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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第三章『情』
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犬耳尻尾で・後編

 飛んでくる攻撃を躱していると、隙を突かれて額に拳が当たった。

 視界が揺れてリラを見失う。


「あがぁッ!」


 腹に数発の突き、そして顎を蹴り上げられた。

 俺は仰向けに倒れ、「何でもしてやるぞ」の一言で意識を繋ぐ。

 頭と腹に治癒を施し、視界がはっきりとしてくる。


 立ち上がろうとした時、顔面に足の裏が直撃し、俺は後方に飛ばされた。

 受け身を取り、立ち上がってリラの対処法を考える。

 正攻法では勝てない。

 だが、魔術で直接攻撃しては、リラが傷付く。


「ぐっ……!」


 リラの攻撃をぎりぎりで躱せずに、肩に当たる。

 まだ子供だというのに重い攻撃だ。

 流石はヴェラの妹だな。


 俺は脚に魔力を集中させ、走りだした。

 俺の後をリラが追う。

 攻撃を躱しながら逃げまわり、周囲を確認してから立ち止まった。

 リラの腕が俺の顎を目掛けて飛んでくるが、リラが突然バランスを崩し、凄い勢いで転倒しそうになった。

 俺はリラを正面から抱きとめ、首にナイフを突き付けた。

 今日は二本の剣を家に置いてきたので、これは旅の途中で買ったナイフだ。

 腿に常備してある。


「な……」


 リラは絶句している。

 何が起こっているのか分かっていない様な顔だ。


「僕の勝ちですね」


 バフィトに目をやると、ゆっくりと頷いた。

 俺がしたのは簡単な事だ。

 走り回っている間に地面に石を置いただけだ。

 全部違う大きさの物。

 それに躓くように位置取りをし、リラの攻撃を誘っただけだ。

 俺はリラを傷付けることなく勝利した訳さ。


「いやぁ、何でもしてくれるんですよね~、楽しみです、何をさせましょうかぁ……」

「今のは偶然転んだだけだ! 無しだ!」

「いいえ、シャルルの勝利です、リラ様」


 リラの抗議をバフィトが蹴った。

 バフィトには俺のした事が見えていたのだろう。

 俺にウィンクをしてきた。

 何て良い人なんだろうか……。


「むぅ……仕方がない、お前の勝ちにしよう」


 意外とすんなり受け入れたな。

 もう少し粘るかと思ったが。


「約束通り、何でも言うことを聞いてやる」

「そうですね、僕の訓練の後にしましょう」

「分かった、じゃあ後で」


 そう言い残し、リラは村の中央へと走っていった。

 俺はバフィトへ振り向き、苦笑交じりに聞く。


「村長の娘が僕の言う事を何でも聞くそうですよ?」

「度が過ぎていなければ、仲を深める為の遊びとして多めに見るさ」

「度が過ぎればどうなるんです?」

「賢いお前なら分かるだろ」


 一瞬だけ殺気を感じた。

 まあ、タダでは済まないだろうな。

 村長の娘に手を出したとあらば、全員で俺を殺しに掛かるだろう。

 トラブルはなるべく避けたいので、程よく楽しめる物にしておこう。


「じゃあ、訓練を開始する」

「はい、よろしくお願いします!」






 訓練後、俺はティホンの家へと向かった。

 ノックをすると、リアナが友好的な笑顔を浮かべて迎え入れてくれた。


「ふがっ」


 突然視界が真っ黒になり、女性独特の良い香りが鼻を刺激した。

 柔らかいものが俺の顔を覆って、俺は今とても幸せ。

 幸せすぎて死ぬんじゃないかと思う。


「っぷはぁ! ヴェ、ヴェラさん……!」

「どう? 死ななかったでしょシャルル! ギリギリ死なないようにするからね、これからは!」

「ギリギリって、もう少しお手柔らかにお願いしますよ」


 後頭を掻きながら中に入ると、リラがソファで寛いでいるのが見えた。

 俺はゆっくりと歩み寄り、下衆い笑いを作って見下すように言う。


「来ましたよ」

「ひっ……そ、その顔はやめろ!」


 本気で怖がっているのか、肩が小刻みに震えている。

 怖がる女の子もまた可愛いものだな。

 しかし、あまり遊びすぎるとトラウマを植え付ける可能性があるので、ここらで止めておく。

 いつもの笑顔を浮かべて、俺はこう告げた。


「では、リラ様、あなたの本日一回目の私からの命令は……」

「……命令、は?」


 俺は焦らしたまま暖炉前に胡座をかき、膝を叩いた。


「こちらに座っていただきましょう」

「はぇ?」


 俺が言うと、リラが間抜けな声を出した。


「そ、それだけか?」

「はい」

「そうか、変なやつだな……」


 言いながら、リラは俺の膝と膝の間にちょこんと座る。

 俺の鍛えられた体のせいなのか、リラが子供だからなのか、軽く感じる。

 こんな軽い体でどうやってあのパンチを繰り出したのか、不思議に思う。

 これだけでは物足りないので、俺はしがみつくように抱きついた。

 リラの体温、匂い、心臓の鼓動を感じる。

 人生で初めてやったが、気持ちが良いものだな。

 人肌は何故だか安心するものだ。




 俺はいつの間にか寝ていたようで、鼻を刺す食べ物の匂いで目を覚ました。

 リラも一緒に寝てしまったらしく、今も静かに寝息を立てている。

 俺は膝の裏に腕を回し、お姫様抱っこでソファまで運んでやる。

 男っぽい口調だが、寝ている時は普通の女の子だ。

 いや、耳と尻尾があるから普通では無いな。


「シャルルはリラの方が好みか?」


 リラの寝顔を見つめていると、ヴェラが話しかけてきた。


「いいえ、僕は何でもいけますよ、同性でなければ。ヴェラさんも魅力的だと僕は思います」

「シャルルはいい子だなぁ!」


 そう言って後ろから抱きついてきた。

 今までは正面から抱かれていたので気付かなかったが、ヴェラは匂いも嗅いでいる。

 すんすんと嗅いでは頬ずりの繰り返しだ。

 顔にはヴェラの柔らかいほっぺた、背中にはヴェラの柔らかいおっぱい。

 最高だね。


「ご飯が出来ましたよ」


 しばらくして、リアナが機嫌の良さそうな声色で言った。

 もうしばらくリラの寝顔を見ていたいが、ご飯ならば起こさないといけない。


「リラさん、起きてください」


 声をかけながら頬を軽く叩く。


「ふぁぁ~」


 リラは欠伸をしながら体を起こし、俺の顔をしばらく見てから立ち上がった。

 そして、テーブルへゆっくりと歩いて行く。

 全員が席に着いた所で、夕飯を頂いた。




――――――




 翌朝、ヴェラにまたマッサージをお願いし、ヴェラと共にティホンの家へと向かう。

 朝食を済ませ、バフィトと訓練をした後は暇な時間が出来る。

 折角なので、村を適当に歩く事にした。

 ティホン宅は村の中央――大樹のすぐ側に作られている。

 そこから時計回りに移動しよう。



 数時間歩いて休憩を取る。

 気付いた事と言えば、この村には店が一つもない。

 獣人の方に聞いた話、食料は自分で確保する物らしい。

 まあ、獣人の彼らならば狩りなど余裕だろう。


 獣人の方々で思い出したが、ここには犬耳だけがいる訳ではないようだ。

 俺が今まで見てきた獣人はどちらかと言えば狼だが。

 ティホンの家から東側は犬耳が多く、西側は猫耳が多いと言った感じだ。


「さてと、帰るか」


 する事も無くなったので、家に帰ることにする。


「よっこら――」

「んにゃっ」


 座っていた石から腰を上げた俺の背中に誰かがぶつかった。

 振り返ると、猫耳と尻尾を生やした獣人さんがおられた。

 茶色のショートヘアにくりりとした眼の美少女だ。

 リラと同い年くらいのロリである。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫……。あなた、人間……?」

「はい」

「……珍しい」

「お邪魔してます」

「黒髪……触って、いい?」

「あ、どうぞ」


 俺が少し屈むと、猫耳は俺の頭を撫でた。

 髪の毛を指に巻いたり、くしゃりと掴んでみたりしている。

 黒髪ってのは、この世界では珍しい方なんだとエヴラールもアメリーもヴェラも言っていた。

 俺からすれば真っ赤な髪や水色、金色の方が慣れないのだが。


「ありがとう……」


 猫耳は満足したのか、俺の頭から手を離すと、どこかへふらりと行ってしまった。


「慣れなきゃいけないのかねぇ」


 黒髪というだけで視線を向けられるのはよくある事だが、未だに慣れないでいる。

 だが、俺は慣れなければならないのだろうな。

 面倒だが、この世界で生きていくにはそうするしかない。


 その後、俺は家に帰り、魔術で遊んだ。

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