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愚かなる賢者の手記  作者: 狛井菜緒
精霊の森編
7/11

2月18日 笑う執事

意味わからないと思いますが連続投稿しますので、次の話で分かると思います。



幼年学校


5~10歳の子供が通う学校。


ここまで義務教育。

貧しい家の子は卒業と同時に就職する。


・高等学校・


11歳から15歳までの子供が通う学校。


大抵の一般人はここまでで、就職する。



・大学&大学院・


15歳からさらに受けられる上級教育機関。五年間在籍し、卒業した者はエリートと呼ばれ、政治機関や軍隊でもすぐ役職を貰える。


特にサンマルクトコルグ大学院の卒業生はエリート中のエリートで、大臣や幹部、天才を毎年排出すると言われている。




ハーゲンベルンの森につく頃にはぽつリぽつりと小雨状態になり霧が出始めた森の中を歩きながら、指定された薬草を摘み取っていく。


 ここにはハネバ狼と呼ばれる狼の群れがあったが、都に近い理由から討伐されて、いまやその姿は見えない。こちらとしたら有り難いが狼からすれば災難だったのだろう。



「28、29、30っと。ヨモハとフカベはけっこう取れたな。」


 あとはリャナリアの花だけだ。これだけがまだ指定された数に達していない。そろそろ暗くなりはじめる。

 どうしたものかと、思案していると、ふよふよと浮遊する物体を見つけて俺は思わず口元が綻ぶ


「ちょっとすいません。そこの花精霊ファーナリアのお姉さん。」



【…あら人間の坊や。薬草でも摘みにきたの?】


俺が話しかけたのは花梨クインセの花精霊だった。フンワリとしたオレンジと白を基調にした美しい衣を纏った精霊は、穏やかな表情で俺に語りかけてきた。


樹精霊と違い、果樹の精霊は200年前後で精霊になる。花を開かせ実を結ぶ力が強いほど精霊化するのも早い。彼女は恐らく静魔力マナの波動からして500年ぐらいの長生きな精霊だろう。


流石、精霊の森と呼ばれるだけあってそこらへんに精霊がうようよ居る。


闇精霊に、地精霊、樹精霊、水精霊までいるのには流石にびっくりした。

首都マルクトコルグが霊脈の上にあるせいだからだと思うが普通、首都圏や街がある近くに精霊はいない。それこそ田舎にしか会えないのだ。



「散歩中申し訳ない。リャナリアの花が咲いている場所を教えてくれないか。」


【ここを真っ直ぐいけば見えてくるわ…でも坊や。早く帰りなさい。狼達が起き始める頃よ。】


「え…討伐されたんじゃ?」


思わぬ話に俺は首を傾げると精霊は首を横に振って、フワリと俺の前に立った。


【他所の森から引っ越してきたハネバ狼の群れを見かけたわ。おそらく前いた群れを追い出された一団ね。ここの群れが居なくなったことをいいことに、ここを自分達の狩場にしたの。】


「っ…マジ?」


【ええ。菩提樹リンデン王の静魔力マナの祝福をうけた貴方だから忠告するのよ…早くお逃げなさい。】



…帰ろう。依頼主に訳を話せば何とかなるだろう。俺はまだ死にたくない。


短剣も持ってすらいない俺なんぞがハネバ狼に遭遇したら死ぬ。てか、持ってても絶対死ぬ。


 今戦うとしたら魔法を使うのが効果的だが、威力を調節する媒体の棒杖もない上に、俺の魔法詠唱速度は遅い。

呪文を唱えている時点で喉笛噛みちぎられて死亡するだろう。


「ありがとう、お姉さん。」


 花精霊のお姉さんにお礼を言っていざ、出口へと踵を返した時に、右側前方の茂みからがさがさと言う音が聞こえ、俺はギョッと身を竦めた。


 バサッと言う音が聞こえ、恐る恐るみると、白いフワフワなウサギだった。


「なんだ…ウサギか。」


【逃げて狼よ!!】

「へ?」


 ホッとしたのも束の間、可愛らしいウサギが出てきた茂みから黒い影がウサギに向かって音もなく飛び出すと、容赦なく食らいついた。


 黒い影はウサギの首を手際よく噛みちぎり、骨ごと噛み砕くようにクチャクチャとウサギの血肉を食らっていた。

 黒い長めの毛に白いラインの毛が混じった獰猛な森の暗殺者の姿に、俺は吐き気が込み上がったが、恐怖で息がつまり、何とか堪える。



「ガルルル…」


 ウサギをペロリと食らっていたハネバ狼は、俺に気がついたのか、その血走った眼を俺に向けてきた。



【逃げて!】


「っ…!」


 花精霊のお姉さんが静魔力をこめた光の粉をハネバ狼に向かってふりかけると、俺に向かって襲いかかろうとしたハネバ狼は鼻を押さえてのたうち回った。


 周囲に花梨の濃厚な香りが立ち込めた、恐らくハネバ狼はその香りの強さに耐えきれず苦しんでいるのだろう。

【今のうちに早く!】


 花精霊のお姉さんの声にハッとして俺は、森の中へと走りだした。


 この時の俺はどうかしていたと思う出口に向かって逃げればいいものを、混乱して森の中へ逃げてしまったのだ。


 土から浮き出した根を飛び越え、道なき道をひたすら走る。

 アオォォンとハネバ狼の遠吠えが聞こえてきた。おそらく狩場に獲物(俺)が入っていた合図なのだろう。


「ぎゃあああぁ!!っあがっ…ッ」


「ヒィ!」


 どこかで男の人の断末魔の叫びが聞こえてきて、俺は脚に力をいれる


 多分俺みたいに薬草を取りに来た人だろう。この距離では助ける事はもうできない。行ったら行ったで俺は襲われた人の二の舞になるだろう。


 俺はなりふり構わず森の奥へ奥へと、押し進む。

冗談じゃねぇ!こんな依頼受けるんじゃなかった!!生きて帰ったら冒険者ギルドに訴えてやる!


タッタッタッ


 冒険者ギルドへの抗議文を考えていると不気味な足音が後方から複数聞こえてきて、俺は恐る恐る振り返ると、全身の血が引いていく音が聞こえた。


 三、四匹の黒い物体が此方に向かって走って来るのが見えたのだ。これはヤバイ…かなりヤバイ。このままでは確実に死ぬ!


 俺は前方に何があるか確認せずそのまま藪に突っ込むと、一瞬の浮遊感と、ズボッという何かに埋まる感覚に眼を見開いた。


「そ、底なし沼だとぉぁお…!!」



 大きな大樹の根本にある大きな沼地に、どうやら俺は飛び込んでしまったらしい。既に胸元までドロに埋まっている。


 恐る恐る振り返ると、狼達もさすがにこの底なし沼に入りたくないようで、俺に一瞥を向けると諦めたように茂み消えていく。


「ップ…。」


そうこうしている内に、俺の首元までうまり、俺は這い出ようともがき、足掻いた。しかし、体は余計に泥に飲まれていく。


 口や鼻の穴に泥が入り、呼吸困難になった俺の意識も泥に埋もれていく


「ちく…しょう…」


俺は…こんな所で死ぬのか?


嫌だ…こんなとこで…俺はまだ何も…して…ない。


死にたくない…


死にたく…な…



【そのまま動くでないよ。坊や】


ふと、老婆の声が聞こえたと思った瞬間、俺の意識は途切れた。


***



「……クス…。」


「ジェンキンス殿?」


「いえ、失礼いたしました。引き継ぎの説明の続きを…。」

前任の寮母はジェンキンスの様子に首を傾げたが、直ぐに意識を切り替えて、ジェンキンスに学生の説明を続ける


「寮は男子寮三つと女子寮三つの合計四つの寮がございます。」


 そう言うと老夫人はスラスラとテーブルにあったメモ帳に寮名を書き記していく。



第一男子寮『柳寮』

第二男子寮『柊寮』

第三男子寮『榎寮』

第一女子寮『椿寮』

第二女子寮『楓寮』

第三女子寮『桜寮』


みな、マルクトコルグの聖樹にちなんで木の名前で統一されている。


「これが主な名称で、貴方には第一男子寮『柳寮』の管理人になって頂きます。」


「ずいぶん、数が多くあるのですね。」

「大学院は五年生ですので、生徒数もその分、多くおります。」


「今度の新入生を含め約1750人。ひとつの寮に約292人弱。柳寮の部屋数は?」


「78部屋です。」


「となると、一部屋三人~四人と言うことになりますか。」


「はい。ですが地元に家から通う生徒さんも多くいますので、寮の利用者の数により二人部屋、一人部屋になることもございます。」


「…失礼ですが、今年の柳寮の入寮者のリストはございますか?」


「はい。どうぞ」


前任の寮母は、思ったよりも頭がきれるジェンキンスに安堵の笑みを浮かべると、入寮者リストの書類を差し出した。


「…利用者は20名ですか…」


「先に入寮してる上級生が数が多いから…そんなものですよ。」


苦笑してティーカップを口元に運ぶ老婆に、ジェンキンスは眼を細めると書類の新入生の欄に書かれた少年の名前に、口元をつり上げる。


トリストラム・ウィロー。


 嘆きの盾の聖騎士と同じ名のあどけなく、自分の事を何ひとつ理解していない愚直な主を思い出すと、可笑しくて可笑しくて、ジェンキンスは等々笑うのを堪えきれなくなった。


 賢き緑を湛えた瞳にボサボサの焦げ茶色の髪。そのやる気がない、だらけたアホ面が、その性質が、あまりにも似すぎて(・・・・)最初に出会ったときは、うっかり膝をつきたくなった。


 魂は別々な固体なのに…彼の少年は同一のものを秘めていた。だからジェンキンスは少年を認めた。





 コレは今代の自分のサリックスであると。





 あの家で必要以上に接しなかったのは、彼がの器であるか見定める目的もあったが、他の家族や召し使いに変に勘繰られる可能性があったためだ。


 縁あるウィロー家から出て、彼に着いてきた時点で彼がだと認めていた。少々強引だったが、これで良い。


 そして、自分の主は今…あの森にいる。


 自分と同じく、を待つ憐れな同胞がいるあの森に。


あの同胞は彼を見てさぞかしガッカリすることだろう。



「…くっ…くくく…。」


「…ジェンキンス殿?」


「いや失礼…知り合いがこの中におりましたので、寮父の私を見たらさぞ驚くだろうなと…。」


「まあ。それは楽しみですね。」


「ええ、とてもとても楽しみです。」



執事は、どこか悪戯の結果がどうなるか楽しみで仕方ないと言わんばかりに、老婆がうっとりするような笑みを浮かべた。


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