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俺の愛した異世界で  作者: 八乃木 忍
第二章『温もり』
11/72

孤児院で・前編

 帰りはいつもより少しだけペースを上げた。

 そのおかげで、約一ヶ月でレイノルズに戻ることが出来た。


 しかし、レイノルズでゆっくりと休むわけではない。

 エヴラールの王国からの呼び出しがあるからだ。

 お偉いさんの呼び出しに早めに応じるのは、何処の世界でも変わらない。


 王国はレイノルズから真っ直ぐ北に向かった場所にある。

 だが、エヴラールは途中で俺を友人の所へ預けるというのだ。

 シャルルを仕事には巻き込みたくない、と言っていた。


 危ない仕事をしているとも言っていたし、やはり子供である俺を連れては行きたくないのだろう。

 行っても足手まといにしかならないと思う。

 だから俺はエヴラールに従う。




 レイノルズを出て約二週間、街にやってきた。

 最初に訪れた商業国ザロモンと王制国の間ぐらいに位置している街だ。


 王制国とか街とか村とか国とか、俺も最初は混乱していた。

 だが、紙に書けば覚えるのは簡単だった。


 このルーノンス大陸には五つの国がある。

 何故、街ではなく国なのか。

 街の規模は、前世の東京都のあきる野市と八王子市と奥多摩町、それと檜原村を足したぐらい。

 国の規模は、東京都全体だ。

 村は様々な大きさがあるが、八王子市以上の規模はないだろう。

 そして、王国の規模は普通の国よりも大きいのだ。


 だが、これらはあくまで、ルーノンスでの話だ。

 ヴェゼヴォルでは基準が変わる。

 そちらはまだ把握していないが、感覚的に、ルーノンスで言う街がヴェゼヴォルでは国になるのだろう。


 今いるのは、キュリスという街だ。

 大きくもなく、小さくもなく、可もなく不可もない普通の街。

 この街にエヴラールの友人がいると言う。

 どんな人なのか楽しみだ。




 フーガを馬屋に預けてから、しばらく歩いて、一つの建物の前でエヴラールが深呼吸をした。

 心なしか、エヴラールは少し緊張しているように見える。

 建物の門は閉まっていた。

 門の隣には、『アメリー孤児院』と書かれた木の板がある。


 ……孤児院?

 預けるって、俺を、孤児院に?

 いやいや、早とちりは良くないな。


「すまない、エヴラールだ」


 俺が一考している間に、エヴラールは門を開けて、扉を叩いていた。

 しばらくして扉から顔を出したのは、女の人だ。

 金色の髪に白い肌と豊満な胸、柔らかい笑顔を浮かべたその人はまるで、そう、女神だった。


「あら、久しぶりね、エヴラールさん」

「ああ、久しぶりだな」

「とりあえず、中に入って」

「すまない、邪魔する」


 緊張した面持ちのまま、エヴラールは中に入っていく。

 俺も駆け足でエヴラールの後を追った。


 孤児院の中は幼稚園に似た構造をしていた。

 なんだか少しだけ良い匂いもする。

 幾つかの部屋を通り過ぎたところで、女神の足が止まった。


「どうぞ」


 促され、部屋に入る。校長室の様な部屋だ。

 ソファが向い合う様に配置され、ソファの間にはテーブルが置かれている。

 窓際には、書類の置かれた机があった。


 エヴラールが右側のソファに座ったので、俺はその隣に座った。

 女神は俺達とは反対側のソファに腰を下ろした。


 素晴らしい。

 素晴らしいよ!

 何がって、座るときに見えた胸元だよ!


「それで、エヴラールさん、今日はどうしたの?」

「ああ、コイツなんだが……」

「もしかして、息子さん?」

「いや、息子ではないんだが、まぁ、息子のように思っている。俺の弟子だ」


 エヴラール、今の言葉には感動したよ。

 お前に拾われてよかったと、俺は思うぜ。


 ……という感動は一先置いておいて、初対面の相手なのだから、自己紹介をしなくてはならない。

 この世界の礼儀作法とかはよく分からないので、立ち上がり、頭を下げた。


「どうも、初めまして。シャルルと申します」

「あら、ご丁寧にどうも。私はアメリー、よろしくお願いします、シャルル君」

「よろしくお願いします、アメリーさん」


 自己紹介を終えると、アメリーは柔らかい笑顔を浮かべてエヴラールに向き直った。


「それで、シャルル君がどうしたの?」

「しばらくここに置いておきたい」


 ですよねー。

 わかってました。


「あら、何故? 仕事?」

「まあな、王国からのだ……危険になると思うから、シャルルは連れて行きたくない」

「そういうことなら、喜んで引き受けるわよ」

「すまないな……」


 交渉成立、か。

 エヴラールと離れる事になるが、ここに居るという事は、俺は毎日女神の神聖なる胸を拝めるという事だ。

 ありがとう、エヴラール。


「さて、俺はもう行くとするよ」

「あら? もう行ってしまうの? そんなに急ぎ?」

「ああ、休憩は向こうで取る」

「そう……」


 王国からの呼び出しはそこまで重要なのだろうか。

 まあ、仕事に真面目なのはいいことだ。

 元社畜としては、あまり見たくない光景だが。


 エヴラールは立ち上がり、部屋を出ようとしていた。

 俺は慌ててエヴラールの後ろにつく。

 見送りはしなければならない。寧ろしたい。


 門の前まで、言葉を交わすこともなく歩いた。

 エヴラールは振り向き、俺の頭を撫でる。


「元気でやれよ。アメリーの言う事は絶対に聞け。いいな? 絶対だぞ。鍛錬も怠るな」

「はい、わかってます。エヴラールさんもお元気で」


 エヴラールは微笑を浮かべて、俺の頭から手を離す。

 アメリーに視線を向けると、軽く頭を下げた。


「行ってらっしゃい、エヴラールさん」

「ああ、行ってくる」


 そして、エヴラールは馬屋の方へと歩いて行った。

 少しだけ寂しいな。




 エヴラールの姿が見えなくなると、俺は扉の前で待っているアメリーの元まで駆け足で近寄った。

 アメリーは柔らかい笑顔を浮かべて俺の頭を撫でた。


「寂しい?」

「……少しだけ」


 俺が答えると、アメリーが抱きしめてくれた。

 柔らかいものが顔を包んで、少し息苦しくなったが、いい匂いがして、安心した。

 女神の力は凄いな。


「さて、それじゃあシャルル君、付いてきて」

「わかりました」


 残念!

 もう少しあの柔らかい感触と安心感を味わっていたかったが、実に残念だ。


 胸の感触を思い出しながら連れて来られた先には、子供がたくさんいた。

 ロリとショタがたくさんおるで。


 俺が部屋に入ると、子どもたちの視線が俺に集中した。

 残念ながら、見られて興奮する性癖は――ないとは言い切れないが、今は効かない。


 この世界に来てから俺はずっと賢者モードなのだ。

 多分、シャルルのせいだろう。

 シャルルとはこの体の元々の所有者の事だ。

 どうやら、俺の付けた新しい名前は、シャルルと一緒だったらしい。


「アメリーさん! そのこだれー?」

「くろかみ!」

「みて! 剣だよ! 剣!」


 しばらくの静止の後、子どもたちが騒ぎ出した。


「どうも、皆さん初めまして、名前はシャルル、年齢は七歳です」


 集められた子どもたちの前で、俺は自己紹介をした。

 子どもたちは俺に視線を集め、興味を示している。

 ほとんどの子達が明るい表情をしているが、暗い顔をした子もいる。


「うん、それじゃあ、私はお洗濯しなくちゃいけないから、皆はシャルル君と話していてね」

「えっ?」

「シャルル君、よろしくね」


 そう言って、俺にウィンクをするアメリー。

 確かに美しい。

 ウィンクで俺の心が奪われるかと思った。

 でも、俺に子供の世話をしろって言うんですかいな……。

 困惑する俺の苦笑を気にすることもなく、アメリーは部屋から出て行ってしまった。


「シャルルお兄さん! その剣触ってもいい?」

「ねえ、お兄さんどこから来たの?」

「一緒に遊んでー!」


 子どもたちが同時に喋りだし、何を言っているのかわからなくなる。

 名前と年齢だけじゃ、相手は知れないのは当然だ。

 インタビューの時間と行こうじゃないか。


「よし! 俺に質問がある人は並んでください! 順番にお話をしましょう!」


 俺が言うと、子どもたちは慌てて列を作り出した。

 数秒で長い一列が出来上がり、俺のサインを待つファンの様だ。

 少しだけ、有名人気分を味わう事にしよう。


「では、一番目、僕はシャルル、君は?」

「僕はポール! お兄さん、その剣触ってもいい?」

「ダメだよ、危ないからね」

「えー、お兄さんは大丈夫なの?」

「ちゃんと鍛えたから」

「へえ」



 こうして、一人目のポールから、二人、三人と順番に会話をし、最後の一人まで話し終えた。

 俺より下の年が、数十人いて、年上が十数人、同い年が七人ぐらいだ。


 暗い雰囲気をした子どもたちには、俺から話しかけた。

 ネガティブな感情は周りにも影響を与える。

 俺がどうにか助けてあげたいという気持もあり、なるべく優しく話しかけた。


 皆が俺の剣とペンダントに興味を持った。

 ペンダントというのは、魔王に貰った黒い宝石の事だ。

 丁度いいサイズだったので、ペンダントにした。


 皆との会話も終わったので、アメリーの洗濯を手伝おうと思い、部屋を出た。

 何処にいるかはわからないので、それっぽい場所を探す。


 アメリーは、庭にいた。

 おばさん二人とアメリーで洗濯をしている。

 洗濯機のないこの世界、洗濯はもちろんの事手洗いだ。

 手洗いは手が荒れるから、女性にはあまりお勧めしない。


「アメリーさん」

「あら、シャルル君、どうしたの?」

「お手伝いに来ました」

「遊んでいても良かったのに」

「いえ、騒がしいと肩が凝ってしまって」

「ふふっ、おじさまみたいよ?」


 これでも中はおっさんなんです。

 すみません。


 と、ここで視線を感じた。

 おばさん達だ。

 俺とアメリーを微笑ましい物でも見るかのような温かい目で見ていた。


「どうも、初めまして、シャルルです」


 俺は自己紹介をして、おばさん二人に頭を下げた。

 初対面の相手への挨拶は大事だ。


「おやおや、よく出来た子だねぇ。私はバルバラさ。よろしく」

「私はカーラさ」

「よろしくお願いします、バルバラさん、カーラさん」


 おばさん二人への挨拶を終えたとこで、アメリーに向き直る。

 泡が顔に付いているので取ってあげた。

 子供のために一生懸命、そんな印象を受ける。


「僕は何をしましょうか」

「そうね……じゃあ、干すのを手伝ってくれる? シャルル君の服も洗っちゃうから、脱いでね」

「はい、わかりました」


 俺は言われたとおり、下着以外の服を脱いでアメリーに渡すと、カーラさんが新しい服をくれた。

 ショートパンツに少しぶかりとしたシャツだ。

 いつもぶかぶかの長いパンツを履いていたので、ショートパンツは懐かしい感じがする。


 新しい服に着替え、服を干そうとしたが、物干し竿が高いので今の俺の背じゃ届かない。

 なので、土魔術で足場を造ることにした。


「……はい、どうぞ」


 驚いた顔をしながら、濡れた服を渡された。

 魔術を使ったことに驚いたのか、無詠唱なのに驚いたのか、それは分からないが気にすることでもない。

 俺は普通に受け取り、服を干した。

 使うのは木製の洗濯バサミだ。

 この世界にプラスチックはない。




 約一時間後、洗濯を終えた俺は、アメリーに最初に入った校長室の様な部屋に呼び出された。

 アメリーは既にソファーに腰を掛けていて、お茶を啜っていた。


「いらっしゃい。シャルル君もお茶でいい?」

「お構いなく」


 お茶を用意するアメリーのお尻をちら見しながら、ソファーに腰を下ろした。

 お茶を淹れる姿にも品があるこの人は本当に凄い。

 おっぱいも凄い。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 出されたお茶に礼を言い、早速口をつけ――ようとし、カップを下ろした。

 もう少し冷ましたほうがいいと思う。


「シャルル君、あなたとも話をしないといけないね」

「話……?」

「うん、私達、お互いを知らないから」

「なるほど」


 お互いの事を知ろうという事か。

 だが、俺の話すことは少ない。

 違う世界から来たと話すつもりはないからな。


「シャルル君はどうしてエヴラールさんと旅をしているの?」

「拾われたから、ですかね」

「拾われた……。親は?」

「知りません。五歳より前の記憶がないので」


 シャルルは過去を語らない。

 だから、俺はシャルルの五歳より前の出来事を知らない。

 無理に聞き出すこともないから、記憶が無いと言えばいいだろう。


「そう、なの」

「まあ、特に気にしているわけでもないですし、大丈夫です」

「それで、その後はずっと旅を?」

「はい、最初は――」


 俺はライヒ村からここまでの経緯を話した。

 アメリーは時々相槌を打つだけで、特に喋ることはなかった。

 俺が話し終わると、アメリーはくすりと笑う。


「どうしました?」

「あまりにも楽しそうだから」

「楽しかったですよ」


 言われてみれば、興奮を抑えることはできていなかったかもしれない。

 年甲斐もなく騒ぐのは恥ずかしいが、俺にとってこの世界での出来事は大きいのだ。

 魔術、剣術、種族や魔物、新しい物がたくさんあった。

 興奮するなと言われる方が難しいだろう。


「次は私の番ね?」

「はい」


 アメリーは、昔を思い出すようにぽつりと話し始めた。

 彼女は小さな村で生まれた普通の子供だった。

 魔法に興味をもった頃、彼女は自分の才能に気づいた。

 魔力が周りの人よりも多かったのだ。


 それを知ったアメリーは早速、魔術の勉強をした。

 特に興味をもったのが、聖魔術。

 アメリーの母は病で寝たきりだった為に、聖魔術に惹かれたという。

 治癒魔術を使って母の病気を治せるかもしれないと、アメリーは治癒魔術を猛勉強した。


 だが結局、どの治癒魔術でも母を治す事はできず、最終的には亡くなってしまったそうだ。

 それから父の励ましと応援により、独り立ちをした。

 冒険者を始め、出会ったのがエヴラール達のパーティ。


 アメリーは、母を救えなかった自分の力を、パーティの仲間に使おうと決意した。

 後に、『女神アメリー』という二つ名で呼ばれるようになった。


 パーティで数々のクエストを熟し、パーティメンバーの全員が特級級冒険者となった後、エヴラールはパーティにいた女性と結婚。

 それを期にパーティはリズムよく解散し、皆が新しい目標のために動いた。

 そして最終的に出来上がったのが、この『アメリー孤児院』だ。


「エヴラールさん、パーティメンバーと結婚したんですね」

「ええ、幼馴染だと言っていたわね」


 幼馴染と結婚か。

 いいなぁ、俺も家が隣の美少女幼馴染が欲しかったなあ。


「シャルル君、これから晩御飯をつくるの。手伝ってくれる?」

「勿論ですとも」


 気づけば、時刻は既に五時半を過ぎていた。

 晩飯の準備には丁度いい時間だろう。

 約四十人の子供がいるわけだし。




 晩御飯は子どもたちと一緒に食べた。

 いつもはエヴラールと酒場や食堂で静かに食べていただけだから、こういうのは久しぶりだ。

 騒がしい食卓も、悪くないと俺は思う。


「アメリーさん、きょうもおいしいです!」

「ありがとう、シャルル君も手伝ってくれたのよ?」

「えー! 僕も手伝いしたかったー!」


 口をとがらせる子供、笑顔で食べる子供、相変わらずの暗い表情で食べる子供、頬に食べ物を詰めてハムスターの様になっている子供。

 この孤児院にはたくさんのタイプの子供がいる。

 明日、改めて皆と話をするとしよう。




 食後、俺は剣の手入れを庭でする。

 ここは星がよく見えて綺麗だ。

 欠けた月も、また味よの。


 この剣も、愛剣と呼べるぐらいには長く使っているだろう。

 エヴラールに買ってもらった剣。俺の宝物だ。

 前の世界でやっていたゲームでも、これに似た剣は長い間使っていたし。


「シャルル君」


 俺が剣を見つめていると、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、そこには赤髪の少女がいた。

「お名前は?」

「クロエだよ」

「お幾つですか?」

「七さ~い」

「同い年ですね。クロエさんはこの場所、好きですか?」

「うん、好きだよ。アメリーさんは優しくていい人だから」

「アメリーさん、美人ですしね」

「うん。皆アメリーさんが大好きなんだ~」

「好かれるでしょうね。アメリーさんには包容力がありますから」

「ほうよー?」

「心が大きいって事です」

「へ~」

「クロエさんは、アメリーさんの様になりたいですか?」

「うん、アメリーさんみたいになれたら、すごいだろうなぁ……」

「じゃあ、おっぱいも大きくならないとですね」

「うん! 頑張る!」


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