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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第二章『温もり』
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  挿話 『青年』

ただのおまけ。読まなくても問題なし。

「ねぇねぇ、聞いてくれる? 『教会』にも報告する事なんだけどさ」


 顔の整った好青年は、狂気的とも無邪気とも言える表情で、隣にいる男に語りかけた。

 男は面倒くさそうに「うるせぇな、なんだよ」と問い返す。

 青年は流れる街の景色に目をくれる事なく、嬉しそうに話し始めた。


「僕、今日出会ったんだ」

「出会った?」

「そう! 『魔神』に!」

「――何!?」


 男は目を見開き、驚きを露わにする。

 青年はそんな男の様子を見て、より一層表情を明るくさせた。


「まだまだ弱い。戦ったけど、雑魚だったよ。それでも、将来有望だね」

「戦ったのか!?」

「うん。戦っちゃった」

「クッソ。俺も相手したかったなぁ。魔神っていうからには、それなりの見た目なんだろうな?」

「いいや、ガキだったよ。五歳か六歳ぐらいじゃないかな」

「はぁ!? なら『決行』まで長ぇじゃねぇか」

「そうなるね。『教会』は彼に厳しくするだろうねぇ……。一体どんな試練を与えるんだろ」

「さぁな。やっぱ、親しいやつを殺すのは確定だろ」

「だね、それも目の前で! あっはっはっ!」


 青年が笑うと、それに釣られるように、男も笑った。

『教会』を名乗りながらも、その笑いは、『悪魔』のそれに近かった。

 二人は道の真ん中にいた為、視線が注がれる事になってしまったが、そんなのはどうでも良いと言った感じだ。

 高らかに、狂ったように、笑い声を上げた。


「――っはぁ、お腹痛い」


 しばらくして、二人は息を整える。

 目尻には涙がにじみ出て、笑ってはいけないシリーズを見た後のようになっている。


「それで、戦った後、どうしたんだ?」

「逃してあげるついでに、獣人の森へ行くよう教えたよ」

「まぁ、必須だな」

「いやぁ、成長が楽しみだ。ここまで心が踊るとはね……!」

「かぁ、ずりぃなぁ。クッソ。俺も会いたかったなぁ」


 男は本当に悔しそうに、アイドルの握手会を仕事で潰された時の様に、苦い表情をした。

 青年はそんな男を見ても、表情は笑顔のまま。

 喜びに満ちた表情のまま、青年は「でも」と付け足す。


「会うと惚れちゃうよ? 彼、『無味無臭』で『白紙』で『純粋』だから」

「いいねぇ。穢したくなるねぇ」

「それは教会の一員として、問題ある発言だと思うよ」

「いーんだよ、気にすんじゃねぇ。俺らはそういう組織だろうがよ」


 男が言うと、青年は「そうだね」とだけ答え、嬉しそうに笑った。

 青年はただ、楽しくて仕方が無かったのだ。

 青年の所属する『教会』なんてのはどうでもよく、彼個人が純粋に楽しんでいるのだ。

 クリスマスプレゼントを期待する子供のように。ただ、楽しみで仕方が無い。


「ああ、そういえば」


 唐突に、青年が口を開く。


「彼、『魔王』と接触したみたいだね。『魔王』から魔石を貰っていたよ」

「チッ、あの野郎。見つけるの早いな」

「まあ、計画に変更は無いと思うよ。計画には『魔王』や『吸血鬼』の妨害だって考慮されてるはずだからね」

「たしかに、あいつらじゃ、止められねぇか」


 先ほどまでの嬉笑は、嘲笑に変わっていた。魔王の接触が何の意味も成さなかった事に対して。

 そして、これからも、魔王が何をしたところで、『終末』は免れないだろうと。

 魔神。教会。青年。終末。白紙。計画。魔王。吸血鬼。

 シャルルは、その全てを知る事になる、『選ばれた人間』なのだ。


「いや、本当。楽しみだな……もっと、成長してくれよ?」


 青年は聞こえるはずもないのに、シャルルに語りかけた。

 子供が楽しくて笑顔になるように、爽やかで、自然な笑顔で。


「へぶしっ!……あぁ、ったく、シャルルさんの体は花粉症持ちですかぁ?」


 そう。シャルルに聞こえているはずもない。

 声は届かずとも、言葉の念というのは存在するのかもしれない。

『嘘から出た真』といった言葉があるように。


 シャルルは、青年のその後を知ることも、興味を示すこともなく、アメリーやクロエと獣人の森『ビャズマ』へ旅立つまでの時間を過ごした。

『魔神』は、青年との接触により、本格的に、動き出したのだ。

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