・前編

 夕食後、寝ようと思いベッドに倒れこんだ時、誰かが家のドアをノックをした。

 重い瞼を持ち上げ、剣を一本持ち、扉を開けた。

 そこにいたのは、夕方に会った猫耳の少女だった。


「どうしたんですか」

「匂いで……わかった……」

「あ、はい、それは分かります。何の用でしょう?」

「今晩……泊めてほしい」

「はい?」


 俺はいつ美少女が家に泊まりに来るフラグなんて建てたんだ。

 リラならまだ分かるが、この猫耳は夕方に初めて会ったというのに。


「……だめ?」

「……どうぞ」


 困っているようなので、仕方なく中に入れた。

 ビャズマの夜は冷えるから、外に居させても悪いし。


「一先ず座ってください、色々聞きたいことがあるので」


 俺が言うと、彼女は黙って頷いた。

 俺はキッチンへ向かい、コップにお湯を注ぐ。

 ちなみに、魔術で作ったお湯だ。

 そして棚からココアパウダーを取り出し、スプーン三杯を入れた。


「どうぞ、冷めないうちに」

「ありがとう……」


 彼女は俺からコップを受け取ると、息を吹きかけた。


「それで、どうしたんですか? 家出とかですか?」

「……そう。どうして……分かったの?」


 家出少女、俺氏の家に泊まる。

 困りました、困りましたぞ。

 これは相手の家族と色々と揉めてしまう可能性があるんじゃなかろうか。


「まぁ、理由は聞きません、今晩だけですからね」


 俺が言うと、彼女は黙って頷く。


「とりあえず、名前を聞かせてください」

「……ニーナ」

「ニーナさんですか。僕はシャルルです」

「『さん』は……いらない。ニーナで……いい」

「分かりました」

「敬語も……いらない」


 注文が多いお方だ。

 まあ、お望みとあらば敬語はやめて差し上げよう。


 しかしまあ、泊めてあげるのはいいが、ベッドが一つしか無い。

 なら、選択肢は二つだ。

 俺がソファで寝て、ニーナをベッドで寝かせるか。

 俺とニーナで一緒に寝るかだ。

 俺としては、二人で一緒に寝たいものだが、会ったばかりの人とそれはマズイ。

 なら、俺はソファで寝るべきだろう。


「シャルル……リラの匂い……する」

「ああ、リラの家には飯を食べに行ってるからな」

「そう……」


 そして、彼女はココアを啜る。

 ……絡み辛い。

 猫耳で無口系なのね。

 いや、助かると言えば助かるが。

 にゃーにゃー煩くても嫌だしな。


「話題が無いので聞きますけど、何で家出なんか?」

「お父さんと……喧嘩。お父さん……魚……全部食べた」

「魚で親子喧嘩って……まあ、わかりました。ここに来たのはいいんですけど、匂いでバレないんですか?」

「……盲点」

「はぁ……」


 それって一番大事な事だと思うのだが。

 この村で家出なんかしても、すぐに見つかってしまうだろうに。

 まぁ、俺の場合は結界でも張ればいいわけだが。


「とりあえず、僕が何とかしたのでしばらくは見つからないでしょう」

「……ありがとう」

「いえいえ」


 ニーナはまだ飲んでいるようなので、俺は外に出た。

 外の空気を吸いたい気分なのだ。

 目を閉じて、耳を澄ます。

 聞こえるのは風の音と、虫の鳴き声。


「気持ち良いな」

「……いい」

「……いたのか」

「……いた」


 いつの間にか隣にニーナがいた。

 俺はなんというか、気配察知能力皆無だな。

 これも俺の弱点だ。

 克服しなければならないだろう。


「ココア飲み終わりました?」

「うん……ありがとう」


 ということなので、俺は中に入り、ニーナのコップを洗う。

 そしてニーナを寝室に案内し、ベッドに寝かせた。

 俺はまた外に出て、夜の風を浴びながら、魔術で遊んでいた。



 翌朝、ソファで寝ていた俺の上に、ニーナがいた。

 猫のように丸まって、俺の上に乗っている。


「ニーナ、起きてください」

「んにゃぁ?」


 ニーナは猫らしい声を上げると、目を擦り、俺の上から退く。


「おはようございます」

「……おはよう」

「一つお聞きしてもよろしいですか?」

「何……?」

「何で僕の上に乗っていたんでしょう?」

「……わからない」

「あ、そうですか」


 わからないって何ですか……。

 気になりますが、面倒なので、追求はしない。


「そういえば、ヴェラは来てないな」


 辺りを見て気づいたが、今日はヴェラがいなかった。

 いつもは朝起きると俺をがっちりとホールドしているのだが。


「ニーナ、僕はリラの家に行きますけど、一緒に来ますか?」

「行けない。匂いで……ばれる」

「大丈夫ですよ、僕が何とかしますから」

「……何とか?」

「はい、何とかです」

「なら……行く」


 簡単に信用されてしまったが、結果オーライ。

 俺はニーナの手を取り家を出た。


 俺がする『何とか』というのは単純な事で、俺の魔力をニーナに張り巡らせる。

 匂いも気配も魔力も完全シャットアウト――ではなく、俺の物が二つになる感じだ。

 同じ魔力が二つという不可解な点を見つけられない限りは、ニーナが匂いで見つかることはない。

 そして俺が触れていないといけない為、ニーナには辛い思いをさせてしまうだろう。

 食事中は地面を伝って送り込めば良いだろう。

 俺の消費魔力量が大きくなるが、切れる事はないだろうし。


「おはようございます」


 ティホンの家にノックをして、挨拶をする。

 ドアを開けたのはヴェラで、すぐに抱きついてきた。


「おはようございます、ヴェラお姉ちゃん」

「おはよぉシャルルぅ、昨晩は寂しくなかった? お姉ちゃんの温もりが恋しいとか思わなかった?  思ったよね? ごめんねぇ、リラが一緒に寝ようって言うからぁ……許してくれ! 今晩はちゃんと一緒に寝てあげるから!」


 抱きつくヴェラを引きずりながら家に入り、ティホン、リアナ、リラに挨拶をした。

 ティホンは何故だが武装をしている。

 短剣に皮の鎧や皮のグローブなんかをしている。


「何かあるんですか、ティホンさん?」

「ああ、魔物がたくさん出たらしくてな、今から討伐に向かう所だ」

「魔物?」

「ヘルハウンドの群れだ」


 ヘルハウンド、火を吐く黒い犬だと本に書いてあった。

 単体で三級、群れで二級の魔物だ。

 ヴェゼヴォルで数回相手にしたが、近づかなければ敵ではない。

 まあ、族長が出るのだし安心だろう。

 俺は大人しくしていよう。


「バフィトさんも出るんですか?」

「ああ、まぁな。ヴェラも出る」

「そうですか……」


 つまり、今日の訓練は休みか。

 やる事が無くなってしまった。

 リラやニーナの相手でもしてやるか。


「それで、シャルル、何故お前はニーナと手を繋いでいるんだ?」


 する事を考えていると、リラが尋ねてきた。


「ニーナは家出中なんです」

「それとお前とニーナが手を繋ぐのと、どう関係があるんだ?」

「それは秘密です」


 自分が魔術を使えることは知られたくない。

 エヴラールだけでなく、アメリーやヴェラにもあまり知られないほうがいいと言われている。

 理由は聞けなかったが、俺もそれには賛成だ。

 この世界において魔術と剣術、そして体術まで身につけようとしていようものなら『中途半端者』のレッテルを貼られかねない。

 一つの事を極める事が重要視されているのだ、この世界では。


「ほら貴方、早く食べちゃいなさい」

「おう、すまんな」


 リアナがティホンを促す。

 ティホンは朝食を口に詰め込むと、急ぎ足で家を出て行ってしまった。

 それに続くようにヴェラも俺から離れて家を出た。


「ほら、シャルル君達も食べちゃって。ニーナちゃんの分もあるから安心して」

「ありがとうございます」


 礼を告げて椅子に座る。

 一旦、床を伝ってニーナに魔力を張ってから手を離した。

「いただきます」の掛け声と共に、俺達四人は食事を始めた。



 食後、俺はまたニーナの手を取り、魔力を張る。

 家に結界でも張ればいいんじゃねとか思うかもしれないが、それではリアナやリラの匂いが突然消えたことになる。

 族長兼村長の妻と娘の気配がいきなり消失したとあらば、村が騒ぎかねない。


「それじゃあ、僕達はこれにて失礼します。ニーナの親が訪ねても白を切ってくださるとありがたいです」

「分かった、任せて」


 リアナにお願いし、俺達は二人で家に帰る。

 家には結界を張っているので、リラックス出来るのだ。

 やりたい事もあるしな。


 家に着いて、俺はニーナをソファに座らせた。

 ココアを差し出し、隣に座る。


「ニーナ、親とはちゃんと仲直りしろよ?」


 俺は考えさせすぎないように気軽に言った。


「……わかってる」

「うん、ならいいんだ」


 親との喧嘩は子供の間によくある事だが、大人になって笑い話に出来る。

 だが、仲直り出来なければ笑い話でもなんでもない。

 まあ、これはただの魚での喧嘩だから、仲直りなんてすぐだろうがな。


「――ぐ」


 立ち上がろうとした俺に突然眠気が訪れ、俺の意識は途絶えた。

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