表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
M&A.  作者: 笹倉
/一年
6/16

    /「能力無能力」①




/「能力無能力」



「二十人、全員来てる? うん、来てますね。あ、これ、見えますか? 薄い青色の膜。これ、『転生』の魔法膜です。見たことないでしょ? レア物ですよ。この膜の中でもし死んでも、膜の外で生き返ります。すごいでしょ?」


 山本スマイル。



「それじゃあ、私は行って来ます。薄野くんはもう中に入ってますね。気合十分です」


 山本スマイル。

 

 ゆっくりと闘技場の中に入っていく。膜が山本を包んで、離す。

 闘技場は半径五十メートルの円で、その平面にできた円を「転生」の魔法膜が包みこみ、立体の半円となっている物である。また、闘技場内の音声は全てスピーカーから闘技場外の人々にクリアに聞こえるようになっていた。


 

「薄野くん」

「なんですか」

 

 スピーカーから山本と薄野の声がする。



「私は無能力者です」


 薄野は露骨に顔を顰めた。差別主義者の顔は総じて醜いなあ、と七臣が言う。啄木鳥が、あの顔はあかんわ、と笑う。



「教師が無能力者ですか、世も末だ。人材不足ですか?」

「まあ、そんな所です」


 はは、と山本が笑う。手に持った黒いファイルを撫でて、眼鏡の位置を修正する。首を左右に動かして、回す。メアリー先生強そうには見えないな、と七臣が言う。山本先生ね、と陣織がすぐさま訂正した。


「用意がいいなら始めますが、山本先生」

「はい。そうしましょうか。どうぞ、ご自慢の能力を私に見せてください」


 薄野が醜い笑みを浮かべた。それは差別の笑みで、嘲笑の笑みで、侮蔑の笑みだった。薄野は片膝をつく。地面を撫でる。



「――無能力者が、ボクに楯突くなよ!「」


 

 薄野が吠える。

 地面が割れる音。

 闘技場の石でできた床が「それ」によって崩れる。「それ」は床を貫通し、生えてきたのだ。「それ」を見た瞬間、山本も、生徒全員も、ある物を連想していた。ナツキは顔を真っ赤にして倒れ、陣織は「破廉恥よ!」と叫んで闘技場に背を向けた。七臣は呟いた。



「男性器に酷似しているね、あれ」



 「それ」――闘技場の床を破壊し生えてきた六本の触手。横幅一メートル七十センチ、縦幅二十メートルほどの触手が踊るように蠢いていた。最低の能力やなあれ、と爆笑しながら言う啄木鳥に、陣織は言葉にならない罵声を浴びせた。男子生徒は殆どが爆笑し、女子生徒は笑う者と憤慨する者と気絶するナツキに分かれた。

 山本が、教育に悪いなあ、と六本の触手を見上げながら言った。

 薄野が笑う。


「能力名、六本の触手(インセクト)。どうだ、ボクの可愛いペットは?」


 山本が答えづらそうな顔をして、それから苦笑した。

 触手には白色の粘液が付着している。――毒だ。触手には神経毒が付着しており、その触手の質量に潰されても終わりだが、避けても飛散する神経毒に触れれば動けなくなる。薄野は勿論この事を言わない。潰されないように精々逃げ回れ、とほくそ笑む。



「押し潰せ、六本の触手(インセクト)!」



 触手が後ろに撓り、それから山本を目掛けて倒れこんでくる。啄木鳥が、おい! と声を出した。山本が避ける素振りを見せない。啄木鳥の声のトーンのせいか、陣織も振り返って闘技場を見る。女生徒の短い悲鳴が聞こえる。山本がゆっくりとファイルを開く。それから、笑う。山本スマイル、と陣織が呟いた。






「それでは授業を始めましょう」





 


 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ