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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第二章『温もり』
16/72

新しい目標で・後編

「旅の準備が出来たって、随分早かったですね」

「まあ、西に真っ直ぐ進むだけだもの。でも、手は抜いていないわよ」

「手は抜いていない?」


 俺が聞くと、アメリーは豊満な胸を張り言う。


「シャルル君には護衛がつくの」

「ご、護衛?」

「ええ、私の知り合いだから安心して」

「は、はあ……」


 一人旅を想像していたが、やはり子供一人では心配だったのか。

 アメリーの人の良さが伝わってくる。


「出発は明朝よ、シャルル君も準備する物があるなら今日中にね」

「は、はい、ありがとうございました」


 礼を告げると、アメリーは女神スマイルを浮かべて俺の頭を撫でた。

 そして、アメリーは勉強部屋へと向かって行った。


 俺は早速、街に繰り出す。

 食料も積まれている事だろうが、お菓子はないだろう。

 今のうちにたくさん買っておこう。


 そう思い、俺はパン屋でお気に入りのパン達を大量に買った。

 パンの後は、服屋へ向かった。


 エヴラールは指貫グローブをしているのだが、俺は素手だ。

 でも、指貫グローブは俺の右腕の封印が解かれる可能性があるので、止めておく。

 俺が買うのは、黒い革の手袋だ。

 手にフィットして握りやすいし、特殊な皮で出来ているので寒さも暑さも防ぐ優れ物だ。

 今の俺の装備は『フード付き黒布外套』『黒布の首巻き』『ダボダボ黒布ズボン』『ダボダボ黒布服』『黒皮防寒防暑グローブ』『茶色皮紐付きブーツ』だ。

 攻撃力は相変わらず低そうだが、動きやすいので満足している。

 服装はエヴラールを真似ていたりするのだ。

 師弟関係にあるのだから、お揃いでも問題あるまい。


 そして、最後に向かうのは、小物屋。

 俺が買うのは、洗濯桶だ。

 旅の途中、洗濯は必要になる。

 アメリーが用意していないとは思えないが、念の為だ。

 二つあっても差し障り無いだろう。



 孤児院に戻り、夜。

 剣の手入れを縁側でしていた。

 隣には何故かクロエがいる。

 彼女はここ最近、手入れの様子をじっと見ているのだ。

 折角なので、俺が明朝に出発することを告げる。


「クロエ、俺明日の朝に出るから」

「へぇ……へえっ!? えっ!? な、なんで! いきなりだよ! どうしてもっと早く言ってくれなかったの!」

「俺も今日の昼頃に言われたんだよ」

「そ、そんなぁ……」


 クロエは頭を落とし、暗い表情になった。

 そっとしておいてやろうと、俺は剣の手入れを続けた。

 しばらくして、クロエは顔を上げ、俺の手を握る。


「シャルル! 私との約束、忘れないでねっ!」

「約束? なんだっけ?」

「えっ……」


 俺が恍けると、クロエは泣きそうな顔になった。

 泣きそうな顔も最高に可愛い。

 もっと意地悪してやりたくなるのを必死に堪えて、クロエの頭に手を乗せた。


「冗談だよ、分かってるって」

「うぅ、本当?」

「ああ、クロエの事は忘れない、絶対に」

「うん……」


 そして、会話が途切れる。

 俺から言うことがないのと同じように、彼女にもあまり言うことがないのだろう。

「あれが楽しかったね」「これが楽しかったね」なんて話題にしても、寂しくなるだけ。

 だから、彼女も話題を探すのに困っているのだろう。


「クロエ、今夜一緒に寝るか?」


 手入れを終えて、剣を鞘に収めながら聞いた。


「うん」


 クロエは即答し、後頭を掻いた。

 女の子と一緒に寝る、いい響きじゃないか。


 して、俺はクロエと一緒に夜を過ごしたのであった。

 子供の身故、やましい事はしてないでござる。




――――――




 翌朝、珍しくクロエが早起きをしていた。

 髪は既に整っていて、いつでも外に出られるような格好だ。

 まさかとは思うが、付いてくるわけではあるまいな。


「おはようクロエ、どうしたんだ今日は、早いな」

「うん、お見送りしようと思って」

「見送るだけか?」

「うん、見送るだけ」


 との事なので、俺は安堵の息を吐く。

 俺は洗面所へ向かい、顔を洗って、首の下まで伸びた髪の毛を切った。

 ハサミはないが、ナイフはある。

 前世では床屋に行くのが面倒で、自分で切る事を覚えてしまった。

 ハサミじゃないので少し下手にはなるが、格好悪くはならないから問題はない。

 それに、その内慣れるはずだからな。


 身支度をした後は、院長室へ向かう。

 アメリーはコーヒーを啜っていた。


「おはようございます、アメリーさん」

「おはよう、シャルル君。昨日は良く眠れた?」


 アメリーが笑顔で尋ねてきた。


「ええ、とっても」


 幼女を隣にし、内心ドキドキしていた事は内緒だ。


「そう、準備はできているの?」

「今からでも出れますよ」

「なら、行きましょう」


 俺はアメリーに続いて孤児院の外に出た。

 俺の後ろにはクロエがいる。


 孤児院前の道には幌馬車が停めてあった。

 アメリーが幌の中に顔を入れ、誰かと会話をする。


 しばらくして、馬車から顔を出したのは銀色の髪を短く切った、胸の大きい色白の美女だった。

 銀髪の美女は俺の顔を見ると突然抱きついてきた。


「あああんもうっ、なんだこの子はぁぁ!」


 耳元で叫ばれ、耳を押さえる。


「アメリー! この子は私が息子にするよ!」

「やめなさい、ヴェラ、困っているでしょう」


 ヴェラと呼ばれた銀髪の人は俺に頬ずりをして、体中をべたべた触ってくる。

 整えたばかりの髪の毛をわしゃりと撫でて、俺を持ち上げて下し、両手を握られる。


「ど、どうも、シャルルと申し――」

「そうか! そうかぁ! シャルルかぁ! いい名前だな! シャルル、私の息子にならないか?!」

「な、なりませ――ふごっ」


 突然視界が真っ暗になり、顔中を柔らかい感触が覆う。

 良い匂いがするし、とても柔らかい。


「ふご、んぐっ!」


 昔、友人と話していた時に、「胸に顔を埋めて窒息死するのが夢なんだ」なんて言っていた事もあったが、この夢が叶われようとしている今この時、俺は全力であの言葉を撤回したいと思った。

 良い匂いで柔らかくて気持ちいいのだが、とにかく苦しい。


「ん……む……」


 あ、死ぬかも。


 そう思った時、俺は光を見た。

 女神が俺を救ってくれたのだ。

 銀髪の女は女神の腕の中で暴れている。


「ヴェラ! もうすぐでシャルル君が死んでいるところだったわ!」

「――ハッ! む、息子を殺すところ、だった……?」

「危うく窒息して死ぬ所だったし、彼はあなたの息子ではないの!」

「何を言うんだアメリー! 彼は今この時この瞬間から私の息子となり大きくなれば私と結婚してあわよくば子供なんか作っちゃって家族円満楽しい生活を送って私は彼と共に死ぬの!」

「シャルル君が納得していないでしょう!?」

「何を言っているんだ!? シャルルはちゃんと承諾してくれるはずだ! ねえ、シャルル!?」


 ヴェラは興奮した様子で俺に視線を送ってくる。

 俺はゆっくりと顔を逸し、何も聞かなかった、何も見なかった事にした。


「えっ、シャルル!? ちょっと! 私の目を見て! 見ないとお姉さん死んじゃうから! 自害しちゃうから! いいの!? 死んじゃうよ!?」


 ヴェラの声を無視して、後ろから聞こえる鼻をすする音でクロエの方に顔を向ける。

 クロエが怯えた表情で俺達から距離を取り、涙を目尻に溜めて震えている。

 今にも泣きそうなクロエだが、彼女の目にはヴェラはどう映っているのだろうか……。

 俺はゆっくりとクロエに近寄り、頭に手を乗せた。


「どうした、クロエ」

「あ、あの人、こ、恐いよ……!」

「ああ、うん、あぁ……とっても恐いな。ああいう人には絶対に関わっちゃいけないぞ?」

「シャルル! 聴こえてるよ! 私は耳がいいんだよ?!」


 耳がいいのだと主張するヴェラは無視して、クロエの頭を撫でる。

 少し安心したのか、体の震えは止まったようだ。



 皆が落ち着いた所で、ちゃんと自己紹介をする。

 俺はヴェラから少しだけ距離をとって言う。


「どうも、シャルルと申します」

「……ええと、この人が私の言った護衛の人よ。獣人族のヴェラ、とっても強いから安心して」


 むすりとした表情でそっぽを向くヴェラの代わりに、アメリーが言った。

 獣人族と言われて気が付いたが、彼女には銀色の毛の尻尾と立った耳がある。

 混乱と焦りで見逃していた。

 毛色や耳と尻尾の形から連想できるのは狼だ。

 俺は耳を凝視しながらヴェラに歩み寄り、握手を求めた。


「よろしくお願いします、ヴェラさん」

「……どうせ、どうせ」


 だが、彼女は体育座りのまま地面を見て、ブツブツと何かを言っている。

 拗ねているのだろうか。

 そこまでの事をしたのか、俺は。

 少しだけ、罪悪感を感じてしまった。


 この人は俺に興味を持っているので、あの手を使う事にした。

 大サービスだ、これは。


 俺は座っているヴェラに後ろから抱きつき、なるべく子供っぽい声で言う。


「よろしくね、ヴェラおねえちゃん!」

「――ッ!?」


 ヴェラは目を見開き、立ち上がった。

 電撃でも受けたかのような表情で俺を見ると、正面から抱きついてきた。


「ごめんよぉ、拗ねてしまって! お姉ちゃんが悪かった! ごめんなぁ!」


 ……チョロいぜ。

 俺は某ノートに名前を書いて裁きを下す漫画の主人公がする「計画通り」の時の顔になるのを我慢しながら、ヴェラの背中を擦ってやった。


 ヴェラが俺を開放した後、クロエの元に向かい、挨拶を済ませる。


「じゃあ、行ってくる」

「うん、行ってらっしゃい」


 俺はクロエの頭を撫でてから、アメリーの方へと向かう。


「アメリーさん、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「......最後に、お願いなんですけど」

「何?」

「胸、触ってもいいですか?」

「......シャルルはえっちね。やっぱり、そういうのに興味を持つ年頃なのかしら。仕方がない、いいわよ」


 胸を触る許可を戴いた、あっさりと。

 多分、俺が子供だからだろう。

 きっと、俺が大人の姿だったら断られていただろうな。

 いやあ、素晴らしい、素晴らしいな、子供の体。


「では、お言葉に甘えて......」


 俺は恐る恐る、アメリーの胸へと手を伸ばす。


 ふわり。


 擬音で表すならこうだろうな。

 では、少し力を入れてみようじゃないか。


 ぷにょ。


 擬音で表すならこうだろうな。

 似ている物を挙げるならば、マシュマロだろうか。

 だが、マシュマロよりも柔らかい。

 もう少し力を入れてみようじゃないか。


 むにゅり。


 擬音で以下略。

 ふむ、この、服越しからでも伝わる柔らかさ。

 そして、布の感触と胸の柔らかさが作るこの独特な触り心地。

 なんて素晴らしいんだろうか。


 アメリーの胸は大きいから、彼女の肉は俺の指の間を抜ける。

 昔、擬似おっぱいを試したことがある。

 薄手のゴム手袋に空気を入れて服の上から揉んだり、80キロで走る車の窓から手を出したり。

 そんなのとは、比べ物にはならなかった。

 なによりも、温かみがあるのだ、生のおっぱいは。


 今度は、力を入れたり、抜いたりして、胸を揉みしだく。

 力を入れた時の少し押し返してくる感触には感動すら覚える。

 俺の掌、指の間で形を変える肉の塊に、涙が出そうになる。


「しゃ、シャルルくん......?」

「はい」

「そろそろ良い?」

「......すみませんでした」

「い、良いの」


 アメリーの方に視線を移すと、アメリーは困ったように苦笑していたので、そろそろ自重しなければならない。

 ていうか、クロエが見てる前で何をやってるんだ俺は......。

 ついつい、興奮してしまった。

 これだから童貞は......。


「それと、アメリーさん」

「何?」

「ありがとうございました。僕が出世したら、お礼させてください」

「そんな大げさな……」

「エヴラールさんにも、お礼を言っておいてもらえますか? 直接言えていないのが失礼だとは分かっています。でも」

「分かったわ、ちゃんと伝えておく」

「ありがとうございます......ではアメリーさん、行ってきます」


 俺は頭を地面に叩きつける思いで下げ、ヴェラと共に御者台に座った。

 馬車は動き出し、俺はアメリーとクロエの姿が見えなくなるまで手を振った。

 アメリーも何事も無かったかのように、俺に笑顔で手を振ってくれたのは、幸いだった。


「ねえ、シャルル」

「何ですか、ヴェラさん」

「私のも揉むかい?」

「今はいいです」


 こんな会話から、俺の獣人の森への旅が始まる。

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