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愚かなる賢者の手記  作者: 狛井菜緒
序章編
3/11

2月15日兄の憂鬱

 今日はここまで。

早く30話まで書いて連載を再開したいと思います


入学手続きはあっという間に終わった。

合格者の欄に名前を記入したあと、何か平たい台座だけのバッジに血を垂らさせられた。


平たいバッジ台座に付着した俺の血が紅い結晶になり形作られていく光景は中々シュールだった。後で聞いたがこのバッジは、バデリアバッジと呼ばれる魔法具で、新入生の血液を垂らし一度契約すると他人がつけることが出来なくなり、このバッジを持たない人間は教室には入れない仕組みになっている。


昔、在校生に混じって無断で聴講していた部外者がいたらしく、その対策らしい。

問題は入学手続き後だった。制服採寸やら寮の割り振りやらで時間を費やす事になった事だ。


サンマルクトコルグ大学院は国が運営していて、生活費意外のだ入学金、授業料、寮費は免除されるが、制服は想定外で金を払わなくちゃならないのかと内心ヒヤヒヤしたが、制服も込みで免除らしい。実に助かった。


ありがとう初代皇帝陛下。俺は、アンタを今だけは尊敬するよ。


諸々の手続きが終わり家に帰宅したのは夕方になっての事だった。


我がウィロー家は貴族が住むハウゼン地区にある、悪い意味で目立つ豪邸だった。


先祖のゴルドベル・ウィローは優秀な魔術師で、その功績から爵位をうけた偉大な人だったらしい。良くしらないが、代々宮廷魔術師を排出する名門貴族らしい。


俺はそこの次男になる。まあ、長男とは1日違いで生まれた妾の子と言うやつで、俺の母親は親父の何番目かの愛人だったわけだ。


母親は俺が小さい時に死んだため、親父が俺を引き取る事になったのだ。


この国の法律で、庶出子の場合、育てていた片親が死んだ場合、その血を分けたもう片方の親が必ず引き取らねばならない。


つまり、お袋が死んでしまったので親父は法律で仕方なく俺を引き取ったのだ。

そりゃあもう、ご婦人方が好みそうなドロドロな修羅場だったよ。


魔術の才能がないと知るやいなや、親父は俺を劣悪種扱いだし、正妻のミリアは俺を完全に無視して存在すら認めていないし、異母兄のマルクは昔から何かと嫌がらせしてくるし、異母妹のマリアンは俺を兄とは認めず家畜扱いだ。



そのせいか、俺は召し使い達からも扱いが酷かったが、衣食住が確保できただけで幸せだったので、ウィロー家の家族ぐるみの嫌がらせもスルーしてきた。


通う学校も、ウィロー家の人間が絶対に通わない一般労働者の子供が通う下町の幼年学校と高等校に入れられたが、むしろこっちで良かった。貴族の子弟が通う上流学校だなんて息が詰まってごめんだったし。家族の嫌がらせのおかげで学校が一番の息抜きになった。


その頃から俺はサンマルクトコルグ大学院に入ろうと決意していた。


いつか、あの家から出るために、勉強に勉強を重ねた。苦手だった魔術もがんばって最低合格ラインの中級魔法を放てるまで何度も吐きながら練習した。


今、思うと過酷な日々だったと思う。


俺は悪い意味で住み慣れたこのでかい屋敷を見上げて、思わずため息を溢した。


実は、ウィロー家の連中に内緒で大学院を受けたのだ。当時はウィロー家総出で異母兄のマルクの受験にかかりきりで、俺は当然の如く無視されていた。そのおかげで、あっさり受験できた。


いつもなら受験できないよう嫌がらせをしてくるが、全員期待の長男に目が行ってたおかげで俺は普通に受験できた。

自分で願書だして、自分で受験しに行ったのだ。ほんと、ウィロー家の連中のスルーっぷりは笑えたな。


だが、合格してみるとマジで笑えない。


魔導科を希望していた魔術の才能が傑出したマルクが大学院に落ちて、庶子の魔法の才能が皆無の俺が合格したのだ。これからどんな修羅場になるのやら。


俺は手元の書類をみると踵を返し、馴染みの工業特区へと足を向けた。



「よう、トリス。久しぶりだな。学校はどうした?」


「受験休み中」


「そっか、もう高等学校卒業だもんな…。ほら、持ってけ受験生。」


「ありがと、おっさん」


工場が立ち並ぶ工場特区の横にある下町商店街を歩いていると、馴染みの八百屋おっさんから林檎を頂いた。


ゴシゴシと服で林檎を磨き、咀嚼しながら商店街を歩く。


貴族の次男坊がすることじゃないが、元々ここで3歳まで育って、五才から工業特区内にある幼年学校と高等学校に通った俺からするとこうするのが当たり前だ。


日が傾く頃、俺は商店街を抜けた所にある教会の門を叩いた 。


聖マデリア教会。教会は医療院の役割もあり、労働者にはありがたい格安で治療を受けられる場所である。各言う俺の母親もここで俺を出産した経緯があり、俺にとっては第二の家みたいなところだ。


「おや、トリス。いらっしゃい。よく来たね。」


「司祭様、こんな時間に悪いな。」


「構いませんよ。私にとって君は息子のひとりなのだから。」


聖堂を掃除していた司祭様は笑顔を浮かべて俺を手招きした。


彼の名前はリュシア・コントリオール。この教会の司祭で、俺の名付け親にあたる人だ。


トリストラムとは旧王国で殉教した聖人の名前で、悪を除ける盾を持った聖騎士の名だ。


そんな立派な名前を頂いた俺は、この司祭様を昔から実の父親以上に慕っていた。



「それで、どうしたんだい?改まって。」


「実は、司祭様にお願いがあって来ました。」


「お願い?」



「実は…」



俺は、軽く深呼吸すると司祭様をまっすぐ見上げ、おもむろに口を開いた。





***


僕はそわそわしていた。

万全な状態で受けたサンマルクトコルグ大学院の合格発表を見に馬車から降りて、大学院の門を潜ると既に受けた何百人もの受験生でごったがえしていた。


泣くものや嬉しそうに笑う者もいる中、俺は見知った少女の姿を発見した。黒髪を結い上げスラリとした佇まいの美しい少女に僕は、胸が高鳴った。


イゾルティア・パッセル。


僕の幼なじみで、三軒隣のパッセル伯爵家のご令嬢だ。僕の初恋の人でもある。


彼女は封筒を手にしていると言うことは、合格したのだろう。


今まで女子校で会えなかった分、入学したら彼女と会えると思うと胸が沸き立たち、頬が緩んでしまう。



「ルティ…!」


「……マルク」



彼女は僕をみて表情を歪めた。だが、僕はそれを見なかった事にして努めて朗らかに話しかける



「合格したんだね?おめでとう!ルティ」


「…ありがとう。それよりマルク、トリスを見なかった?」


愛する人から、あの腹違いの出来損ないの名前が出て、思わず僕は顔をしかめた。


なんでアイツが出てくるんだ?


まさか、アイツここを受験したと言うのか?そんなはずがない。受験したらな家族や召し使い達がなんかしら報告がくるはずだ。



「…生憎、来たばかりでね。あのゴミはみてないよ」


「マルク、トリスは貴方の兄弟なのよ?ゴミだなんて…」


「ゴミはゴミじゃないか。魔術師の血を引いてるのに、魔術がろくにできない半端者はウィロー家にとってはゴミ当然さ。」


そう言うと、ルティは悲しそうに眼を伏せて、俺から眼を反らした。


まるでこれ以上話したくないと言わんばかりの彼女の態度に、奴への憤りが増した。


ルティは異母弟のトリストラムの事を昔から好きだった。

遊ぶにしろなんにしろアイツの後ろを良く引っついて。アイツの世話を甲斐甲斐しくやいた。


ルティがアイツを好きになった理由は、アイツが単にルティの手作り料理を食えるからだ!!それだけだ!!


僕の何処が奴に劣るというのだ?容姿、将来性、魔術の才能どれをとっても僕が上だろ!?


昔、父上と母上に頼んでルティを婚約者にして貰おうとしたが、パッセル伯爵からは「ルティは世継ぎだから、次男のトリス君の方がお婿さんに欲しいな。」とアッサリ断られた。その時、すでに周りに彼女は婚約者になると言いふらし、有頂天だった僕に、彼女が放った言葉が「最悪」だった。


僕が無理矢理な婚約を強行しようとした事をルティに知られ、僕はルティに避けられるようになった。会うたびに不快そうな顔をされる僕の気持ちがわかるか?

実に悲惨な気分だよ今もな。


確かにルティの知らないとこで無理矢理ルティを婚約を結ぼうとしたのは、…その、早計だったと思う。だからこうして会うたびに関係修復をしようとしているのに、いつもいつも、ルティはあのゴミばかりを気にかける。


目の前にいる僕を無視して。


「…私はこの変で失礼するよ。貴方も合格している事を祈るわ。」


「ま、まってくれルティ!!」


簡略化したあいさつをして足早に立ち去ろうとするルティを、僕は意を決して呼び止めた。


「ルティはどの科に合格したんだい?」


「魔導科…だけど…」


「そ、そっかそれなら良いんだ。呼び止めて悪かったね」


「…じゃあ」


彼女はそう言うと僕の横をすり抜け、校門へ歩いていく


いつかきっと、彼女を笑顔にさせてみせると、改めて決意するとその後ろ姿を見送り、僕は勇んで合否掲示板に駆け寄った。


僕の受験番号は158502番。その番号を端から探していく。


騎士科なし、経済学科なし、芸術科なし、法学科なし、文学科なし、神学科なし…のこる魔導科を汲まなく自分の番号を探すが、


あれ?なんで…何で、何で、僕の番号がないんだ?


え…嘘だ。この僕の名前が…何で、…何で、ないんだ?


そうだ、受験番号が違ってるのかもしれない。受験票を取り出して受験番号欄を確認したが…そこに記入された番号は間違いなく158502番だった。



僕は…落ちたのか?

そんな馬鹿なこの僕が!?


全身の血が音を立てて引いていくのがわかる。僕の人生はたった1日で大きく変化した。



どうしよう、どうしよう、…ああ、どうしたら良い


父上に、母上に失望される、どうしよう。妹に馬鹿にされる…あの腹違いのゴミにこけにされる。そんなの嫌だ。


嫌だ


認めない!認めたくない!!


僕はマルク・ウィローだ!!幼年学校、高等学校で天才と欲しいままに呼ばれてきた僕が二流大学に通うなんて


「ゲッ」



茫然としていた僕の耳にあのゴミの声が聞こえた。その隣には小麦色の髪が特徴的な頭が軽そうな奴を連れていた。ふん、所詮ゴミはゴミ同士でしかつるめないのだな。と内心あざ笑っていると、奴の友人の手には合格者しか貰えない校章入りの封筒があった。


馬鹿な、あの頭が軽そうな男が合格しただと!?


どうやら、見た目とは裏腹にできるようだ。そうか、トリストラムの奴は友人の合格発表の付き添いできたのか。まぁ、あいつがここを受けられるはずがないし、受けても合格する訳がない。


それより、僕のことだ。父上になんと報告すれば良いのか。僕は不快な異母弟を視界から排除すると、校門に向かって歩き始めた。

 マルク君は嫌われてるのに気づいてるのに、自分の何処が悪いのか解らない痛い子です。次は修羅場ですね

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