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M&A.  作者: 笹倉
/一年
3/16

    /帰宅間際


 





 事務連絡が終了し、山本がプリントをまとめた。



「今日はお疲れ様。明日から授業を始めるから、しっかり教科書を持ってきて下さい。頑張ろう。私も頑張ります。それじゃあ、帰宅してください。気をつけてね。寮の場所は分かるね? 分からない人は同じ寮の人を見つけて帰ってください」



 また明日、と言って山本は外へ出て行った。ふう、と教室中から息をつく音が聞こえた。七臣はすぐ後ろを向く。



「どこの寮に住んでるの? 何号室? 今度遊びに行っていい?」

「ええと、あの、ええと」

「ていうか今から暇? もう四時だし、いい時間じゃない? カラオケとか、どう?」

「その、ええと、あの、あ」


 ナツキは気付く。七臣の後ろに立つ女と男。一人は陣織――もう一人は赤髪の男。「カラオケとか行った事ない系の子? そしたら僕んち来る?」と畳み掛ける七臣に踵落としを喰らわせたのは、陣織だった。え? え? とうろたえるナツキを尻目に、陣織は倒れた七臣のわき腹を革靴で思いっきり蹴った。それから、ナツキを見て、初めまして、と微笑む。赤髪の男はといえば、倒れた七臣の頬をぺしぺしと叩いた。



「あたし、陣織。陣織少女ジンオリショウジョ

「あ、え、あ、花村、花村夏木です」

「ナツキ、でいい?」

「あ、ええと、その、だ、大丈夫です」

「ナツキ、このエロ男と知り合いなの? 急に立ち上がってあんなこと言うだなんて」


 あたし、下ネタ、大嫌いなのよね、とその金髪を指でまとめて、離した。目、青い、とナツキは思う。


「ええと、知り合いじゃ、ないです」

「急に?」

「急に、です」

「変態じゃない、コイツ」



 もう一度、げし、とわき腹を蹴る。うえ、と七臣が声を上げた。脳天を押さえて、七臣が立ち上がろうとする。赤髪の男が、無理すんなて、と止める。


「少女ちゃん、やりすぎちゃうのん?」

「いいのよ」

「いきなり踵落としするて、どうなん?」

「いいのよ、ていうか、貴方、名前は?」

「さっき言うたやん、俺。入学式ん時に、少女ちゃんに声かけて」

「あたし利益のない事覚えらんないの」

「ひどいこと言うわあ」

「名前を言いなさいよ」


 赤髪の男が手厳しいわあ、と笑う。


筒木(つつき)や」

「下の名前も言いなさいよ」


 赤髪の男の顔が曇る。



「……俺、下の名前コンプレックスやねん」

「いいから言いなさいよ」

「いや、コンプレックスなんやて」

「だから?」

「コンプレックス」

「え?」

「……啄木鳥(きつつき)

「え?」

「啄木鳥! 筒木啄木鳥(つつききつつき)!」


 

 別に面白くないじゃない、と陣織が言う。別に面白いなんか言うてへんけどね、と啄木鳥が口を尖らせる。ナツキは二人のやり取りを見て、何も言えない。七臣はようやく立ち上がる。それから、陣織に「君は誰だ」と問う。陣織は名前を答える。


「なんで僕に踵落とししたんだよ」

「あたし下ネタ嫌いなの」

「下ネタなんて言ってない。告白だ」

「うるさいわね」

「君はタイプじゃない。僕は黒髪の子が好きだ」

「うるさいわねコイツ」

「あ、俺もそれ思うたわ。黒髪の子、ええよね」

「コイツもうるさいわね」

「君、名前は?」

「俺は筒木」

「下の名前も教えてくれ」

「下の名前、コンプレックスやねん」

「教えてくれ」

「コンプレックスやねん」

「教えてくれ」

「コンプレックスやて」

「教えてくれ」

「コンプ「教えてくれ」」

「……啄木鳥」

「筒木啄木鳥。別に面白くない」

「あたしも思った」

「別に面白いなんか言うてへんっちゅうねん」

「そうだ、ナツキちゃん、カラオケとか」

「え、あ、ええと」

「ナツキ、寮はどこ? 東西南北、どこの寮?」

「あ、え、ええと、西寮です」

「あたしもよ。なら一緒に帰りましょ」

「ちょお、俺も西寮やから、一緒に帰ろうや」

「キツツキは黙ってて」

「ナツキ、カラオケ」

「変態は黙ってて」

「七臣はどこの寮なん?」

「蔵人でいいよ。ナツキ、帰ろう」

「蔵人はどこの寮なん?」

「僕も西だ」

「ほんなら一緒に帰らへん?」

「僕はナツキと帰る」

「ナツキはあたしと帰るから。変態とキツツキで帰りなさいよ」

「ええやん、同じ西寮やろ」

「駄目。駄目よ」

「ナツキ、僕と」


 わあわあと言い合いになる三人。ナツキはおろおろと目を瞬かせながら、「い、一緒に帰りましょう!」と提案していた。


 







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