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愚かなる賢者の手記  作者: 狛井菜緒
精霊の森編
9/11

2月18日 帰り道


書き直し検討中…


拙作をお気に入り登録して頂き誠にありがとうございます。

 あらかた、大体の事情説明を受けたあと、洞穴内にあった湧水で体と服を洗い、風の属性魔法で乾かす。



(さて…どうしたものか…。)


 服を乾かしながら俺は頭の整理をする。


サリックスの意味は大体理解は出来た。ジェンキンスの突然の来訪の意味も理解は出来た。



…が、しかし


 結局、精霊魔導器なんて代物を俺にどうしろと?


よくよく考えてたら、精霊魔導器って俺自ら望んだわけじゃないのに勝手に契約させられて、新手の詐欺みたいなもんじゃないか。


 悪質な押し売りで壺を押し付けられた気分だ。


価値がわからないし、わかりたくもない。 使わないのに人工精霊、二匹分の魔力の供給を俺が賄うなんて、スゲー割にあわねぇ気がするんだよな。


「とりあえず、ここを出てから考えるしかねぇか…」


服を着込み、シドウが居る所に戻ると白衣の老婆の姿の樹精霊とシドウが別れの挨拶をしていた。


【ようやく使い手も見つかり、わしも一安心じゃ。達者でな。】


「へへ、オババもな。心配ばかりかけて…俺、主の元で頑張るから…見守ってくれよな!」


 何だろう…この空気。就職決まった30代ニートが、初出勤を老いた母親に見送られる…みたいな光景。


ていうか…アイツ、俺に着いてくる気か!!


【おや、来たようだね。】


「俺を助けてくれた楠木の樹精霊ですか?」


【如何にも。祝福の子よ。菩提樹の若き王によしなにな。】


「助けて頂きありがとうございました。」


頭を下げると楠木の老婆は朗らかな笑顔でその姿を消した。俺は振り返り、老婆の本体である楠木に頭を下げるとシドウに眼を向ける。


「…お前、着いてくるの?」


「当然…契約したからには、もう静魔力の必要はないし、ここに留まる理由もないしな。まあ、安心しろ。今後はお前のこと守ってやるから」


「…。」


「え、なんでそこで嫌そうな顔すんの?喜ぶとこだろ!?」



 大変、男前な台詞だが、そんな台詞を言われて喜ぶのはお伽噺話に夢中な少女か、初なお姫様くらいなもんだ。

 男に「俺がお前を守ってやるぜ」と言われて喜ぶ男はほとんど居ないと思う。


…それに、その言葉を宛てにする気もないし、信じる気もない。だって実際に契約者である俺が狼に襲われても、こない精霊魔導器ジェンキンスもいるからな。


 精霊魔導器とか言う不確かなものに依存するだけ時間の無駄だ。


 俺の魔力が食いたきゃ勝手に食えばいいさ。どうせ内包するしか能がない体質だ。あまり出せない力なら食われたほうがマシだろう。


 色々と諦めた。もう、なるようになるしかない


 暗い洞穴を歩きながらふと、あることに気がついた。



…確か、ジェンキンスの奴…ギルドで変なこと言ってなかったか?




──…知り合いにあの森で暮らす者がおります。トリストラム様より少し上ぐらいの年頃で、黒い髪と赤い目が印象的な方です。大きな大剣を背負ってますのですぐに解ると思いますが、もし何かありましたら彼をお頼りくださいませ…─




「…謀られた」


「あ?」



あのクソ執事ィイイ!


アイツ、最初からシドウがここに居るの分かっていやがったんだ!!恐らく、シドウに会わせる為にわざわざハーゲンベルンの森にいく依頼を俺に渡したんだ!!


 怒りが沸々と込み上げ髪を掻き乱し、眉間に皺を寄せた。


後ろから着いてくる精霊魔導器は、俺同様にジェンキンスの企みなぞ知らずに踊らされて俺と契約したのだ。


なんのために俺をここへ行くように仕向けたのか…そして何故、真実を告げずにいたのか不明瞭だが、悪意はないのはわかる。しかし、しかしだ。どうにも良いように踊らされるのだけは気にくわない。


「な、なんか恐いぞ!主!」


「…トリスでいい。主、て呼ばれるのはなんか慣れねえし。」


「?…そうか、じゃあトリスって呼ぶな。」


 ニカッと笑う下僕2号だが、帰ったらきっとジェンキンスに遊ばれるに違いない。


唯一、彼に対して好印象を抱いたのはこの素直で真っ直ぐなとこだろう。

 人間だったなら友人になっていたかもしれない。


(…友達か…)



しかし、それは叶わないだろう。シドウは確かに、人間くさいが、人間ではないし…いくら砕けた態度でも主人として無意識に認識しているのか、俺の斜め後ろを歩いている。


 少し陰鬱な気分になった。歴代のサリックスってコイツらをどんな風に扱っていたんだ?

 サリックスって結局は契約したコイツらとどんな関係を築いてきたんだ?


サリックスの正体はわかったのに、結局はまた疑問が深まるばかりだった。




洞穴を抜けると目に眩しい光が舞い込んできた。どうやら雨は上がったらしく、雲間から夕焼け空が覗いて見える。


俺は腕時計を見れば既に夕方の5時を回っていた。


「…あれから二時間ここにいたのか…。」


「おっと、トリス。囲まれたようだぜ?」


剣呑なシドウの声に俺はハッとし周りを見れば、茂みの奥や木陰から8匹のハネバ狼の姿が現れた。


人間の匂いを嗅ぎ付けたのか…それとも待ち伏せしていたのか…。


(多分両方だな。)



 ハネバ狼は嗅覚が特に発達した生き物だ。20km先の獲物の匂いすらかぎ分ける。


恐らく、俺が生きてる事を自慢の鼻で嗅ぎ付けたが、人間じゃないシドウの匂いに尻込みしたのか洞穴には入らず待ち伏せをしていたに違いない。


(っ…て、冷静に分析している場合じゃねぇ。)


だが、不思議と恐怖を感じない…。シドウがいるからだろうか?確かに、一人じゃないってのは心強くするが…なんとも妙な安息感に俺は首を傾げた。



「あれ。?お前ら他所の縄張りのもんだろ?前いた群れはどうした?」


「人間に討伐されたんだよ。コイツらを派閥争いで負けてこの森に流れてきた負け犬どもだ。」


そういうや否や、一匹の狼は俺の喉笛めがけて牙を剥いたが、その牙は一瞬で地に伏せた。



「身体を動かすには調度いいな。ほらさっさとかかってこいよ。」


いや、 かかってこれないだろう。


高くもなく低くもないひょろりとした青年が、身の丈以上の大剣を軽く凪ぎ払っただけで、内蔵、骨が潰れて死んだ。刃ではなく、剣の腹で軽く(・・)叩いただけだと言うのに、まるで露を払うように体長140cmのハネバ狼を吹き飛ばした。



(コイツ…こえぇ)


 この奇妙な安心感は、シドウから発せられる威圧感が自分に向けられていないからだ。


これが自分に向けられるかと思うとゾッとする。



(…っとりあえず、俺も何かしねぇとな。)


まずは、獣が嫌う火で威嚇して、退路を確保せねば。


俺はそっと掌に意識を集中する。


「双蛇の紋よ開き召せ八弦の離火。小さき焚火を良しとせず。八面六臂に大気を侵食し、飛散せよ!」


火属性の初級魔法で、炎の玉を五つ作り出し敵に浴びせる技だが、杖がないから上手く力配分ができず、火が大きく膨らみ、爆発するように飛散した。


「きゃう!!!


「がぉ!」


「え…」


「わぁ!あちち!こっちまで来た!!」


三匹が一瞬で灰になった。…あれ、初級魔術なのに何でこんな威力あんだ?


威嚇するつもりだったのに予想以上の威力に眼を見開いていると、着物に飛散した火がついたのをシドウが手で払いながら、俺に近づいてきた。




***



(トリストラム・ウィロー)


着物に付着した火を払いながら、呆然と自分の手を見る新たな主に、獅童は紅い眼を細めた。



サリックス…古代アルソニア語で《能無し》《道化》



魔法の時代と呼ばれた古代黄金期、魔術師達が今以上にいた繁栄の時代。魔力を満足に扱えない、無能なる魔術師がいた。


その末裔であるトリストラムは、やはり魔術の才能はない。


無いのだが…



(…アスピダの野郎が長年執着していた訳がわかる…コイツ、かなり面白い。)



魔術の基礎詠唱もトロいし、詠唱省略すら出来ていないのに、あの火の威力。

 体内から魔力を出す練習をそれこそ何度も吐きながらひたすら努力してきた証拠だ。


さぞ、身体を酷使して慣らしたのだろう。獅童が知るサリックスの中でも器が頑丈な部類だ。


 通常、サリックスは精霊魔導器をひとつ抱えるのがやっとだが、彼は長年の鍛錬で複数の精霊魔導器を所有できるほどの器に成長していた。




 魔法を放出しつづけると言う単純な練習が、自分の身体を作り換えているとはこの新たな主は気づいてはいないのだろう。


…しかし、その無知は同時に危険でもある。



(…独占的思考のあの腹黒野郎が、自分以外の精霊魔導器が主と契約を結ぶだなんて絶対に許すはずがねぇ。…て事は)



「…最後っと」



最後の狼を叩き伏せると、未だ燃え盛るハネバ狼の亡骸に慌てて水の魔法をかけるトリストラムの姿が視界に入った。



「…水の友よ。来たりて杯を満たせ。」


 森を充満していた空気中の水分が器用にもトリストラムの掌にあつまり、狼の亡骸の火を鎮火していく



「…詠唱省略できるんじゃねーか」



しかも、これは大気中の水を集める中級魔法だ。先程使っていた火属性の魔法と違ってスムーズな動作に獅童は首を傾げる。



「火属性があれで水属性の方が得意だなんて…良くわからない主だな。」


「良くわからないのはこっちだ。なんだその戦闘能力。お前、本当に元魔法媒体なのか?」


疑うようなトリストラムの視線に獅童は肩を竦めて、苦笑する。


「俺は魔法媒体っていうか、元々は野太刀と呼ばれる武器だった。精霊化して冒険者に擬態していたら、自然と鍛えあげられたんだよ。」


「武器が武器を使って戦うのってかなりシュール過ぎるだろ…。」


「そう言うなって…俺ってば外見的に武闘派って感じだから、冒険者に擬態してるんだよ。武器を持ってなきゃ反対に怪しまれるんだろ?魔導書が執事やってるよりかは遥かにマシだって。」


「そりゃあ…まあ…」


眼を反らし、何か言いづらそうなトリストラムの反応に、思わず吹き出すと獅童 は背中の鞘に大剣を戻し再び主に向き直った。


「それじゃあ、帰りましょうかね。我が主」


「…厄介なのが増えた……。」


「ははは!そういうなって!」


「笑い事じゃねぇ!!ああ、前途多難だ…」


 はぁとため息を漏らすトリストラムだが、彼の予測はあながち間違ってはいない。その事を知るのはもう少し先になるだろう。


6月中は手記オンリーですが、7月は通常連載を更新するつもりです。


感想を頂いたので幾つか修正しようと考えいてます。


…スランプ未だに継続中


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