/七臣蔵人の「林檎狩り」②
歩く速度。
七臣の能力の一つである。
そもそも七臣はこの能力を好んでいない。燃費が悪いのだ。長時間使用すれば、体の動きが鈍る。疲労が溜まる。七臣の戦闘スタイルは近距離の肉弾戦である。しかし、林檎相手には叶わない。第一にサイズが小さすぎること。第二に相手の動きが素早いこと。第三に魔法攻撃の速度、威力が異常なこと。
使わざるを得ないのだ。
攻撃魔法で紙を剥がす、という案も七臣の中には出ていた。だが、即却下。七臣は魔法が苦手である。苦手、というより、性に合わない、と言ったほうが正しいか。七臣は自分が頻繁に使用する五つ程度の魔法以外は殆ど使えないに等しかった。使える魔法も、林檎には届かないし、使えないものばかり。
七臣は決心し、発動した。能力、歩く速度――
林檎が目に魔方陣を映し出す。「炎」。「炎」→「水」→「炎」→「水」の順に魔法を発動しているのか? と七臣は推測する。しかし、もう関係ない。歩く速度の前では。
炎が発現する。七臣はその場を動かない。放たれる、炎!
轟音を上げ、凄まじい速度で七臣へ向かって!
――来ない。
炎はふわふわと、非常に遅いスピードで、七臣の方へ向かってくる。先ほどの速度が嘘のように。
歩く速度。
魔法によって放たれた魔力のスピードを十八分の一のスピードにしてしまう能力である。
制約という制約もない。範囲も広く(自分を中心として半径百メートルの円内)、多人数を相手にした場合も使用できる能力。
七臣は魔法の速度を見て笑う。
「どうした? 随分間抜けな魔法だな」
林檎も笑う。
目を三日月状にさせて。
◇◇
/「林檎狩り」開始より五十分
山本が暗い部屋でモニタを見ている。口の角を上げて。
「歩く速度。――中々いい能力ですね。私みたいな『魔法使い』には非常に怖い能力だ。でも、もう五十分。君の攻撃は当たらないね、七臣君。体術のセンスもいいけど、林檎にはそれじゃあ当たらないよ」