四月五日/怪奇とテスト
/四月五日/1-A
「止まらないわ」
何が? と今日から解放された購買で買ったパンの封を開けながら、七臣は言った。クマ、すごいなあ、と啄木鳥が笑う。目の下にくっきりとした隈が表れている陣織は充血した目を瞬かせながら、「ラップ音よ」と答えた。時刻は一時十三分、四時限目の授業が終わり、昼休みの中頃である。入学早々、七臣のセックス発言、教育実習生の無能力者差別、そして山本が教育実習生と戦闘の三つの事件が起きたA組であったが、荒れる事はなく、その後は穏やかな時間が流れていた。しかし、その中でも七臣・陣織・啄木鳥・ナツキのグループは騒がしい。
「ラップ音て、この前言うてたヤツ?」
「そーよ……あたし、どーにかなっちゃう」
「やっぱアレなんかなあ、霊なんかなあ」
「やめて! やめなさい!」
あたしには聞こえないんだけどなあ、とナツキ。ナツキちゃん、霊感無さそうやもんな、と啄木鳥が笑う。あたしにも無いわよ! と悲鳴を上げる陣織。
「盛り塩はしたのか」
「したわよ、至る所に!」
「あれって部屋の四隅にするもんちゃうん?」
「至るところにしたら、意味がないだろう」
う、うるさいわね! と大きな声を出す陣織の顔は赤い。
「とにかく、あたしはラップ音のせいで全然寝られなかったの! 盛り塩用意するのに大変で勉強もできなかったの!」
「勉強って、お前意外と真面目なんだな」
「何言うてんの、蔵人。今日魔方陣の小テストやで?」
パンを頬張ったまま七臣の動きが停止する。知らんかったん? と啄木鳥。変態は馬鹿ね、と陣織が笑う。あたふたとしたナツキが、今からでも遅くないよ! とフォローした。七臣がフリーズから回復し、口を動かし始める。パン屑がボロボロとこぼれた。食い方が汚い、と啄木鳥と陣織が同時に言う。七臣はパンを飲み込んでから、いいコンビだな、とため息をついた。
/四月五日/1-A
啄木鳥がテストを解いている。
陣織が少し険しい顔をしながらテストを解いている。
ナツキがテストを解いている。
七臣が鉛筆を転がしている。
/四月五日/1-A
「二十点満点の小テストですから、16点くらいは取っててほしかったなあ、と思っています。それじゃあ返却です。番号順に取りに来てください」
帰りのショートホームルーム、山本が教壇に立って、一人一人にテストを返却している。ナツキが、16点、取れてるかなあ、と心配そうに言った。
「16点以上取れてたら僕と寝よう」
「そ、それは違うと思うな」
「16点以下だったら僕とセックスしよう」
「い、意味、同じじゃないかな? 七臣くんは、できた?」
「鉛筆を転がしたよ」
ナツキが首を傾げながら、選択問題は無かったよね? 全部魔方陣を書く問題だったよね? と聞いた。
「そうだね。だから問題用紙には何も書いてない」
七臣君、取りに来てください! と山本の声がする。七臣はゆっくり立ち上がった。