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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第二章『温もり』
12/72

孤児院で・後編

 真っ赤な髪が印象に残っていたので、名前は覚えている。


「こんばんは、クロエさん」


 俺が挨拶をすると、クロエはポニーテールを揺らしながら、首を横に振った。


「『さん』はいらないよ、同い年なんだから」

「なら、俺もシャルルでいいよ」

「うん、それでね、シャルル……実はお願いがあって」

「何?」


 多分、剣を触らせてくれとか、そういうのだろう。

 魔術は誰にも見せていないから、魔術に関して聞かれることはないだろう。


「私と、お友達になってください」

「いいよ」


 即答してしまった。

 わかっている、分かっているさ。

 俺は友だちが少ない。

 二人目の同い年の友人だ。

 べ、別に嬉しくなんかないんだからね!


 それに、断れるわけがないのだ。

 上目遣いでこんな事を言われて、断れる方がおかしい。



「えっ、本当!? ありがとう! よろしくね、シャルル!」

「ああ、よろしく」


 こうして俺は、同い年の友達二号が出来たのだ。

 カ、カイの事を忘れかけていたなんて、そ、そんな事はないぞ……。


「それじゃあね、シャルル」

「ああ」


 俺と友達になるためだけに来たらしく、クロエは院内に戻っていった。

 俺は剣の手入れを再開する。


「ふぁあ……眠い」


 まだ十時ぐらいだというのに、もう既に眠くなっていた。

 早寝が習慣となってしまっている。

 悪いことではないからいいのだが。




 手入れを終え、院内に戻り、アメリーの元へと向かった。

 寝室には二段ベッドが並んでいて、皆がそこで寝るわけだが、空きがあるかは分からない。

 確認と承認の為に、アメリーを探した。


 アメリーは院長室――最初に来た校長室の様な部屋にいた。


「あら、シャルル、丁度いいわ、いらっしゃい」

「なんでしょう?」

「寝室よ」

「なるほど」


 向こうも、俺の寝床についてはちゃんと考えてくれていたようだ。


 俺はアメリーに手を引かれ、廊下を歩く。

 どの部屋にも明かりは点いていない。

 十時が消灯時間なのだろう。


 連れて来られたのは、予想通り寝室で、四つの二段ベッドが置いてある。

 その一つ、左手側奥のベッド、空いているスペースがあった。

 二段目じゃなく、一段目だ。


 空いているのはいい。

 それはいいことだ。

 だが……全員女の子だ……。


「あ、あの、アメリーさん……」

「ごめんね、ここしか空いてなくて……」

「は、はあ……これは流石にマズイんじゃ?」

「いつか調整するから、しばらくはこれで我慢して? お願い」

「わかりました」


 お願い、だなんて言われては答えは「イェス」一択じゃないか。

 少し困った表情もされてしまったし。

 アメリーにはあまり迷惑をかけたくない。

 それに、エヴラールに言われたしな。

「アメリーの言う事は絶対に聞け」って。


「ごめんね、シャルル君」

「いえいえ、大丈夫です」


 それに、俺はまだ七歳だ。

 えっちな事なんてまだ知らないのだ。


「それじゃあ、おやすみなさい、シャルル君」

「はい、おやすみなさい」


 アメリーの優しい声に、笑顔で返事をした。

 俺の返事を聞くと、アメリーは満足気な笑顔を浮かべて部屋を出た。


 俺はため息を漏らし、ベッドまで足を運んだ。

 ベッドはあまり柔らかくなかった。

 宿の物よりランクは下がる。


 だが、文句を垂らす程ではない。

 何はともあれベッドだしな。


「シャルル~」


 俺がベッドの端に腰を下ろすと、頭上から声が聞こえた。

 先ほど聞いたばかりの声だ。


「上にはクロエか」

「うん、そうだよ」

「お邪魔します」

「いえいえ、丁度よかったよ。なんだか寂しかったから」

「そうか」


 年端もいかない子供の下で寝る、か。

 なんだか……興奮する。


「おやすみ、クロエ」

「うん、おやすみ」


 俺は周りの子達の寝息を聞きながら、眠りについた。




――――――




 翌日、目を覚ますと、体に何かが纏わり付いているのを感じた。

 温かくて柔らかい、何かが、俺の体に絡みついている。


「んん……」

「……こ、これは」


 俺は眼を見開いた。

 俺に纏わりついていたのは、クロエだった。


「ヘイ、グッモーニン、クロエ? ヘロー?」

「ん~、あと、もう少し……」


 困った。すごく困った。

 このままだと、俺の息子がウェイクアップしてフィーバーだ。


「クロエ! おはよう!」

「ん~?」

「やあ、おはよう、クロエ」

「……ん、おは――んなっ!? 痛っ!」


 クロエは突然飛び上がり、頭をベッドの底に打ち付けた。

 頭を抑え、悶えている。

 しかし、何をそこまで驚くのか。

 自分で俺のベッドに潜り込んだというのに。


「大丈夫か?」

「うぅ、大丈夫」

「説明を求む」

「わ、わからないよ……起きたら、目の前にシャルルがいて……」

「無意識って事か?」

「多分、寝ている間に……」


 つまり、寝ている間に起き上がり、俺のベッドに潜り込んだと。

 どうすればそうなるんだ。

 夢遊病とかだろうか?


「とりあえず、服を直して」

「え? あっ! シャルル、見ないで!」

「へいへい、見てませんよ」


 レディーのはしたない姿を凝視するほど、できてない男ではない。

 俺は紳士なのだ。

 目を隠すために閉じた指に隙間が空いているのは、指が勝手に動くからであって、俺のせいではなく、指のせいなのだ。


「クロエ、朝食ってどうするんだ」

「え、えっと、アメリーさんが作ってくれるよ」

「そっか」


 なら、俺はアメリーの手伝いをしなくてはならない。

 未だに服の乱れたクロエを尻目に、部屋を出た。

 朝食をつくるのだから、厨房にいるんだろう。


「おはようございます、アメリーさん」

「おはよう、シャルル。早いのね」

「習慣です」


 そういえば、まだ六時ぐらいだ。

 クロエには悪いことをしたな。

 後で謝っておこう。


「それで、僕は何をしましょうか」

「朝から手伝い?」

「はい、暇ですし」

「そう、なら、パンを焼いてくれるかしら」

「お任せください」




 朝食の準備を終えた頃、子どもたちが起きてきた。

 だが、クロエの姿が見えない。

 心配になり、寝室に戻った。


「クロエ?」


 クロエは、彼女のベッドで、毛布を頭から被り丸まっていた。

 そこまで恥ずかしい思いをさせてしまっただろうか。


「ごめんな、クロエ」

「……」

「俺が礼儀知らずなばっかりに。本当にごめん」

「……」

「朝食、もう出来たからおいで」

「……」

「クロエの分、残しておくからお腹が空いたらおいで」


 感じた恥ずかしさは、そう簡単に拭えるものではない。

 しばらく俺とは顔を合わせたくないのだろう。

 それに、夜にベッドに潜り込んだ時点で気づくべきだった。

 エヴラールに野宿をさせてもらえなかった理由が分かった。


 俺は丸まっているクロエを置いて、部屋を出ることにした。

 流石に俺とはいたくないだろうし。

 後で出てきたら、また謝ろう。


 食堂では、子どもたちが既に食事を始めていた。

 俺も手前の空いた席に座り、自分の分のパンと卵を取る。

 準備中にコーヒーはないかと聞いたが、ココアしかないそうなので、ココアをアメリーから受け取った。

 俺はココアを啜りながら、今後の予定を立てることにした。




――――――





 俺は勉強に参加しなくてもいいと言われたので、今日は参加しない。

 やる事があるからだ。

 まずは、街を見て回らなくてはならない。

 住んでいる街を知らないというのは、流石にダメだろう。


 それに、トレーニングもしなくてはいけない。

 一日も怠るなとエヴラールに言われている。

 走り込みに素振り、後はソロでクエストだ。

 クエストは独断になるが、冒険者なのだからやってもいいはずだ。

 お金もいるし、経験値も必要だから。

 ソロでクエストをするのは初めてになるが、まあ大丈夫だ、きっと。


「さて」


 本日の予定は、トレーニング、観光、クエスト、アメリーの手伝いで決定だ。

 俺は早速、庭に行き、着慣れた服に着替える。

 着替えは庭で行ったが、まだ子供だから大丈夫さ、それくらい。


 着替えた後、子どもたちに授業をしているであろうアメリーの元へ向かった。

 勉強部屋にノックをしてから入った。

 アメリーは俺に気付き、授業を一旦中断し、俺の元へ寄って来た。


「少し外に出てきます」

「気をつけてね、危ない人には付いて行っちゃだめよ?」

「わかってます、エヴラールさんにも散々言われました」

「あの人らしいわね。うん、それじゃ、行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」


 アメリーに許可を貰ったところで、クロエが授業に出ていることに気がついた。

 クロエは勉強に集中している。

 邪魔をするわけにはいかないので、そのまま部屋を出た。


 孤児院を出ると、俺は早速走りこみをした。

 真っ直ぐ、行き止まりまで走る。


 走り込みの後は、適当な空き地を見つけて素振りだ。

 剣はちゃんと二本持ってきた。

 治安は良さそうだが、万が一がある。


 素振りを終えれば、観光だ。

 町の入口まで走り、順番に回る。




 この街は、どこからどこまでもが普通だった。

 道具屋があり、武器屋があり、防具屋があり、冒険者ギルドがあり、住宅街、その他もろもろがある普通の街だ。

 特記すべき事もない、普通の街。

 石畳の道路、木と石で出来た家、人の数も多くなく少なくない。


 観光を終えた頃には、時刻は一時を過ぎていた。

 小腹が空いてきたので、エヴラールに貰ったお小遣いで菓子パンを買って食べた。

 食べながら、冒険者ギルドへ向かう。


 冒険者ギルドは、中々に賑わっていた。

 何があったのかは知らないが、騒いで踊って飲んで食っている。

 特に気にすることでもないので『依頼掲示板』まで向かった。


「どれにしよう」


 俺はまだ五級冒険者なので、報酬のいいクエストがない。

 とりあえず、候補として三つだ。

 ゴブリン討伐、オーク討伐、ゾンビ討伐。

 どれか一つ選ぶのは面倒なので、今日はゴブリン、明日はオーク、明後日はゾンビで行こう。


 俺はゴブリン討伐の依頼紙を掲示板から剥がしてカウンターまで持っていった。

 俺が右腕を突き出すと、カウンターのお姉さんが何かを書き込んだ。

 書き込まれた文字は光の輪となり、見えなくなった。

 これで依頼受理完了だ。


 俺はゴブリン討伐依頼の紙に目を通した。

『森でゴブリンが大量発生。なるべく多く処理願う』との事だ。

 森とは街の東側にある森林だろう。

 俺は早速、森へと向かった。



 森に入ってから五分、早速ゴブリンを発見した。

 緑色の肌にボロボロの服、出っ張った腹に尖った耳、裂けた口から覗く牙に皮の帽子。

 まさにゴブリンだ。


 俺は気配を殺して近づき、陰から魔術で仕留める。

『氷槍』を三本形成、魔力を送り込み速度を調整、そして発射。

 氷槍は、見事に三体のゴブリンの胸を貫いた。


 そして、俺の手首には「3」を表す文字が浮かび上がる。

 手首には討伐数が表示されるのだ。

 仕組みは分からないが、魔術である事には間違いない。




――――――




 良いテンポでゴブリンを片付けていき、クエスト開始から一時間で手首には「32」を表す文字が浮かび上がっていた。

 一体で銅貨一枚だと書いてあるので、銅貨三十二枚、つまり大銅貨三枚と銅貨二枚だ。

 俺からしてみれば、これは良い収入だ。

 七歳が三百二十円も貰えるのだから。


 俺はギルドへと戻り、カウンターへと向かった。

 カウンターのお姉さんに手首を見せ、依頼完了だ。

 手首を見せた時、お姉さんは一瞬表情を崩したが、すぐに営業スマイルを浮かべた。

 まあ、七歳の子供が三十二のゴブリンを退治したのだから、仕方がないだろう。


 孤児院に戻った頃には二時を過ぎていた。

 俺は皆へのお土産にリンゴを買った。

 リンゴだけでは物足りない気がするので、帰り道に思いついた料理を作ろうと思う。


 アメリーに許可をもらい、厨房を使用させてもらう。

 用意するものはリンゴ、砂糖、塩、白ワインの四つだけだ。


 まずはリンゴを洗う。

 そして四等分に切り、芯を取る。

 全部で十五個のリンゴだが、すぐに終わらせる。

 刃物の扱いには慣れた。


 次に芯を取り除いたリンゴを少し深い容器に重ならないよう並べる。

 砂糖と塩をまぶして、白ワインをかけて天火に入れる。

 数分したら出して、容器の汁を捨てて粗熱をとって冷凍庫で冷ます。

 冷凍庫はないので、魔術でミニ冷凍庫を造った。

 全身氷製冷凍庫だ、かっこいい。


 一時間半ぐらい冷やせば、大丈夫だろう。

 自作冷凍庫から出し、食堂まで運ぶ。

 全部運び終えた頃には、程よく溶けて、食べやすくなるだろう。


 さて、完成したのが、リンゴシャーベット。

 俺は前の世界で一人暮らしをしていたのだが、簡単に作れるデザートを探していた。

 そこで出会ったのが、コイツだ。

 リンゴは、友人が実家から送られてきたのをおすそ分けしてくれていて、使い道に困っていたのだ。

 アップルパイもタルトも作るのがダルそうだったので、シャーベットを作ることにしたのだ。

 俺の週一デザートだった。


 全部運び終えると、まだ勉強に励む子どもたちの所へ向かう。


「こんにちは、アメリーさん」

「厨房で何をしていたの?」

「それを見せに来ました。子どもたちを食堂に連れて行ってもいいでしょうか? 休憩って事で」

「うん、構わないけれど……」

「そうですか」


 アメリーからの許可は得た。

 後は子どもたちを連れて行くだけ。


「よし、皆さん、食堂に行きましょう。おやつを用意しました」


 俺がそう言うと、子どもたちは喜びの声を上げて立ち上がった。

 部屋を出ると、俺の後ろに子どもたちが付いてくる。


 食堂に到着し、子どもたちを座らせる。

 子どもたちは「なんじゃこれ、ただのリンゴじゃん」という目でリンゴシャーベットを見ている。

 残念だったな、ただのリンゴじゃないんだな、これが。


「さあ、食べてください?」


 子どもたちは先ほどまでのテンションを失い、落胆した表情でリンゴにフォークを刺す。


「……」


 食堂に沈黙が訪れる。

 自然と顔が強張ってしまう。

 この世界の子どもたちの口に合わない時はどうすればいいんだ。

 そんな不安がこみ上げてきた。


「お、美味しい」


 沈黙を破ったのは、クロエの声だった。

 それに続くように、他の子たちも絶賛の声を上げる。


「シャルル! これ美味しいよ!」


 朝は顔も合わせてくれなかったクロエが、頬を染めながら言った。

 俺はとりあえず、笑顔を返しておく。


 まあ、俺も最初食べた時は感動したものだ。

 こんな簡単に美味いものが食えるのかと。


 皆が楽しそうに食べる中、俺は一つ取り、口に運ぶ。

 リンゴの食感と汁が口内に伝わり、甘みと酸味が舌を刺激する。

 久しぶりに食べたせいか、いつもより美味く感じた。

 うん、やっぱり美味しいな。


「シャルル君、こんなのどこで覚えたの?」


 いつの間にか、後ろにはアメリーが立っていた。


「記憶の片隅にあっただけです」


 インターネットの事は口に出さないほうがいい。

 この世界に無い物はなるべく言わないほうがいいだろう。

 だから、適当に誤魔化しておく。


「へえ……これ、私にも教えてくれる?」

「もちろんですよ」


 こうして、我らがおやつ会は成功したのであった。




――――――




 おやつ会から数週間後の朝、俺は縁側で魔術を使って遊んでいた。

 氷でハンドガンを作ったり、粘土でグレネードを作ったり。

 内部は作っていないのだが、外見はそっくりそのままだ。


「ねぇ、シャルル、それ何?」


 ハンドガン模型とグレネード模型を指差し、クロエが聞いた。

 この世界に無い物の話を避ける為、俺は適当にごまかす。


「なんだろうね、何となく思いついた」

「へぇ~」


 クロエはあまり興味を示さぬ様子で、間の抜けた返事をした。


「クロエさ、夢とかある?」


 丁度、話し相手が欲しかった頃だったので、適当な話題を振ってみた。


「夢? う~ん、世界一の女剣士になりたいかなぁ」

「お、女剣士、か……なんでだ?」

「特に理由はないかな……」


 うむ、予想するに、本能だろう。

 彼女の真っ赤な髪が示すのは、彼女が竜人族であるということだ。

 竜人族は剣を使う事に長ける。

 そんな単純な理由で、剣士になりたいと思ったのかもしれない。


「そういえば、シャルルは剣士だよね?」

「まあ、そうだね」

「私に剣の使い方教――」

「ダメだ」


 俺は即答する。


「えぇ、なんで?」

「教えられる程、力を身につけていないから」

「どういうこと?」

「教える人は教える事柄を三倍知らないといけないんだ」


 俺が言うと、クロエは顰めっ面を浮かべた。

 納得できていないのだろう。


「まぁ、なんだ、その内な」

「その内っていつ?」

「俺が強くなったら」


 まあ、その頃には、クロエは自分で先生を見つけて剣術を覚えるだろう。

 だが、クロエは目を輝かせながら、「わかった!」と返事をするのであった。


 無邪気さが引き立たせる幼さ。

 幼さが引き立たせる可愛さ。

 ロリって素晴らしい。


「シャルルは夢があるの?」

「ん~、そうだな、たくさんある」

「たくさん? どんなの?」

「世界を旅すること、強くなること、特級冒険者になること、魔王を倒すこと、他にもある」

「ま、魔王様を倒すって、そんなの無理だよ?」


 クロエが心配した様子で俺の顔を覗きこんだ。


「やってみないと分からないさ」


 そう、やってみないと分からない。

 第一目標がアルフとエヴラール、そして第二目標が魔王だ。

 最初に魔王を倒すなんて事は流石に言わない。

 ステップバイステップ、階段は一段ずつ登った方がいい。


「それじゃ、俺は少し出かけてくるよ」


 今はお昼すぎだ。

 トレーニングは朝に終わらせたので、これからクエストを受けに行く。


「分かった、行ってらっしゃい」

「ん、行ってきます」


 俺は軽くクロエの頭を撫でてから、院内を出た。




 今日の冒険者ギルドはそこまで盛り上がってはいなかった。

 煩くても煩くなくても関係ない。

 俺は掲示板まで駆け寄り、オーク討伐依頼の紙を剥がした。

 昨日の手順でクエストを受理し、ギルドを後にする。


 昨日、ゴブリンが出た森の奥にオークがいる。

 どうせオークなんて豚顔の人が少し大きくなったぐらいだろうと思っていのだが、俺が目にしたオークは、


『オオオォォオォオ!』


 なんて雄叫びを上げていて、高さは2メートル半ぐらいだ。

 武器は棍棒だけだが、ゴブリンの持っていた物の倍はある。


 陰から仕留めてやろうと思っていたのだが、道端で偶然オークと出会ってしまい、正面からの戦闘となる。

 オークは威嚇をするだけで、襲ってくる様子が無かったので、先制攻撃を仕掛けようと両手に一本ずつ『氷槍』を造形。

 速度は音速、強度は鉄レベルに調整。

 そして、オークに飛ばした。


 オークの両足に氷槍が貫かれた。

 奴はまた雄叫びを上げ、棍棒を振り下ろした。


「げっ!?」


 苦し紛れの攻撃かと思ったが、棍棒は地面を砕いた。

 俺は後ろに飛び距離を取る。

 そして、地面伝いに魔力を送り込み、オークを氷漬けにする。

 そのまま体内まで凍らせ、分解すれば、仕留めることができる。


『オオオオオォォォオオ!!』


 だが、オークの雄叫びが森に響いた。

 ただの雄叫びが、氷を砕き、オークに自由を与えた。


「クソブタがッ!」


 俺はオークが嫌いだった。

 えっちな漫画でオークが使用されていたからだ。

 オークが悪いわけでは無いのだが、嫌ってしまったものは仕方がない。

 それに、俺はああいうのを好まない。

 囲んで皆でとか、取られちゃうとか、ああいうのが大嫌いだ。


 オークは氷から開放されたが、辛そうな表情だ。

 両足の穴からは血液が流れ出ている。


「可哀想に」


 俺は両手を地面に付け、魔力を送り込む。

 先ほどのよりも強度と密度を上げた。

 更に闇魔術も混ぜ、眠気を誘う。


 外を凍らせた後は、中だ。

 全ての毛穴から体内に進入するように魔力を送り込む。

 体中に俺の魔力が送り込まれ、凍結と分解のコマンドを送る。

 一瞬でオークの体は氷と化し、粉々に砕ける。

 細かい氷の粒となったオークを火魔術で溶かし、蒸発させ、完全に消す。


「……つまらないな」


 最初に氷を砕かれた時は少しビビったが、それだけ。

 特に苦労することもなく倒せた。

 ゴブリンよりも強いとされているが、こんなものか。



 しばらく歩いて、二体目のオークと遭遇。

 次は違う戦闘法で仕留めることにした。


 オークの背後に駆け寄り、二本の剣を引き抜いた。

 両足の腱を切り、太ももの裏を抉る。

 体制を崩して背がほぼ同じになったところで頭を切り落とした。


「魔術で倒すより早いな」


 剣での戦いに慣れているため、魔術で倒すよりも早い。

 だからこそ、魔術で倒す必要がある。


「次は土で試そう」


 三体目のオークとの遭遇。

 土魔術で銃弾を形成。

 速さは音速、強度は鉄。

 そして、発射。

 風切り音が鳴った。


 土の銃弾はオークの体内に侵入したが、貫通はしなかった。

 威力と強度が足りなかったか。

 それに、心臓にも当たっていない。


 オークは胸の痛みに顔を歪めている。

 俺はもう一度、同じように銃弾を形成し発射した。


 土の銃弾はオークの頭部に侵入したが、やはり貫通はしなかった。

 だが、まあ、これで仕留めることが出来る。

 二体ぐらいまでなら瞬殺だろう。


「さて――」


 次の獲物を探そうと立ち上がった時、後ろに気配を感じた。

 振り向いた時、俺の目の前には、斧を高らかに振り上げるオークがいた。

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