2月18日 雨の中の花
仕事斡旋ギルド
いわゆるハ○ーワーク。
冒険者じゃないひとも気軽に仕事を受けられるギルド
仲介料は格安。国が運営している。
冒険者ギルド
私営のギルドの一つで、護衛・討伐を主にした戦闘員専門ギルド
仲介料は依頼により高く取られる。
・危険度・
危険度S:マジでヤバイ。死亡率98%
危険度A:かなりヤバイ。Aランク以上の冒険者か騎士団以外の人は行くのはよしましょう
危険度B:ヤバイ。護衛の人が必須。1人で行ってはいけません。
危険度C:普通。危険はさほど無いですが、護衛は1人連れて行った方が安全かも
危険度D:安全といっていい。危険なものは討伐済みですよ
2月18日雨
天候が最悪だったが、仕事探さないといけないので俺は仕事斡旋ギルドへ行くことにした。
俺が紹介された今回の仕事はマルクトコルグの魔法薬専門店ベレットのオババの依頼で、薬草集めの仕事だった。薬草は集めるのは苦では無かったので、受けたのだが、探しに来たハーゲンベルンの森にきてびっくりしたのなんの。
まず、雨でぬかるんだ沼に埋まるし、狼の群れに全力で追いかけられるわで、さんざんだった。
冒険者ギルドの仕事じゃないと、安心して受けたら全身泥だらけになった。
薬草はきちんと集めたがな。狼?逃げたにきまってんだろ。正直ちびるかと思ったが、何とか助かった。まあ、たまたま通りがかった冒険者のおかげで死なずにすんだが、実に変な冒険者だった。
あまり思い出したくないので明記しないが。とにかく深く感謝している
ただ、気になったのがその冒険者にもサリックスと呼ばれた事だ。菩提樹王にもそう呼ばれたが、サリックスっていったい何なんだろうか。疑問は深まるばかりである。
***
生憎、天候は悪く2月の冷たい雨がマルクトコルグの都を濡らしている。
黒い合羽に身を包み、俺は仕事斡旋ギルドに来ていた。
勘違いしないでほしい。仕事斡旋ギルドは冒険者ギルドとは違う。
冒険者ギルドは主に野盗や妖獣の討伐、護衛を主にしたギルドだ。腕に自身がある奴がいく場所だな。仕事斡旋ギルドはいわゆる職捜しの仲介をする場所である。こちらはひ弱な俺でも気軽に入れるから助かる。
俺はとりあえずこの1ヶ月は日雇いの職をあたり、学校が始まったら学校近くで学校帰りに働ける場所を探すつもりだ。
「…で、何でお前までついてくる。」
「主に付き従うのも執事の仕事でございます。」
「執事を連れてくる奴がいるか…!」
「まあまあ、怒らないで下さいまし。実は私はこれから仕事の引き継ぎで大学院に行かねばなりません。ここまでお供したのは偶々でございます。」
「…で行かなくていいのか?」
「指定された時間までまだ少し余裕がございますので、トリストラム様の仕事を一緒に探させて頂きます。」
「…そうかよ」
胡散臭い執事に、これ以上何も言わず俺は日雇い掲示板に眼を向ける。
(…子守に、畑仕事…パッしないな)
金額も子供の小遣い程度の仕事ばかりで、これでは金は貯まらない。どうしたものかと掲示板を見ているとジェンキンスが貼られた依頼書のひとつを外して俺の目の前に差し出してきた
「これなど如何でしょう。」
「ん?」
▼ハーゲンベルンの森の薬草採取
・依頼人:ベレット・パナマ
ヨモハ草・フカベ草・リャナリアの花をそれぞれ10ぐらい摘んできてほしい
なるだけ早ければ助かる
報酬:1500G
薬草が多ければ、値段考証可
ハネバ狼の群れは討伐済み
危険度D
ヨモハとフカベ、リャナリアの花は子供でもしるポピュラーな薬草だ。但しマルクトコルグからちょっと離れたハーゲンベルンの森付近にしか自生していない。
ハーゲンベルンが樹精霊が多くいる森のためか一番良く取れる。
(…量によっては依頼料の上乗せも可能か…しかし、この天候では…。)
チラリと窓ガラスの向こう側の空を見上げたが、やはり雨は止みそうもない。
「…トリストラム様、やはりこの天候ですし屋内の仕事を…」
「いや、危険度がDなら問題ないか…ジェンキンス、これにするよありがとな」
急ぎの仕事の様だし、薬草を摘むのにそれほど時間はかからないだろう。まずは言ってみて、天候がこれ以上悪くなるなら途中で帰ればいい。
受付に依頼書を持っていき、手続きを終えると俺はジェンキンスとギルドを出た。
「トリストラム様。」
「ん?」
「ハーゲンベルンの森は一見狭い森ですが、そうではございません。どうかお気をつけて。」
「ああ、うん。」
「それと、知り合いにあの森で暮らす者がおります。トリストラム様より少し上ぐらいの年頃で、黒い髪と赤い目が印象的な方です。大きな大剣を背負ってますのですぐに解ると思いますが、もし何かありましたら彼をお頼りくださいませ」
「…知り合い?名前は?」
「お名前は直接、本人にお聞きになるほうがよろしいでしょう。では、私はこれにて失礼させていただきます。」
「あ、ちょっと!ジェンキンス。…たく名前ぐらい教えてくれればいいのに。どんな知り合いなんだよ。…とりあえず、一度教会に戻って籠を借りてから行くか。」
俺はその時とても安易な考えでこの仕事を受けたのだが、この決断が、俺の人生を変えていくことになる。
***
「エルギフ学長、またトリストラム・ウィローの書類を見ているのですか?」
「ああ、サークレス君か良いところに来た。」
エルギフと呼ばれた老人は顔を上げて、来訪者の青年に柔らかい笑みを向けた。彼の名前はエルギフ・ポート。このサンマルクトコルグ大学院魔導科の学長で、魔術師達からは「隻腕の魔術師」と呼ばれる老人であった。一見柔和な老人だが、戦争で無くした右腕と、凄絶な顔の傷は老人の人生の波瀾万丈さが伺えた。
対するサークレスと呼ばれた男は困ったような表情でエルギフの手にある書類に目を向けた。
「面白いですか、その生徒。」
「ああ、面白いよ。この子。実技試験を見たときから笑いが止まらなくてね。早く入学してこないかな。」
うきうきとして書類を見ながらにやつく老人に、サークレスは無精髭が生える顎をさすりため息を漏らした。この学長の悪い癖は面白い生徒を見つけると、とことん弄り、とことんその才能を開花させようとする。それがたとえ、枯れそうか根腐れしそうな花でも、栄養と水を与え意地でも花開かせようとする。たとえ、花が望んでいなくても、だ。
「…先ほど彼の義母が抗議に来ましたよ。」
「抗議?」
「トリストラム少年には一日違いで生まれた異母兄がいまして、その義母が言うにはその異母兄が本当は合格したのであって、トリストラム少年が合格したのはこちらの手違いだと言ってますが」
「ほう?なにやら彼の家庭もなにやら面白いことになっているようだね。」
「トリストラム少年は、ウィロー男爵の庶子です。法により、ウィロー家に引き取られてます。」
「異母兄の名前は?」
「マルク・ウィローです。実技で最高点を出した。」
「ああ、あのつまらない子ね。で、その抗議どうしたの?」
「適切に処理しておきました。今、ご母堂を正門までエスコートして本日の報告書を持ってきました。目を通してください」
「はいはい」
マルクを「つまんない子」と言い切って、さも興味なさげな学長の様子にサークレスは、会ったこともないマルク少年に内心同情した。この学長が興味を持たない時点で彼は魔術師としての才能は限界値と言うことになる。これ以上は成長することはない花に、エルギフは興味を示すことはない。たとえ、実技試験で最高得点をとっていてもだ。
「学長、何故トリストラム少年を合格にしたのです?実技を見た試験官達からは中の下で、才能なしと判断された生徒ですよ?確かに地、水、風属性の三属性に適性がるのは珍しいと認めますが。打てるのは中級魔法が限度。彼の合格は入学後に波紋を呼ぶことになるでしょう。」
「全く、試験官達は何を見ていたのか…まぁ、後々解ると思うけど。君の属性強化学の授業でいずれ私が言いたいことが解るだろう。…っぷぷっあの子ほんと馬鹿だよね。それとも不器用なのかな?愚かなのか賢いのか良くわからないなぁ」
「よく解らないのはこちらです。貴方が何にトリストラム少年に執着しているのか解りませんが、分析から見るに、この少年は魔力放出疾患です。魔術師になるには適していないのでは?。」
「病気の花も、薬を与えれば治るものだよ。サークレス君」
「…絶対そう言うと思いました。ああ、あと彼に関して文学科のリヒター学長と、アーテル女史がこれでもかって言うぐらい学長に怒ってましたよ。『てめぇ、うちの期待の星を横取りしやがって、後でぜってぇシバき殺す!』だそうです。」
「…相変わらず彼は文学科の学長だと言うのに言葉が汚いねぇ。まるで海賊か山賊じゃないか」
はははと、どこ吹く風っと言った様子の学長に、サークレスは「余所の学科に内定していた生徒を汚い手段で横取りした学長のほうが盗人猛々しいと思いますよ。」と一言毒を添えると、手に持っていた書類を学長の机に置いて退出しようと踵を返した。
「ああ、待ちなさい。サークレス君。君にお願いがある。」
「お願い、ですか?」
「うん。お願い。」
「貴方のお願いは毎回ろくな願いじゃないと認識していますが…拒否権はなさそうですね。」
「わかっているじゃないか。流石、私の弟子789号」
朗らかに笑う老人にサークレスは諦めて向き直ると、今度入学してくるトリストラム・ウィロー少年にわずかながら憐憫の情を向けると、エルギフから下る、お願いという名の命令に耳を傾けた。
実は文学科も受かってたんだぜ!という裏話です。
主人公が何故合格したのか後々解ると思います。
ここまで読んでいただき有り難うございます。