/南瓜と猥談
「あら、起きたの」
薬品臭がする、と七臣は即座に思った。辺りを見回す。ここはどこだ? 掛け時計、点滴、カボチャの被り物を被った白衣の女、ベッド、ソファ、湿布。
「――カボチャ?」
「凄い汗ね、悪い夢でも見てた?」
カボチャを被った白衣の女が、七臣のベッドの側で立っている。七臣は理解できない。林檎は、林檎はどうした? ここはどこだ? このカボチャは誰だ?
「理解に苦しむ……!」
「何がかしら?」
「何がと言われれば何もかも」
「そういうもんよね、人生」
「勝手にまとめないでくれませんか」
「煙草吸っていい?」
「吸えるんですか、カボチャ被ってるのに」
「吸えないわね」
「……」
「パンプキンギャグよ」
「……いや、そういうことじゃなくて」
「はいパンプキンパンプキンパンプパンプキ~ン」
「……」
「続きましてパンプキンショートコント」
「続けないで下さい」
「『密着! 淫乱警察24時!』」
「続けて下さい」
◇◇◇
「七臣君、君は『林檎狩り』を二時間三分の時点でリタイアしたわ」
パンプキンショートコントを一通りやり終えた彼女は、七臣にそう説明した。
「リタイア、と言うのは」
「君は二時間三分の時点で気絶した」
ベッドの上、毛布を膝まで掛けて、覚えてないな、と七臣は言った。
「結構怪我してたよ。右足甲は貫かれてたし、他にも火傷とか、治すの疲れちゃった」
治す?
七臣はその言葉を聞いて、すぐに自分の右足を見る。――傷跡がない。
カボチャの女は腕を組んで、七臣を見下ろす。七臣は下から睨み付けるように見て、それから、あなたは誰ですか、ここはどこてすか、と問うた。
カボチャ女は腕を解いて、言う。
「ここは『学園』の保健室。私はこの保健室の長、Dr.パンプキン!」
「……本名を教えていただいても?」
「それじゃあもう一発、パンプキンショートコント!」
「もう結構です」
「『人妻不倫旅行』」
「このティッシュ使います」
◇◇◇
七臣はティッシュをゴミ箱に捨てた。Dr. パンプキンは息切れしている。ここまでの猛者はこの学園で初めてだよ、とDr. パンプキンは息も絶え絶えに言った。七臣は余裕の表情を浮かべ、新しいティッシュの箱を取り出し、開けた。
時刻は夜八時になろうとしている。夜はこれからですね、と七臣は口角を上げる。
「夜はこれからなんだけど、今日はここまでにしよう」
呼吸を整えて、Dr. パンプキンは言う。七臣は残念そうな顔をする。
「いやあ、林檎にやられて丸一日寝込んでたのに、すぐ復活したわね! 若い性って怖いわ」
「先生も中々でしたよ」
七臣はベッドから立ち上がる。体は痛まず、むしろ軽いくらいだ。二、三回跳ねてみる。右足の痛みはない。
ありがとうございました、と一礼して、保健室から出ようとする七臣を、Dr.パンプキンは呼び止めた。紙を渡す。
「山本先生から。明日、1-Aで紅白戦が行われるらしいわ。君は、白組。対戦相手とか、確認しなさい」
「紅白戦、ですか」
「ほら、教育実習の子が山本先生にのされたでしょう。ほんとはあの日に紅白戦やるよていだったのに、ごちゃごちゃしてできなかったから」
「ああ……あの男性器の……」
「え? 何? 男性器? 何が?」
「何でもないです。ありがとうございました」
「七臣君、待ちなさい、何が男性器なの?」
「教育実習の人は男性器を召喚したんです」
「……おっきい?」
「はい。しかも、六本」
「六本!? ホントに!?」
「それじゃあ帰ります」
「待って、詳しく話を聞かせて!」
ひでーなこれ