四月二日/「授業間際」
/四月二日/1-A
陣織が真っ青な顔でナツキと共に教室に入ってきたのを、啄木鳥は見た。七臣はナツキに「おはよう!」と声をかける。啄木鳥は、陣織に、「何か顔色悪いで」と話しかけた。
「キツツキ、あたしの部屋、霊が住んでるわ」
「はあ?」
「ラップ音がするの。ぎぎい、ぎぎいって!」
そうなん? と啄木鳥は首を傾げた。ナツキに話しかけ続ける七臣を引き剥がして、ナツキちゃんの部屋からは聞こえへんのん? と聞く。
「き、聞こえないの」
「ナツキちゃんの部屋、少女ちゃんの隣やんなあ?」
「そうなのよ! なのにナツキの部屋からは聞こえないの」
ついでに言えば、啄木鳥の部屋と七臣の部屋も隣である。昨日一緒に帰宅して発覚したことだ。
「ほんなら、憑かれとるわ」
「やめてよ! あたしお化けとか大嫌いなのよ!」
「いやあ、憑かれとるやろ」
「で、でもわたしの部屋は大丈夫だよ」
「そういうのって、部屋に憑くからちゃう?」
「ちょっとキツツキ、やめてよ!」
陣織が、ばん、と啄木鳥の背中を叩く。
ここで七臣が口を開いた。
「陣織」
「なによヘンタイ」
「塩は試した?」
「塩?」
「ああ、盛り塩とか、言うもんなあ」
「僕は年に五十回以上金縛りにあうプロ金縛ラーだが」
「何よ金縛ラーって」
「盛り塩は、効くぞ」
「ホント!?」
「へえ、そうなんやあ」
ナツキ、今日の帰りに塩を買いに行きましょ! と大きな声で言う。回りのクラスメイト達が何の話だ、と笑う。クラスは既にいくつかのグループに別れていた。七臣、啄木鳥、ナツキ、陣織のグループはクラスの中でもやかましいグループだ。啄木鳥が周りのクラスメイトに、ごめん、なんでもないから、と笑いながら言った所で、始業のチャイムが鳴った。朝のショート・ホーム・ルームだ。山本ががらり、と戸を開けて現れた。服装が昨日と全く変わっていない。
「おはようございます。椅子に座って下さい。――うん、全員出席だね。それじゃあ、連絡。今日、一時間目から、いきなりだけど、教育実習生の子が授業するから。魔法学。教科書、持ってきてますよね? 教育実習生の子が授業してる間、私は後ろで見てますから。しっかり授業を受けるように。寝てたら起こしますから。んー、後は特にないかな。あ、二時間目からはクラスタイムだ。それくらいかな。以上!」
それじゃあ後でねー、と山本スマイルを残してから、教室から出て行く。
ナツキが、クラスタイムって、何かな? と口に出した。七臣が、分からないなあ、と言って、右斜め前の陣織に聞く。
「クラスでの戦闘演習よ」
「戦闘演習?」
「皆の魔法とか能力とか、見せ合うんじゃないかしら」
それからうだうだとその三人で喋る。七臣は啄木鳥を見る。啄木鳥は啄木鳥の席の周りの人間と談笑していた。
チャイムが鳴る。クラスの人々は魔法学の教科書を机から出した。
ナツキが、あ、と声を漏らす。
七臣が後ろを向く。
「どうしたの?」
「――きょ、教科書、忘れちゃった」