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GGO

料理探究家の楽しいひととき

作者: 鬼笑

「神は死んだ!」


 マイホームのテラスでorz姿で落ち込む私に、ウッド調のイスに座っていた鈍く輝く鎧を着た大柄な男性とメリハリのある身体を黒いローブの下に隠した女性が、不思議そうな顔をする。


「え、どうした?」

「神は死んだんじゃなくて、去ったんじゃなかったっけ?」


 そんな見当違いのことを言う二人を、キッと睨みつけて私は重大ニュースを教えてあげた。


「来週のアップデートで味覚実装だって…」


 ばたり、と大げさにテラスに倒れこむ。

 まとめていない真っ黒でサラサラの髪が視界を覆い、噴き出す薄情な友人たちの姿を隠してくれた。



  ※  ※  ※  ※



 様々な方面でVR技術が活用されるようになった近年。

 それは、ゲーム業界も例外ではなかった。格闘ゲームや育成ゲームなど、様々なジャンルがVR化される中、唯一RPGゲームだけはVR化されていなかった。


 ―――1ヶ月前までは。


 多くのゲーマーに心待ちにされていた、VRMMORPG『Groundグランド Gardenガーデン Onlineオンライン』。通称、GGO。

 すでにユーザーは10万人を超える人がプレイしていた。


 そして、私 小々夏ここなつもその10万人の中の1人だったりする。


 VRなんて怖い。

 無理。

 脳波とか意味わからん。

 戻ってこれなかったらどうするの?!

 ファンタジー小説に影響されるすぎとか言うなっ。

   

 と、大騒ぎしたにも関わらず、1ヶ月たった今は暇な時間をすべてGGOに接続して過ごしている。

 そして現在、倒れ伏す私を見て未だに笑っているのが、もう2年の付き合いになるゲームフレンドのキヨとみっちぇるだった。


「それは、なっちゃんには大ダメージだね」

「『神は死んだ』とか言うから何事かと思えば…。大半のプレーヤーは、食事に味があった方がいいって意見だろうからな。仕方ないんじゃね?」


 二人はシステムを起動させて、新着情報をチェックし始めたようだ。長い付き合いなだけに容赦がない。

 あまり倒れていると足蹴にされる予感がして、汚れてもないが身体を払いながら立ちあがった。

 にやにやと笑いながら、キヨが冷やかしてくる。


「頑張れ、『料理探究家』」


 GGOに職業は存在しない。

 レベルアップ時のポイントを消費して、『アビリティ』を取得する。それを装備・成長させることで、ステータス上昇値が増えたり、必殺技のような『スキル』を覚えることができる。さらには、上位のアビリティにランクアップなんてこともある。


 では、『料理探究家』とは何なのか。

 それは、GGOのシステムの一つ『称号』だった。

 ある条件を達成することによって授けられる称号は、アビリティとは違い装備する必要もなく、成長することもない。ただ、恩恵としてステータスが上昇したり固有のスキルを覚えることができる。また、システム制限がつく行動が可能になったりするのだ。


 本来、アビリティ『料理』を取得しただけなら、オリジナルのレシピを作ることはできない。手順や材料を工夫しようにも、レシピ通りに作らないと全て『廃棄物』というゴミアイテムになてしまう。

 しかし、『料理探究家』という称号を持っていると、システム制限が解除される。


 そうして、初めて作ったオリジナルレシピ料理は、こう表示される―――『謎の物体』と。


 完全に人の不幸を面白がっているキヨの目の前に、アイテムボックスから取り出したそれを置いた。そして、満面の笑みで死亡勧告をする。


「召し上がれ」


 今日の『謎の物体』は毒々しい緑色の、ヘドロのような見た目だった。

 畑で採れた野菜を使うと、やはりこの緑色のパターンの物ができるらしい。


「食えるか!」

「大丈夫、状態異常がつくだけだから。今のところ経験したのは、沈黙と気絶と毒くらいで、まだ即死はないから」


 経験者が言うんだから間違いない。と太鼓判を押したのに、キヨはますます嫌そうな顔をして、その緑の皿を、そっと遠ざけようとする。

 それを押し返す私との攻防の横で、みっちぇるがテーブルに突っ伏して肩を震わせていた。


「気絶って。料理食べて、ピヨるとか…」


 ぶくく、と笑うその横に、アイテムボックスから出した別の『謎の物体』を取り出してこっそり置いておく。

 こちらは、赤黒い物体。ポコポコと未だに気泡が発生しているけど、毒ではない―――保証はない。

 先日、みっちぇるからもらったワイルドウルフの肉から作った物だった。やはりここは、責任を持って食べてもらうしかない。


「今がチャンスなんだよ。味覚実装されたら、どんな味になるか怖いでしょ、コレ!!」


 そう、コレを『味わう』日が来るかと思うと、絶望しそうになる。


 『謎の物体』は、試食することによって、成功レシピなのか失敗レシピなのかわかる、というかなりロシアンルーレット的な要素があった。


「そもそも、ナツ自身が食べなきゃダメだろ。俺たちじゃ判断できないんだから」

「ふっふっふ、それがねー。『調剤探究家』の人が、作った『謎の物体』を他の人で試し続けたんだって。薬なら、ステータス見ればなんとなく効果がわかるから。そしたら、その人『モルモット』の称号もらったらしいよ」

「モルモット…。人間扱いされてないということね」

「バッドステータスか?」

「ううん、5割くらいの確率で薬の名前がわかるようになったみたい。―――そこで!」


 ずい、っと遠ざけられていた二つの『謎の物体』を押し付ける。

 心なしか二人の顔色が悪くなっているような気がするが、たぶん気のせいだ。だって、今らな無味無臭。ただ、失敗作だったらちょっと気分が悪くなって、声が出なくなるか気が遠くなるか、HPがガンガン減るようになるか…そのくらいだし。


「今のうちに称号もらって欲しいわけ。食べ続けてれば、そのうち『味見係』とか『試食人』とかつくと思うんだ」

「む、むり…」

「そんな称号もらったら、味覚実装後も付き合わされるの確実じゃない」

「友達でしょー。不幸はわけあおうよ。いいレシピできたら定期的に料理提供するし。美味しい物作ってあげるから!」


 いい笑顔で、スプーンを二つ取り出して押し付け、状態異常解除の紅茶でも用意しよう、とキッチンへと向かった。

 

 GGOでの料理の立ち位置は「回復」又は「付加バフ」アイテムだった。

 戦闘時は使用できないが、平時に食べるとHPが回復する『オムライス』だったり、即死耐性をつける『健康茶』だったり。

 無味無臭で十分だったのに、人の欲求は限りがない。確かに、ここで美味しい物食べれば太らないじゃん、と私も思ってはいたけど。

 しかし、味覚実装となれば、本来の『美味しい料理』として嗜好品的需要が高まるかもしれない。


「そしたら料理人増えるかなぁ。レシピ売れるといいな。あ、料理作って売ってもいいのか、それはちょっと楽しみ」


 今まで二束三文だった料理がどうなっていくか、ちょっと楽しみにもなった。


 先日庭先で収穫した茶葉から作った、全状態異常解除の紅茶を入れてテラスに戻ると、頭の上にヒヨコがピヨピヨと回っている状態のキヨと、スプーンを咥えたままピクリとも動かないみっちぇるの姿があった。


「気絶と…石化、じゃなくて麻痺? 麻痺は初めてだなぁ。―――さて、どうやってこのお茶を飲ますべき?」


 答える人がいない問いをつぶやいて、状態解除まで5分をお詫びの料理作りに費やすことにした。



  ※  ※  ※  ※



「酷い目にあったわ」

「川の向こうに花畑が見えた…」


 お詫びの料理『新鮮野菜のサラダ』を食べながら、二人は恨めしそうに文句を言う。悪かったと思っているので、それも甘んじて受けるしかないと諦めていた。

 食べ終わった二人は、VITアップの効果にとりあえず機嫌を直し、いつものように雑談へと流れていく。


「次のアプデは、味覚、嗅覚実装。あとは、2ndフィールドオープンだって」


 再び新着情報をチェックしたみっちぇるが、読みあげていく。


「2ndか。今回は『隠し』の鍵の入手が簡単だといいけどなー」

「1stだって十分簡単じゃなかった? ボスドロ5%なんて易しい方でしょ」

「確かに5%は良心的だけど、駆け出しの頃にあのダンジョンは辛い。初め何度死に戻りしたことか…」


 『隠し』とは隠された別のフィールド。

 各フィールドには必ず一つは存在するちょっと上級者向けのフィールドで、そこに至るには鍵が必要になるという。

 1stの隠しの鍵は、あるダンジョンのボスのドロップアイテムなのだが、入手できるかどうかは確率5%。

 中級冒険者の二人は最近そのアイテムを手に入れ、ソロで攻略しに入り浸っていた。

 かく言う私は、中の下レベルの冒険者。

 何度かボスまで連れて行ってもらったが、リアルラックのなさに定評がある私は未だに鍵を手に入れてない。


「まぁ、いいけど」


 パーティーメンバーの一人が持っていれば、隠しに連れて行ってもらえる。

 が、隠しで死んでしまった場合、タウンの神殿復活となり、パーティーがタウンに戻ってくるまで合流することは不可能、という微妙に不便な仕様になっていた。

 実際それを経験したが、1人ぽつんとタウンで待つのは結構…いやかなり寂しかった。

 パーティーチャットが聞こえるだけに、ぼっち感半端ない!

 そのときのことを思い出し、「あんまグロい魔物はもういらない」と泣きごとを言うと、常にフィールドに出ている二人から笑われた。


「ナツ、まだ蜂ダメなのか」

「なっちゃん、可愛いー」


 あの死に戻りのときは、『地蜂ビーの巣攻略戦』という、何組かのPTが合同で挑む大規模戦闘だった。

 1stの隠しにあった、地蜂の巣。一度見つかると何十匹という蜂が集まってくるというやっかいなダンジョンだった。


「2回以上のクリティカルヒットで即死判定、とか辛かったけどな」


 盾役をいつも受け持つキヨが、遠い目をしながらしみじみと呟く。

 迫ってくる蜂がリアルで、しかもデカくて、ちょっと引いた。けれど、トラウマになったのは、キヨに群がる蜂の集団を見たからだ。あれはキモイ。


「バタバタ死んでて笑えたわねー」

「死んだ私は笑えん…」


 続々と死に戻る討伐メンバー。そして、大抵鍵を持ってるのか、巣へとリベンジしに走っていく。

 しかし、鍵を持っていない私は戻ることができない。楽しそうに走っていく人たちを、ぼーっと見ていた。

 あれはホントに虚しかったし、寂しかった!!

 生産ばかりじゃなくて、もう少し戦闘も鍛えようと心に誓ったっけ。


「でも、適正より5レベも下だったけど、AGIびんしょう高くてそこそこ生き残ってたでしょ。まぁまぁな戦果だと思うけど?」

「確かに、目的の『ハチミツ』と『蜂の子』はゲットできたけどね」

「なら行くか? 女王蜂がいなくなって、100匹単位で襲いかかってくるとかもうないし。あそこまで大量じゃなきゃ、敵引きつけておくこともできるからな」


 まかせろ、と胸をはるキヨは頼もしい。あの頃よりもアビリティも成長し、スキルも充実したから、大丈夫と余裕の表情だった。


「湧きも早いから、経験値稼ぐにはいいところよ。2ndが実装されたら、新しい食材探しに行きたいだろうし、今のうちのレベルアップしておけば?」

「うーん…」


 正直心誘われるお誘いだった。

 最近ほぼマイホームとギルドホームに引きこもりで、タウンにさえでない。そろそろ外に出たいな、とも思っていた。

 それに、新たなフィールドが実装されれば、そちらの攻略に二人は行ってしまうだろう。

 しかし、同時に料理の試作をするのが辛くなるのに。

 チラリと二人の顔を見て、もう一度「うーん…」と唸る。


「それに、そろそろ『ハチミツ』なくなるって言ってなかった?」

「あ、そうだった」


 ハチミツは単体でも回復アイテムとなる、貴重な素材。あまり市場に出回っていないので、直接取りに行く方が効率がいい。

 味覚が実装されて、まず売れるのがデザート系な気がする。プレーヤーの男女比は6:4くらいだという話だし。

 ハチミツ集めて、新しいデザートのレシピでも作ろうか。けれど―――。


「『ハチミツ』は欲しいけど、アプデまでに『味見係』の称号を―――」


 今日は二人にガンガン食べてもらうつもりで、何種類も謎の物体を用意していたのに。と残念がる私の両隣は、勢いよく立ちあがった。


「さぁ、蜂の巣行こうか」

「そうそう。魔物がグロいとか、見慣れてないからだよ」


 見慣れたくない、と切実に思う私の両腕を二人ががっちりと掴む。戦闘職の二人のステータスに、私が敵うわけもなく、ずるずると引きずられるようにマイホームの出口へと連行される。


「スパルタコースな」

「えええええ」


 それは嫌、と今さら抵抗を始める私に、二人はさっきの仕返しなのか実にいい笑顔で「大丈夫、大丈夫」と根拠のない慰めをくれる。

 せめて、何で大丈夫か言ってほしい。きっと、死にそうな目に会うんだろうな、と乾いた笑いを浮かべたが、それもすぐに別の笑いに変わる。


 胸の奥から沸きでる、ワクワクした気持ちと、友人と一緒に遊べる嬉しさ。


「何笑ってんの?」

「んー、楽しいなって思って」


 突然笑いだした私に驚いた二人も、その言葉を聞いて優しい笑顔と困ったような照れた笑顔に変わった。

完全に趣味です。すみません。

こんなカンジのゲームがあったらいいなぁ、という妄想。

ずっと書きたかったVRモノを我慢できず書いてしまいました。

変な称号など思いついたら、また短編で書くつもり。




今流行りの乙女ゲーモノも書いてみたいけど、甘さのカケラもない文章になりそうなので、自重。

他の方の更新を楽しみに読み専でいよう。

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