犬耳尻尾で・中編
ティホンと食事をした次の日の朝。
俺はベッドの上でヴェラにお願いごとをした。
「あっ、お、お姉ちゃ……んっ、はぁ、んぅ」
「そうか、ここがいいんだねシャルル」
ヴェラは意地悪な笑みを浮かべ、俺の気持ちのいい所に触れる。
掌と指を使って俺の体を刺激している。
「くっ、あぁ……もう、ゆるひて」
「ふふ、シャルルは可愛いな」
快感が俺の体を覆い、今にも昇天しそうな思いだ。
ヴェラの動きは徐々に激しくなっていき、俺の喘ぎが寝室に響く。
「ヴェラさんっ、もっと、もっと強くしてくださ……っ!」
「お望みとあらば! ほら! ほら!」
「っく、ふぁ……!」
ヴェラは恍惚な表情で、手を激しく動かしている。
指が俺の感じやすい部分に当たる度に、体が跳ね上がってしまう。
「さあ、これでフィニッシュだよ!」
「っ……! はぁ、はぁ……」
ラストスパートで俺の全体が快感の渦に呑まれた。
ヴェラのテクニックがここまでとは知らなかった。
今度もう一回してもらおう。
「ありがとうございました。まさかヴェラお姉ちゃんがここまで上手だったとは知りませんでしたよ。最高な揉み療治でした」
「いやいや、私はとっても良い物が見れて聞けたから、して欲しい時はいつでも言ってくれるといいさ」
リアナ云わく「筋肉が凝り過ぎている」らしく、実際にヴェラにマッサージしてもらったのだが、言われた通り凝っている部分は多かった。
リアナがヴェラに頼んだ理由が分かった気がする。
彼女のテクニックは一級品だ。
マッサージの後は、村長の家へと向かう。
体術の師匠を紹介してくれるのだ。
ヴェラではないのかと聞くと、ヴェラでは甘やかしてしまうとの理由でいけないそうだ。
ヴェラの技術はハイレベルだが、俺は甘やかして欲しくはない。
普段はそれでもいいのだが、力を付ける時は厳しいほうがいい。
エヴラールはマネジメントも上手いし、動きの良し悪しも判断できる良き師匠だった。
「こんにちは、ティホンさん」
「お早うシャルル、昨日はよく眠れたか?」
「はい、それはもう」
昨晩は久しぶりの風呂でほっこりしたのだ。
ぐっすりでない訳が無い。
いつの間にか隣で寝ていたヴェラの事など気にせず眠れたさ。
「朝食を取っていくといい、紹介はその後だ」
「ありがとうございます。……ぼうっとしてないでください、ヴェラお姉ちゃん」
未だ恍惚な表情を浮かべるヴェラの手を引き、村長の家へと足を踏み入れる。
キッチンではリアナが朝食を作っていた。
俺達三人は席に着く。
「おはよう、シャルル君」
「おはようございます」
俺の前に朝食の乗った皿を置いたリアナが挨拶をした。
リアナとは昨晩、和解できたと思う。
俺に恐怖を見せることもなくなったし。
堪えている可能性もあるが、それは考えないようにしよう。
「いただきます」
四人が揃った所で、食事を始める。
今気づいたが、テーブルは一つ、椅子は四つ。
つまり、この家族は四人家族か。
だが、昨日からもう一人の姿を見ない。
「あの、もう一人の家族の方は?」
「ああ、私の妹なんだけど、今は友達の家だよ」
俺の質問にヴェラが答えた。
妹がいるらしい。
ヴェラもリアナも美人だから、きっと妹も美人なのだろう。
見るのが楽しみだ。
談笑しながら朝食を終え、寛いでいると客が訪れた。
ティホンが対応し、家の中へ入れる。
入ってきたのは茶色の髪をした男。
もちろん獣人なので、尻尾と獣耳がある。
俺と視線が合うと、男は俺の手を引っぱった。
「シャルルゥゥゥ!」
後ろからヴェラの叫び声が聞こえるが、追ってくる気配はない。
ちらりと後ろを見ると、ティホンに取り押さえられていた。
男に連れて来られた先は村の中央から離れた平地だ。
俺は魔力を体全体に巡らせた。
「そいじゃ、自己紹介。俺はバフィト、お前に体術を教える事になった」
「えと、僕はシャルルです。よろしくお願いします」
頭を軽く下げると、手を差し出された。
俺はそれを握ろうとするが、
「――シュッ!」
予想通り、バフィトは俺に攻撃を仕掛けた。
魔力で強化された視覚と聴覚で、中段と上段に同時に飛んできた拳を躱す。
一瞬でバフィトは俺の背後に回り込んだ。
俺は屈み、回転して足払いをするが、難なく避けられるてしまう。
脚に魔力を集中させ、加速。
一瞬で間合いを詰めて腕に魔力を集中、正拳突きを繰り出した。
かなり早いパンチだったが、手首を捕まれ、重心を崩される。
「ぐッ!」
頬に衝撃。
俺は吹っ飛び、背中に衝撃が伝わり、前方に飛ばされる。
気づけば俺の腹には拳がめり込んでいた。
「かはァッ!」
頬と背中と腹が痛む。
意識が遠のく思いだが、耐えた。
そして痛む箇所に魔力を送り、心の中で「治癒」と唱える。
痛みが少しずつ引いていき、息も整ってきた。
「無詠唱……」
バフィトがぽつりと呟いたのが聞こえた。
無詠唱よりも驚くのはこいつの動きだ。
一瞬で回りこんで、気づけば攻撃が当たっている。
ヴェラより速いかと聞かれればそうではないと思うが、それでも速過ぎる。
俺もこのぐらい動ける様になりたいが、種族固有魔術のコピーは出来なかった。
まあ、俺は人間だから仕方がない。
「速すぎですよ、バフィトさん」
「いや、ガキのくせに数回は俺の動きに反応したお前も中々だ」
「ありがとうございます」
「まあ、実力は分かったから教える物も絞れたな」
そして、本日より俺の体術強化特訓が始まった。
――――――
「いってぇ」
翌朝、体を起こした俺の第一声。
思った以上にハードな特訓で全身が筋肉痛だ。
「おはようシャルル、今日も私が揉んであげるからね」
口元を綻ばせながらヴェラが言った。
断る理由も無いので軽い気持ちで頼んだのだが……。
「あいでででで! 痛い! 痛いです!」
予想以上に痛かった。
昨日は程よく気持ちのいいマッサージだったので、喘ぐ余裕があったのだが、これは叫ぶしかない。
痛がる俺の姿を見て鼻息を荒くするヴェラも危ない。
ドMだと思っていたが、ドSでもあるらしい。
困った人だ、本当に。
マッサージの後は村長宅で朝食を取った。
リアナの作るご飯は美味しいので、俺は満足。
今日もヴェラの妹はいなかった。
朝食後は昨日の平地でバフィトと特訓だ。
俺は準備運動を挟みながら移動していた。
「おい、そこの黒髪」
そんな時、後ろから声をかけられた。
振り向くと、銀色の髪を短く切った、ヴェラと顔立ちの似た少女が俺に指を指していた。
「なんでしょう?」
「私はお姉ちゃんの妹だ。だから、お前にお姉ちゃんをお姉ちゃんと呼ぶ資格はない」
まあ、予想通りヴェラの妹だった。
俺がお姉ちゃんと呼ぶのはヴェラしかいないし。
ていうか、何なんだ。
いきなり『資格はない』とか言われてもな。
こっちだって呼びたくて呼んでいる訳ではないというのに。
「いや、でも僕そう呼べって言われて――」
「お姉ちゃんをお姉ちゃんと呼びたかったら、私と勝負をしろ」
「断ります、別に呼びたいわけじゃ無いので。では、また今度」
「んなっ!?」
正直、今はそんな場合ではない。
ヴェラの妹との交流はそれはもう楽しみで仕方がないが、バフィトが待っている。
「私に勝てたら今日一日、何でもしてやるぞ」
「ん? 今何でもするって……? 分かりました、その勝負受けて立ちましょう」
「ど、どうしたんだ、いきなり……まぁいい、私に付いて来い」
そう言うヴェラ妹の後ろに続いた。
言い訳させてもらうなら、「本能だから」としか言いようがない。
異性に「何でもする」と言われて断れる男はいないだろうよ。
いたらそれは、まあ、ソッチの方なんだろう。
して、俺が連れて来られたのはバフィトの居る平地だった。
「あれ、バフィト、何でここに?」
ヴェラ妹がバフィトに尋ねた。
「リラ様、自分は昨日からそちらのシャルルの先生をしているのです」
どうやら、彼女の名前をリラというらしい。
「えっ、そうだったのか……まぁいい、今日はこのシャルルと戦うんだ」
「それまた何故です?」
「お姉ちゃんをお姉ちゃんと呼んでいるのが気に食わないから、かな?」
「分かりました、ではご武運を」
会話を終えたバフィトは俺達から数十メートル離れた場所まで下がった。
俺とリラは対面し、リラは俺を睨みつけ、俺は苦笑を返す。
「バフィトー! 合図を出してくれ!」
リラがバフィトに向かって叫んだ。
バフィトは腕を前に伸ばし、静止する。
俺とリラを交互に見てから、腕が上がった。
その瞬間、リラが俺の目の前から消えた。
こんな子供でも一瞬で視界から消えるという芸当が出来るというのか。
「おっと」
俺は予め全身に魔力を巡らせて、視覚と聴覚を強化させていたので、後ろから迫る攻撃を回避。
姿勢を低くし、戦闘態勢に入る。