/「陣織少女の話をしよう」
陣織少女の話をしよう。
陣織家――「元素家」≪エレメント≫の水を司る「水神家」、その流れを汲む、名門中の名門である。代々氷系の血筋を継承してきた陣織家の中でも、少女は圧倒的であった。また、先天性≪ネイティブ≫の能力持ちであり、学業も優秀、運動神経も抜群、正義感も強い。周りの人間からは、「天才」「非の打ちどころのない人間」と評価された。
とどのつまり、彼女は今まで何かで負けた事がなかった。
だから、今回も負けない。彼女は分かっていた。確信していた。今まで勝ってきた。これからも、負けない。
陣織少女は能力を発動する。当たり前の勝利の為に、発動する。
「――少女の憂鬱」
七臣は警戒する。陣織の手に、突然ピンク色の傘が現れた。陣織の能力発動。――ここは、様子を見なければ、まずい。七臣は判断し、走るのをやめ、8メートルの距離を保つ。
その様子を見て、陣織は微笑む。
「別に、怖がらなくていいのよ。この能力には、なんの攻撃性もない。この能力はね、」
閃!
七臣はナイフを投擲する。迷いなく、確実に殺す為に。これは殺しあいだから。しかし、少女に避けられる。8メートルの距離があるのだから、当たり前と言っては当たり前かもしれない。ナイフが飛び、ぎっ、と音を立てて床に刺さった。七臣は新しいナイフを手に持つ。
「――説明の途中に投げナイフなんて。しかも魔力注いで切れ味上げてるわね? 折角能力の説明してあげてるのに」
陣織はため息をついてから、そろそろね、と笑う。
陣織は傘を開く。
ぽつ。
七臣の頬に、水滴。
ぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつぽつ!
雨。七臣は上を見る。雨雲はない。陣織の能力、『害はない』。この言葉を信じていいか分からない。この雨が陣織の能力であることは確定だろう。しかし、この雨に付加されている能力が不明だ。例えばこの雨が毒で触れたら危険なものであったら? しかし、避ける術がない。七臣は考える。雨の強さは弱い。
「――これが能力か」
「そうよ。少女の憂鬱。雨を降らせるだけの能力よ。安心して、その雨に当たっても大丈夫だから」
「雨を降らせるだけ、か。使いどころはあるのか、この能力」
「大丈夫よ、安心して。これからだから!」
陣織は右の手の平を七臣に見せる。魔方陣が描かれている。
「変態は魔方陣苦手だから説明したげるわ」
「大サービスだな」
「これは氷の魔方陣よ――」
七臣はようやく理解する。陣織は氷魔法が得意。全て凍らせる。雨、雨、雨。
陣織が魔方陣に魔力を込める。一発で決めてあげるわ、と叫んだ。
「篠突く雨!」
膜内に凍気が充満する。雨は凍り、針となる。降り注ぐ、雨、雨、雨!
七臣は自分の首と頭を腕でガードする。降り注ぐ氷の針! ぶすぶすと面白いように七臣に刺さっていく。
「うわ、あれきっついなあ」
膜外で見ている啄木鳥がその風景を見て言う。よおやるわ、少女ちゃん、と半ば呆れたように。